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 * ちょっとプレイバックで 『本編 95話』 の後のお話。 『本編 23話』 の浹登場です。*



「離せよっ!!」

「ん?」
耀くんが右京君と旅行に出掛けて3日目…
オレは何もやる気の無い身体を引きずってやっとこさ祐輔の家に戻る トコ…
自分の家には帰らない…まぁ着替えに行ったりシャワー浴びたりと
チョットは戻ったりするけど耀くんがいないのに…
耀くんとの事を思い出すあの部屋に 1人でなんかいられない…
余計1人を実感して果てしなく落ち込むのが自分でも分かる。
だから耀くんが帰って来るまでオレは祐輔の所で厄介になると言う訳。
そんな帰り道…道で絡まれてる男の子に遭遇した。
でも…パッと見女の子にも見えなくも無い…一唏と似た系?
何だか放っておけず声を掛けてしまった。
今のオレは普段とちょっと違うのか??
耀くんがいないから何かがちょっとズレてるらしい…

「コラコラ君達いい加減にしときな。その子嫌がってるだろ?」
「ああ?」
一斉にもの凄い目付きで睨んで来た。
「うるせぇんだよ!おっさんっ!!」
その内の1人がオレに向かってそう叫んだ。

おっさん!?
26のオレに向かっておっさんだとぉぉぉぉ!!!!ブチィーーーーン!!!

「テメェら生きて帰れると思うなよっ!!!!」



「まったくもー… あんたやり過ぎ!」
「……ちょっと情緒不安定で…」

オレは遠い目をしながら公園のベンチに座ってた。
結局手加減せずに向かって来た連中を殴り続けた もんだから
流石にヤバイと思ったこの子がオレを連れてその場から
逃げ出したというわけ…

「お陰で待ち合わせの場所変更になっちゃったじゃんか!」
「なに?お礼言われるならまだしも文句?」
「当たり前だろ?あのままいたらあんた捕まってたよ。
オレの方がお礼言って欲しいよ!」
「かーーーっ!! 可愛くない!!耀くんの方が何億万倍も可愛い!!」
「はぁ?何言ってんの?わけわかんねー?」
呆れながら何処かに携帯で掛けてる…
オレは何だか気が抜けて ダラけてベンチに座ってた。

耀くん…会いたいよぉ〜〜〜早く帰って来てぇ〜〜クスン。

「あ!浹?オレ…実はさぁ…」

は??あまね?
オレの記憶の中のブラックリストに載ってる男と同じ名前だった。



「ありゃ?これはこれは…」
言いながらクスリと笑われた…チッ!
「え?浹知り 合い?」
「うん…ちょっとね…」
「知り合いなんかじゃ無い。」
オレはあからさまに視線を外して思いっきり不貞腐れた声で言った。

コイツは浹  清士…慎二君の知り合いの知り合い。
以前…まだ耀くんと付き合う前にコイツが原因で
耀くんと気まずくなった事がある…
しかも何気に耀くんに馴れ馴れしい… だからオレはコイツが気に入らない。


「浹オレもうバイト行くわ。」
「え?もう?」
「そいつのせいで時間無くなった。」
顎で指されて言われた。
「そりゃ失礼!」
ったく…
「響!」
「…ま…でも助けてくれてありがとうな。おっさん!」
「椎凪さん!」
「椎凪?ありがと!椎凪さん。じゃあな 浹!ちゃんとメシ食えよ。」
「あー響…キスしてくれないの?」
「!!するかっ!!どアホっ!!」

真っ赤になりながら走って行った。

「クスクス… 可愛いでしょ?色んな顔見せてくれてさ…
今のオレの一番大切な子…山寺響16歳。
一緒に暮らしてるんだ…響のアパートが火事に遭ってね…
響には悪いけど オレは嬉しかった。」
「恋人って事?」
「そう。安心した?」
「別に…」
「椎凪さんオレの事嫌ってるでしょ?」
「耀くんに近付く奴はオレの敵だから。」
「付き合ってるんだってね?」
「何で知ってる?」
「時子さん。何処かのパーティで会ったでしょ?東十条時子。」
「ああ…いきなりオレの唇奪ったおばさんか?」

慎二君に頼まれて『TAKERU』主催のパーティでホスト役で参加してた時に
オレを気に入ったっていきなり挨拶代わりにキスした女…

「気に入られた証拠だよ。 でも怒るよ…おばさんなんて…気にしてるんだから。」
「知るか。」
「ねぇ一緒に夕飯食べない?せっかくこんな偶然に会えたんだし…」
「何で君と顔突き合わせて 飯食わなきゃいけないんだよ。余計食欲が無くなる。」
「貴方はオレの事キライかもしれないけどオレは結構貴方の事気に入ってるんだよね。」
「はぁ?」
「だってオレ達似た者同士でしょ?きっと…」
「………」
見上げると寂しそうな瞳で笑ってる。
「だから貴方には耀君が必要でオレには響が必要なんだ。」
思わずマジマジと彼を見つめてしまった。
そしたらニッコリと笑われた。
「君に好かれたって嬉しくも無い…」
言いながら立ち上がった。
「あら残念。 これでも言い寄って来る娘断るの大変なんだけどな…」
「女の子もOKなの?」
「貴方もでしょ?」
またニッコリと笑う。
「いちいち笑うな。」
「クス…なんだろなんか嬉しくて。付き合ってくれるんだ?」
「デート潰したお詫び。」

本当は真っすぐ帰る気がしなかったのとちょっと彼に興味が湧いたから。

「あれ?オレより背高いんだ?」
隣に並んで初めて気が付いた。
ちょっとだけ目線が上を向く。
まさかこの高さは…
「幾つあるの?もしかして185?」
「お!当たり。良くわかったね?」
そりゃ分かる…亨と同じ目線…
「嫌な高さ!」
吐き捨てる様に言った。
「エエ!?背の高さで文句言われたの初めて!! なんで?」
「オレと相性悪い背の高さだから!やっぱりね!」
「うわっ!何そのこじつけ?」

マイペースだけど結構しゃべる奴…

「何でこんな店?」
「時子さん絡み。支払いは時子さんに出来る。」
「あっそ…」
クラッシックの音楽が流れるレストラン。
デートじゃねーっての…ムードなんかいらねぇ…

「響とじゃちょっと無理だから。」
「オレとも無理だろ?」
「大丈夫じゃない?カップルって見てくれるよ。」
「笑うな…」

話してオレより年下だって事がわかった。
事情があって高校を17で入ったとか…あんまり詳しい事は聞かないけど。

「そうだ!今度さ…」
「おや…浹?」
「…!?」

オレ達のテーブルの 横を通り過ぎようとした結構いい身なりの
会社の重役らしき親父が彼に気が付いて立ち止まる。
「あー…どうも…」
ん?なんだ?ちょっと雰囲気が変わった?
「彼女から聞いていないかね?」
「何をです?」
「何度申し出ても断られてね…ナゼなんだね?」
「…さぁ…時子さん好みが激しいから人を見るんじゃないん ですか?」
「…な…に?」
その言葉に男がムッとなる…オレは意味が良く分からなかったから
黙って見ていた。
「きっとあなたの事が気に入らないんですよ。
よっぽど時子さんを怒らせるような事してるんじゃないんですか?
何か悪どい事とか?」
「お前…私にそんな態度……身体を売って金を稼いでる分際で…」
「 !! 」
彼の身体がピクリとなった…一瞬だったけど…
「そんなオレを何度も買おうとするあなたは何なんでしょうね?
別にいいですけど?相手したって… でも…」
言いながら横目で男を睨む。
「あなたじゃオレを満足させられないんじゃないかな?自信あります?」
「この男じゃ無理だな。」
オレが太鼓判を 押した。
「!!………くすっ…ですって。残念ですね…ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」

オレも一緒になって頭をペコリと下げた。


「何だか変なトコ見られちゃったな…」
「別に気にしないけど?」
「だよね…貴方ならそう言ってくれると思った。フフ…」
ゆっくりタバコの煙を吐きながら 笑う。
「オレね…結構な借金があるんだ…時子さんに…だからそれ返すのに色々と…ね…」
「ふーん…」
「………そうだ!今度耀君も連れて来てWデート しない?
オレいつかそれしてみたかったんだ。」
「減っちゃうからダメ!」
「あ!ケチだな!!…まいいや今日は楽しかった…
貴方ともお近づきに なれたし…また会えたらいいね…」

そう言ってニッコリ笑って…オレのブラックリストに載っていた
男は帰って行った…

何でこんな事になったのか?
自分でも分からず…似た者同士なんて言われて思わず納得したから?
まぁ…何とか今日1日を過ごす事が出来たからよしとしよう…
あと4日…
オレは耀くんが 帰って来た時を想像する…
そしたら抱きしめてキスして朝まで愛し合う!!

それを支えに過ごそうと決めて少しだけしっかりした足取りで歩き始めた。