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「…ハァ…ハァ…あっ!…あっ!…」
耀くんがオレの下で乱れてる…
全身からしっとりと汗が滲んで…瞑った瞼からは涙の粒が今にも零れそう…
耀くんは凄く 感じ易い…とっても敏感…
オレのちょっとした動きにも敏感に反応するんだ…
それがオレには堪らなくて…耀くんが愛おしくて…メチャクチャに壊したい衝動に 駆られる…
「あっあっあっ……!!」
耀くんがオレの腕をギュッと掴むと大きく仰け反って…そのまま力なくベッドに崩れ落ちた…

しばらく目を瞑った ままだ…息もずっと荒い…
汗で頬に張り付いた耀くんの髪をそっと撫でた…
「耀くん…」
耀くんの頬を撫でながら優しく呼んだ。
「…やぁ…見ないで…」
そう呟くとチョットだけ身体を起こしてオレの身体の下に逃げ込んだ。
「耀くん?」
何だ?どうしたんだ?
「ダメ…見ないで…ぐずっ…」
え?グズッてる? 泣いてるのか?
「何で?どうしたの?」
そう言って身体をずらして耀くんの顔を覗き込んだ。
「だって…恥ずかしい…やだ…」
それでも下を向いたまま ゴネてる…
「だって…オレ…凄く声出ちゃうから…恥ずかしい…んだもん…やだ…よ…」
まだ弾む息でオレを見ずに喋ってる。
「何で?オレは満足だよ。 オレで感じてくれてるんだもん。」
そう言って耀くんのオデコにキスをした。
「みんな…こうなのかな…?」
「え?」
耀くんが変な事を言い出した。
「さぁ…どうだろう?耀くん感じ易いからね…くすっ。」
オレは耀くんの上にいながら片肘をついてもう片方の手は耀くんの身体をそっと触ってる…
「……今まで どうだった?他の女の人もこうだった?」
また耀くんが変な事言い出した…さっきからどうしたんだろう?
「さぁ…もう忘れちゃったよ。今は耀くんしか頭に 無いから…」
「……うそだっ!!」
「!?」
「そう簡単に忘れる訳ないじゃんっ!!」
そう言うとプイッと横を向いちゃった。
「耀くん?」
あれ? 何だか変な雲行きになって来たかな?
「だってオレと知り合う前は女の人たくさん相手にしてきたんだろ?なのにどうして?」
「……そうだけど…今は関係ないよ。」
「…………」
返事がない…
「耀くん?」
無言で横を向いたままだ…

…やだ…自分から聞いたのに何か…ダメだ…
椎凪が相手にしてきた人達の事が 気になる…今まで気にした事なんて無かったのに…
どうしよう…すごく嫌な気分だ…でも…気になるんだもん…
その人達と比べて…オレって椎凪にどんな風に 映ってるんだろう……

どうしたんだ?耀くんがずっと黙ったままだ…
「オレみたいに椎凪に抱かれた人…たくさんいるんだよね…」
「え?」
やっと 口を開いたかと思ったらオレを見もせずにそんな事を言い出した。
「どうしたの?耀くん…何でそんな事言うの?」
嫌なドキドキが始まった…
「別に…ただ そう思っただけ…でも本当の事だよね?他にもたくさんいるんだ…」
「え?ちょっと…耀くん?」
嫌な汗が背中を流れる…何か…ヤバイ感じがするんですけど?
「その中にオレみたいな人いたんだろ?オレみたいに感じ易くて一杯声出しちゃう人っ!!」
耀くんがオレの下から身体を起こして怒った顔でオレに叫ぶ。
「え?ちょっと…耀くん??どうしたの?」
オレは何でこんな風になったのか訳がわからず…
「わかんないっ!!わかんなけど今日はもうしないっっ!!」
「えっっ!?」
「オレシャワー浴びてくるっ!!」
そう叫ぶと耀くんは強引にオレの下から這い出すと
パジャマを掴んで部屋から走って出て行った。
「ちょっと!!耀くんっ!!」
オレは1人ベッドに取り残された…何が何だか訳わかんない…
「うそ…何?どーなってんの?どうしちゃったの?耀くん…」
オレは開け放たれた部屋のドアを呆然と眺めていた…

「…………」
次の日の朝…気まずい沈黙が食卓を漂ってる…
耀くんは夕べから相変わらずで全く口を 利いてくれない…
ムスッとして黙々とご飯を食べてる。
オレはそんな耀くんに声も掛けれず…掛けてもロクに返事してくれないし…
仕方なく様子を伺いながら ご飯を食べてる…
機械的に箸を動かしてるだけで…本当はご飯どころじゃない筈なんだよ…きっと…
「あ…あのさ…耀…」
「 ガ タ ッ !! 」
ビ ク ッ !!
意を決して声を掛けたのに掛けた途端耀くんがいきなり席を立った。
そのまま電気ジャーの所に行ってご飯をよそい始めた。
…なんだ…おかわり か…焦った…もうオレは心臓がバクバク…
でもこんな耀くん初めてだ…怒ってると言う訳ではなくて…
でも超不機嫌なオーラがもの凄く出まくってるのは確かだ。

こんなの…変だ…
椎凪は何も悪くないのに…オレが勝手に気にしてるだけなのに…
でも…押さえられないんだもん…1度想像し始めたら止まんない…
椎凪が他の人と… オレと…同じ事…
やだ…別に今の椎凪がその人達と何かあるわけじゃないのに…昔の事なのに…
オレは電子ジャーの蓋を開けたまま杓文字を握りしめて立っていた。

「耀くん!?どうしたの?大丈夫?」
椎凪が心配してオレの傍に来て声を掛けた。
「大丈夫っ!!湯気が目に沁みただけっっ!!」
思わず叫んだ…椎凪を見も しないで…

……こんなの…ただの八つ当たりだ…
ごめん…椎凪…ごめんね…でも…気になって…仕方が無い……

怒鳴られた…
夕べの事から思い返すと どうやら耀くんは昔のオレの女関係の事を気にしてるらしい…
もー…耀くんは…そんなくだらない事気にしてるなんて…
これは1度『オレ』に会っておこうか…ねぇ… 耀くん…
オレは耀くんに気付かれない様にそっと『オレ』を出して
静かに耀くんの後姿を見つめていた。

今日1日気まずい雰囲気のまま過ごした。
未だにロクにオレと口を利いてくれない耀くん…
でもオレはそんな事は気にせずに後ろ手に部屋のドアを閉めた。
耀くんがちょっとビクッてなった。
ベッドの横に 立ったままオレの方にチョットだけ視線を向けただけだ。
そんな耀くんを後ろから黙って抱きしめた。
良かった…一瞬だけピクリとなったけど耀くんは逃げたりしな かった。
逃げられたら…いくら何でも立ち直れない。
「耀くん…そんなにオレの昔の事が気になるの?」
抱きしめてそっと後ろから耳元に囁いた。
「…そんな…事…ない…」
「うそだ…気になって怒ってる…」
耀くんは気付かない…今オレは『オレ』だって事…
『オレ』で耀くんと話すのは多分初めてだ…でも普段のオレより
きっと耀くんはオレの話しに納得してくれるはず…
「いいよ…話してあげる。」
「椎…凪…」
耀くんの肩を掴んでオレの方に向かせた。
「ちゃんと話すから。」
耀くんの瞳を真っ直ぐに見つめた。
耀くんは ちょっと戸惑った顔をしてるけどオレをジッと見つめ返してくれた。

「オレさ…施設で育ったでしょ…だから小・中ってずっと虐められてたんだ…」
「え?」
耀くんがビックリしたみたいだ…だろうね…初めて話すんだから…
オレと耀くんはベッドに腰掛けて並んで座ってる。
「人間として扱ってもらえなくてさ…酷い目に 遭ったよ…でも施設の人に迷惑掛けると思ったから
やり返そうなんて思わなかったし…毎日ずっと我慢してた…だから欲しかったんだ…
オレを…そんなオレを支えてくれて …愛してくれる人が…ずっと欲しくて…探してた。」
話し始めると思いの外スラスラと話せた…
「高校の時やっとその人と出会えたと思った…でも違ってた…
オレの事好きにはなってくれたけど愛してはくれなかった…
それからずっと探してたんだ…色々な娘を相手にしたのはオレの探してる人に
巡り会えると思ってたから… でも会えなかった…だから諦めてた。
オレの欲しかったものは手に入らないって…」
「椎凪…」
耀くんが心配そうにオレを見つめてる。
「でもね…耀くんが いてくれた…諦めてたのに…あの日…あの人質事件の時
ホテルのロビーで耀くんに出会った…そして…一目で恋に落ちた。」
「え?」
言いながら耀くんの方を 向くと耀くんと目が合った。
耀くんは何気に顔が赤い…
静かに耀くんに手を伸ばして頬に触れた。
「だから絶対手に入れたくて一杯迫って一杯好きって 言って…やっと手に入れた。」
更に耀くんは顔が真っ赤だ…くすっ…可愛いね…
「だから誰にも触らせないし渡さない…やっと探し当てて巡り会った人だから…
オレの命より大切な人だから………ねぇ…耀くん…」
言いながら耀くんに向かって少し身体を乗り出した。
「え…?」
「耀くんはわかってない…」
「な…何が?」
耀くんが焦ってる。
「オレはね…もう耀くんのものなんだよ…」
『オレ』の瞳でジッと耀くんを射抜くように見つめた。
右京君とまではいかないけど…瞳に力が 篭ってるはず…
だから『オレ』で話してるんだ…耀くんにわかって理解してもらう為に。
「オレの全ては耀くんのものだよ。だからオレは他の娘を好きになる事は ないし
耀くんを裏切る様な事はしない…たくさんの女の子と経験したけど
耀くんとキスした時他の娘とのキスは消えちゃった。
初めて抱きしめた時も 肌に触れた時も…耀くん抱いた時も全部他の娘の事は消えちゃったんだ。」
耀くんは真っ直ぐオレを見つめてる…瞬きもしないで…
「耀くんと他の娘を比べる事はあっても 他の娘と耀くんを比べる事はしない。
だから耀くんは何も心配しなくていいんだ…オレが好きなのは耀くんだけ。
愛してるのは耀くんだけ…愛してるよ…耀くん…」
「……んっ…椎…凪…」
「…しっ…話さないで…キスして…耀くん…」
「…んっ…」

オレと耀くんは深い深いキスをした…お互いに相手を求めるとっても 深いキス…

「耀くん…オレの事愛してるって言って…じゃないとオレ…不安で…おかしくなる…」
嫌われるとは思ってなかったけど…心の片隅に不安があったのは 事実だった…
でもそれは…耀くんにしか無くす事の出来ない不安だから…
「お願い…耀くん…」
オレは泣きそうな声になってた…

「愛してるよ椎凪… 不安にさせてごめんね…」
オレは椎凪を抱きしめた。
「愛してる…大好きだよ椎凪。」

椎凪はいつもオレに安心をくれる…
どんなに不安なことがあっても オレをしっかりと受け止めてくれるんだ…
今だって本当はオレが悪いのに怒ったりしない…優しいんだ…
変な事気にしててごめんね…椎凪…

オレはギュッと 椎凪の首にしがみ付いた。
椎凪もオレをギュッと抱きしめてくれる…
あんなに悪かった気分も無くなちゃった…椎凪ってスゴイ…
それに一目で恋に落ちたって事は オレの事一目で好きになってくれたって事だもん…
すごく嬉しい…

でも…今日はちょっと不思議な感じだった…
椎凪に見つめられた時…いつもの椎凪じゃないって… ちょっとだけ思った…
あれって…一体なんだったのかな…