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「子供が出来た?」
「うん ♪♪ 」

ここは右京君の屋敷の応接間…赤ちゃんが出来た報告に来たんだ。

「……ほう……」
「ふふ ♪♪♪」

オレは最近常にニコニコ…デレデレと顔が綻んだまま戻らない。
右京君はナゼか黙りこくっちゃった…

「右京君?」
まさか喜んで無い…とか?

ス ク ッ !!

右京君がいきなりソファから立ち上がるとスタスタと耀くんの方に歩いて行く。
「おめでとう耀。身体は大丈夫かい?」
「はい…少し気分が悪くなる時がありますけど…大丈夫です。」
「そうかい…あまり無理をしてはいけないよ…今が大事な時なんだからね。」
右京君が心配そうな顔で耀くんを見つめてそっと頬に触れた。
「そして耀に似た可愛い子供を産んでおくれ…耀に似た子をね…フフ…」

右京君め…オレを抹殺したな…

「耀に子供か…」

オレと耀くんに子供だよ!だからオレを抹殺すんなっつーの!!

「僕に孫ができるのか…僕に…」

?…右京君が感慨に耽った様な顔で…もしかしてものすごく喜んでる?

「佐久間っっ!!!」
右京君がいきなり叫んだ。
「はい。右京様。」
「うわっ!!!びっくりしたっっ!!」

何処にいてどっから出て来たんだよ!相変わらず神出鬼没だな…
右京君の所の使用人は!!

「明日から耀が無事出産を迎えるまで車の手配をしろ。
運転手は加賀美で堀田を同行させろ。」
「はい。承知致しました。」
執事の佐久間と言う男が深々と頭を下げて部屋を出ていく。
「ちょっと…右京君!何車って!!」
「明日から毎日耀の出勤には車で送らせる。」
「はぁ?」
なっ…何言ってんだ?
「君は心配ではないのか?
耀とお腹の子供に何かあったらどうするつもりなんだいっっ!!!」
「そりゃそうだけど…」

その事に関してはオレも右京君の事言えないけどさ…でも…

「君だってその方が安心出来ると思うが?」
「そりゃ…」

って納得していいのか?オレ???



「椎凪?」
椎凪がさっきから何となく大人しい…
「嫌ならオレから右京さんに断ろうか?」
「え?…ああ…それはオレとしても安心できて構わないんだけどさ…」
「じゃあどうしたの?」
「いやさ…そうすると耀くんと2人で歩きながら帰れなくなるなぁ…って」
「椎凪…」
「だってさ…結構仕事の帰り耀くんと2人で帰るの楽しみだったんだ…
プラプラ気ままに歩いてさ…初めて発見する事も一杯あったでしょ?」
「そうだね…」
「それが出来なくなっちゃうと思うとさ…ちょっと淋しいなぁ…って」
「椎凪…」
「でもさ耀くんの身体の事考えたら右京君の言う通りだし…
無理して歩いて通わなくてもいいんじゃないかなぁって…
それにあの右京君だからさ…言い出したら聞かないもんな…」
オレは苦笑いだ…奥さんの我が儘な父親だし…
「じゃあ椎凪が迎えに来れる時は2人で歩いて帰ろう…ね?」
「そうだね…でも今は本当に耀くんの身体の事が心配だから車で通って。
オレもその方が安心だしさ。」
「わかった。そうするよ…でもさ椎凪…」
「ん?」
「赤ちゃんが生まれるって…大変なんだね…色々…」
「はは…特に大袈裟なメンバー揃ってるからね…一番冷静なのは
祐輔だよきっと…赤ちゃんの事言ったら 『良かったな。』 だもん…」

そう…オレはオレだし…右京君は右京君だし…
慎二君もああ見えて耀くんに関しては結構心配してたから…


次の日から耀くんは右京君が用意した車で会社に通ってる。
運転手はこの道20年のベテランで一緒に同乗する奴は
キッチリと黒のスーツを着こなした30代前半のナゼか男!
右京君が言うには彼なら安心して耀くんを任せられるって言うんだよな…
ちょっととっつき難くくて…冷めた感じがするんだけどなかなかの
腕の持ち主なんだって…イザと言う時は頼もしいって言ってたけどね…


仕事が終わって帰ろうとした時会社のビルの入り口で呼び止められた。

「望月さ〜〜んっ!!」
「?」
見れば伊吹さんが荷持つを両手に抱えて小走りに走って来るところだった。
「伊吹さん…?」
立ち止まって振り向くと一面視界が黒一色…え?何で??
「あ…」
堀田さんがオレの目の前に立ってるんだ…いつの間に…

「耀様に何か?」

もの凄い冷たい言い方だ…
「…え?…いや…」
伊吹さんが驚いてる…
「あの…知り合いの人だから…」
「そうですか…失礼致しました。」
軽く頭を下げて横にずれた。
オレはちょっと心臓がドキドキ…何か緊張するんだよな…この人…

「あ…望月さんオメデタなんだってね ♪♪ 岡田君から聞いたよっ!!」
「…あ…はい…」
「で!これっ!!」
「は?」
両手一杯の紙袋を見せられた…中を見ると何だ?
「まぁ気が早いんだけど思わず買っちゃって。」
「………」
覗き込むと袋一杯のベビー用品!
「いやぁ…もう自分の妹の事みたいに嬉しくてさぁ。」
そう言ってすごっくニッコリと微笑む…そう言えば妹さんがいるんだった…
「あ…ありがとうございます…」
手を伸ばすと横から堀田さんの手が伸びて代わりに荷持つを受け取ってくれた。
「お預かり致します。」
「あ…すみません…」
なんか…とっても気の利く人…流石右京さんの所の使用人さんだ…
思わず感心…!!

「じゃあ身体大事にネ!!」

しばらく見送ってくれて…オレは車の中から頭を下げた。

マンションに着くと普段はマンションの前で見送る堀田さんが
部屋まで荷持つを運んでくれた。

「ここで宜しいですか?」
リビングの床に2つの紙袋を下ろしながら丁寧にオレに聞く。
「あ…はい…ありがとうございます…あの…」
帰ろうとする堀田さんに声を掛けた。
「何か?」
いつもの…冷静な声だ…
「あの…いつもオレの為にありがとうございます…って言うかいつもすみません…
オレのせいで仕事…増やしちゃって…」
「右京様のご命令ですので…耀様がお心に掛ける事ではありません。
私達は右京様のご命令通りに動いているだけですので…」
何となく…そう言われるのはわかってたけど…
「はあ…でもオレ…お2人には感謝してます!ありがとうございます。」
ペコリと頭を下げた。
「…………確かに右京様のご命令だからですが…私は以前耀様が
右京様の所に治療に来ていた時から存じ上げておりました…
なのでその耀様がお元気になられて…ご結婚されて…お子様がお生まれになる…
私も…とても嬉しく思っております。」
そう言って初めてニッコリと笑ってくれた…
「あ…あっ…ありがとうございますっっ!!」
思わず思いっきり勢い良く頭を下げちゃった。
「いえ…お子様がお生まれになるまで私どもが耀様をお守り致しますので…
穏やかなお心でお過ごし下さい。それが私と加賀美の願いです。」
「はっ…はいっ!!ありがとうございます!!」
「先ほどからお礼ばかりおっしゃる…それにそう何度も頭を下げられては
私も困ってしまいます…」
「あ…ごめんなさい…」
「ではまた明日お迎えに上がりますので…」
「は…はい!!宜しくお願いします!!」

またオレは思いっきり頭を下げてしまった……


「耀くん!」
「椎凪?」

車で通い始めてからしばらくして会社の前で椎凪に呼び止められた。

「え?何で?今日は迎えに来るなんて言ってなかったじゃん?」
「早めに終わったからさ!たまには一緒に車で帰ろうと思って。いいでしょ?」
「どうぞ。」


「流石高級外車…乗り心地が違う。」
椎凪が感心した様に呟いた。
「うん。快適だよ…それに運転もとっても上手だし。」
オレは運転手の加賀美さんを見ながらそう言った。
オレ達は後部座席でしっかりと手を繋いで乗ってる。
「あ!そうだ…ちょっとドライブなんてしてもらえません?」
椎凪が前の席に向かって声を掛けた。
「寄り道ぜずに自宅にお送りする様にと仰せつかっております。」
少しだけ後ろを向いていつもの冷静な顔と声でそう答えた。
「あの…ちょっとだけダメですか?」
ダメもとでオレも聞いてみた。
「耀様のご命令でしたら…では30分ほど車を走らせましょう。」
「あ…ありがとう堀田さん。」
良かった!言ってみるもんだっ!!

「………!!!」
何か…差別を感じるんですけど???流石右京君の使用人か?
ご主人様直伝のイビリかよっ!!けっ!!!

「良かったね椎凪。」
耀くんは何も感じない様子でニッコリとオレに笑いかけた。
「……うん…耀くんとドライブなんてホント久しぶりだ。」
ムカつきはしたけど…耀くんの手前何事も無いフリをした…


しばらく2人で外の流れる景色をボンヤリと眺めてた。

「耀くん…」
「ん?」

「オレさ…親さえもオレの事はいらなかったんだって…
だから何でオレの事なんか産んだんだろうってずっと思ってたから…
今自分の子供がこんなにも皆に大事にされてさ……オレ凄く嬉しいんだ…
ホント…嬉しいし幸せだよ…」

椎凪がオレの手をギュッと握り締めてニッコリと微笑む。

「椎凪…」

…椎凪は生後1ヶ月で施設の前に捨てられてた…
お母さんが直ぐに見付かったのに…育てられないって言われて…
引き取ってもらえなかった…
だから 『オレは2度親に捨てられたんだ…』 って椎凪が前言ってた…

「椎凪…」

オレは車の中ってわかってたけど…
加賀美さんと堀田さんがいるって…わかってたけど…
椎凪にそっと手を伸ばしてオレの方に向かせると…
「ちゅっ…」
って優しく…キスをした…

「愛してる…愛してるよ…椎凪…」

椎凪の首に腕を廻してぎゅっと抱きしめた…

「オレが愛してあげる…オレが椎凪の事…ずっと愛してあげる…」

椎凪を抱きしめながらそう呟いた…



耀くんがオレの腕の中で眠ってる…
赤ちゃんが出来てから耀くんは良く寝る様になった…
さっきまでオレをずっと抱きしめてくれてて…いつの間にか眠ったらしい…
オレは腕の中の耀くんの温もりを感じながら外の流れる景色をずっと眺めてた…

「…何でマンションの方に戻らないの?」

もうすぐ30分は経つ…なのにこの場所はマンションからかなり離れた場所だ…

「もう少し…耀様にはお休みになられて欲しいので…とても気持ち良さそうですから…
きっとあなたの腕の中はとても寝心地がよろしいのでしょう…」

そんな言葉を彼から聞いて…オレはちょっとビックリ…

ああ…でも…何かわかった…なんで右京君が彼を選んだか…
そっか…彼も恋愛感情無しで…耀くんを愛おしいと思ってるんだ…


耀くん…オレは本当に…幸せだよ…
耀くんに会えて…本当に良かったって心から思う…

オレのためだけに存在してくれる…唯1人の人だから…

絶対離さないから…ずっと傍にいるから…

オレの愛を…ぜんぶ耀くんにあげるから…


                 ……愛してるよ…耀くん…




オレは車がマンションに着く間…

静かに眠る耀くんを抱き寄せて…少しだけ力を込めて抱きしめた…