5話:惇哉&瑛未 邪魔者とじゃれるの巻











「あ? 惇か?」
「ん?」


サンタの衣装を着て撮影所の廊下を瑛未ちゃんと2人
ご機嫌で歩いてたら聞き覚えのある声に振り向いた。


「レンジ?」
「ぷっ! 何だそのイカれた格好は?」


廊下ですれ違ったのはあの「鏡レンジ」さんだった…
あたしは今まで1度も一緒に仕事をした事は無かったし…
遼平から話だけ聞いてただけだったから実際に会うのは今日が初めてで…

惇哉さんの友達で遼平から話を聞いてなかったらちょっと逃げてもいいですか? って思えちゃう…

遼平とは違って思いっきり表に昔悪い事してました! 的な雰囲気かもし出してる…
あいつの場合、表向きは平和そうだしね。ホントは全然平和じゃないくせに。


「今日何の日か知らないのか? クリスマス・イヴだろ?」
「だから?」
「この格好でクリスマス・パーティだよ! お前は呼んでやらんけど。」
「結構だよ。俺は用事があるしな!
それにお前がメガネちゃんに怒られるの見たって面白くも無い!」
「何で怒られる事前提なんだよ! クリスマスなんだからこんな格好普通だろ?」
「……お前の感覚にはついていけねぇ…」
「お前にこのユーモアのセンスをわかれと思ったオレがバカだったよ。」
「はあ? それってユーモアのセンスなのか?」
「まったく! これだからクソ真面目な男は…で? 何? もしかしてデートか? 新しい彼女と?」
「お前に教える義理はねえ。」
「教えろよ。この格好で会いに行ってやる。」
「来てみろ…ど突いて速攻叩き出してやる!」


お互い腕を組んで睨み合いだ。


「ぷっ!!」

「あ!」
「ん?」

「あ…ごめんなさい…可笑しくてつい…くすっ…」

「何だ? 惇…お前浮気のカモフラージュか? 逆に目立つぞそのサンタの服。」
「んなわけあるかっ! この子は瑛未ちゃん! 遼平の彼女だよ。名前くらい知ってんだろ?」
「は? 遼平の?」

「初めまして。杉原瑛未です。お噂は遼平から聞いてます。」


そう言ってぺこりと頭を下げた。


「その遼平の彼女が何でまた惇の野郎とツーショットのサンタなんだ?」
「これから一緒にクリスマス・パーティやるんだよ。
2人でこの格好で由貴と遼平を驚かそうと思ってさ。」
「……………」


あれ? レンジさんが固まってる?
仲間に入れて欲しかったのかな。
今ならまだ衣装借りられるかな? 

そんなことを考えていたら、レンジさんは小さくため息をついた。


「いや…まあ…いいんじゃねーの? お前らがそれで良ければ…」
「良いに決まってんだろ! わざわざ衣装さんに頼んで用意してもらったんだし!」
「へえ…そりゃまた衣装さんも気の毒に…」
「は?」

「あ! レンジさんにもその節はお世話になりました!!」


今度はさっきよりも丁寧に頭を下げた。
そうあの浅山さんに惇哉さんと一緒に話をつけてくれたって…聞いてたから…


「ん?」
「ほら。あのお騒がせ男に廊下で話しただろ?」
「……ああ! あれか? んなの気にすんな。筋の通らねぇ事したアイツが悪いんだからよ。」
「お蔭様で今は落ち着いて仕事出来てます。ありがとうございました。」
「まあこの業界女にとっちゃ危ない事もあるから気をつけろよ。」
「はい。」
「じゃあ俺急ぐから行くぞ。」
「ああ…彼女によろしく ♪ 」


惇哉さんがニヤリと笑う…そうしたらレンジさんもニヤリと笑った…
やっぱり仲がいいんだ…この2人…


「遼平にもよろしくな。」
「はい! 伝えておきます。」
「じゃあな惇!」
「メリークリスマス ♪ 」

そんな言葉にレンジさんは振り向かずに手だけ振って帰って行った…

オーラは怖いけどステキな人だなぁ。
きっと遼平、レンジさんにも可愛がってもらってるんだなって思った。
羨ましすぎる。


「レンジの奴もこの撮影所で仕事だったんだな…」
「レンジさんにも彼女さんいるんですか?」
「らしいよ。最近レンジの態度超挙動不審でさ。じ〜〜っと携帯眺めたりしてんだよ。」
「それって彼女さんからの連絡待ちって事ですか?」
「違う違う! 自分から彼女に電話掛けようかどうしようかって悩んでるわけ。10分も20分も!」
「ええ? 彼女さんに掛けるのをですか? そんなに忙しい相手?」
「違うよ。ただ単に彼女に掛ける勇気が無いだけなの!」
「ええ? あのレンジさんが? だって俺について来い! みたいなタイプじゃないですか?」
「だろ? それがそんななんだよ…だからよっぽど大事にしたい相手なんじゃないかと思うんだ…」
「へえ…」


何だかあの外見からはとっても意外な話を聞いてしまった気がした…


「さて瑛未ちゃん! オレ車正面に持って来るからロビーで待っててくれる?」
「そんな…あたしも一緒に行きます。」
「いいよ。ここの駐車場ってちょっと距離あるし5分くらいで戻って来れるからソファに座って待ってて。」
「わかりました。」


そう言って惇哉さんは足早に廊下を裏口の方に歩いて行った。


それからあたしは言われた通りロビーに向かって歩き出した。


撮影は各スタジオで行われてるはずなのにロビーには殆ど人がいない。

そうよね…今日はクリスマス・イヴだもの…皆仕事が終わればサッサと帰る……


「あれ? エイミ?」

「 !!! 」


この…背中に悪寒の走るこの声は…

ギギギという音が聞こえそうな動きで仕方なく振り向いた。
シカトして肩なんか触られたらもっと鳥肌ものだったし触られたくも無かったから…

げっ!! 

振り向くと…そこに立ってたのは…なんで? 


「ホントだエイミじゃん ♪ 」


高野さんと浅山さん!? 何で?? なんでこの2人のツーショット???

 

「わぁお! 何そのサンタの格好? コスプレ? それで彼氏と何して遊ぶわけ?」
「エイミってそういう趣味もあったんだ?」
「いいねー。俺らも混ぜて♪」
「…………」


ウザイ。キモイ。しつこい。キエロ!!! 
あたしは黙って彼らを睨みあげた。
せっかく惇哉さんと楽しい時間を過ごしているっていうのに……。
ブッ殺すっ!!! 

殺意のこもった目で睨み続けていたあたしをニヤニヤしながら見下ろす馬鹿男。
だけどもっと大馬鹿なあたしは、なぜか高野さんだけを睨み上げていて浅山さんの存在をすっかり忘れていた。
突然背中から抱えられてザワザワと鳥肌が立つ。


「エイミ、一緒に遊びに行こうよ」
「や…っ!!」


抱き上げられて気持ち悪くて思いっきり暴れたら、あたしの後頭部が浅山さんの顎に激突! 

呻いて腕が緩んだ瞬間にあたしは着地して浅山に向き直り、
萌香に教えてもらったケリを腹にブチ込んでやろうと足を振り上げた。


「瑛未ちゃん!」
「あ! 惇哉さん!!!」

「 「  !!! 」 」


2人があたしの方に駆けて来る惇哉さんを見て一瞬ビクリとなってた。
ヤバイヤバイ…あんな足を振り上げてるところ…惇哉さんに見られてないでしょうね?

「なに? こんな所で2人でナンパ? 懲りないね〜」

もの凄い呆れ顔の惇哉さんだった。
良かった…私の足上げは見られて無いみたい…
あんなの見られてたら惇哉さんの中でのあたしの印象が「暴力女」になっちゃうじゃない!! 


「楠さんまでなんすか? その格好?」
「え? ああ…」
「2人してコスプレごっこですか? なんだ俺達もまぜて下さいよ〜」


何だか嫌な態度と言い方だった! 浅山さんの方は絶対惇哉さんにあの時の事で根に持ってるんだ。
それに高野さんもきっと浅山さんから色々聞いてて…

今日は2対1だからって惇哉さんの事…


「なに? 羨ましいの?」

「あ…」

そう言いながらあたしの後ろから惇哉さんの両腕が腰に廻されて引き寄せられた。

「 「 !!! 」 」


2人がびっくりしてるけど…あたしの方がもっとビックリなんですけどーーーーっっ!! 

ウソ…ウソでしょ?? 

惇哉さんの両腕があたしをしっかりと抱きしめてくれてるーーーーーっっ!!


いやーーーー!! もう死んでもいいかもーーーっっ!! って死にたくないけど!!! 

だめ…し…心臓が…バクバクバクバク……は…破裂する…


「今日限定のペアルックなんだよ…似合うだろ瑛未ちゃん ♪ オレの為にこの格好してくれてるんだよ。」

「……ひゃっ…」


そう言ってさらに惇哉さんの方に引き寄せられて…息が詰まる…

せ…せな…背中に惇哉さんのむ…胸がっ!!

ひゃーーーーーっっ!! だめ! 意識が…と…飛びそうなんですけどーーーー!! 

身体が震えだして余計惇哉さんの腕に力が込められて…だからそれって逆効果なんですけどーー
でも緩めないでーーーって…ああーもう何がなんだか!!! 


「そ…そんなのあの遼平が許すわけ無いだろ…いいのか? この事アイツにバラしても…」


「何言ってんの……」

「は?」

「遼平も承諾済みなんだよ…オレは瑛未ちゃんにとって特別な存在だからOKなんだってさ…ふふ♪」

「…………」

うわーすごい…
2人のこと黙らせちゃった……演技で…

そうよね? これって演技入ってるのよね??


「そんなに納得出来ないなら2人にもチャンスあげようか?」

「は?」
「どう言うことだよ…」

「そっち2人とオレとで瑛未ちゃんデートに誘うの。瑛未ちゃんがどっち選ぶかは瑛未ちゃん次第。」
「え?」


今度はあたしが惇哉さんを見上げちゃった…
わあ…すぐ目の前に惇哉さんの顔がある…もう…どっち選ぶかなんて決まってます!! 

「平等だろ?」

「 「 ………… 」 」


何だか納得のいかない顔してる2人だけど…確かに相当分が悪い条件なのよね…

でも根性の悪いこの2人なら…


「ああ…いいぜ…」


お馬鹿だーーーーーっっ!! この2人絶対馬鹿だ!!! 

あたしがアンタ達を選ぶって本気で思ってんの!? 
思ってるんなら一回病院で頭診て貰った方が良いんじゃない?

もう勝負なんてする必要も無かったけどあたしは惇哉さんに誘って欲しくて…


「瑛未ちゃん…オレと一緒にイヴの夜を過ごしてくれませんか…」


そう言って目の前に惇哉さんのとびきりの笑顔と手が差し出される…

もちろんもうその目の前の手にあたしの視線はロックオン!! よっ!! 

隣にいる2人なんてあたしの視界にも入らない。


「ありがとう。瑛未ちゃん…」
「いえ……そんな…」


あたしはもうお姫様気分 ♪ 

惇哉さんの手を握ってもう夢心地〜〜♪ 
サンタさん、ありがとう! 
イイコにしていてよかったあたし! 


「じゃ2人共そう言うわけで恨みっこ無しね ♪ 」

「は?」

「もういい加減にしときなよ ♪ じゃあ良いイヴを〜 ♪ 」


そう言うと惇哉さんはあたしの手をぎゅっと握ってロビーを出口に向かって走り出した。

何だか…すごく嬉しい〜〜〜 ♪ 


「流石にさっきのは遼平に怒られるかな?」
「全然っっ! 全くっ! 問題ナシですっ!」

「そう? じゃあちょっと無駄な時間取られちゃったけど行こうか ♪ 」

そう言ってニッコリ笑う惇哉さん…

「はい ♪ 」


ってあたしは思いきり笑顔で返事をした!