yuusuke&kazumi+shinji





「 次はもう無いよ…麻衣ちゃん。」

冷たい声で慎二さんが言った…
私はこんな慎二さんを初めて見た…

TAKERUの専属モデル「刀祢崎麻衣」の 昔の男が麻衣に冷たくされたのを恨んでTAKERUのビルに
ナイフを持って乗り込んで来た。
偶然居合わせた和海ちゃんが彼女をかばってナイフで手の甲を切られて しまった…


「一度寝たからって私の男気取りで…しつこいったらありゃしないわ…」
『TAKERU』のビルの前で麻衣を追いかけて来た男を追い返し少しも 悪びれる事も無く言い放った。
自分が一番と思ってるんだから当たり前かな?でも…僕には通用しないよ…
「最近君の良くない噂良く聞くよ…気をつけてね。」
流石に言葉を詰まらせてる…
元々高飛車な所がある娘だから男関係で噂はあるのは分かっていたけど…
最近その性格が災いしたのかTVや雑誌で叩かれだした…そのせいか 私生活も荒れ出してる…
モデルとしてはいい仕事してくれてたのにね…
「祐輔が悪いのよ…私の事相手にしてくれないから…」
彼女は祐輔の存在を知ってから 祐輔に夢中なんだ…でも祐輔には和海ちゃんがいるし彼女もその事を
知ってるはずなのに諦めきれないらしい…
「何であの女なの?分かんないわ…他にも綺麗どころ祐輔の 周りに沢山いるって言うのに…
しかも刑事なんて…」
よっぽど祐輔に相手にされないのが気に入らないらしい…もうずっとその事で不満を言い続けてる…
「祐輔はああ見えても女性の好みうるさいんだよ…誰でも言い訳じゃないからね…
そんな事より自分の身の回りの事…大丈夫なの?あんまりおいたが過ぎると僕が出なきゃ いけなく
なるけど…わかってる?」
そう言って冷めた目で見続けた…
「……あ…」
流石にわかったらしい…
「とにかく気をつけてね。それだけ…」
「わかってるわよ…」
僕の顔を見ずに頷いていた…

そんな事がつい3日前にあったばかりだったのに…

「やめなさい!!私は刑事です。ナイフを置いて 下さい。!!」
「どけっ!!オレはその女に用があんだよっ!!テメェには関係ないっ!!」
「どきません!!」
「くそぉぉぉぉーーーー!!」
興奮して ナイフを振り上げてこっちに向かって来た。
あれなら押さえられる…そう思って前に出ようとした時彼女が恐怖で私にしがみついて来た…
「キャーキャー」
「ちょ…」
抱きつかれて思うように動けない…このままじゃ…
「あぶな…」
彼女をかばって左手の甲をナイフで切られた…まずい…
失敗した彼が 余計興奮して向かって来る。
「ちょっと!!何してんのっ!!」
入り口のドアが突然開いてから慎二さんが飛び込んで来た。
「慎二さんっ!!」
彼が慎二さんの方に身体を向いた。
「君は…この前の…」
「く……」
焦った彼が慎二さんに切りかかって行く…
「みんな殺してやるっーーーー!!」
そう言って切りかかって来た彼のナイフを掴んでいる手をサッと受け流すとそのまま腕を掴んで
背負い投げで床に叩きつけた。一瞬の出来事だった…
「慎二さん… すごい…」
慎二さんのそんな所初めて見た…後で聞いた話だとたける氏直伝の背負い投げだとか…

騒然とするフロアの中…とりあえず彼は警備員の人に抑えられて 大人しくなってる…
「和海ちゃん大丈夫?血が…すぐ医務室に…」
「だ…大丈夫です…ちょっと切れただけですから…」
慎二さんがハンカチで傷口を押さえてくれた…
「刑事なんだから市民を守るのが当たり前でしょ?死ぬかと思ったわ…あいつったら…」
すぐ横で彼女が機嫌悪そうに文句を言った…

「  パ ン ッ !! 」

いきなり慎二さんが彼女を叩いた…ウソ…慎二さんが女の人を?

「自分のした事の後始末も出来ない人が何言ってるの?」
とっても静かで…とっても冷たい声だった…
「彼女がいなかったら殺されてたかもしれないだろ?刑事だからって女性なんだよ。
顔に怪我したらどうするの?気を付けてねって言っただろ?今回は彼女が穏便に 警察に
動いてもらえる様に計らってくれたから表沙汰にならなかったけど…
『TAKERU』の名前にキズが付くところだったんだよ。わかってる?」
彼女は黙って 慎二さんの言う事を聞いていた…
「まだモデルの仕事して行きたいんでしょ?それともこの世界で仕事できなくして欲しいの?
それでもいいけど?」
なんだか慎二さん がいつもの慎二さんじゃないみたい…
「それから言っとくけど、和海ちゃん僕のお気に入りだからね…だから祐輔の彼女なんだよ。
わかってるよね?もう…祐輔の事 は忘れた方がいいね…
祐輔からかうの面白いから放っておいたけど…」
慎二さんが一呼吸置いた…

「もう次は無いよ…麻衣ちゃん…」

彼女身体がビクッと 動いた…

「全治一週間から10日って所かしらね?」
『TAKERU』のビルの中の医務室で怪我の治療をしてもらった。
「ありがとう先生。また。」
ニコニコ笑って挨拶をする慎二さん…いつもの慎二さんだ…
「今日は色々ありがとうね…怪我までさせちゃってゴメンネ…」
「いえ…本当に気にしないで下さい…」
「はー問題は祐輔だよねー…怒るだろうな…殴られるかも…」
「あ…そうですね…これから会うんですけど…どうしましょ…」
……2人で考え込んでしまったけど… 怪我をした事は事実だし…諦めて正直に話す事にした。

「……さてと…」
私達2人を見た途端明らかに怒っている…手の包帯もしっかり見られてるし…
「説明してもらおうか?その手の怪我と何でお前が一緒にいるかを…」
「あー…その…」
普段祐輔さんに強気な慎二さんも私を怪我させてしまった事には後ろめたさが
あるみたいで返事に困ってた…
「あ…あの…ここに来る前にナイフを持った人が『TAKERU』のビルに入って来て…
私居合わせたから…それで捕まえるのに ちょっと怪我しちゃって…
でも…大した事ないから…あの…ごめんなさい…祐輔さん…」
「『TAKERU』のビルに?」
「それで…慎二さん責任感じて… 一緒に付いて来てくれたの…」
「ふーん…まあいい…時間が大分過ぎたし…行くぞ。」
「はい…」
良かった…もっと怒るかと思ったけど大丈夫だったみたい…
でもこの考えが甘かった事に私は後で思い知らされる事になる…

「ああ!…慎二。」
「ん?」
「明日じっくり聞かせてもらうからなっ!」
ワザと落ち着いた声で祐輔が僕に話し掛けた。
「ええっ?!僕ひとりっ?」
えー…うそ…すっごい怒ってるじゃないかぁ…何企んでるんだよ…絶対なぐられるよ…
和海ちゃん…一緒にいてくれないかな…参ったな…
そんな僕の気持ちを十分に分かりながら祐輔はサッサと和海ちゃんと帰って行った。

「あ…」

祐輔さんの部屋のベッドの中…
いつもは寝る時なのに…今日は部屋に着いた途端シャワーを浴びてベッドに
連れて行かれた…私は祐輔さんが初めて…時々しか会えないし…
だから…未だに祐輔さんとこういう事をするのは…少し恥ずかしくって…慣れてない…
どうしていいか…わからなくなる…

「なんか…祐輔さん…今日…強引…あっ…」
「あのなぁ…何日ぶりだと思ってんだよ…それに今日はこれの件があんだろ?」
そう言って包帯の巻かれた私の手を掴んだ…
「ごめんなさい…ああっ…ん…」
うつ伏せにされて後ろから攻められた…後ろからって…私…苦手で…
あっ…祐輔さん…知ってるのに…あ…
「ったく…いくら言っても言う事聞かねーなっ!」
… ギ シ ッ !!
ベッドが大きく軋む…
「あっ!!だ…だからって…こういう…仕返しは…ハァ…あっ…」
「これが一番和海には利くだろ?」
「……やぁ…あ…祐…輔…さん…んっ…」
祐輔さんは時々とっても意地悪になる…


祐輔さんがテラスでタバコを吸ってる…
あの後…今日の事を話すまで許してもらえなくて…ずっと…攻められて…
絶えられなくて…結局話さずにはいれなくなってしまった…

「あの…慎二さんの事…怒らないで…慎二さんが犯人捕まえてくれたから…」
「ああ…」
「良かった…あの…心配かけて本当ごめんなさい…これから気をつけますから…」
「………」
祐輔さんは黙って私を抱き寄せてキスしてくれた…
祐輔さんは家族を 事故で亡くしてる…だから私は死ぬような事があってはいけないの…
本当に心配かけてごめんなさい…

長い長いキスの後…私は祐輔さんの胸に顔をうずめてずっと 抱きしめてもらった…

次の日…
「え?和海ちゃんに聞いた?」
「ああ……?…なんだ?」
思わず祐輔をジッと見てしまった…
「ひどいな…祐輔… 和海ちゃんの身体に聞いたんだ…ひどいなー…」
「 ブッ!! ゲホッ…ゴホッ…なっ…お前…」
祐輔がタバコの煙でむせてる…
「図星だろ?昨日約束したんだから。 僕から話すから和海ちゃんは何も話さなくていいって…
なのに話したって事は吐かされたって事だろ?きっと夕べ祐輔に長時間責められて
仕方なく話しちゃったんだろ?」
ホントに図星らしく祐輔は怒り心頭で今にも僕に殴りかかって来そうな気配だ…
ワザとらしく深刻な顔をして言ってやった。
「和海ちゃんウブだから辛かったろうなぁ… きっとあんな事とかこんな事とかされたんだろうなぁ…」
トドメを刺す。
「お前…一ぺん死ぬか?」
そう言って僕の肩を思いっきり力を込めて掴む。痛いってば…
「え?やだなぁ冗談だよ。本当の事だからって照れない。照れない。ははっ。」
しばらくして耀君が入って来た。
「あれ?祐輔なんか元気ないね?どうしたの?」
不貞腐れて超不機嫌な祐輔を見て耀君が不思議そうに覗き込んだ。
「珍しく自分のとった行動を反省してるんだよ。」
「!!えっ?うそっ!!本当?なんで?えー誰が 祐輔をここまで落ち込ます事が出来るの?
初めて見たかも…なんか…怖いよぉ…」
ホントにビビッてる…
「耀…」
今のも堪えたのかな?
「和海ちゃんに決まってるでしょ?とどめは僕だけど。」
「うるさいっ!! 黙れ!慎二。」
超不機嫌になった…耀君にはあたらないのに…
「うんと反省しなよっ!ウブな和海ちゃんをいじめた罰だよ!」
「えーっ!!ウブなって… 祐輔何したの?そんなにひどい事したの?えー??」
「耀は何も心配しなくていいから…泣くな…」
耀君もっと言ってやってっ!!僕は心の中でそう叫んでた。

『彼女ウブだから辛かったんじゃない?』

自分の家でタバコを吸いながら慎二の言った言葉が頭の中に繰り返される…
夕べの事を思い出して…確かに…強引だった… かも…などと思い始め…
チッ…何で抱いた後で反省しなきゃいけないんだよっ!…くそっ…

「 ! 」
警察署からの帰り道…携帯が鳴った…
誰?事件かしら…ん? …えーー祐輔さん??うそ?祐輔さんは携帯が嫌い。
だから滅多に電話もメールもよこさないのに…どうしたのかしら…?
「はい。和海です…」
恐る恐る出てみた…
『今…どこにいる?』
「あ…署を出た所です…」
『仕事は?』
「今日は…もう…」
『……』
無言になっちゃった…
「あの…何かあったんですか?」
『別に…』
「でも…電話…掛けて来るなんて…」
『無事なら…いい…』
切れちゃった…?
「え?何?なんなの?」

オレは携帯をソファに投げつけた… 「会いたいなんて言えるかっ…」

15分後…玄関のチャイムが鳴った…
「あ…声聞いたら会いたくなっちゃって…来ちゃいました…」
祐輔さんが驚いた顔を して私を迎え入れてくれた…
ソファに座って祐輔さんを見ていた…
「何か…気になって…でも元気そうで良かった…」
祐輔さんが私の目の前に立ってしばらく私を 眺めるとそのままソファに横になって膝枕で寝てしまった…
私の身体をギュと抱きしめて…やっぱり…変…
「祐輔…さん?何かあったんですか?」
「別に…」
「またモデルの仕事…入っちゃったんですか?」
「……」
無言…それとも…私のせいですか?私が祐輔さんの事…苦しめてるんですか?
「何か…言い…にくい事… ですか?ぐずっ…」
ん?!ちょっと待て!
どうも様子がおかしいと急いで起き上がった…和海がいつの間にか泣きじゃくってる…は?なぜ泣く?!
「何で泣いてんだ?」
「だって…私…仕事でなかなか会えないし…ヒック…夕べも…慣れてないから…祐輔さんの事…
満足させてあげられなかったし…うっ…」
「は?」
「だから…もう…私の事…呆れちゃったんでしょ?」
「はぁ?」
「どうやって…別れ話切り出そうか…迷って…たんでしょ…」
おいおい…何でそうなる? オレがいつ別れたいなんて言ったよ…!オレの事なんてお構い無しに
勝手にポロポロ涙こぼして…何泣いてんだよ…和海は…

「ったく…」
そう言って溢れる涙を 舐めてやった…
「 ! 祐輔…さん…?」
「何で話を飛躍させてんだよ…誰も別れたいなんて言ってないだろーが…
夕べは…無理させたかなと思って…心配して ただけだよ…」
和海が涙を拭きながらオレの方を見てる…
「慣れてないのが気に入ってるんだけど…?オレは。」
ホントだぞ…オレがどんなに和海に惚れてるか… まだわかんねーのか…
「だから泣くなよ…マジ寿命が縮む……」
「はい…ごめんなさい…ん…」
ちゅっ…そっと和海にキスをした。

「愛してるぞ… 和海…」
「 !  は…い…私も…愛してます…祐輔…さん…」
涙ぐみながら和海がニッコリと微笑んだ。

それからしばらくの間…祐輔さんは優しいキスを 私にたくさんしてくれた…