02
「怪しい男っ！！」
思いっきり指を指して叫んだ！
「こらこら…指をさすんじゃありません。教わらなかった？」
「あ…ごめんなさい…」
って謝る必要あるの？？
「それに怪しい男でもないし。」
「何してるんですか？」
良く見ると…額に薄っすらと汗が滲んでて…しっかりと道着も着てる…
「え？爽やかな青春の汗流してるんだけど？」
真面目に言ってる…
「は？爽やか？貴方ここの生徒だったんですか？随分とうの立った高校生…」
真面目に呆れてしまった。
「そんな事あるわけないでしょ？何年落第してんのよ…オレ…」
「いや…有り得そう…」
「あのねこう見えてもオレ空手部のコーチで招かれてるんだよ。エッヘン！」
わあ…すごい得意気…
「はぁ……」
「あ！何その気の無い返事！信じてないな。
じゃあ見せてあげるからこっち入っておいでよ。」
「えっっ！？いいです！結構ですから！それじゃ私はこれで。」
「え？帰っちゃうの？」
何でそんなに突っ込まれちゃうのよ！？
「当たり前です。自分の用事は済んだんですから。」
「え？部活？」
「違います！それじゃ…」
私は一応ぺこりと頭を下げて素早く歩き出した。
何だかさっさと帰った方がいい気がしたから。
「あ！ちょっとストップ！止まんなさい！」
「はい？」
……止まんなさいって…？？
「そんなに素っ気なくする事無いでしょ？名前くらい教えてよ。
オレもう怪しい奴じゃなくなったんだし？」
窓から身を乗り出して喚いてる…
「弥咲先生！」
「ん？ああ…」
私が返事をする前に中から呼ばれて…
こっちに視線を向けたまま身体だけ戻ろうとしてる…
「……はぁ…堀川です。」
仕方ない…素性も少しは明らかになったから教えてあげよう。
「堀川？堀川…？」
「小夜子です。」
「わかった！覚えた！またね ♪♪ 」
「……！！」
ウィンクされちゃった…ホント何なんだろ？あの人…
「ふう…まっいいわ。やっと帰れる…もう時間掛かった…帰ろう帰ろう！」
私は最初の目的だった自転車置き場にやっと歩き出した。
今日は休校の土曜日…休みの日だから数える程しか自転車は置いてない…
平日じゃ自転車を出すのも大変なのに雲低の差だわ。
段々自転車通学も辛い季節になって来たなぁ…なんて思いながら自転車を
広い通路に押して歩いた。
「堀川さん！！」
ビクン！！
「…え？なに？」
どっから？思わず周りをキョロキョロ見渡した！
「よかった…間に合った…」
「え？」
見ればすぐ後ろにさっき道場にいた彼が息切らして立っていた。
「あのさ…はぁ…はぁ…」
そんなに息切らして…道場から走って来たの？
道場から自転車置き場は近いけど入り口はまるっきり逆方向だから…
この短時間で此処に来たって事は結構な速さで走って来たって事で…
「どうして？」
「……は！？」
「何で私なんか構うんですか？」
思わず言い方がきつくなる…だって明らかに変だもん。
「え？」
「あの時…一度会っただけなのに…」
「…………」
私にそう聞かれて彼が浅く息を切らしながらキョトンと私を見てる…
「？…？？……？…何でなんだろ？」
はい？
「こっちが聞いてるんです！どいて下さい！じゃないと轢きますよっっ！」
握ってるハンドルをギュッと強く握り直した。
「………冷たいな…」
「……！！…大きな声出しますよ！！」
「え？何で？」
「……何でって…私にしつこく付き纏ってるからでしょっ！！」
何惚けてんの？この男！！
「しつこく？…付き纏ってる？オレが？」
カチンっ！！
なっ…何なの？この男は…
おかしい…絶対におかしいわよ！！逃げなきゃ…学校の中だって油断できない！
有無も言わさず男の横を強引にすり抜けた。
「あ！」
「！！」
「まだ話終わってないんだけど？」
自転車の前輪に脚を出されて止められた。
しかも顔を覗き込まれてそんな事言われた！
「…は…話す事なんてありませんっ！！どけっ！この変質者！！」
「変質者って…オレの何処が？？」
「全身っっ！！頭の上からつま先までっ！！」
「は？………ぶっ！！アハハハハ！！ウケるっ！！」
またお腹抱えて笑われたっ！！
「………」
今のうちに…逃げるっ！！
自分としては敏速に自転車にまたがって速攻で漕ぎ出したはずなのに…
ズシリと後ろが沈んだ。
私の自転車はいわゆるママチャリと呼ばれるタイプだから後ろには荷台がある。
「いやああああああっっ！！ちょっと下りてっ！！」
しっかりと荷台にあの男がまたがってた！
漕ぎ出した自転車を止める事が出来ず…今止まったら重さで重心がずれて…
絶対転ぶ！！
「ちょこっとドライブ。校門まで…ね？」
「ね？じゃないっ！！今すぐ下り……」
「ほらこのままじゃ倒れるよ。チェンジチェンジ！」
「え？…あ…」
そう言って後ろから伸びた腕がハンドルを握って…ペダルを踏んで漕ぎ出した。
「器用だろ？」
そう言って振り向いた私にニッコリと笑う。
「…………あ…安全運転で！！」
仕方なく諦めた…
「ＯＫ！」
「……！！」
返事のあと…
グンと身体に重みが掛かって私が漕いでいた時よりも数段も早いスピードで走り出した。
「校門までって言ったのに…」
「まあいいじゃないの。」
「私はいいけど…あなたが帰るの大変じゃない…」
校門までだったはずが校舎は遙か彼方で…歩いて帰ったら大分掛かりそう…
止めてって言ったのにまったく止まる気配が無く…
「はは…ついつい調子が出ちゃって…張り切り過ぎた。
でもオレの事心配してくれるんだ ♪ ♪」
「………仕方ないから自転車乗せて行きましょうか？」
質問はあえて無視！
「え？いいよ２度手間じゃん。オレ体力はあるから大丈夫。走って帰るよ。」
「………あの…」
「ん？」
道着の上から羽織ってるジャンバーのポケットに手を入れながら私の横に立ってる…
ちゃんと立つと私より遙かに背が高い事に気が付いた。
汗はもう引っ込んだらしい…髪の毛がサラサラと風になびいてる…
「私に…何の用だったんですか？」
「え？」
「……え？」
お互いしばらく無言で見詰め合ってしまった。
「だって用があったから私の事呼び止めたんでしょう？」
「あ！そうだよな…ああ…そうだった…色々あってすっかり忘れてた…はは…」
もう調子が狂うわ…この人…
「……はぁ…で？何ですか？」
「ああ…今日は何で学校に来てたの？部活じゃないって言ってただろ？」
「２学期は毎週土曜日休校でも図書室が午前中だけ解放してるんです。
この機会に読んだ事の無い本でも読もうと思って…それでです。」
「本読むの好きなの？」
「はい。１人の世界に没頭できるし…集中して読むの好きなんで…」
「へー…今時の女子高生にしては珍しい文学少女？」
「そんな大層なもんじゃありません…それにそう言う風に言われるの好きじゃないし…
まあもう大分慣れましたけど…」
そう…昔からそう言われて良く男子にからかわれた。
「もしかして友達いないとか？」
「…！！…なっ…失礼ねっ！ちゃんといますっ！！ただ趣味が違うから今日は別行動。」
にっこり笑って失礼な事言わないで……
「じゃあオレが同じ趣味仲間になってあげる。」
「…は？……え？何言ってるんですか？」
「オレも本読むの好きなんだよね。」
「………」
もう…なんて言ったらいいのか…わかんない…
「と！言う事は…明日は来ないって事か…オレも土・日しかここ来ないし…
来週まで会えないな…残念。」
なに…本当に趣味仲間になるつもり？？
「あ…あの…別に無理しなくても…空手部のコーチもしてるんですよね？」
「ああ…でもちょっとくらいなら大丈夫だから。」
「でも…」
「今度来た時は道場の方に顔見せて。そしたら君が来たのわかるし。」
「え？でも…私あなたの事良く知らないし…ちょっと…迷惑って言うか…
１人の時間…邪魔されたく無いって言うか…」
言葉を濁しながらも結構ハッキリと言ってしまった。
「まったく…いつもいつもハッキリ言うね…さよこさん。」
「！！」
「 『 さよこ 』 ってどんな字書くの？」
そう言って人差し指を字を書くように動かした。
「あ… 『小さな…夜の子』 …」
「へぇー…今時 『子』 の付く名前なんて珍しいよね。」
「おばあ……祖母が付けたから……」
「 『小さな夜の子』 か…可愛い名前だよね。ふふ…」
「…そう？」
「君に合ってるよ。小夜子さん！オレは今度会えた時自己紹介するから。
ホント誓って変な奴じゃ無いから！小夜子さんに誓って断言する。」
「え？私に誓って？？なんか変なの…」
「そう？とにかく来週の土曜日だから。オレ愉しみにしてるからね！
じゃあ気を付けて帰りなよ。またね！」
「…はぁ…」
勝手に喋って勝手について来て勝手に決めて…
顔しか知らない変わってる男は…本当に走って帰って行った……