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 今日は最悪だった…事件が重なり帰るに帰れず…耀くんに夕食を作ってあげられなかった。
 しかももう少しで明日になろうと言う時刻。
 きっと耀くんはもうおねむの時間だから帰っても耀くんと話も出来ない。
 つまんない…余計へこむ。
 重い足を引きずり家に帰り先にシャワーを浴びようと 浴室のドアを開けた。
 開けてから気が付いた…電気が点いてる。
 あー…耀くんが使ってたんだ…
 「あっ!…ゴメンネっ耀くん。もう寝ちゃてると 思ってた…」
 って言っても男同士だし別に…
 「 あっ!」
 耀くんが慌てた声を出した…オレはその声につられ耀くんに目が行く…
 別に見るつもりなんか無かった…ボーっと耀くんに視線を合わせた…
 「 ん?……えっ!?…ええっ!!」
 「あっ!」
 慌てて耀くんがパジャマの上着の前を 押さえる。
 「あっ!ごめんっ…」
 顔を反らし浴室から出ようとしたオレを耀くんが呼び止めた。
 「あっ!待って椎凪!」
 「 え? 」
 「これが本当のオレなんだ…」
 今にも泣きそうな耀くんの声。
 「耀くん…?」
 「オレ…男なのに…身体は女なんだ…」
 声が震えてる…
 「でもこれは…オレが受けなきゃいけない 罰だから…母さんを苦しめる為だけに生まれて来た…
 オレが受けなきゃいけない…罰だから…」
 「耀くん…?」

 突然の事で思考回路が止まってる…
 「変だろ…オレ…変…だよね…」
 そう言って浴室から駆け出して行ってしまった…

 「耀くんっ!?」
 オレは追いかける事が出来なかった…
 えっと…たしか…耀くんに胸があった?…えっ?ってことは?耀くんって…女の子って事?


 ──椎凪に…知られた…きっと…変に思うに…決まってる… ──


 さっきから携帯の呼び出し音が続いている…
 「ったく!早く出ろよっ!」
 相手は祐輔…耀くんの事は祐輔に聞くのが早い…シャクだけど…
 ただ祐輔も寝不足が嫌いだからもう寝てるか…その前に携帯嫌いだから出るかが問題だ。
 「出てくれよ…」
 ピッ!っと音がして携帯が繋がった。
 よし!出たっ!
 「ったく!何だよ?うるせーなっ!!何時だと…」
 「ごめん!祐輔。緊急事態だからっ!!」
 オレは切羽詰っていた。
 「耀くんって…女の子なの?」
 単刀直入に聞いた。
 「ああ?何だよ、いきなり…?」
 「今見ちゃったんだ…どーゆー事?」
 「……耀は?」
 「自分の部屋にこもってる。だから今理由知りたいんだよ…」
 オレは焦り始めてた。
 「はー…仕方ねーな…いつかバレるとは思ってたけどな…」
 祐輔の声が重く沈む…

 「耀は自分のせいで母親が自殺したって分かった時…心が壊れたんだ…
 自分を許せなくてな…」

 「それって…」
 「とにかく何をしても無反応。 どんな事をしても自分のせいで母親が死んだ事と愛人の子供
 だっていうのは忘れさせられなかったんだってよ…
 そこで父親が何人かの精神科医に頼んでそいつらが 見付けた答えが…
 耀は男だって事なんだよ。
 男なら母親も父親を奪った愛人に似てる耀でも少しは許してくれると耀に持ち掛けた…
 誰かに許してもらいたかった耀は それを受け入れて男として生きる事を選んだ…
 11の時だってよ。」
 「何それ?」
 言いようの無い重い気持ちが一杯になってくる…
 「仕方ない…それしか耀が生きていく理由が無かったんだろ…
 女の身体は生まれた事自体が罪だから…
 男なのに女の身体で生まれて来たと思ってる…色々耀の中にも 矛盾があるのは
 分かってるらしい…けどな…それを認めたら…耀は生きていけないんだ…」
 祐輔の声にも微かに怒りが混じってる。

 「何があっても…自分は男だと 思ってる。女だと認めた時…耀は…生きる事を許されない…
 だから…周りが何て言おうと…耀は男なんだよ!」


 耀くん…だからオレの事受け入れてくれなかったの? ずっと一人でつらいの我慢してたの…?
 ごめんね…オレ気付いてあげられなくて……ごめん…


 …オレは耀くんの部屋のドアノブに手を掛けた。
 耀くんの部屋のドアを開けると耀くんはベッドの上でうつ伏せになっていた。
 「耀くん…」
 そっと声を掛けたのにビクッと耀くんの身体が動いた。
 「やだっ!オレを見ないでっ!!」
 泣き声だ…
 「何で?」
 「だって…オレ変だもん…椎凪だって変だと思ってるんだろ…ぐずっ」
 「思ってないよ…そんな事…」
 「うそだっ!!」
 「うそじゃないよ…顔…見せて…」

 ゆっくりとオレを見上げた顔には涙が一杯こぼれてた…

 「身体は女の子で心は男の子…それが耀くんなんだよね…オレ望月 耀って子が好きだから…
 それが耀くんなら今の耀くんの全部が好きだよ…今のままの耀くんが好き…
 だから泣かないでよ…」
 オレはチョトずつ耀くんに近づいていく。
 「耀くん…オレ耀くんしかいないんだ…ずっと探してやっと巡り会ったのが耀くんだから…」
 「何で?何でオレなの…?」 
 「耀くんはオレの心の痛みを分かってくれる人だから…今まで誰もいなかった…
 でも耀くんなら分かってくれる…」
 耀くんの顔を両手でそっと包み込んだ…

 「だから耀くんの心の痛みもオレならわかってあげられる…」

 優しく微笑みながら耀くんを見つめた…
 「椎凪…」
 耀くんもオレを見つめてくれてる…

 「愛してるよ…耀くん…オレは一生耀くんだけを愛していく…約束するよ…」

 本当だよ…耀くん…

 「だから…オレの事好きって言って…愛してるって…言って…耀くん…」

 耀くんが潤んだ瞳でオレを見つめてる…やっと言ってもらえる…

 「だっ…」
 だ?
 「だめっ!無理だもんっ。」 
 ええっ!?うそでしょ?耀くん…
 この期に及んでまだそんな事言うなんて…はー思わず笑いが出そうだよ…

 「 本当…耀くん手強いね…」
 「え?」 
 わかってない…
 「んーじゃあどうしたら信じてくれるかな…」
 ワザとらしく人差し指を顎に付けて考える。
 「あ!そうだ。」
 スタスタと歩いて耀くんの部屋の窓に手を掛ける。
 「椎凪…?」
 開け放した窓に足を掛けて耀くんに言った。
 「ここから飛び降りたらオレが言ってる事本当だって信じてくれる?」
 オレはそう言って窓の淵に両足でたった。
 「えっ?椎凪!!何言ってんのっ?ここ5階だよ!!」
 耀くんが慌ててオレに叫んだ。
 「うん。知ってる…でもさ…オレ」
 「なっ…何?」
 「耀くんに好きって言ってもらえなかったら…生きてても仕方ないから…
 オレ耀くんがいなかったら生きていけないんだ…」
 本心だった…ホントにそう思ってる… それを耀くんに伝えたかった…
 「椎…凪…」

 ほんの少しの間…静かな時間が流れた…
 耀くんがオレの言ってる事を受け入れてくれてるんだ…

 「こっちに来て椎凪っ!オレの傍に来てっ!!」
 振り向くと耀くんがオレに向かって両手を広げている…
 オレは走るように耀くんの傍に戻って耀くんを 抱きしめた。
 「耀くん…」
 うれしい…やっとオレの気持ち受け入れてくれたんだね…ホントにうれしいよ…耀くん…
 「良かった…分かってもらえて…」
 オレは力いっぱい耀くんを抱きしめた…そして耀くんの顔を確かめる…
 耀くんは優しくオレの事見つめ返してくれた…
 「椎凪…」
 何…耀くん?オレ達もう一人じゃないよ…
 これからはオレが耀くんの傍に…いつも傍にいてあげる…
 オレは力いっぱい耀くんを抱きしめた。
 って…耀くん…?ん?えっ?何?何なの? その手は?
 ゆっくりと耀くんの右手が挙がって行く…?

 バ チ ー ン !!!

 耀くんの平手打ちがオレの左頬に思いっきり入った。
 「いってーーっっ!!」
 何?何が起こったんだ?
 「本当何やっての椎凪!!あぶないだろっ!」
 物凄い剣幕でオレに怒り出した。
 「耀くんヒドイッ!! オレの愛の告白聞いてなかったのっ!?」
 ホントに涙が出てきた。
 「何が愛の告白だよっ!人を脅してOKしかったっら飛び降りるなんて最低!!」
 「 ええっ!? 何でそう?オレはその位耀くんの事が…」
 「あー…もうストップ!もういいから出てって!!」
 「ちょっ…耀くん?」
 オレの背中をグイグイ押してドアの外まで押し出そうとする。

 「耀くん!!」
 負けるかっ!!耀くんの方に向き直った。
 「オレは!!…オレは…椎凪の事は何とも思ってないからっ!!ただの下宿人だからねっ!」
 「 !! 」
 「だからってまた飛び降りようとしたら オレ椎凪の事…キライになるからっ!!!」

 ズ ド ッ !!

 …と耀くんの言葉がオレの心と身体に突き刺さった。

 バ タ ン !!

 オレの鼻先でドアが閉められた…うそ…まさかこんな事になるなんて…
 誰か…うそだって言って…
 耀くん…本当…意地っ張り…オレはその場にへたり込んで しまった…


 次の日の朝…少し気まずい気分でリビングに行った。
 いつもの如く椎凪が朝ご飯の支度をしてる。
 「お…おはよう…」
 うー緊張する…
 「おはよー耀くん。よく起きれたね。今起こしに行こうかと思ってたのに。」
 「うん…起きれた…」
 っていうか眠れなかったんだけどさ…
 いつもと同じすぎる椎凪…夕べの事…どう思ってるんだろ…
 「オレは諦めないからね。」
 「え?」
 「絶対諦めないから。」 
 そう言ってニッコリ笑って見せた。
 「……」 
 ビックリした顔してる。
 「無駄だよ…オレ…誰も好きにならないから…
 どうせこんなオレと付き 合ったってうまくいかない…
 相手にも迷惑かけるし…その前に他人が恐いから無理だけどさ…」
 「じゃあやっぱりオレなんだ!」
 「え?」
 「だって耀くんオレは平気だったじゃない。こーやって一緒にも暮らしてるし。」
 「そ…それは椎凪の料理の腕を見込んでOKしたんじゃん…」
 「それはたまたまそうだっただけだよ…別にオレが料理出来なくても一緒に暮らしてるさ。」
 「何でそう言い切れるの?絶対無いと思うけど…」
 そう言って耀くんは横を向いた…
 「それはね…前にも言ったでしょ?耀くんにはオレが必要だから。」
 「何それ?また勝手な事言って…」
 そう言いながら照れくさそうな顔をする…
 「好きだよ…耀くん…オレは耀くんの事が好き。それだけは分かってて。」
 耀くんを見つめながらニッコリ 笑ってそう言った…
 一気に耀くんの顔が赤くなっていく…可愛いなぁ…
 「もっ…もー朝から何言ってんの?椎凪はただの下宿人!!」
 「またぁ…照れちゃってさ。いい加減認めればいいのに。」
 「てっ…照れてなんかないっ!!椎凪のバカッ!!」
 「くす くす。早く食べないと遅刻しちゃうよ。」
 照れて赤くなっている耀くんを見ていて 思わず笑いがこみ上げる…ホント可愛い。
 「あ!本当だっ。」

 いつもと同じ朝…それは椎凪のおかげ…


   もう少し待ってあげる…耀くん…        


            でも忘れないで…耀くんはもう…オレのものだから…