15





 「はあ…」

 小さく溜息をついた。
 大学の教室…祐輔は今日は休み…
 だから一人で講義を受けてるんだけど…
 やっぱり一人って緊張する…オレって何でそうなんだろ…
 そんな事を思ってたら…

 「 がたっ 」

 隣の席に誰かが座る音がした。
 「 !! 」
 うわー…誰?やだなー…
 こんなに席空いてるのに何でオレの隣?
 そろりと隣を見ると…

 「はーい!ご機嫌よう。耀くん! 」
 「 …って?椎凪!?  」

 大声で叫んで思わず自分で自分の口を押さえた。
 周りの人が不思議そうにオレの方を見たから…
 「何してんの?こんな所でっ!!」
 オレは小さな声で…でも言葉に力を込めて椎凪に話しかけた。
 「えー暇だったし耀くんに会いたかったから。」
 アッサリと言ったな…確かに今日休みって言ってたけどさ…
 「もー出て行く時間無いじゃん…
 いい?大人しくしててよ!わかった?」
 「うん。分かってるよ。」
 両肘をついてニッコリと笑う椎凪…怪しい…

 ビクン! 

 腰の辺りを触られた感触がして身体が弾けた!
 「ちょ…椎凪!!」
 椎凪がオレの腰に手を廻してもう片方の手は
 オレの手を握ってる…
 「しっ!静かに!耀くん。」
 耳元に椎凪が口を近付けてオレに囁く。
 「何言って…放して!!…皆に気付かれる…から…やめ…」
 「うん。だから耀くんは前向いてて。」
 そう言いながらもオレの首筋に口を近付ける…
 「もー椎凪がやめてよ!!」
 「 やだよ。」
 言葉通りオレの手を撫で続けてる…
 「 椎凪ぁ… 」
 「今なら抵抗出来ないでしょ? くすっ 」

 オレにベッタリとくっ付いて腰に廻した手はさっきから
 オレの身体を触りまくってるし…頭はスリスリしてくるし…

 「これじゃ…講義も聞けないじゃないかっ!!」
 「なんで?聞けるでしょ?」
 ニッコリ笑って平然と言う。
 「そんなに感じる?」
 腰に廻してた手を腿に伸ばして触りながらオレに聞く…
 「 ば…か…!ちがう… 」

 オレは講義の間中…椎凪に攻められ続け…
 必死にそれに耐えていた… 


 外のベンチで…オレはテーブルにぐったりと うつ伏せていた…
 「もー…椎凪は…」
 「ダメだなぁ…耀くんは修行が足りないな!」
 笑いながら椎凪が言った。
 「……」
 オレは何も言い返せない…
 「はい。お弁当作ってきたよ。」
 「 なっ… 」

 オレは言葉を失った…お弁当と言って出されたソレは…
 3段のお重にタップリと料理の入ったお弁当だったから…
 オレは今までの疲れは何処へやら…

 「うわーーー椎凪ありがとー!!
 わーーうれしいーー。 美味しそうーーー。」

 そんなオレを見て椎凪がニッコリと 笑って「 オレ幸せ。 」
 って言った。

 いつもの如くお弁当を完食した。
 日差しがポカポカ…暖かくって…気持ちいい風まで吹いてる…

 「うー…眠い…」
 「くすっ…もー耀くんは…」
 お弁当の重箱をしまいながら椎凪が笑う。
 「お腹空いたらたくさん食べて食べたらすぐ眠くなるなんて
 本当子供だね。」
 「だって…」
 拗ねてる耀くんも可愛い。
 「何時に起こせばいい?」
 「え?」
 椎凪がオレの隣に座って肩を抱き寄せた。
 「寝ていいよ。オレ起こしてあげる。」
 「え?あ…いいよ…そんな…」
 照れる…
 「いいから!気持ちいいよきっと。今日天気も良いしさ。」
 「………」
 そんな事…言ったって…


 「 オレ幸せ。」

 結局耀くんはオレの肩に寄りかかって寝た…
 可愛い寝顔…可愛い寝息…
 そんな耀くんの顔をそっと持ち上げて優しくキスをした。
 「耀くん寝ると滅多に起きないからなキスし放題。ちゅっ!」
 オレはズルいんだ…起きないのを良い事に…
 オレは耀くんの唇を奪ってる…


 −−−−くん…     耀ーーーーー   耀…起きろ…

 あ…祐輔が…呼んでる…
 「ん…祐輔…?」
 眠たい目を擦りながら耀くんがそう言った…
 「 !! 」
 「あ…ちがう…椎凪だ…
 ごめん…間違えちゃった…ありがとう椎凪。」
 「……よ…耀くん…?」
 「ん?」
 「祐輔とも…いつもこんな風にしてるの?」
 「え?」
 椎凪が改まって聞いて来た…
 「…うん。いつもしてるよ。
 祐輔の肩寝心地抜群なんだよ。 昔からそうだから。」
 「寝心地…抜群?昔から…?」
 オレはショックを受けた…オレよりも寝心地がいいのか?
 でも…怖くて聞けない…そう…なんて言われたら…
 「?どうしたの?椎凪?」
 オレはそうとう凹んでたらしい…
 耀くんが不思議そうにオレを覗き込む。
 「いや…何でも…気に…しないで…はは…」



 「え?祐輔?祐輔とは高一の時に知り合って…
 それからすぐウチに泊まる様になって…」

 夕飯の後コーヒーを飲みながら耀くんに聞いた。
 昼間の事が気になってたから…

 「泊まる?え?何で?」
 「ああ…祐輔ほとんど家に帰ってなかったから…
 オレの所に泊まるか女の人の所かって感じ…
 時々は家に帰ってたみたいだけどね。」
 「そ…そうなんだ…」
 「2人で料理ダメだったから悲惨だったよ食事…
 まぁ祐輔はパンとコーヒーさえあれば良かった からいいけど…
 オレは大変だったなぁ…」
 「泊まったって…まさか耀くんの部屋?」
 「まさか!椎凪が今使ってる部屋に泊まってたんだよ。」
 「え?オレの部屋に?」
 「あのマンションに引っ越してからはあんまり
 泊まりに来なくなったけどね。」
 「あ…あのさ…耀くんは祐輔の所に泊まった事あるの?」
 「何回かあるよ。」
 「あそこベッド一つでしょ?まさか…」
 「うん。一緒に寝たよ。」
 「えっ!!」
 「ウチに泊まった時も時々一緒に寝てたよ。
 二人で話し込んじゃったり昼寝したり…」
 「………」

 うそ…一緒に…?昼寝…?

 「オレどうしても一人で寝れなくなっちゃう時あるからさ…」
 「耀くんの部屋で?」
 「ううん…祐輔はオレの部屋にはあんまり来なかったな。
 オレが祐輔の所に行って寝てたかな?」
 「じゃ…じゃあさ。オレの所に来て 寝てもいいって事?」
 オレはウキウキしながら聞いた。
 「え?」
 「だってそうでしょ?オレの所で話し込んで寝ちゃったって…
 どうしても一人で寝れない 時とかオレの所来てくれて
 いいからさ!」
 「えっ?そっ…それは無理だよ…」
 耀くんが困った顔をした。
 「えっ!?なんで??」

 「だ…だって…祐輔と椎凪は…ちがうもん…」

 が ん っ !!

 「ど…どう違う…の?」
 だっ…ダメだ…眩暈が…
 「え?あ…祐輔は…オレ達は家族みたいなんだ。」
 「家族?」
 「そう。オレと祐輔は仲のいい兄弟みたいなものなんだ…
 普通の友達とかじゃなくて…
 高二の時祐輔の家族が亡くなった時本当にそう思ったし
 オレが唯一の家族だと思った…
 本当のお祖父さんいるけど…さ…」
 「亡くなったって?全員?」
 「うん…車の事故でね。本当の身内はお祖父さんだけ…
 だからオレ祐輔に『お前はオレの家族だ』って言われた時は
 嬉しかったなぁ」

 そう言って優しく笑う耀くん…

 ズーーーーーン…

 オレは自分の部屋のベッドの中で落ち込んでいた…
 ……祐輔か…オレは別に家族になりたいわけじゃない…
 兄弟になりたいわけでもない…

 オレは…恋人になりたいんだ…だけど…

 『ーーーー祐輔と椎凪はちがうからーーーー』

 …か…はーショック…
  それにこのベッドで祐輔と耀くん寝てたんだ……くそ…


オレは…何とも煮え切らない思いが胸の中に残っていた…