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『ごめんね耀くん…事件重なっちゃってまだ帰れそうにないんだ…』

携帯の向こう側から聞えてくる椎凪の声は本当に済まなそうだった。

『だから夕飯の支度間に 合わないから…』
「いいよ。適当に食べるから。」
『本当にゴメンネ…なるべく早く帰るからさ。』
「仕方ないよ。仕事だもん…うん…じゃあね。」

最後に 椎凪がオレの事好きって言ってたけどそれはあえて無視する事にした。


「さて…何にしようかな…」

キッチンを眺めてそう呟いたけど…オレ料理苦手なんだよな… 苦手って言うより作れないに等しい…
最近は椎凪が作ってくれてたから全然ご飯の事なんて心配した事なんか無かったし…
結局残ってたご飯を温めて生卵を かけて食べた…何ともお粗末な食事…

…ふと…気付いた…

部屋の中がもの凄く静かだ…シーンと静まりかえってる…
こんなに…静かだったっけ?
オレは あんまりテレビは観ないから…部屋の中で音がしない…歌でもかけようかな…なんて思った。
でも椎凪が来る前はこうだったんだよなぁ…その時は全然気にしなかったのに…
そんな事まで考える始末……あーあ…椎凪…早く帰ってこないかなぁ…
なぁんてオレは考えていた…何でだろ?

だって…一人じゃつまんないだもん…


「あれ?電気点いてる…」

玄関からリビングに繋がる廊下がぼんやりと明るい…耀くん居るのか?
でももう日付も替わってる時間だから耀くんはおねむの時間じゃないのか?
そっとリビングのドアを開けた。

「耀くん起きてるの?」

見れば耀くんはソファでクッションを抱いて眠ってる…
パジャマにも着替えてないって事はオレの事待っててくれたのか?

そんな事を思いつつ静かに眠ってる耀くんに近付いた。
寝顔がすっごく可愛い…それにオレの事待っててくれるなんて可愛い事してくれるよね…
自然に手が眠ってる耀くんに伸びた…どうしよう …抱きしめて…キスしたい衝動に駆られた。
伸ばした手が耀くんのすぐ傍で止まる…
オレはソファの前で膝まづくと屈んで耀くんの顔に自分の顔を近づけた。

「起きないでね…耀くん…」

……ちゅっ……

耀くんとの初めてのキス…耀くんは眠ってるけど…そっと唇を重ねた…
耀くんが起きないかビクビクもの だったけど大丈夫らしい。
柔らかくて暖かい…耀くんの唇…何でだろ?甘い感じがしたのは気のせいか?
あ…ダメだ…離れられない…

オレは我慢出来なくて 大胆にも舌を絡めるキスをした…
されるがままの耀くんの舌を絡めていく…

「……ん…」

耀くんから声が漏れた…ヤベッ…!!起きるか?
サッと耀くんから離れて様子を伺う…心臓がバクバク…ドッキンドッキン…
最高にスリルのあるキスだ…今までこんなキスした事ない。
チョットだけ身体を 動かした耀くんだったけど起きる気配は無い…ウソ…起きないの?
覗き込んで暫く様子を伺ってたけど耀くんはスヤスヤと眠ってる…
なんだ… こんな事ならもっとキスしとけば良かった…
流石にもう一度耀くんにキスをする勇気は無くて…出来なかった…

オレって結構小心者?残念だな…

でも今くらいの キスなら耀くんは起きないと確信した。
これからの対応に役立てよう!貴重なデータが取れてとりあえず今夜は良しとしよう。


「耀くん…耀くん!」

眠ってる耀くんの肩を揺すって声を掛ける。

「起きて!こんな所で寝てたら風邪ひくよ。」
「……んー…あー…椎凪…?」

結構な回数肩を揺すってやっと 耀くんの目が覚めた。
やっぱり耀くんは一度寝るとなかなか起きないらしい…よしよし。

「オレの事待っててくれたの?」
「…………」

まだ目が覚めてないらしい…ボーっとしながら目を擦ってる。
その仕草が何とも可愛い…オレの胸が キュンってなった。

「んー…いつ帰って来るのかなぁって思って…でも寝ちゃったんだ…オレ…ごめんね…」
「ううん…ありがとう。耀くん!! オレ嬉しいよー!」

思わず顔がデレっとなったのが分かる。

「お帰り椎凪。」

まだ眠気の覚めない耀くんがそれでもニッコリと笑って言ってくれた。


「ただいま。耀くん!」

オレもニッコリと耀くんに笑い返えした。