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「やあ…どうだった?」
「うーん…微妙かな?大分しいなの事気にはしてるみたいだけど…
そう言えばあの子半獣の瞳効かないんだね。」
「らしいね。」
耀と別れてトウマが向かった先は真鍋の部屋…
「これで進展しなかったら本当に新しい飼い主を見つける事になる。
新しいサンプルが採れると思ってたんだけどね…あの子が契約をしないなんて初めての事だから…」
「良い様に使うね…相変わらず。だからしいなが捻くれるんだよ。少しは責任感じたら?」
「なんで?半獣の生態の為だよ。あの子も納得してる。」
「するように教育したんだろ?子供の頃の純真無垢なしいなを。」
「ちゃんと見返はあげたよ。僕の愛情をたっぷりとね。」
「それも歪んだ愛情だろ?最悪。」
「そんな事ないよ。お前には分からないだろうけどね…僕に愛され事が無いんだから…」
「…真鍋は普通の俺なんか興味無いからな…」
「当たり前だろ?僕は新しい事が知りたいんだ。
あの子が半獣の能力の効かない飼い主相手にどんな行動を起こすか…
それによってどんな心境の変化があるか…見てみたい。
今まではいつも同じだったからね…飼い主があの子の言いなりだった。」
当たり前とか普通の顔で言わないでよ…
あんたに言われると結構傷付くんだからさ…俺…
「…俺が耀にちょっかい出す事でしいなに殺されそうになったら助けてくれるんだろうな?」
疑いの眼差しで真鍋を見る…怪しいんだよな…
「運があれば生き残れるだろう?」
「!!この薄情者!!外道がっっ!」
「半獣の未来の為に犠牲になりな…トウマ。」
「なるかっっ!」
絶対この見返は貰うからな…真鍋!!
『…ふぁ〜…』
誰もいない部屋の中で今日何度目かの昼寝から目が覚めた。
どうもこの姿になると眠くなってかなわない…ガキだからか?
時計を見ると耀が帰って来るにはもう少し時間がある。
暇つぶしに玄関を見に行く。
オレの遥か頭上のドアノブはまだ廻る気配は無い…
『…………』
仕方なくリビングに戻る途中耀の荷物が置いてある部屋の前を通った。
扉が少し開いてる…オレが自由に部屋の中を動ける様にと耀が全部の扉を開けて行った…
別にこの部屋は開けて行かなくてもいいだろうに…ドアの隙間から頭だけ入れた。
いつの間にかしっかり整頓されてて綺麗に片付いてる…
『全く往生際が悪いな。』
この部屋なんかで生活させてたまるか。
『…しかし…荷物が多いな…』
まああのアパートの荷物全部持って来たからな……流石に家電の類は処分したが…
細々としたモノが多い。
オレなんか飼い主が変わっても荷物なんてみんな置いて行った…
人間との思い出なんていらないし……
『ん?』
何気にベッドに目が行く……
『 ウ オ ッ !! こっ…こ…これは!! 』
思わず叫んでベッドに飛び乗った。
『うそだろ…マジか……』
こんな事初めてだ…感動で身体が震える!
『こ…これは…このクッションは……あの時のクッションじゃねーかっっ!!!』
オレの目の前にはあの時のフカフカのクッションが光り輝いてた!
『まだ持ってたのか…今まで全然気付かなかった…って事はまさかこのベッドもか?
マジか?オレってばそんな思い出のベッドを壊そうだなんてしてたのか?』
…このマンションに耀の部屋の荷物を持って来る事は気が進まなかったが…
『持って来て正解だったな。』
オレはウキウキでクッションに頭を乗せて身体はベッドに投げ出して寝そべった。
『何だよ…和むじゃん…』
クッションからは耀の匂いがして余計和んだ…あの日の出来事が鮮明によみがえる…
あのアパートの人間が引っ越した後だったと分かって…もう二度と会えないと諦めてた…
でも亨の大学で耀を見付けた時は思わず信じてもいない神様に感謝した。
だから亨を使って耀を飼い主に選んだ。
その代償に亨に言われるまま2人の飼い主に飼われる事になったが早々に満足させてやって
契約を打ち切らせた。
「ただいま…」
しばらく待ったけど部屋の中は静まり返ってる…
「しいな?」
リビングに真っすぐ向かったけどしいなはいなかった。
「?…おかしいな…いないはずないのに?」
不思議に思って1つずつ部屋を探し始めた。
まさかと思ってたオレの荷物の置いてある部屋でしいながベッドの上でクッションを枕に眠ってる。
「しいな…?」
ぐっすりと眠ってるのか起きる気配が無い。
「何だよ…この部屋の事文句言ってたのに…」
オレはベッドに腰掛けて両手を着いて眠ってるしいなを覗き込んだ。
「可愛いなぁ〜 ♪ 」
今日はちょっと気分が落ち込んでたけどしいなの寝姿を見てたら大分気分が軽くなった。
オレってゲンキン!!
「しいな…」
頭をしいなの身体に擦り寄せた。
『…ん?』
「ただいま…しいな…」
『ああ…お帰り…ん?どうした?』
「ううん…何でも無いよ…」
オレはそう言ってしいなを抱きしめた……