03






 * 仕方なくの♂同士のキス(軽め)あり。ご注意を!! *


「そういうことかい。まあ在りそうな話だね。飼い殺しって奴か?」
「だから……オレは……したくもない相手を…ずっとさせられてる。
弟を……一唏を連れて逃げたい……けど……一唏が何処にいるか分らない……
会わせてもらえるのは週に一回……それもその時だけ奴の屋敷に連れて来られる。
一唏は……何も知らないから」

鎖で壁に繋がれてる両手をぎゅっと握った。

「殺したかったのかい?全ての人間を」

「ああ……水上も水上の家内も……オレを物として扱った連中を全員殺してやりたかった!
でも……そんなこと出来ない……そんなことをしたら一唏がどんな目に遭わされるか……」

「だからそんな感情を押し殺してたのか。そう……君なら大丈夫かもしれないね。
君のその精神力なら……ね」

「 ? 」

ゆっくりと顔を上げると目の前に立つ奴が微笑んでるように見えたのは気のせいだったのか?

「僕は草g右京ここの当主だ。君も大まかなことは聞いているだろう」
「ああ……財界……政界で影響力がある人物だって」
「そう表向きはね。僕の家系は代々特殊でね特に本家の者は普通の人間には
ないものを持っている。俗に言う”超能力”ようなモノだね」
「………」

「今僕の中に人ではないモノがいる」

「は?」

オレは言われてる意味が理解出来なくて眉間にシワを寄せて奴を見た。

「今は理解しなくていい。ソレはある日僕の所にやって来た。
自分の世界で闘って身体をなくしたそうだ。
魂だけで彷徨ってそのままでは消滅すると言って僕に庇護を求めてきた。
僕も暇を持て余しててね。絶対服従する約束で助けることにしたんだ。
それに僕はいつでもソレを殺せるし」

「………」

ますますオレは言われてることがわからなくなる。

「だが都合の悪いことが起きてね。どうやら僕の力が強すぎてカレが消滅しそうなんだよ」
「カレ……?」
「本人曰くオスだそうだ」
「で?オレをソイツの生贄にでもするつもりか?」

話の内容は理解してなかったけどからかうようにそんなセリフを言ってみた。

「まさか。結局僕から出ても消滅するのは時間の問題で僕の中に居ても大差無いらしくてね。
だから別の宿主を捜してる」

「は!?」

なんだか言ってることが変な方向になってきたか?

「何人か試したんだけれどね。皆堪えられなかった」
「まさか……ソレをオレで試すつもり……か?」

試した?試したってナニをだよ?ナニを試したんだ?

「心配することはない。駄目な時はまた取り出すだけだ」
「冗談じゃない!!誰がそんなこと!!それに取り出すってなんだ?
さっきから言ってる意味わかんねーし!」

「もし君が新しい宿主になったなら君と君の弟を僕が一生面倒をみよう」

奴が真っ直ぐオレを見つめて堂々と言い切った。
瞳が最初とは違う光を湛えてるように見えるのはオレの気のせいだろうか?

「は!?何バカなこと……無理だ。そんなこと出来るわけ……」

「僕を誰だと思ってるの?
水上を黙らせるなんて息をするのと同じくらい僕には簡単なことなんだよ」

そう言って彼は不敵に笑った。

確かに今日はいつもと違ってた。
妙にあいつ等が舞い上がってて気に入られたらこれから先が変わるとか言ってた。
コイツなら……今言ったことが出来るのか?

「あんたの言うとおりならあんたの中に別の生き物がいて死にかかってるってこと?」
「ああ」
「それを助けるために新しい入れ物がいるってことか?」
「ああ」
「それがオレってこと?」
「まあ君の身体と精神力が持てば……の話だけどね」

そう言ってオレから離れた。
そしてオレをまた真っ直ぐとあの瞳で見つめてる。
考える時間を与えてやるってことか?

コイツの言ってることは本当なんだろうか?
でもふざけてるようにも頭がおかしいとも思えない。

言ってることを信じるか?どうする?


「…………本当に無理なら取り出してくれるのか?」
「ああ」
「本当に宿主になったらオレ達の面倒を一生みてくれるのか?」
「ああ。今みたいなことはしなくていい。草gの家の者にそんなことはさせない。
ここで生活するなら自由にするがいい」
「…………」

重く長い沈黙が流れる。

「…………信じていいのか?」

「信じてもらうしかないがね。まあ疑われるなんて僕としては心外だけれど」

オレはじっとその男を見つめた。
男は黙ってオレを見てるだけだけどその瞳は何ものにも揺るがないほどの
自信に溢れてる瞳だった。

「わかった……やってやる」

オレはボソリと呟いた。
これは賭けだ。
彼の言ってることが本当かどうか疑問のままだし約束だって守ってくれるかわからない。

でも……今の生活から逃れたい……一唏をとり戻して一緒に暮らしたい。

「そうかい。いい結果になればいいんだけれどね」

そう言いながらオレに近付くとオレの顔を両手で掴んで持ち上げた。
な……なんだ?なにする気だ?そう言えばオレの身体に宿すなんて一体どうやって?

「唯ひとつの方法がコレでね。相手を選ぶのは当たり前だろ?拒むんじゃないよ」
「!?」

オレの顔を掴む手に力が入ってさらに上を向かされた。
相手の顔が近付いてきてそっと唇が重なる。
舌がスルリと入ってきて……なんだ?何がどうなって……?

「ぐっ!!」

重なった相手の口から何かが入ってくる!

それは液体でも固体でもない……でも柔らかくて生暖かい…モノ?


「うぐっ……げほっ!!」

ソレを飲み込んだ途端頭の先から足の指先まで……何かがオレの身体を裂いて入ってくる感覚!!
そしてもの凄い激痛が身体中を走る!!

「がはっ!!!うっ……あ”っ!!!」
「ダメか?」

自由の利かない身体がガクガクと震える。
余りの痛さに繋がれた両手を引き寄せた。
届くはずもないのに……

「あ”っあ”っあ”っあ”っあ”っ!!あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っっっ!!」

身体中が悲鳴を上げる。
あまりの激痛に何度も何度も叫んで叫びまくった。

今になって奴が言ってたことが本当だったんだと理解した。
でも……思ってた以上の痛みにこのままオレは気が狂って死んでしまうのかもしれないと思った。

『慶兄』

──── 一唏!!

ふと一唏の顔が浮かんだ。
ひとりで辛くて淋しい思いをしてるだろうに会えばいつもオレには笑ってくれてた。

ダメだ!!オレになにかあったら一唏は?一唏は本当にひとりになってしまう。
そんなことダメだ!オレは一唏と一緒に暮らすためにこの話を受け入れた。
もう……あそこには戻りたくない!!

この痛みが永遠に続くのかと思いながら叫び続けたオレの意識は途中から薄れていった。


どのくらい時間が経ったのか……痛みが引いて和らいできた。
でも身体が重くて……動けない。

「はあ……はあ……」

床に座り込んで喘いだ。
辛うじて鎖で壁に繋がれた両手が身体を支えて倒れずにすんでる。

「どう?上手くいったのかい?」
「 ? 」

オレを見つめながら話しかけてるが見てるのはオレじゃ……ない?

『ああ……どうにか……な』
「 !! 」

オレの頭の中で声がした!?

「そう」
「な……なんだ?オレの頭の中で声がする」

そんな経験初めてでオレはちょっとしたパニックに陥ってた。

「それがカレだよ。名前は 『ロスト』 と言うそうだ」
「ロスト?」

”ソレ”に名前なんかあったのかと変なところで感心してる自分がいる。

『まだ同化するのに時間がかかりそうだ。だが……大丈夫そうだ』
「そうかい?」

そう言いながら彼がオレの手首を繋いでいた手錠を外す。
外れた瞬間力なくパタリと両手が床に落ちてオレはそのまま身体ごと床に倒れ込んだ。

「はあ……はあ……」
「しばらく動けまい。今人を呼ぶ。ゆっくり休みたまえ」
「はあ……はあ……」

オレは返事も出来ず喘いでいた。
指一本動かせない。

「たった今から君は草g家の……僕のものだ。
このままここで暮らすといい。身体が慣れたら身の振り方を考えたまえ」
「…………はあ……はあ……」

「もう彼らのところに帰ることはない。すぐ弟もここに連れてこよう」


奴のその言葉を聞いて……安心したのかオレはそのまま深い眠りに落ちた。

それから3日間眠り続けたらしい。

奴……右京君がそう言ってた。





「どうだい?身体の調子は」

ベッドに横になってるオレを見下ろしながら声を掛けられた。
客間と言われたその部屋はどこかの高級なホテルの一室を思わせるほどの
洒落た部屋だった。
流石金持ちか?なんて無駄に大きくてスプリングの利いた超豪華なベッドに寝ながら思った。

「ああ……痛みもないし何の違和感もない」

そう……同化と言われてたが身体自体はなんの変化もなかった。

「そうかい? 『ロスト』 はどうだい」
『同化は済んだ……後は時間が経てば 『私』 の能力も元に戻るだろう。
大分身体が弱ってたせいで時間は掛かりそうだがな』

耳元で囁かれてる感じでもない……頭の真ん中で響いてる感じ。
それがまだ慣れなくて変な感覚だった。

「そんな顔をしなくても今に慣れる。『彼』 は無口だからそうそう邪魔にはならない」
「なあ……まさかオレの考えてることとかコイツに知られたりするのか?」

あの時はそこまで考えもしなかったけどそういうことだよな?

「嫌なら用のない時は 『ロスト』 を眠らせればいい」
「そんなこと出来るのか?」

随分簡単に言ってくれるけど。

「僕は出来たけどね」

シレッとした顔で関心のななそうな言い方で言われた。

『右京は眠らせたんじゃない……強制的に 『私』 を封じ込めてたのだろう?』

ロストのほうも呆れた感じの言い方になってた。
きっとあまりいい対処法ではなかったのかしれない。

「ん!?オイ!何だコレ?」

オレは額に乗せた自分の腕を見て思わず叫んだ。
そして慌てて掛け布団を剥いで自分の身体を確かめた。

手の甲……両腕……肩……背中にかけて真っ黒い入れ墨が入ってる!!

「なっ……何だよコレ!?いつの間に?」

オレが寝てる間にどんなことされたのかと驚きを隠せない。

「ああ 『彼』 が君の中にいる証拠だよ」
「はぁ?冗談だろ?こんな目立つの一生あるのか?」

結構な面積を占めるほどの入れ墨だったからオレは納得できてない。

「心配することはない。それが見えるのはよほどの霊力の持ち主か 『彼』 と同じ妖魔だ」
「は!?なに?コイツのほかにも同じような奴がいるのか?」
「さあ……僕には分からない。 『彼』 のほうが詳しいだろう。追々 『彼』 に聞くといい」

話しは終わりとばかりに右京君が部屋から出ていってオレはまたベッドに横になった。

『心配せずとも弟はちゃんとここに連れて来る。右京は約束は必ず守る男だ』
「………人の心を読むのはよせ」

さっそく読まれたらしい。
なんとなく不便だし不快感がないわけじゃない。

『読まずともそのくらいわかる。良かろう……私は少し眠る。用があるなら起こすがいい』
「起こすって……どうやって?」

なんせ初めてのことでオレもどうしていいかなんてわからない。
これからじっくりとロストとは話し合わなきゃいけない気がする。

『私の名を呼べばいい』
「わかった」

なんだ。
意外と簡単だったりするんだ。

『そう重く考えるな。私の力が戻ればお前にもきっと役に立つ』
「力?何だそれ?」
『いずれわかる。だがその力ゆえお前に迷惑がかかるかもしれぬがな』
「はあ?どう言う意味だよ?ってオイ?オイっ!!」

そのあとどんなに呼んでも奴は返事をしなかった。
くそ…ワザと無視か?ってか何気に人の不安煽(あお)るようなことだけ囁いて逃げんなっての。

まったく……

「……もう……あそこに戻らなくていいのか」

ボソリと呟いた。
あれから3日間眠ってたと聞いた。
オレが帰らなくて水上達はどうしたんだろうか?

一唏は大丈夫だろうか……ああ……心配になってきた。


そんなとき部屋の中にノックの音が響く。

最後の音と同時に入り口のドアが開いた。

「慶兄!!」

「!!」


そのドアの向こうから一唏がオレの名前を呼びながら勢いよく駆けてきて

ベッドに寝ているオレに飛びついてきた。