06





午前1時になろうという頃…
オレはまたワゴン車でマンションの裏の公園に連れて来られた。

この公園はそんなに広くないけど憩いの場てして昼間は結構子供が遊びに来る。
オレも狼姿のしいなと昼間良く来る。
しいなは子供達に撫でられて揉みくちゃにされるからあんまり好きじゃないらしいけど
オレは子供達に撫でられてるしいなを見るのが好きだ。


「しいな……」

ここに来るまでの間誰かの部屋に連れて行かれた。
また何かされるかとびくびくしてたけどこの人達の仲間と島崎さんの犬の事が
あったからか彼等は何もしなかった。

…でも…しいな人の姿に戻れたのかな……きっとそれもあってこの時間なんだ。

腕を掴まれて連れてかれる…見慣れた公園も何だか今は違う場所みたいだ…

「この辺りで待ってりゃわかんだろ。」
駐車場から広場に入る入口で立ち止まる。

「お!」

オレ達が立ってる反対の場所から人影が近づいて来た。
あれは…

「大丈夫?耀…」

トウマさん……しいな元に戻らなかったんだ…
仕方のない事だけど…オレは何故だかがっかりした…

トウマさんの片手にはキャリーバック…もう片方は後ろ手に縛られて口を塞がれた男の人…
あの人がこの人達の仲間…?
それにトウマさんは自分が半獣だって判らない様にフード付きの上着を着てる…

「そいつに犬持たせろ。」
「その前に…教えてよ何でこのワンちゃんにここまで?」

「……その犬の飼い主に買い取って貰うんだよ。」

「買い取る?」

「自分の子供みたいに可愛がってるのさ…その犬を…」
「でも耀に預けた娘は大学生だろ?」
「アイツはその婆さんから預かったんだよ。今頃飼い主の婆さんは優雅に旅行中だ。」
「何でわざわざ預かった犬を他人に預ける?」
「オレが狙ってるの知ってたからだろ…ビビって逃げ出したんだろう。オラ!いい加減犬渡せ!!」

「…ふむ……と言う事はこのままこのワンちゃんを渡すと悪用されるのか?」

「!?…はあ?お…お前今更渡さないとか言うつもりじゃないだろうな!!
こっちにはコイツがいるの忘れんな!!」

「ン!!!」

グイッと後ろから首に腕を廻されていつの間に出したのか手には折りたたみのナイフが握られてた!

「………う…」
「あーあんまりその子いじめない方がいいと思うよ…」
「はあ?何言ってんだ!!いいから早く犬だよ!!」

「 犬犬うるせえんだよ! 」

「!!!」

え?この声ってしいな?
しいなの声がすぐ後ろから聞こえた…仔狼姿のしいなの声じゃない…戻ったの…しいな…

「なっ…!!いつの間に…!?」
オレもだけど彼等もしいなが近づいたのに気が付かなかった…
そう言えばしいなもトウマさんも足音させないで近づくの得意なんだよな…

「グッ!!!」

スッとしいなの腕がオレ達の後ろから伸びてガシッっと彼のナイフを持ってる腕の手首を掴んだ。

「…ぐっ…何!?」

どんなに動かしてもびくともしない…
そう言えばドアの鍵とチェーンをいとも簡単に引きちぎっちゃうほどの怪力の持ち主だった。

「テメェ!!」

すぐ横にいたもう1人の人が動いた瞬間しいなの蹴りが彼のお腹に入った。
あんまりにも素早くてしいなの脚が見えないんですけど……

「ガハァ!!!」

とっても痛そうなうめき声を出して蹴られた彼が遥か彼方に転がって行った……うそ…

ガシッ!!っと今度はオレの首に廻された腕の手首を掴んだ!
だから彼は両手首をしいなに掴まれて簡単に広げられたからオレはその隙に逃げた。

「舐めた真似してくれるよな…しかもべったりと耀にくっ付きやがって…」

「……っで!!!」
「!?」
彼が急に苦しみ出した?

「覚悟しやがれ…」

「ぎゃあ!!」

「え?しいな?」
見た目はしいなが何をしてるかわからない?
「おい!いい加減にしとけよしいな!」
「トウマさん?」

「握り潰して手首の骨折る気だよ…」

「ええっっ!!」

オレはびっくりでしいなの腕を掴んだ。
良く見ると本当にぎゅっと手首を掴んでる!

「やめてしいな!そんな事しないで!!」

「何言ってる…コイツ等はそれだけの事したんだよ…コイツの骨折ったら残りの奴等の骨も折ってやる!」

「やだ…そんなのダメ!!しいな!!お願い!!」

オレは必死にしいなにお願いした…
だっていくら何でもオレのせいでこの人達がそんな目に遭うのやだもん…それに…

「…………チッ!!」

しいなが呆れた顔でオレ見ると掴んでた彼の腕を離してくれた。

「自分がコイツ等にどんな目に遭わされたかわかってんのか?」

「わかってるけど…しいなにそんな事して欲しくない…」

オレはいつの間にか半ベソで今にも涙が零れそうだった。

「………ったく…」

自分の事よりオレの心配かよ…ホント甘い奴!



「トウマ後任せたぞ。」
「ああ…知り合いの刑事ももう来る頃だしな。」
「その犬も今夜は預かってくれ。誰にも邪魔させない。」
「ヘイヘイ…じゃあゆっくり休みなね…耀。犬は明日連れて行くから…」
「でも…」

「後の事は上手くやっとくから心配しなくて良いよ。オレ達こう言う揉め事慣れてるから大丈夫!」

「え?」
「いいから…ここはトウマに任せとけばいい。
前に警察の上層部の奴に飼われた事があるからそっちのコネがあるんだトウマは。」
「え?そうなの?」

しいながオレの肩に腕を廻して抱え込むように歩き出す。
オレは気になりながらもホッとしてる……今しいなが隣にいるんだ…
あんなに会いたかったしいなが…

「ゆっくり休めればいいけどね…耀…ちょっと無理かな……」

そんなトウマさんのボヤキはオレに聞こえる筈も無く…
オレはしいなに促されるままマンションに戻った。