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「あ!耀くん。」
椎凪の呼ぶ声がした。
お互い仕事と大学の帰り道…
いつもの様に待ち合わせをして一緒に帰る。
「椎…凪…」
最近ちょっとドッキとするん だ…
「ごめんね。待った?」
「ううん…髪…伸びたね。」
「え?ああ…慎二君がねもう少し伸ばしてって言うから…まだ切れないね…
さすがに署では目立つから 縛ろうかな…」
椎凪は今髪の毛を伸ばしている。
慎二さんに『TAKERU』のモデルの仕事を頼まれているからだ…
もう大分伸びて肩まである…だから… いつもの椎凪と感じが違う…

さっきから通行人が…特に女の人が振り返っていく…
そーだよな…椎凪背高いから目立つし…カッコいいもんな…
本人は全然 そんなの気にしてない様子…
数人の女の子の集団がオレの近くにいて…会話が聞こえてくる…
『ねぇあの子彼女?』
『そうじゃない。』
「耀くんどこ行く?」
「あ…えっと…」
『“くん”だってっ!男の子なんだっ!それもビックリ!!』
『じゃあ恋人じゃないって事だよね?男の子が相手って事ナイでしょ?クスクス』

聞きたくなくても耳に入ってきた…椎凪には聞こえてないみたいだ…
「?…どうしたの?耀くん?」
「………今日はやめる…オレ…気分悪くなちゃった…」
「えっ?ホント?」
心配そうに椎凪が聞き返す。
「オレ帰る…椎凪…悪いけど本屋に本届いてるから引取りに行ってくれる?」
「うん…いいけど…一人で大丈…」
「平気っ!!」
椎凪の言葉の途中で叫んだ。
「あ…ごめん…頼むね…オレ平気だから…」
「………」
椎凪が不思議そうにオレを見送っているのが分かる…
オレはそんな椎凪を振り返らずに一人で家に帰った…

本屋から直行で家に帰った。
耀くんの様子がおかしかったから心配だった…
「ただいま耀くん。本取って来たよ。 大丈夫?」
耀くんは珍しく自分の部屋にいた…しかもベッドに横になっている。
オレの方を向いてもくれない…
「ありがとう…そこ置いといて…」
「…つらいの?」
一歩耀くんの部屋に踏み込んだ…
「来ないでっ!!」
そのまま凍りついた…なに?
「入って…来ないで…一人にさせて…」
オレに背を向けたまま言われた…
「…耀…くん?」
心臓がバクバク言ってる…何で?ホントどうしたの?
いてもたってもいられず耀くん目掛けてベッドに ジャンプした。
「 耀くんっっ! 」
「うわっ!!ちょっと…」
見事耀くんの上にダイブした。耀くんがビックリしてオレの方に振り返る。
「何怒ってるの? オレ何かした?」
心配で…不安で…聞いた…こんな事付き合い始めて初めてだったから。
「!?」
泣いてる…?耀くん…泣いてた…の?
「耀くん…?何で?」
「!」
耀くんが慌ててオレから顔を背けた。
「何で泣いてるの?本当オレ何かした?」
焦る!心臓が更にバクバク言い出して破裂しそうだ。
「ち…がう…椎凪の… せいじゃない…」
泣きながら搾り出すように話す耀くん…ホントどうしたの?
「オレが…悪い…オレが…しっかりしてないから…」
「え?どーゆー事?耀くん?」
「うー…」
涙を必死に堪える耀くんがオレに詰め寄り言った。
「やっぱり椎凪は…普通の…ちゃんとした女の子と付き合った方がいいよっ!!」
「えっ?」
「オレみたいな男なんかより…普通の人と付き合った方がいいんだ!!」
「え…?な…んで…?何で急にそんな事言うの…?」
え?何これ?
「オレの事嫌いに… なったの?」
うそだ…
「ちがう…」
耀くん…
「他に…好きな人…できた…の?」
なに…?
「ちがう!」
何言ってるの?オレと別れたいって事? だめだ…そんな事怖くて…聞けない…
「やだよ…オレ…耀くんじゃなきゃ…やだ…他の人なんて…考えられない…」
オレから離れるの…?耀くん?オレを…一人にするの?
そんな事したらオレ…生きていけない…
「だって…椎凪髪の毛伸ばしたらすごくカッコよくなっちゃて…周りの女の人みんな椎凪の事…見てたし…
オレが男って判ったら… 絶対恋人のはずないって…ホッとされた…」
─ はい?
「だから…本当の女の人と付き合った方がいいんだ…」
え?耀くん…もしかして周りに女の子に…ヤキモチ 妬いた…の?
「うー…」
ふてくされた顔して横を向いてる耀くん…その顔もまた可愛いけど…
耀くん…自分でも分かってないみたい…なんだ…あせった…寿命… 縮んだよ…

突然、椎凪がオレの顎を持ち上げて自分の正面に向かせた。
「やだっ!しないっっ!!」 
顔を背けてイジケてた…
「なんで?」
そんな オレを見て椎凪が笑いながらオレに聞く…
「今はやだっ!それに本当に気分が悪いんだ…」
それは本当だった…
「オレとキスするのイヤ?耀くん?」
「だから…今はイヤだって言ってるだろ…」
「オレとキスするのイヤ?」
もう一回聞いて来た椎凪にオレは仕方なく軽いキスをした。
椎凪は優しく笑ってた…
「どこが気分悪いの?」
「ここ…ムカムカする…」
そう言って胸の真ん中辺を手で指した。
「オレ治し方知ってるよ。」
そう言ってオレの顔を両手で挟んで 強引にオレにキスをしてきた…
「んーーーーー」
もー椎凪…何で…こんな…思いっきり舌を絡ませるの…
感じやすいオレは椎凪の深くて長いキスに息が 弾んで…力が…抜けちゃう…
「あ…椎凪…んっ…」
恥ずかしい声まで漏れるし…

「治ったでしょ?」
長い間キスをしてた椎凪が手を離さずにニッコリ笑う。
「……うん…」
ワザと不貞腐れた返事をした…
「もー耀くん…オレ死んじゃう所だった…」
オレを抱きしめながら頬ずりして椎凪が泣きそうに話す…
「だって…本当に…ものすごく気分が悪くなったんだ…」
「耀くんはオレを…たった一言で殺す事が出来るんだよ…」
まじめな顔で椎凪がオレに話しかける…
「え?何それ?」
やっと耀くんがオレに感心を持ってくれた…
「別れようって…言われたらオレ…死ぬしかないんだ…」
椎凪がうっすら涙を浮かべてオレを 見つめて喋らなくなった…
そんな椎凪をじっと見つめ返してオレは言った。
「そんな事…オレ言うわけ無いじゃんっ!!もー何言ってんの?椎凪!!」
そう言っ て椎凪の顔を両手で挟んでオレに向かせる。
それから今までの自分を棚に上げて椎凪にメッって顔をした。
「うん…そーだよね…」
そう言った椎凪は嬉しそうに 笑ってそして小さな声で
「よかった…」
って呟いてた…


次の日椎凪との待ち合わせ場所…メールを見て驚いた。
だってそこは今流行りのカフェ レストランで女性に人気のお店だったからだ。
一体どーゆーつもりなんだろう…
時間通りにそこに行くと思った通りお店の中は女の人だらけ…
椎凪はもう来てて お店の中央にしっかり座っていた。
男の人なんて椎凪だけだし…しかも何気に目立ってるよーっっ!!なんでー??
周りの女の人達も椎凪の事見てる…オレ…行けないよー…
って言うか 行く勇気がないよーっ…でも…椎凪鋭いから…
「耀くん!」
…案の定椎凪がオレに気が付いて店中に響き渡る声でオレを呼んだ。
「 !? 」
うっ!!!なんでそんな 大きな声で…みんなオレに注目じゃん…ハズかしー…
椎凪の所に向かう間も周りの声が聞こえる…
『恋人?』
『えっ!?だって男の子でしょ?』
『えーっ! うそ!そう言う趣味?』
『男の子だから友達でしょ?』
ほら…また胸の辺りがムカムカしてきた…気分が悪い…
椎凪は何事も無いかの様にニコニコしている。
「 昨日はデート潰れちゃったから今日は何処に行く?耀くん。 」
「 えっ!? 」
お店中が一瞬ざわめく…なんで?何でそんな大きな声で…
どうしていいか 分からずその場に立ち続けるオレの耳にまた聞こえる…
『ちょっと…男と出来てんの?』
『なんかショックなんですけど…』
椎凪にも聞こえてるはず…
ガ タ ッ !!
椎凪がいきなり席を立ったかと思うとオレに近付いて…皆が見てる目の前で…
オレにそっとキスをした…
「……椎凪……」
オレは何が何だか判らず… 椎凪を見つめて立ち尽くしていた…
店中が静まり返ってる…BGMの音しか聞えない…
「取り合えずその辺歩こうか。」
椎凪がオレの手を引いてサッサと歩き出す。
お店にいる人なんて全然お構いなしだ…
逆に周りの人たちの方が出口に向かうオレ達をずっと目で追っている…

…手を引かれながらいつも思う…そう… いつもそうだ…
椎凪はいつでも…どこでも…誰の前でも…オレの事を『耀くん』って呼んでくれる…
男のオレと付き合ってるって誰の前でも言ってくれる…オレの事… 好きって…いつでも言ってくれるんだ…
椎凪が歩きながらオレに笑いかける…ありがとう…椎凪…
「昨日は…ゴメンネ…椎凪…オレ…」
「いいんだよ耀くん。 オレの事好きって事だもん。」
そう言ってオレを抱き寄せてくれた。

「オレが好きなのは耀くんだけだから…オレ耀くんの愛しかいらないから…
他の人 なんて求めないから安心して」
そう言って公衆の面前でまたオレにキスをする。
「オレ…耀くんのためなら何だってするよ…」

満面の笑顔で言ってくれた けど

       …だから…こんな公衆の真っ只中でのキスは… まだ慣れてないってばっっ…