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「はあ……」

オレの目の前に祭壇がある…

すぐ後ろには大きなガラス張りの窓があって青々とした木々が茂ってるのが見える…

まだ誰もいないチャペルの中でオレは頭の中で満知子さんが送ってくれた
ビデオの画像を再生しながら式の手順を1人で繰り返す…

こんな時役者と言う職業が役に立つ事はない。
撮影で何度か結婚式は経験済みだし…そんなに大きく違いは無いだろうし…

段取りは頭に入ったから…


由貴は今…先に控え室で着替えてる…満知子さんもつきっきりで…

気合入ってたもんな…くすっ…

指輪はちゃんと式場の担当者に渡したから大丈夫!
あんな夢みたいな事にはならない…はず!

どうか…無事に終わってくれ!!!

オレはそう願わずにはいられなかった……


「楠様…そろそろ準備の方お願いします。」
「はい…」

由貴とは別の控え室で着替えて後で同じ控え室で時間が来るまで待つらしい。

今日参列するのは由貴の方は満知子さんと若林さん…この2人もなかなか良い関係が続いてるらしい。
オレの方は両親に兄貴とメグと…事務所の社長と三鷹と…そんなもんだ…
披露宴にはもっと身内も呼ぶだろうが今日は本当に身近な身内と呼べる相手だけ…

社長は由貴のエスコート役をやってもらう約束で…
そう言えば数日前から緊張してたな…大丈夫か?いきなり倒れたりしないよな?

マスコミには内緒にしてるから大丈夫だろう。

まさか舞台挨拶とドラマの撮影の合間を縫って式をあげるなんて思ってないだろうし…

鏡の前で衣装が変わっていく…
まるでドラマの撮影の様な感じだけど…今日は違うんだよな…

この衣装はオレの為の衣装で…そして由貴の為でもある衣装なんだよな…

「衣装合わせ出来ませんでしたけどピッタリですね。流石慣れてらっしゃる…
とてもお似合いですよ。」

「ありがとう…」

結局式の準備は由貴と満知子さんにまかせっきりだったからな…
式場だってパソコンと満知子さんがデジカメで撮ってくれたのを見ただけで…

やっぱこっちがいつも見てた式場だ…あの夢で見た式場は微妙に違かった…
しかし…何であんな夢を見たんだか…おかしい…

期待しすぎてるのか?でもするだろう?普通…

コ ン コ ン!

「はい。」
「惇クンおめでとう ♪ 」

控室のドアが開くと明るいメグの声が響いた。

「よかったね〜ついに式が挙げられて ♪ 」
「兄貴とメグはホントさっさと挙げたもんな。籍もあの次の日に入れただろ。」

「こう言う事は勢いなんだよ惇。メグは認めてくれたら早いって言っただろ。
まあ後は惇哉の職業が特殊だから仕方ないと言えば仕方ないのかな。」

「まあね…兄貴は披露宴ホント身内だけだったもんな…
後お互いの友達とかお世話になった人とか…」

「本当に呼びたい相手を選んだら少人数だっただけだ。
父さん達も惇哉の方では色々呼ぶつもりらしい。」

「そう…はぁ〜」

「何?惇クン緊張してるの?」

「は?まさか!緊張なんてするわけ無いだろ!」

「緊張して指輪落とすなよ。恥ずかしいから。」

「落とさないよ!余計緊張する様な事言うなよ!まったく…」

「惇クンカッコイイよ。」
「………ありがとう。」

「柾クンの次にだけど ♪ 」

そう言って兄貴の腕にしがみ付く。

「……あっそ…」

「メグ…こんな日はいくらそう思っても惇を立てないと…」

そんなしがみ付いたメグの頭をまた兄貴が優しく撫でる…

「あ!そうか…」
「もういいよ!」

まったく…イチャイチャイチャイチャ…何しに来たんだ…この2人は…

コ ン コ ン!

「はい。」
「惇哉クン…」

ドアが開いて満知子さんが顔を出した。

「由貴の支度出来たからどうぞ。」
「え?」

オレは今までに無いドキドキで由貴が待つ控室に入った。

「後10分程で先に写真撮りますのでお迎えにあがります。」

そう言ってオレと由貴だけ部屋に残される…



「…………」

オレはただただ黙って由貴を見つめてた。

「惇哉さん…」
「由貴…」

あのパーティーの夜の由貴より数倍も綺麗な由貴がオレの名前を読んだ。

「どう?」

オレが選んだウエディングドレスを着た由貴がはにかんだ顔でオレを見る。

「綺麗…どこかの国のお姫様みたいだ…」
「もう大袈裟…」


大袈裟なんかじゃない…由貴は本当に綺麗だ…

ただ普段はそんな事を隠してるだけ…


「由貴…チュッ…」

頬にそっとキスをした。

「何で頬なの?」
「唇は誓いのキスにとっておく ♪ 」
「………そうね…」

「綺麗だよ由貴…」

「何だか照れる…」

「今日は素直にオレの言葉受け入れて…由貴…」

「……うん……惇哉さんが言ってくれるなら…信じる…」

「信じていいから…由貴…オレの言葉信じて…」
「うん…」

「本当に……綺麗…ちゅっ…」


今度はそっと…由貴のオデコにキスをした……