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「……う〜ん…」

「どうしたんだよまどか?何唸ってんの?」

「あ…結城君…んー…ちょっとね…」

昨夜も大ちゃんの態度がおかしかった。
特にタバコを買いに戻ってから何だかずっと上の空で…
結局昨夜も大ちゃんはあたしを抱いてくれなかった…何でなんだろう…

やっぱりハッキリと聞いた方がいいのかな…

「まどかって就職?」
「え?うん…就職…」

卒業待って結婚なんて言えないからそれは内緒。

「結城君は進学でしょ?頭良いもんね。」
「うん…でも本当は直ぐにでも就職して稼ぎたいけどさ…
親の手前もあるし今の世の中男は大学出てないと色々都合悪いから…」
「そっか…男の人って大変なんだね…」
「それに浪人する訳にもいかないからマジで頑張んないとさ。でも…大学早く決まって欲しいよ。」
「なんで?」
「だってさ…そうすれば俺大学生じゃん?高校生と違ってオープンに付き合えるかなってさ。」
「そっか…」

やっぱり高校生って何かと不便なのかな…大人でも…子供でもなくて…

「なになに?付き合うってあんたら付き合ってんの?」

そばに居た女子のグループが話に加わって来た。

「違うよ。恋愛に高校生は何かと条件が不利だなって話!」
結城君がサラサラと説明する。
「なあんだ…まどかと結城君最近仲良いからさ…付き合ってんのかと思っちゃった。」
「そう見えた?」
「うん。結構クラスでも話題になってるよ。」
「違うって言っといてよ。宜しく!」
「わかった。」

「やっぱそう思われるか…」

「やっぱりあたし無理かも…結城君と付き合う事にするって言うの…」

心の中で大ちゃんに申し訳ない気持ちが湧き上がって来た。
こんな風に周りの人に言われるまでその事に気付かなかったなんて…
きっと大ちゃんもこんな気持ちだったのかな…大ちゃんが機嫌悪くなるの…当たり前だ…


今日ちゃんと大ちゃんと話そう…




そんな事を心に決めたのに今日に限ってお店が忙しくて話どころじゃなかった…

これは…お店が終わった後ゆっくりと話した方がいいみたい…




「はあーーやっと終わったな。」

大ちゃんが珍しくそんな事を言う。
いつもはやっとなんて言葉言わないのに…でも本当に今日はお客さんが沢山来て忙しかった。

「じゃああたし先に上がってるね。」

後片付けも終わっていつもの様に先にエプロンを外して外に出る。
大ちゃんは最後の戸締りをして上に上がってくるから。

とにかくこの後は大ちゃんと真剣に…真面目に話そうと決めてたからちょっとドキドキしてる。

部屋に上る階段の下に…誰か立ってて…

「あ…」
「こんばんは…お疲れの所ごめんなさいね…ちょっといい?」

そう声を掛けて来たのは…尚美さんだった。


「よし!戸締りOK!」

電気・ガスとちゃんと確認してお店のドアに鍵を掛ける。
何でだか今日は1日忙しかった…ああ…ノンビリと部屋でコーヒーが飲みたい…

「ん?」

そんな事を思いながら階段に向かうとちょっと前に帰ったはずのまどかがまだ外にいた。
誰かと話してる…ってあれは…相原さん?

今まで…全くまとまっていなかったオレの頭の中で…おぼろげな1つの仮説が出来上がってた。

あのクラスメイトの男はまどかと何でだか相原さんとを二股掛けてて…
それを知った相原さんがまどかに話をつけてると思った。

だからさっさとあの男にハッキリいってやれば良かったんだ!
だからこんな風に話がこじれるんだ。

そんな事を思ってたら絶妙なタイミングであの結城と言うクラスメイトが
2階から階段を下りてくる所だった。

あの野郎…堂々と彼女の部屋から出て来たのか?

ブチンっ!!と頭の中が切れて気付いた時には下りて来たそいつの胸倉を掴んでた。


「え?わっ!!!ちょっ…」
「え?え?大ちゃん!!??」
「坪倉さん??」

オレ以外の3人が突然のオレの行動に驚いてた。

「お前!一体何考えてる!!そんないい加減な付き合いオレは許さないからなっ!!!」

「は…?いや…ちょっと…誤解…」

「何が誤解だ?ちゃんとオレは聞いたんだぞ!お前まどかにも付き合ってくれって頼んでただろ?
それなのに何で相原さんの部屋から出てくるんだ?」

「だから…それが誤解…」

さっきからごちゃごちゃ何か言い続けてるが知ったこっちゃない!

「ちゃんと2人に説明して謝れ!」
「大ちゃん!違うの!」

まどかがオレの腕を掴んで奴から離そうとするから更にカチンと来た!

「大体まどかもちゃんとコイツに話さないからだろっっ!
オレと付き合ってて卒業したら結婚するって!!」

「 「 え っ っ ! ? 」 」

結城と相原さんが驚きの声を出した。

「大ちゃん!」

「人のものに手を出すなっっ!!!
相原さんも考え直した方が良いですよ!こんないい加減なガキっ!!」

「だから大ちゃん違うんだって!2人は付き合ってるのっっ!」

「だからコイツがお前と相原さん二股かけて付き合ってるんだろ!」

「違う!ずっと前から2人は付き合ってて結城君はあたしに尚美さんの所に来る口実の為に
あたしと付き合ってるって事にしてくれないかって頼まれただけなのっっ!!」

「!?…は?」

オレはまどかの言った意味が直ぐに理解出来なくて…固まってた。

「いいから大ちゃん手離してっっ!!」


まどかにそう言われて条件反射の様に奴の胸倉を掴んでた手を離した。




「もう…慌てんぼうなんだから!」

「…………」

オレ達4人は一度閉めたお店に戻ってテーブル席に座ってる。

オレはもう穴があったら入りたいくらいの心境で…
コーヒーも淹れる気にもならずまどかがコーヒーを淹れてくれてみんなに配りながらの一言だ。

「…………」

オレは肘を着いてテーブルに埋まりそうな頭を必死に持ち上げてる。
流石にみんなを正視出来なくて俯いたままだ。

「本当にすみません…話しを聞いた時に止めさせれば良かったのに…
彼が時間をくれって言うものだから…」

「じゃあ彼は…教師のあなたに会いに来てる事をカモフラージュする為にまどかと
付き合ってるって事にして…ここに来てるのはまどかに会いに来てるんだって事にしたかった…
ってことだよね?」

「はい…」

彼が申し訳なさそうに返事をする。

「……はぁ…知らなかったのはオレだけか…」


溜息しか出ない…何かとんでもなくオレってマヌケだ…




「でも最初はまどかが付き合ってる相手がいるなんて知らなくて…」

「…………」

オレは項垂れながらまどかを横目で見た。
まどかはオレをあえて見ない。

まったく…

「でもまどかさんにご迷惑だと思ってその話しは無かった事にしてもらおうと思って…
さっき声を掛けたんです…本当にごめんなさいね…まどかさん…
坪倉さんにもご心配とご迷惑掛けてしまって…すみませんでした。」

「すみませんでした…」

2人に頭を下げられてしまった…

「これからもお2人は付き合いを続けられるんですか?」

「え?」
「大ちゃん…」

「きっと勤めてる学校から遠い場所で彼の家に近いここを選んだんでしょ?
まどかにそんな事を頼んだのも教師のあなたが高校生の彼と付き合ってるのが
あなたの学校にわかったら何かと問題になるのは目に見えてるから…」

大ちゃんが静かに2人に問い掛ける。

「…………」

尚美さんはちょっと目を伏せた。

「ちゃんと付き合って行きます!彼女は俺の事気を使ってくれてちょっと消極的だけど…
高校さえ卒業すればもう少し自由になれるし…
確かに彼女の学校に今バレるのは避けたいからまどかに変な事頼んじゃったけど…
俺は真剣ですから!将来は俺…彼女と結婚したいと思ってますからっっ!!!」

「…大輔クン」
「結城君…」

結城君は…とっても男らしく言い切ってた。

「確かに教師と付き合っていくのは大変だと思うし…
本当なら目上のあなたが最初に彼を遠ざけるべきだったと思う。」

そう言って大ちゃんが尚美さんを見た。

「大ちゃん!」

「…………」

もう2人が無言になっちゃったじゃない!


「でも…好きになったもんはしょうがないもんな…2人共遊びでもなさそうだし…」


「大ちゃん…」

大ちゃんはちょっと苦笑い…

「…君の気持ちはわかったけどまどかを隠れみのにするのは断る!
それはもし君が逆の立場だったらわかると思う。」

「はい…」

「……だからオレを君の叔父さんって事にすればいい。叔父さんの所に遊びに来てるって…」

「え?」
「坪倉さん…」
「大ちゃん…」

「まあそれで良ければだけど…」


尚美さんは何度も何度も大ちゃんに本当にいいのかと念を押して…

結城君は何度も何度も大ちゃんにお礼を言ってた。