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右京がリビングの一番いい場所にソファを置いて腰を掛けている…
右京の腕の中には…一週間前に生まれたばかりの右京の娘…
『 琴乃 』 が気持ち良さそうに眠って いる。

「可愛いものだね…」

そう呟く顔もいつの間にかほころび…当主の威厳など何処に行ってしまったのか…

「右京様。」
執事の中でも一番の年長者 右京が生まれた時から仕えているこの男。
名前を佐久間 重時。御年58歳。
右京の良き理解者で時々右京に意見も言ったりする強者。
その佐久間が右京に声を 掛けた。

「何だい?佐久間?」
佐久間の方を見ずに返事をする。
「念じなさいましたな…女の子が欲しいと…」
ストレートに問いかける。
「ふふ…いいんだよ。これで…」
「右京様がお決めになった事です。私は何も言いませぬ…ただ一つ…」
「何だい?」
「女の子はお嫁に行くもので御座います。 その覚悟なさっておいて下さいませ。」

「 …!!! 」

流石の右京も一瞬身体がピクリとなった。

「何だい?佐久間!何も今そんな事言わなく てもいいだろう?」

初めて佐久間の方を見て右京が文句を言った。
「いえ。右京様は人一倍感受性が強い方。
今から心の準備をなさっておいた方が宜しい かと…」

「いいんだよ。琴乃は慎二君にお嫁にもらってもらうから!!」

「慎二様ではお年が離れ過ぎで御座います。」
「……じゃあ誰にも嫁にやらない!」
少々不貞腐れて返事をした。
「行かず後家で御座いますか?お可哀想に…」

「…!!…佐久間!!」

右京の心配事はこれからも更に続く。


右京の子供が生まれてから約3ヶ月後…

「何か言ったら殺すぞ!!」
「 …!!…くっ…」

祐輔の家の玄関のドアを開けて迎え入れてくれた
祐輔を見て オレは思わず一言言いたくなった…
そんなオレを見て祐輔が先手を打ってオレに向かってそう言ったんだ。

祐輔が…祐輔が…祐輔が…赤ちゃん抱っこしてるーっっ!!

何度見ても笑える…
今日は祐輔の所に遊びに来がてら赤ちゃんを見に来た。
まあお向かいさんだからいつでも来れるんだけどさ。
オレは赤ちゃんを抱かせて もらった。

「泣かすなよ!」
「何言ってんの?オレ家事全般得意なんだよ。
ガキの頃から施設で赤ん坊の面倒手伝って来たし祐輔より上手いよ。
…で?この子水希?水帆?どっち?」
祐輔の所は二卵性の男の子と女の子の双子ちゃん。
二卵性なのによく似てるんだ…この2人…
「水希。よく見りゃ判んだろ?前髪横分けが 水帆。わかれてないのが水希。」
「へー…なるほど…わーちっちゃいなぁ…可愛いー…1ヶ月だっけ?」
「ああ…」

そんな2人をオレと和海さんは少し 離れた所で見ていた。
「気が付くと必ずどっちか抱っこしてるんですよ。」
「へー…あの祐輔がねぇ…」
「耀さんも大学卒業したら直ぐですね。」
和海さんがニッコリと笑う。
「え?うーん…でもね…今も別に赤ちゃん作らない様にしてるわけじゃないんだ…
椎凪そう言うの全然気にして無いからさ…」
(わー…なんか女同士の会話って感じ…照れる…)
以前は気にしてたみたいだけど右京さんの所に
赤ちゃんが出来てからあんまり気にしなくなったらしい…
「オレずっと男だと思って生活してたからなのかさ…
身体もやっと女らしくなって来た所だし…
だからもしかして子供出来ないのかもしれない…のかなって…」
オレは最近思い始めた事を和海さんに話した…
「9年間でしたっけ?男性として生活してたのって?」
「うん…」
「もう少しかかるのかもしれないですね… 身体もそんな急に変化しないですよ。
普通に生活してても個人差あるんですから。
9年ブランクあれば尚更じゃないですか?大丈夫ですよ。」

優しく… ゆっくりとした口調で話す…

「うん…そうだね…ありがとう。」

本当…和海さんって癒し系…オレの不安…無くしてくれた…
そっか…焦る事… ないよな…まだまだこれからだもん…でも…



 椎凪とオレの子供って…
 一体どんな子供なのかな…?

 オレは祐輔の子供を嬉しそうに
 抱っこしてる椎凪を見て…

 ふと…
 そんな事を考えてしまった…