惇哉マネージャー編 02
楠 惇哉(kusunoki syunnya) : 由貴のマネージャー
柊木 由貴(hiiragi yuki) : 人気急上昇中の女優。
「 今度ウチの事務所と契約した 『 柊木由貴 』 さんだ。 」
そう社長に紹介されて由貴と初めて会ったのは3年前…
大学を出たばかりの…まだ少女って言う面影が残る顔の……
洒落っ気の無い女!
それがオレの由貴に対する第一印象だった。
そんな由貴が初めてドラマの撮影で化粧をした姿を見た時…
オレは由貴から目が離せなくて……一目で心を奪われてしまった…
その後は由貴の行動1つ1つが気になって…
でもマネージャーと言う立場上由貴との間には一線を置いていた。
由貴を知れば知るほど惹かれていく…傍にいればいるほど愛おしくなった…
でもそんな素振りは1度も由貴には見せなかった。
いつの間にか洒落っ気の無い由貴が好きになり…
初心で天然でからかうとすぐにムキなる所も好きになった。
頑張り屋の由貴はすぐ無理をする…
だから熱を出して無理して撮影をこなした後寝込んだ由貴を
看病した時はもう気持ちを抑えるのも限界で…
その日からオレは自分の気持ちを抑える事を止めた。
だからって由貴の仕事の妨げになる様な事はしない…
由貴を好きな男でもあるけど…由貴のマネージャーでもあるから…
ちゃんと仕事とプライベートはわけた。
気持ちの切り替えとしてマネージャーに徹する時はキチンとスーツを着こなし
眼鏡を掛けて気持ちを入れ替える。
だからスーツを脱いでネクタイと眼鏡を外すと
オレは 『 柊木由貴 』 と言う1人の女を好きな男になる。
そんな立場を利用しなかったと言えば嘘になる…
殆んど1日中由貴と一緒に過ごして近寄る男共は全部排除した。
緊急な時だけ…
と言う約束で余ってる由貴の所の部屋にオレのベッドまで置く事にも成功したし…
仕事のパートナーとしてはもうオレ達は離れなれない繋がりがあると思う…
でも…肝心のプライベートな部分では……今の所進展は ”0” だ。
情けないが仕方ない…
これでも抱きしめてオデコにキスするまでに進展させた…
普通ならここまでやればオレの気持ちに気付きそうなものなのに…
ハナっからオレの事なんて…恋人として眼中に無い由貴は
まったくオレの気持ちに気付かない…それどころかセクハラされてるとしか思ってない…
でも…セクハラと言いつつ社長にバラすなんて言いながら今まで黙ってるのは…
そう言う事なんだよな……由貴……
だからオレは大胆になる。
「由貴…」
「なに……」
「何警戒してんの?」
「警戒なんてしてないけど……」
「そう?…ねえ…今日泊まってっていい?」
「え?なんで?」
「帰るの面倒だから。」
「それって緊急?」
「それに今日出そうだし…」
「え?…何…が?」
「いや…オレの気のせいかも…」
「…………」
ふふ…作戦勝ち!
別に霊感があるわけじゃ無い…でもそんな事を言われれば
1人では広すぎるこの部屋で内心ビクつくのは当然で…
「何だかいつの間にか惇哉さんの私物が増えてる気がする…」
オレの部屋を覗きながら由貴が呟く。
「今度引っ越して来ようかな ♪ 」
「図々しい!」
「明日は10時から雑誌の取材が事務所であるから…9時にここ出る。」
「はい…」
「由貴…」
「ん?」
「頑張ってるな…由貴はいつも…」
「……惇哉さん…」
「由貴…ご褒美欲しい?」
「いらない!」
あ…何で即答?
「なんで?」
「顔が怪しい!」
「は?」
「何気にニヤケてる!」
「痛ってっっ!!」
鼻つままれた!
「こんな時だけ勘がいいんだから…由貴は…」
オレはブツブツと小さな声で文句を言う。
「え?なに?」
「いや…おやすみ…」
「……おやすみなさい…」
そう挨拶を交わして由貴が自分の部屋に入って行く……
オレはそんな由貴の部屋の閉まったドアを見つめてた……
いつか…一緒に眠れる日が来るのか…
次の日…
オレの目の前で由貴が雑誌の取材を受けながら時々微笑む…
しかも今はいつもと違って化粧をしてるからその笑顔はオレには堪らなくて……
ああ…ヤバイかも……胸がドキドキする…
って…しっかしろ!今は仕事中でオレは由貴のマネージャーなんだぞ!!
でも…この笑顔に参ってる男共は全国にゴロゴロいるわけで…
由貴はお嫁さんにしたい芸能人で常に上位に入る。
確かに素朴で普段からおっとりしてるもんな…
綺麗だし…あの笑顔で見つめられたら…そりゃ参るだろう……
「お疲れ。今コーヒー淹れてやるから待ってろ。」
「うん…」
1時間程の雑誌の取材を終えてしばらく休憩タイムだ。
今日はこの後仕事は無いからゆっくり出来る。
「あ!惇哉君!」
「社長…」
一瞬心臓がドキリとなる…まさか由貴の奴本当に社長にチクった…とか??
「お疲れ様。もう取材の方は終わったのかい?」
「はい。」
「彼女も忙しいね…ま!それが何よりなんだけど…」
「人気も定着してきましたからね…由貴は見た目もクセが無いからどんな役もこなせるし…」
「さっきね…彼女に仕事のオファーが来たんだけど…あの金曜の10時枠の番組だよ。」
「え?」
金曜の10時枠はドラマの中では定番中の定番で
毎回その枠のドラマの主役は何かと話題になる。
「へえ…ついにお呼びがかかりましたか…」
前から色々根回しはしてたんだが…やっと実を結んだって事か…
「で?どんな内容で?」
「まあ恋愛モノになるだろうけど…相手役は決まっててね…『由良 衛』君だって。」
「 『由良 衛』!?」
『由良 衛』(yura masaru) ここ数年で名前を売り出して来てる若手の俳優だ…
演技の方はそれなりに定評もあってワイルドな風貌と態度が受け入れられてて
人気もソコソコある……が!
確か女に手が早いって噂なんだよな…
そんな噂が週刊誌を何度か賑わしてたし……
そんな奴と由貴が共演?
オレは一気に気分が重くなって…
嫌な胸騒ぎが全身を包んでた……