07





「遅いなぁ……」

約束の時間になっても彼が来ない…
付き合い始めて早1ヶ月ちょっと…いつもあたしが来る前には彼は来てるのに……

「深雪さん!」

「洸クン?」

声のする方を振り向いたけど彼はいない…

「?」
「深雪さん?」
「え?」
目の前に立ってる人を見つめたら……

「え!?洸クンっっ!?」

目の前に立ってるのは正真正銘洸クンだった!でも…

「かっ…髪が短いっっ!!」
「はは…」

そう言って頭をかく仕草とはにかんだ顔はやっぱり洸クン!

「どっどうしたの?まるで別人!!」

さっぱりとした髪の毛…軽く耳にかかるくらいの長さで縛って無いから何だか感じが…

「そんなに違うかな?」
「うん。余計幼くなった…はっ!!わ…若がえった…?」
って同じ様なもん?
「………一応ありがとうって言っとく…」
「はは…」

洸クン年下っての気にしてたりするのよね…

「ホントにどうし…あっ!!産まれたんだ?」
「そう。昨日の夜ね。オレもついに『オジサン』になった。」
「どっちだったの?」
「男!」
「じゃあ甥っ子か…」
「そう!まだ産まれたばっかりで皺くちゃだからもうちょっとまともな顔になったら見せてあげるよ。」
「仕方ないわよ。産まれたてなんだから。そっか…良かったね。無事に産まれて…」
「願掛け効いたのかな?」
「じゃない?就職までぼうにふって伸ばしてたんだから。」
「これでちょっとは印象良くなるかな?」
「大丈夫!」
「そうかな?なら良いんだけど…」
「?」
「早く安定した仕事につきたいから……」
「……洸クン…」

何だか…胸の奥が苦しくなる……




「やっぱり洸クンじゃないみたいだよ…」
「そんなに?」
「だって…んっ…」

洸クンがそっとあたしにキスをする…
今日はあたしの部屋…時々あたしの部屋に泊まる様になった…
だから今は2人であたしの部屋のベッドの中…もちろん2共裸。


「あ……」

最近は随分慣れて来たみたいであたしが言わなくても雰囲気を察してくれる様になった。

「察するって言うよりオレがそうしたいから……」

あたしの頬に唇を着けながらそんな事も言ってくれる様になった……



「ねえ…深雪さん…」

「ん?」

あたしは重なり合ってる肌と洸クンの温もりと抱きしめられてる束縛感が心地よくて
うっとりしてる……

「……もう…オレの事だけ…想い出してくれてる?」

「え?」

「オレだけの事……」
そう聞きながらあたしの首筋に顔をうずめる…
「……うん…」
「やった!!良かったぁー ♪ 」
「わっ!」
ギュウっと抱きしめられて思わず声が出た。
「苦しい……ちょっと洸クン…」

「やっと手に入れた気分だ。」

「……洸クン…」

洸クンの言う通り社会人の年下は学生の時とは違うのかな…
顔は確かに幼いけど考え方なんてあたしよりしっかりしてるし真面目だし常識あるし…
何で今まで彼女がいなかったのかが不思議なくらい…

洸クンが言うにはとにかく女の子相手には引いちゃう所があって最初はいい人!
でも最後もいい人で終わるらしい…
そんな積極的じゃないらしいから今まで誰とも恋愛経験無しだって言う…

あたしとの事は既に身体の関係はあるわあたしからキスを催促されるわで
開き直り半分な所があったみたい…

責任って事もあったみたいだけど…それは本当に最初だけだったって…




「まだかしら…」

あたしは携帯を握りしめながら今日何度同じセリフを言ってるか……

「どしたの深雪?さっきから?」
「いやね…今日面接の結果が出るのよ…」
「ああ…あの年下彼氏?」
「うん。もうあたしの方が心臓ドキドキ…」
「今度は正社員?」
「うん。3人募集に結構な人数来てるみたいなんだ……」
「へえ…」

「洸クン以外落ちればいいのに……」

携帯に向かってそんな事を呟いた。

「ちょっと!顔怖いよ深雪!」
「だって…」
「でももう3ヶ月だっけ?」
「うん…」
「ラブラブだわねぇ〜」
「…そんなんじゃないけどさ……」

「これで受かれば結婚まっしぐらか!」

「…そ…そんな事ないって…」


結局彼からの連絡が来たのはもう仕事も終わる頃…

「ど…どうだった!」
『お祝いに深雪さんから何貰おうかな?』
「え?じゃあ…」
『やっぱり髪の毛切ったからかな?』
「おめでとう!良かったねっっ!!」
『今日は会えないけど…明日の夜空けておいて。』
「うん!!本当におめでとう!!」
『ありがとう…これで先に進める…』
「え?」
『ううん…じゃあ明日ね。』
「うん。」

あたしは自分の事以上に嬉しくて…携帯にキスしまくって更衣室で跳びはねて喜んだ。




「深雪さん!」

次の日約束通り洸クンと夜のデート。
待ち合わせの場所に洸クンが現れた。

「本当なら昨日会いたかったな。」
「ゴメン…バイトのシフト入ってたから…」
「仕方ないね…じゃとりあえず食事とお酒飲める所に行く?」
「そうだね。」

「洸君!」

「!?」

今まさに行こうとした時呼び止められた。
でも…

「あれ?何で?」
「久しぶりに休みが取れてね。出張から直帰させてもらえたんだ。」

「 !!! 」

うそ……で…しょ…?…なん…で……?

心臓が…ドキドキと破裂しそうなくらいに動き出してる……

「そうなんだ。姉さん喜ぶよ。」
「そう言えば就職決まったんだって。」
「そう!これで晴れてオレも正社員だよ。」
「じゃあお祝いだ…何なら今から…」

「あ!紹介するよ和裕兄さん。オレの付き合ってる彼女。」

「彼女なんて洸君に出来たの?」
「あ!失礼だな…って言われても仕方ないけどさ。」

…いや…うそよ…こんな事………

「深雪さん紹介するよ。オレの姉さんの旦那さんで『下池和裕』さん。
義理の兄ってなるのか…実を言うとあの夜の遊園地も義兄さんからの受け売りで…」

「………」

紹介されて…仕方なく2人の前に立った…
本当なら今すぐにでもここから逃げ出したい!!!

「…!!深…雪…?」

「え?」

洸クンが訳が分からないって顔してる…

「………」

「深雪…どうして?」

懐かしい和裕の声…

「え?和裕兄さん深雪さんの事…知って…え?どう言う事?」
「…………」
あたしは何も言えず黙って俯いた…
「洸君と付き合ってるって事か?」
「…?和裕兄さん?」

「…ごめん洸クン……」

「え?」

「あたし…今日はこれで…」
「え?ちょっと深雪さん!?」


もう何も考えられなかった…とにかくこの場から1秒でも早く逃げ出したかった…

何でこんな事……!!

「深雪さんっ!!」

深雪さんがオレが呼び止めてるのに振り向きもいないで走って行った…
一体どうしたって言うんだろう…

「和裕兄さん深雪さんとどんな関係なの?」
義兄さんの方を振り向いて問い質した。
「…!!どんな関係って……ちょっとした知り合いだよ……」
「……ウソだ。ただの知り合いで深雪さんがあんな風になるはず無い。」

…深雪さんも…義兄さんも…態度が変だ…そう…きっとそうだ……

「……洸君…」


「和裕兄さんが…深雪さんの昔付き合ってた人なんだね。」