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1ヶ月後の健診も無事に受けてやっと我が家に3人で帰って来た…
しばらくは耀くんも慣れない事が一杯で大変だろうけど
身体の方は何事も無く順調に回復してるらしくて…良かった。

「愛してるよ…葵くん。だからオレの事も愛してね…ちゅっ!」

オレはそう言って葵くんの小さなホッペにキスをする…
「また抱っこしてるの?椎凪…」
お風呂からあがってリビングに入ると椎凪が葵を抱っこしてた。
「だって…可愛いんだもん。」
椎凪は一時も葵の傍から離れない…いつもの事…
オレはそんな椎凪の背中に抱きついた…
「耀くん?」
「……オレ…いつも思うんだ…
もし椎凪に出会わなかったら今頃どうしてるのかなぁって…」
オデコを椎凪の背中に着けながら話続けた…

「きっと…今でもオレは男として生きてるのかなぁって……
お母さんの事を乗り越えられたのも…
女として生きてるのも…結婚して…葵が生まれたのも…
みんな椎凪のおかげだよ…オレ…椎凪に出会えて本当に良かった…
ありがとう…椎凪…」

椎凪に抱きついた腕に力を入れて…椎凪をギュっと抱きしめた…

「…あっ…」
いつの間にか葵をベビーベッドに寝かせた椎凪がオレを抱き上げてソファに運ぶ…
そしてそのまま椎凪の膝の上に抱きかかえられた…

「オレだって同じだよ…もし耀くんに出会えてなかったら…
今でも誰かを捜し続けてると思う… 耀くんに会えて…本当に良かった…
耀くんの事が好きで好きで…この気持ちがずっと止まらないんだ…
こんなに一人の人を好きになるなんて…
こんなに好きな人にめぐり会えるなんて思わなかった…」

椎凪がそう言いながらオレに優しくキスをしてくれる…

「愛してるよ…耀くん…」
「オレもだよ…椎凪…… あのね…」
「ん?」
耀くんがちょっと照れた様な顔をしてオレを見上げる。
「この前健診に行っただろ?それで…その…もう…大丈夫だって…」
「ホント?でも… 耀くん平気なの?」
「うん…大丈夫…あ!でも赤ちゃんはまだダメって言ってた…」
「!…くすっ…顔真っ赤だよ…耀くん。」
「だって…」
「わかったよ。」

オレは久しぶりに耀くんと愛し合う…
耀くんのパジャマのボタンを外して…胸に…顔をうずめて…
仄かにミルクの匂いがする…あ…でも今はあんまり胸は触らない方がいいのか?
そう言えば子供を生んだ女の人…抱くの初めてか?
「…椎凪?」
「…!!…あ…いや…なんでもない…」
ナゼか今まで気にもしなかった事がアレコレと気になりだした…
「…耀くん…」
「ん?」
「…もし身体辛かったら言って…オレちょっと自信ない…」
「え?椎凪が自信ないの?」
オレは椎凪のそんな言葉にビックリで…
そっか…椎凪オレに気を使ってくれて…どうしていいかわかんないんだ…
「くすっ…」
「あ!何?耀くん?何で笑うの?」
椎凪がちょっと心外とでも言いたそうな顔でオレを覗き込む。
「大丈夫だよ椎凪…優しく抱いてくれれば…」
「そうかな…」
「そうだよ…」
「じゃあそうする♪♪」

椎凪がそっと優しく舌を絡ませるキスをしてくれる…
右京さんの所にいた時は椎凪も何だか落ち着かない様子で
こんな風に落ち着いてキスなんてしなかった気がする…
「椎凪…」
「耀くん…」

でも…育児中は色々大変…そんな思う様にはいきませんから…

「…ホギャ………ホギャア…」

「 ビクンっ!!なにっ?葵くんが泣いたっっ!!えっ??オムツ?ミルク? 」
オレは勢い良く身体を起こした。
「……いてててててて…泣き声で…胸…張ってきちゃった…」
耀くんは胸を押さえてうずくまってる…
「え?大丈夫??耀くん?」

新米パパとママの夜は慌しく更けていく…


「じゃあ行って来るね。」
「うん。いってらしゃい。」

『いってらっしゃい』 と 『いってきます』 のキスをして椎凪を見送った。

リビングのベービーベッドに葵がいる…オレはじっと大人しくしてる葵を見つめた。
今日から初めて葵と2人っきり…
今までは右京さんや雪乃さんやお屋敷の人なんかがいつも一緒にいてくれたし…
夜は椎凪がいつも一緒だった…だからちょっと不安…
でも…もう1ヶ月も経ってるんだもん…オレ1人でも大丈夫!!

…のはず…

どうしよう…抱いててあげた方がいいのかな?
でもグズグズしてないし…大人しいからいいんだよね?
椎凪や右京さんは自然に葵の相手して…抱っこして…すごく慣れてて…オレは…

ってダメダメ!そんな弱気じゃっ!!

ミルクだってオムツだって分かってきたし…(今頃ですか?)
大丈夫だもん!!オレお母さんだもんっ!!

「ふぇ…」

「 びくんっ!!え?何??」
「 ほぎゃぁぁぁぁ… 」
いきなり葵が泣き出した!!なに?オムツ?ミルク??



「耀く〜〜ん ♪♪ 葵く〜〜ん ♪♪」

オレは玄関を軽やかに上がってリビングに向かう。
まだ太陽は頭上に照り輝いてるけど2人の様子を見に
仕事中だったけど家に帰って来たんだ。

2人に会いたかったのは本当だったけど…1番は耀くんの事が気になったから。
初めて葵くんと2人っきりで家事全般大の苦手な耀くんが1人で大丈夫か心配だったし…
朝もあんな不安げな顔でオレを送り出したから…
気にならずにはいられなかった。

「 様子見に帰って来ちゃったぁ ♪♪ 」

そう言いながらリビングのドアを開けると…
耀くんが葵くんを抱っこして部屋の真ん中で座ってた…

瞳に一杯涙を溜めて…

「どっ…どうしたの?耀くん??何かあったの??」
「…ひっく…椎…凪…ぐずっ…」
「なに?耀くん具合悪いの?それとも葵くん?」
「ちが…ちがう…葵…は…どこも…悪く…ない…」
「え?じゃあどうしたの?」
未だに泣き続けてる耀くんから眠ってる葵くんを抱き上げてベビーベッドに寝かせた。
確かに葵くんには何もないみたいだ…でも葵くんも泣きはらした様に涙が頬を伝ってた…

「どうしたの?」
床の上に座り込んでる耀くんの隣に座って話しかけた。
「…葵が…泣いて…ミルクも…オムツも取り替えたのに…ずっと泣いてるの…
だから…オレ…抱っこしてあげたのに…全然泣き止んでくれなくて…」
「それでずっと抱っこしてたの?」
「うん…だってベッドに寝せるともっと激しく泣くし…抱っこしてあげてもダメで…
オレどうしていいか…わかんなくて…うっ…ひっく…」
また耀くんが泣き出した。
「オレ…ダメな…お母さんだ…抱っこすらまともにしてあげられない…」
「耀くん…」
「オレじゃダメなんだ…葵もわかってて泣き止まないんだ…うー…」
「耀くん…」
オレは耀くんを抱き寄せてぎゅっと両腕に力を込めた。
「そんな事無いよ…今までちゃんと出来てたじゃない?
ちゃんとお母さんやってたよ…耀くんは…」
「…ううん…」
オレの腕の中で耀くんがフルフルと首を振る。
「オレじゃない…椎凪や…右京さんだもん…」
「赤ちゃんってさ結構敏感で周りの雰囲気をちゃんと感じ取るんだよ…」
「…え?」
「だから…きっと耀くんの不安な気持ち…葵くんが感じ取ったんじゃないかな…」
「……椎…凪…」
「だって朝から緊張してたでしょ?大丈夫かなぁ…って顔に書いてあったよ。くすっ」
「え?…うそ…」
思わず顔に手を当てた…書いてあるはず無いのに…
「耀くんはさ…オレの不安を無くしてくれるんだよ…だから葵くんの不安だって無くせるよ。」
「椎凪…」
「オレを抱きしめてくれる時みたいに葵くんの事抱っこしてあげてみて…
きっとあっという間に泣き止むよ。それにホッペにちゅってしてあげれば
きっと笑ってくれるよ。」
「……本当…?」
耀くんが不思議そうな顔でオレを見上げながら自信なさげに聞いてくる。
「本当!だから…もう泣かないで…」
耀くんをオレの身体でスッポリと包み込んだ。
「椎凪…」

椎凪がオレを自分の身体で包み込んでくれた…
オレの大好きな椎凪の大きくて暖かい胸が目の前にある…
そう言えば…こんな感覚久しぶりだ…

オレは椎凪の胸に頬ずりをした…
しばらく忘れてた感触…すごく…気持ちがいい…

「耀くん…ちゅっ…」
「…んっ…しい…な…あ…んっ…」

椎凪が深い深いキスを繰り返す…オレは頭の中が真っ白…
今までの不安な気持ちがどこかに行っちゃった…
そのままリビングの床に優しく押し倒された…首筋に椎凪の唇が触れる…

「あ…椎凪…だめ…仕事…中でしょ?…んっ…」
「わかってる…ちょっとだけ…抱いたりしないから…我慢するから…」
「…あっ…んあ…」

そう言いながら椎凪はあっと言う間にオレを裸にして…しっかりと抱いていった…



それから少しして…葵が目を覚ました…
ミルクもオムツもやったのにやっぱり泣き止まなくて…
でも椎凪が言ってくれた通り葵を椎凪を抱きしめるのと同じ様に
優しく抱きしめたら…泣き止んでくれて…大人しくなった…

「さっきは…ごめんね…葵…」

そう言って葵の小さな頬にちゅっ!って優しくキスをした。
葵は笑ってはくれなかったけどキョトンとした顔が何となく
椎凪がオレにキスされた時の顔に似てて…すごく嬉しい気持ちになった。


その日は椎凪がオレの事を気にして早めに帰って来てくれた。



オレは帰って来た椎凪に飛びついて……
しばらくの間椎凪にぎゅう!っと抱きしめてもらった。