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久しぶりに課の皆と一緒に飲んだ。
その帰り道…オレはずっとひとり言の様に繰り返す…

「ヤバイ…ヤバイ…ヤバイ…!!」
こんな所にキスマーク付いてたら 耀くん絶対怒る…
何とか誤魔化さないと…でも消えるまで2・3日かかるよな…うわー…マジヤバイ…
くっそーーあいつ絶対殺してやる…二度と一緒に飲みに行かねーぞ…

いつもの様にお酒の量が進みルイさんの悪い癖が出た。
これまたいつもの様にオレに絡んできたのでテキトーに相手をしてたら
オレにキスをすると見せかけて胸元に キスマークを付けたっっ!!!
すぐ気が付いて離そうとしてもオレに抱きついて離れない…
まさか乱暴に振りほどく訳にも行かず…
オレから離れた時にはしっかり とピンク色のキスマークがバッチリとオレの胸に付いていた…

『耀君に嫌われておしまいっっ!!』

ルイさんは悪戯っぽく舌を出し笑いながら帰って行った…
目の前が真っ暗だ…心臓もずっとドキドキ言ってるし…
今日ほど自分の性癖が恨めしく思った事は無いっっ!!
きっと部屋で服を着てたら怪しまれるに決まってる…
と…とにかく今晩…誤魔化せば何とか…

…でもそんなオレの考えは甘かった…

「何隠してんの?椎凪?」
「ええっ??なっ…何の事?」
シャワーを 浴びた後すぐ耀くんに言われた…うわっ!耀くん鋭い…
遊びに来ていた一唏も何事かと寄って来る。
「だっておかしいだろ?椎凪が風呂上りからシャツ着てるなんて…
それに帰ってきてからずっと挙動不審だし…」
もの凄い疑いの眼差しだ…
「そっ…そんな事ないよ…ねっ?一唏。」
すがる様に一唏に助け舟を求めた。
「いやっ!スッゲー怪しい。いつもと違う。バレバレだぜ椎凪さん。」
こいつはぁ…なんて事を…オレの心情なんて察しようとしない大バカ野郎だっっ!!
「どうしてお前はそーゆー事を…そんな風に躾けた覚えは無いぞっ!!」
一唏の服を掴んで詰め寄った。
「俺は耀さんの味方だ。」
コイツぅ…ハッキリ言いや がって…
「服脱いで!椎凪。」
明らかに耀くんが怒ってる声でそう命令した…
「えっ?!」
ヤバイ…ヤバイよぉ…オレは更に挙動不審…
「早く!!」
どうにかこの場を切り抜け様とアレコレ考えを巡らせたけど
結局オレは耀くんに逆らえる筈も無く…
仕方なくゆっくりとシャツのボタンを外して耀くんの前で脱いだ…

「ええっっ?!キスマーク!!!浮気?うそっ…!!」

一唏がオレの胸を見て驚いた声を出した。
「…………」
耀くんは黙ってる…
「ごめんっ!!ごめんね…耀くんっ!! ルイさんがふざけて付けたんだよっ!!酔っ払って…」
オレは何とも情けない声になってた。
「え?耀さんの知ってる人なの?」
「オレ…気抜いてて…本当に ごめんねっっ!!」
今度は耀くんにすがる様に顔を覗き込んだ。
「椎凪の…」
「耀…くん?」

「椎凪の…椎凪のバ カ ア ッッッ!!!!」

「よっ…耀くんっっ!!」
怒鳴られたっっ!!!!
「知ってるくせにっ!!オレがどんなに大切に思ってるか知ってるくせにっ!!」
「わっ…わかってるよ…」
オレは手振り身振りでどれだけ分かってるか表現した。
きっとえらくマヌケだったに違いない…
「わかってないっっ!!わかってないよっ椎凪はっ!!」
物凄い 剣幕で耀くんが怒る。
一唏は耀くんが大きな声で怒り出したからビックリしてる…
何も出来ず何も言えず驚いた顔でオレ達を見つめてる。
「今日オレ自分の部屋で 寝るからっ!!椎凪入ってこないでよっっっ!!」
「耀くん…」
「入って来たら許さないからっっ!!」
耀くんが怒ってそう叫ぶとリビングを飛び出していく…
オレは自分のせいだってわかってるから後を追いかける事も出来なかった…

なんだ?スゲー耀さんがあんなに怒るなんて…ビックリ…
「え?」
ド ッ サ ッ !!
椎凪さんがフラフラとヨロめいてその場に倒れた。
「えっ?ちょっと椎凪さん?」
思わず駆け寄った。
「だめだ…耀くんの事…怒らせちゃった…」
虚ろな顔で泣きそう な声だ…
「椎凪さん?」
「きっとオレの事嫌いになる…どーしよう…嫌われたら…どーしよーっっl!!」
俺を見上げた椎凪さんは今にも泣き出しそうな顔だ。
「はぁ?たかがキスマークでしょ?別に浮気じゃないんだし…耀さんだって…」
「違うんだ…浮気したなんて思ってない…キスマークだってルイさんなら気にもしないんだ…」
言いながら床に手と膝を着いてうな垂れる…
「じゃあいいじゃん何気にしてんの?」
「場所だよ…場所…」
そう言って俺にしがみついて来た…
「場所?」
ちょっと…顔近いって…
「オレの胸元は耀くんのお気に入りの場所なんだ… あと背中も…」
「お気に入り…?」
「だから胸元にキスマークなんて耀くんにして みたら自分の部屋に
ズカズカ土足で入り込まれたのと同じ位許さない事なの……
オレこれで2度目だし…ヤバイよぉ…」
「2度目…?」
何だよ…前科ありかよ…
「わああああああっっ!!!どーしようっ!!耀くん許してくれなかったら…どーしようっっ!!」
「ちょ…と…椎凪さん??」
いきなり叫びだしたぞ…この人… うそだろっ…マジで泣いてるよ…

それからしばらくの間俺は椎凪さんに抱きつかれたまま
泣き止むまで付き合う羽目になった…

カリ…カリ…
オレの部屋のドアから微かに音がする。
察しはついてる…きっと椎凪だ…
知るもんか!だって…酷いもん椎凪…オレの大切な場所なのに…キスマークなんて…
オレはずっと枕に顔をうずめてた。
最近は殆んど使ってないオレのベッド…いつも椎凪のベッドで眠ってるから…
だって…椎凪の部屋の方が一緒にいるって感じるから… 椎凪に抱かれてるんだと深く思えるから…
だから自分のベッドは好きじゃない…………

ガチャ。
ゆっくりと…耀くんの部屋のドアが開いた…見上げたら耀くんが ジッとオレを見下ろしてる…
顔は相変わらす怒ったまま…

結局いつもの様にオレが白旗を揚げた。いつもそうだ…情けないけど…
1人で寝るのは耐えられないから… でも顔ではまだ怒った振りして椎凪をちょっときつく睨んでた。
思った通り椎凪はドアの前にへたり込んでポロポロ涙を溢してた…
「…耀…くん…ぐずっ…」
オレはこの椎凪に弱い…
もう直ぐにでも怒ってないって言ってあげて『ぎゅう』ってしてあげたいっっ!!
何とかその衝動に耐えた。
「こっちに来て…椎凪!」
椎凪は四つん這いになりながら部屋に入ると後ろ手にドアを閉めた。
一唏君はもう寝たのかな…いつの間にか結構な時間になってる…全然気付かなかった…
オレは ベッドに腰掛けて椎凪はオレの真正面にキチンと正座して座ってる。
確か前もこんな感じだった様な…?
「ご…ごめん…ね…耀くん…許して…」
小さな子供 みたいな椎凪…こんな時は椎凪はいつも子供に戻る…
「……反省…してるの?」
もの凄い不貞腐れた顔で言ってるのが自分でもわかる…無理してだけど…
「うん…反省してる…してます…」
「………はぁ……」
横目で椎凪を見つめてたけど…もう…ダメだ…思わず溜息…
「耀くん…?」
椎凪がきょとんと した顔をしてる。
「別に…椎凪が浮気したわけじゃないんだもんね…」
「耀くん…」
「もう二度としないでよ…ちゃんと気をつけててね。わかった?椎凪。」
椎凪が一瞬で立ち直った。
「うんっっ!!気をつける!!もう絶対誰にも触らせないからっ!!」
「約束ね。」
「うんっ!!約束するっ!!約束しますっ!!」
もうニコニコの笑顔の椎凪だ…そんな椎凪の顔を見てオレも気分が晴れる。
「じゃあオレの事椎凪の部屋に連れてって。」
「え?」
そう言うと耀くんはオレに 向かって両手を伸ばした。ベッドに座ったままで…
「オレ椎凪のベッドで椎凪と一緒に寝るのが好きなの!」
「うん。」
そう言うと椎凪はオレをお姫様抱っこ してくれて…
廊下を歩いてる間ずっとオレにキスしながら連れてってくれた。

それから直ぐに椎凪の叫び声が部屋中に響いたとか…

次の日の朝…何故か椎凪さんは 上機嫌だった。
「おはよー一唏!」
どうやら耀さんに許してもらったらしいな…わかりやすー
俺が寝た後何か進展があったのか…
「コーヒー飲む?」
「え?ああ…おはよう…うん…飲む…あ…おはよう…耀さん。」
見ると耀さんも目を擦りながらリビングに入って来る所だった。
「おはよう…一唏君。」
仕草が…相変わらず可愛いな…耀さんは…
俺はあれから正直に思う様にしてる…2人が好きな事は事実だから。
「はい。どーぞ一唏。」
「あ…ありがと…ん?」
何だ?
「耀くーん!!おはよう!!愛してるよー。はいっコーヒー。」
「おはよう椎凪。オレも愛してるよ。」
椎凪さんの胸と背中が赤く腫れてて目を引いた…
何だ歯型?なんで?? しかも背中と胸元に??わかんねー……?

不思議に思っている一唏をよそにいつもの様に2人はキスを交わすのでした。
変わってる2人…と思う一唏です。

夕べあの後…耀に胸元と背中を思いっきりかじられた椎凪でした。