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「……痛い…」

椎凪が朝からずっと左の頬を擦りながら舌で口の中を弄ってる…
「口の中まで切れた…痛い…」
まったく…ブツブツとホント煩い…オレの せいだって言いたいのか?
「椎凪が悪いんだろっ!!厭らしい事しようとするからじゃん!!」
「オレは一緒に入ろうとしただけじゃん!!恥ずかしがったの耀くん だもん!」
「普通嫌がるだろっ!!」
「もうオレ達は普通じゃないの!何度言ったら判るんだか…あー痛い!」
「普通じゃ無いって何?変な事言わないでよっ!!」
「恋人同士に決まってるでしょ?鈍いなぁ…相変わらず。」
「だ・れ・と・だ・れ・が・恋人同士だって?……椎凪?」
椎凪が返事もせずに嫌味ったらしくまたモゴモゴ と舌で口の中を弄ってる…イジケモードか…まったく…
「見せてよっ!!」
「いでででで……ようふん…いらい…」
ムカついて思いっきり口の端に指を入れて 引っ張ってやった。
「ちょっと赤くなってるだけじゃん!大袈裟だな!」
「切れてんの!!それに頬っぺたも痛い!」
オレから顔を逸らして不貞腐れてる…確かに 頬が赤くなってる…思いっきり引っ叩いちゃったからな…
「はぁ…」
思わず溜息をついちゃった…しょうがないなぁ…放っとくと1日中こんな感じだろうし…

「痛いの痛いの飛んでけ…ちゅっ」
「……へ?…」

そう言って不意打ちで…痛いと訴える左の頬にちょっとキツめに唇を押し付けてキスをしてあげた。
「治った?」
心配そうな顔も一緒に付け足す…多分これで機嫌も直るはず。
「………うん…治っ…た…」
椎凪が上の空で返事をした…ほら…思った通り。
「早く行こう!色々見て廻るんだろ?」
「…うん…」

椎凪が左の頬を手で押さえながら未だに上の空で返事をした。
オレに思いっきり舌を絡ませるキスする くせにただ頬にキスしただけでどうしてここまで呆けてしまうのか…
不思議でしょうがない…

「わぁ…色んな物がある。」

観光名所の近くのお土産屋さん。
この辺一体が昔の建物で作られててなかなか古風で感じがいい。紅葉の季節ともあって結構な観光客が
いて賑わってる。その中の1軒のお店に目が留まって覘いて行く事に したんだけど…
「ねぇ椎凪。これ…」
振り向くと椎凪が店の入り口で知らない女の人2人と楽しそうに話してた…誰?
「じゃあね。」
「どうも。」
そう挨拶を交わして嬉しそうに笑いながら2人が歩いて行った。
そんな光景を思わずジッと見つめてしまった…
「  !  」
椎凪がオレの視線に気付いた。
「モテるね…椎凪!」
何だか言葉に棘が出た…何でだ?
「え?道聞かれただけだよ。」
「ふーん…」
「 ?…耀くん? 」

それからも椎凪は色々な 人に話し掛けられてた…行く先々のお店の人…観光の人…
外国人の観光客にも話し掛けられてた…もー…人懐っこい笑顔振り撒くから…

オレは何だか落ち着かなくて… 胸の真ん中がモヤモヤしだして…
椎凪といると時々こんな風になる…変なの…

「どうしたの?耀くん。疲れちゃった?」
そんなオレに気が付いて椎凪が声を掛けて 来た。
「別にっ!!」
ソッポを向きながら返事をした。
「ヤキモチ妬いちゃった?」
「妬かないよっ!妬くわけないだろっ!!何言ってんの?椎凪はっ!!」
ホント…何でオレが…もうお土産どころじゃ無くなっちゃた…椎凪のせいだ…

あれ?耀くん怒っちゃったのかな?やり過ぎたか?
オレは時々他の娘に興味がある 振りをする。
耀くんに自分の気持ちを気付いてもらう為だ…本当はオレの事が好きだって言う気持ちに。
耀くんは気付かなくて認めないけどしっかりとヤキモキを妬い てくれる。
まぁそれがなんとも可愛くて…判ってない所が余計に可愛い。
だからオレがどんなに耀くんの事が好きか教えてあげる。
たくさん抱きしめてキスして… 『好き』と『愛してる』をたくさん囁いて…
オレを拒みながらそれでも照れてホッとしてる耀くんの顔を見るのがオレは何よりも嬉しくて楽しくて…
もう何度も そうやって地道な努力を続けてる。
だけどもうそろそろ耀くんとスキンシップを取らないとヤバイかな…?なんて思い始めた。
思いの外早足で耀くんがオレの前を歩き 始めたから。

「 ! 」
歩くのを早めようとした時誰かにズボンを引っ張られた。
「は?」
見下ろすと…4・5歳の女の子がオレの脚にしがみ付いていた。
「何?なんなの?」
一瞬の隙に耀くんが人混みに紛れた…ヤベッ!見失う…って…
「ちょっと…お譲ちゃん…」
しがみ付いてるお子ちゃまを振り払うわけにもいかず 抱き上げた時には耀くんを見失ってた…

「…げー…マジかよ…」
刑事のプライドがガラガラと崩れ落ちた…しかもよりにもよって耀くんを見失うなんて…一生の不覚!
「お前のせいだぞ…」
抱き上げたガキンチョをチョットだけ睨んで溜息をついた。
取り合えず耀くんはオレがいないのに気付けばその場で待っててくれるだろう…
もしかしてオレを探しに来るかもしれないから一応携帯に連絡入れとく事にした。
「……あれ?出ない?何で?気付かないのか?…まさか…怒っててワザと出ないとか? 嘘だろ?」
暫くコールしたけど出る気配が無いから諦めてさし当たってやらなければならない事をする事にした。
「迷子かよ…ったく…親何処だよ?クソッ!」
オレは辺りを見回したけどそれらしき親はいない…交番なんか絶対行かねーぞ!そんな時間あっか!
今すぐにでも耀くんを追い駆けなきゃなんねーのに…に!してもこのガキ 随分大人しいな…
泣くわけでもなく…親を探すわけでもなく…
「 ニコッ 」
「は?」
オレに向かってニッコリと笑いやがった…何なんだ?コイツは?
「んーーー」
「げっ!ちょっと…なんだ?」
最近のガキはわかんねーっ!!いきなりオレにキスを迫ってきたぞ?
何なんだ?このエロガキはっ!!??
「ちょっ… 落ち着け…その歳でそんな積極的な女になるもんじゃないぞ…
オレの相手するには20年早い…ってか20年後でも相手にしないけど!ってオレ何言ってんだか???」
とにかく早くコイツを何とかしなくちゃ…気ばっかり焦って何も先に進んでねー…
こうなったらこのガキ連れて耀くんを優先するか…そんな事を考えてたら名前を叫んでる声がした。
「智恵理!!」
「ママ!!」
「ママ?」
やった…良かった…親がいたよ…
「あんたが親?はい!しっかり見ててよね。」
「すいません…ちょっと目を離した 隙に…」
20代の若い女だった…今時の女…どんな躾してるんだか聞いてやりたかったがそんな時間も惜しくて
サッサとガキを渡そうとした。
「 !? 」
そのまま身体がガキと一緒に引っ張られる?
「いやぁ!!」
今まで泣きもしなかったガキが急にぐずり出した…しかもオレの上着を掴んだまま。
「こらっ! 離しなさい!!智恵理!!」
「………」
母親が怒りながらガキを引っ張ったが何処にそんな力があるのかオレの服を
ギュッと掴んだまま離さない。
「やぁ!!」
「智恵理!!」
「………」
さっきから何度もそんなやり取りが続く…オレは母親が引っ張る度に身体がグラグラと揺れた…
いい加減にしてくれ…
「ああ…ちょっと…」
ウンザリ気味に2人を止めた。
「ごめんなさい…この子カッコいい男人見付けると離さなくて…」
バツの悪そうな態度で母親が手を引っ込めた。
「そりゃどうも。」
一応オレはいい男と見なされてるらしいからお礼だけ言っといた。
「お譲ちゃん…」
オレはしがみ付いてるガキンチョの小さな顎を指で持ち上げて見つめ合った。

「悪いけどオレ急いでんだ…だからこの手離してくれる?お願い。」

笑顔でお願いした…もちろん表向きの作り笑顔。
「………」
見つめられたガキンチョの 顔がホワンと赤くなった。(推定)4歳のガキにも通じたらしい…良かった。
そのまま母親に渡した…母親もホワンとした顔してオレを見つめたまま子供を受け取った。
「じゃあもう迷子になるなよ。」
そう言ってその場から立ち去ろうとした時今度は腕を掴まれた。
「は?」
今度は何だ?
「あの…一緒に写メ撮って貰えませんか?」

「椎凪?」
思わず足早に歩いて振り向いたら椎凪がいなかった…
人がたくさんいて…逸れちゃったんだ…でも…椎凪ならすぐ来るよ…ね…

5分待っても椎凪は オレの所には来なかった…
どうしたんだろ?あ!携帯……って…無い!?え?何で?
ポケットの何処にも携帯は無かった…あっ!そうだ…電池の残りが少ないからって 朝充電して
そのまま置いて来ちゃったんだ…どうしよう…

椎凪が来る気配も無くって…携帯が無くて連絡も取れなくて…
知らない場所で…こんなに人がたくさん いて…
急に不安になった…どうしよう…椎凪を探しに行こうか…来た道を引き返せば椎凪と会えるかも…
オレは周りをキョロキョロと見ながらもと来た道を引き返した。

「何処で曲がったんだっけ?」
何だかムッとしてあんまり考えずに歩いてたから道が良く分からない…
あんまり動かない方がいいのかな?

不安で心臓がドキドキしてる… 椎凪が一緒だと何も不安なんて無いのに…
一人になった途端こんなになるなんて…どうしてだろ?
「椎凪…何処…?」
しばらく歩くとさっき寄ったお店が見えた。
「あ…あそこ見覚えある…!?え?椎凪?」
後ろ姿だけど椎凪だ!良かった…やっと会え…近付いたら椎凪か誰かと話してた…
知らない…女の人…しかも子供まで 椎凪が抱っこしてる…何で?

「悪いけど急いでるから!」
思いの外笑顔が効き過ぎたみたいで余計な手間が増えた。
耀くんに追い付くか?振り返って歩き出す と耀くんが立ってた。
「耀くん!」
「…………」
「良かった。はぐれたのかと思ったよ。」
「はぐれたよ。」
「…耀くん?」

何だ?耀くんの様子 が何か変だ…

「はぐれて…不安で椎凪の事捜してたのに…
椎凪はオレなんかより女の人と話してる方が良かったんだろ?」
「はぁ?何言ってるの?耀くん?」
「もういいっ!!」
そのまま耀くんは俯いて喋らなくなった。
「耀くん誤解だって。今のは迷子の子供の母親で…オレが迷子の子供連れてたから…それで…」
「あんなにニッコリ微笑んで?」
「え?」
ちょっと…どっから見られてたんだ?って聞ける状況じゃねーし…
「………」

まいったな…耀くんは何を言っても 聞いてくれそうになかった。