惇哉マネージャー編 04
楠 惇哉(kusunoki syunnya) : 由貴のマネージャー
柊木 由貴(hiiragi yuki) : 人気急上昇中の女優。
オレの心配とは裏腹に撮影は着々と進んで行く…
普段は他の出演者がいるから早々心配する事は無いが…
問題は2人っきりのシーンの時だ。
目を光らせてないとどんなボディタッチがあるか…
展開としては最後の最後でくっつく結末だから…
流石にストーリーまで口を出すわけにはいかない…
受け入れるしかないんだか……この納得が行かないのは何でだ?
「え?そうなんですか?」
休憩時間に由貴が他の女優達と話してる姿を見るとホッとする。
「そんなに大事か?」
「!!」
後ろから奴が話し掛けて来た。
「当たり前だろ。」
「事務所にとってか?」
「は?」
「それともあんたにとってか?」
「答える必要ないね。」
「フーン…」
「他に何か?」
ずっとオレの横に立ってるから目障りで。
「いや…ただ俺が彼女をかっさらったらあんたどんな顔すんのかなぁと思ってさ。」
そう言ってニヤリと笑う。
「そんな事したら正式にオタクと事務所訴える。」
「へえ…まあ覚えておく。」
「ああ…覚えといた方がいい。」
奴の顔を見もしないでそんな台詞を言い捨てた。
「………」
多少自己嫌悪に襲 われた…何やってんだか…オレ…
「はぁ…」
「惇哉さん?」
「 ! 」
「どうしたの?」
由貴…そんな心配そうな顔しなくていいのに…
「いや…何でも無いから…」
「そう?」
「由貴は演技に集中して…オレの事なんて気にしなくていいから…」
「でも…」
「ありがとう由貴…本当大丈夫だから。」
ホント何やってんだ…オレ…由貴に心配掛けるなんて…
勝手にフラリといなくなってフラリと戻って来た恋人と今さらやり直すかどうかがメインの話…
確かに風来坊で破天荒な役はアイツにはピッタリで
そんな彼氏を結局は許して受け入れる彼女役はやっぱり由貴にピッタリで…
今までだってそんな役処何度もあった…
「ネエ由貴ちゃん。」
「はい?」
セットのソファで2人で座ってスタンバイ中…由良さんに話し掛けられた。
「今度2人っきりで出掛けようよ。」
「え?あ…それは…」
「何で?マネージャーが煩い?」
「いえ…そう言うわけじゃ無いんですけど…」
「じゃあいいじゃん ♪ 迎えに行くからさ!ね?」
「ご…ごめんなさい…そう言うの…ダメって言われるんで…」
「わかりゃしないって!ね?」
「本当にごめんなさい…社長にもそう言うの禁止されてるんで…」
「えー?デートまで管理されてるの?」
「はい…私ってそう言うの危なっかしいって言われてて……なので…」
「本番いきま〜〜〜すっ!!」
「あ…本当にごめんなさい……」
本当はそれほど厳しく言われてるわけじゃない…でも…
由貴とアイツが本番前に何か話してた…
その後本番の声が掛かって…由貴がチラリとオレを見た……
その後…珍しく由貴がNGを出した…
「今日はどうした?」
「え?」
部屋に戻って由貴をソファに座らせての質問だ。
「ちょっと様子が変だった。集中してなかったみたいだし…」
「ごめんなさい…」
「オレに謝っても仕方ないだろ…」
「………うん…」
「アイツに…何か言われた?」
「え?」
「1度オレの方見ただろ?何で?」
「え?あ…それは…別に…」
「由貴は嘘つくのがヘタ!」
「 !! 」
オレはそんな話をしながらネクタイと眼鏡を外す…
ここからはマネージャーじゃない…
自分の好きな女が他所の男にちょっかい出されてる普通の男…
「由貴…何があった?」
「惇哉さん……?」
ちょっと雰囲気が違う惇哉さんが私の隣に座る…
「由貴…」
「な…なんでそんな顔で見るの?私何も悪い事なんて…」
「だれも由貴を責めてなんていない…ただ聞いてるだけ…」
「………」
「由貴?」
「由良さんに……デートに誘われたの…」
「は?本番中に?」
「うん……」
あの野郎……
「で?由貴はなんて?」
「も…勿論断ったわよ!だって普段そう言われてるし…今そんな事に気を廻してる時期じゃ無いし…」
「本当はデートしたかった?」
「え?」
「オレから…事務所からダメって言われてなきゃ行きたかったんじゃない?だからオレを見たんだろ?」
「惇哉さん……」
「今まで全部そう言う事から遠ざけてたからな…興味あったんじゃない?」
「そんな事…ただ…」
「ただ?」
「その一瞬で由良さんと2人でいる所を想像しちゃったの…本当に一瞬だったんだけど…」
「で?」
「………何でだかわからないけど…私の隣にいるのはこの人じゃないと思った…」
「由貴…」
「上手く言えないけど…そう思ったの…
1度も由良さんと2人で出掛けた事なんて無いのに…変よね…」
「…………」
「だから惇哉さんを見たの……こうやっていつも一緒にいるでしょ?
もう3年もいつも一緒にいるからだと思うけど…私の隣には惇哉さんがいるのが当たり前かなって…」
「………由貴…」
どうしよう……これって…由貴の事抱きしめても良いよな?
そう言う場面だよな?
「由…」
「惇哉さんとは仕事のパートナーだから。それに今恋愛とか言ってる場合じゃ無いし…」
「 え?! 」
由貴に伸ばした手が止まる……それって…本心か?
「だからこれからも宜しくお願いします。マネージャー ♪ 」
由貴が素直な笑顔でオレにニッコリと笑ってそう言った…