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「え?」

椎凪があたしの目の前に白い封筒を出す。
「気使わなくていいからな。身体一つで来い。」
「…え?これ…」
椎凪が呆れた顔であたしを見てる。
「結婚式の招待状!要らないなら返せ。」
そう言って招待状に手を伸ばす。
「あっ!ヤダッ!んなわけないじゃん!買ってでも行く!!」
訳のわかんない説明を した。
「何だよ?それ?」
「だからそこまでしてでも行きたいって事!ありがとう。椎凪!
絶対行く!!這ってでも行くっっ!死んでも行くっっ!!」
気合いを込めて返事をした。
「縁起でも無い事言うなよ…彩夏…」
「うれしい!!ついに結婚するんだ。」
「ああ…ホント身内だけの式だから…人数もそんないないから 気軽にな。」
「え?」
「2人共知り合いかぶってるし…親戚なんてお互いいないし…」
「いないって?」
「オレ親いないから…兄弟も親戚もいないし。」
「誰も…いない…の?」
「ああ…オレ孤児だから。」
「え?」
サラリと言われてあたしがちょっとびっくりしちゃった…
「来る気があったら予定空けとけよ。 じゃあな!」
「絶対行くに決まってんじゃん!」
「そう?なんならあの幼なじみの彼氏と来るか?」
「!…何言ってんのよ!あんなのあたしの眼中にないのっ!
あたしの理想の彼氏は椎凪なんだから!椎凪みたいな人探すのっっ!」
「そ?じゃあな。」

そう言って椎凪は手を振って歩いて行った。


「はい。 これ。」
「え?」

俺の目の前に白い封筒が差し出された。
「悪いけど應祢君にも渡してくれる?」
「これって…」
今まで貰った事無いけど… 俺にだってわかる…
「結婚式の…招待状?」
「そう。」
「結婚…するんだ…」
「やっとだよ。長かった…」
目を閉じて浸ってる…確かに苦労してた もんなぁ…
「はは…」
「気使わなくていいからな。應祢君にもそう言っといて。」
「ああ…」

結婚…結婚かぁ…
俺は頭の中で思わず2人の姿を 想像する…
特に耀さんのウエディングドレス姿…きっと綺麗なんだろうな…

「一唏?」
「はっ!!え?」
「どしたの?何かデレッとした顔してたよ?」
「な…な…何でもないよ…!!お…おめでとう!!椎凪さん。」
「ありがと一唏。」

そう言って椎凪さんはニッコリと笑ってた。

何人かに招待状を 手渡しで渡した…残るは最後の難関だ…
何か…何言われるのか何となくわかって…気分と脚が重い…



「何これ?」

テーブルに乗せられた白い 封筒に目をやって慶彦に聞いた。
「何って結婚式の招待状。」
「誰の?」
至って真面目に聞いた。
「はぁ?オレと耀くんのに決まってんだろ。寝ぼけてん のか?」
慶彦がもの凄い不可解な顔で答えた。
「何で?僕許したおぼえ無いけど?」
「もー亨の意見は関係ないんだよ。右京君と慎二君に許して貰ったんだ から!」
何?その呆れた顔…
「…………」
あ…頭きた…慶彦のせいだ…

「僕出ないよ!」

不貞腐れて横を向いた。
「はぁ?」
「誰が出るかっ!!ムカつく!!」
「亨!」
慶彦が慌てた様に僕の名前を呼ぶ…でも今更遅い!イジケてやるっ!!

「大体僕って慶彦の何?」
「は?」

突然亨が変な事を言い出した…招待状を受け取らないのとどんな関係があんだ?

「僕は親代わりじゃないの?なのに僕は関係ない?」

親代わりって… 違うだろ…
お前…オレの事狙ってるだろ…未だに…
超不機嫌な亨を見つめてそう思った。

「そう言えば僕慶彦に『好き』って言って貰った事あったっけ?
何か無い様 な気がする。」
「は?何を今更…」

ホントだよ…会うたんびにハグも挨拶のキスも許してやってんじゃねーか…

「今更じゃない!初めてだよ!言ってよ今 此処で!僕の事どう思ってるか…」
「はぁ…?」

うおー…何その命令的なモノ言いは…疑問符しか出ねーし…睨むな。

「ほら!早く!」
「ぐっ…」
急かされても言えるか…そんなん…
「そりゃ…亨の事は昔から色々世話になってるし…その…」
「そんな事聞いてない!好きかどうか。どうなの?」

くそっ…何だよ…亨の奴…本当なんで今更…そんな目でオレを見るな…

「ああ…そうだ。どうせなら…」
何だ?
「これに撮って!記念にする。」
「 げっっ!! 」

携帯を差し出された!何?それに撮れってか?
永遠に残る証拠押収するつもりか?それをネタにオレに何を要求するつもりだ?
この サド野郎っっ!!

「や…やだよっ!!そんなの…」
速攻拒否だ!当然だろ!
「何で?」
何でだ?んなの決まってんだろっ!!
「そんな恥ずかしい真似 できっか!もーいいっ!!今日は帰る…」
付き合いきれねー…そう思ってイスから立ち上がった。
「…………」
亨は無言でオレを見上げてる…その目線はオレを 睨みつけたままだ…
何か文句あんのか?あるのはこっちだっ!!
「コレは…今日は持って帰る…じゃあな…亨…」
テーブルの上に乗ったままの白い封筒を掴んで 歩き出した。

「 …ちっ!根性なし!! 」

「……ぐっっ!!」

イスに踏ん反りかえりながら亨が溜息と共に吐き捨てた…このヤロー…
とんでもなく最悪な気分で亨の家を後にした…

何だよ…亨の奴…
『僕は慶彦のなに?』
って…昔自分で言ってたじゃねーか… 家族だって…親代わりで兄でもあるって…
そりゃ…恋人にはみれなかったけど…でも…家族として接して来たつもりなんだぞ…
オレの結婚自体許せない 事ってのはわかってるけど…
オレがどうして耀くんなのか…亨だってわかってるクセに…まったく…ゴネやがって…
はーそれにしてもあいつの事だからワザとか?… くそ…


その日の夜…
シャワーを浴びてリビングに戻ると携帯が鳴ってた。
「ん?慶?」
メールだ…しかも画像付き?
開くと慶が俯き加減で自分に 携帯を向けて話し始めた。

『さっきは…悪い…亨はオレにとって大切な…家族だよ…
恋人にはみてやれなくて悪りぃ…お前の気持ちは分かってるのに…でも…』

慶が顔を上げて照れ臭そうに微笑んだ…うわ…可愛い…

『亨の事は…好きだぞ…最初はとんでもない奴だと思ったけど…
いつもオレの事気に掛けてくれてて ありがとな…』

え…?
胸の中が…ホワンとなった…

『家族として亨の事…愛してるよ…』

ええっっ!!!……慶…ってば…慶ってば…

『じゃあこれでいいだろ?これ見たら直ぐに消せよなっ!!
また今度招待状持ってったら素直に受け取れよ!じゃあな。』

ワナワナと身体が震えた… 嬉しくて嬉しくて…
「慶…今…僕の事…愛してるって言ったあ???えーっっ…!!!」
携帯を握りしめて何度も何度も再生して聞き直した!

「僕も愛してるよ!!慶っっ!!!」
携帯に向かって思いっきり叫んだっ!!!

……後日…
亨の所にもう一度招待状を持って行くと待ち構えてた様に捕まった。

「ねーもう一回言ってよ!生で!!慶!!照れなくていいからっ!!」
この変態野郎が携帯で喋った事をもう一度言えと言う…
「誰が言うかっ!!」
「僕も愛してるから!!思いっ切り愛し合おうっ!!慶っ!!」
そう言ってオレに抱きついてくる。
「だ・か・らっ!!家族としてって言っただろーがっ!!
何勘違いしてやがるっ!!亨っ!!
都合の良い様に言葉短縮してんじゃねーっつーの!!うがっ…やめっ!!」
オレの抵抗ももろともせず更に両腕に力を込めて抱きしめられた。
「慶っ♪♪」
ニコニコの顔で迫って来んじゃねーーーーっっ!!!

「やっぱテメーは変態だっ!!」