09
「あなたはこの子の相手として選ばれたの。」
「…………なんの?何の相手?」
やっとの思いで聞き返した…それもかなりの精神力が必要だった…
「恋人!」
「…………恋人ぉ〜!?」
もうオレはビックリだ!
大体あの猫だった真白がこんな人の姿になったのにも驚いたのに
何でオレがその真白の恋人にならなきゃいけないんだよ?
「順を追って話すわね。まず私人じゃありませ〜ん ♪ 」
「…………はあ???ちょっ…何言ってんの?」
いきなり真顔で何言い出すんだか…
「元は魔女なの。ある事情からこっちの世界にお邪魔してるのよ。」
「…………」
もうオレの頭の中はどうなってるんだか…猫が人になってしかも同僚が魔女だって??
「そんな目で見ないでよ。信じられないのも仕方ないけどちょっと位の魔法なら使えるのよ。
こっちではあんまり魔法使っちゃいけないからもの凄い制限あるけど…」
そう言って指を鳴らすと淹れたてのコーヒーが2つオレと彼女の前に出たっ!!!
「なっ!!…なっ…なっ……妖怪っ!!!」
オレは真白を膝に乗せたままソファを後ずさる!
「だから魔女だって。時間が無いからサッサと話すわね。会社遅刻するでしょ?」
「え?…ああ…」
チラリと時計を見ると出掛けるまでに1時間をきってた。
「私達の国には男がいないの。まあそれでも一生1人の者もいるし時々人間界にやって来て
それなりに楽しんでる者もいるわ。でも人間との結婚は出来ないの。
人間を私達の国に入れる訳にはいかないから…だからどうしても人間の男と一緒にいたい時は
魔女の能力を全て無くして「人」としてこっちで生きて行くしかないの。」
「…………」
オレは何も話す事が出来ずに無言で彼女の話を聞いてる…
話の内容を記憶するので精一杯で理解なんて追いつかない…
「ってこれはその子には関係無い話なんだけど…その子はそんな所で生活してた猫なのよ。」
「…じゃあ…普通の猫とは違うって事か?」
「ええ…こっちの世界の猫よりは頭は良いと思う。人の言葉を理解できるし
知能もこっちの猫よりは上だと思うわ…こっちの猫よりは…ね。」
「…………」
何だか気に掛かる言い方だった。
「この子「人」になりたがってるの。」
「は?」
「でも私達の魔法でもこの子を「人」にする事は出来ないの。「人」に見える姿にする事は出来るけどね。」
「なんで「人」になりたがる?」
「さあ?きっと「人」に憧れてたんじゃないの?」
「何で真白の願いを聞くんだ?米澤達にしてみたらたかが猫だろ?」
米澤と呼んで良いのか迷ったが他の名前を知らないからそう呼ぶしかない。
きっと本当の名前は他にあるんだろうけど…
「私達の国では猫は特別な生き物なのよ。そうね…友達や家族と同じ。
だからその子達が望むなら叶えてあげたいと思っても不思議じゃないでしょ?」
「……………で?さっきのオレが選ばれたって話は?」
「そう!この子が「人」になるには条件が整わないとダメなのよ。」
「条件?」
「そう…この子が「人」になる為には「人間の男に愛されなければならない」のよ ♪ 」
「……………」
しばし頭の中がパニック!?どう言う…意味だ??
「この子だってそう簡単に「人」になれるわけじゃないのよ。それなりにステップがあるの。」
「ステップ?」
「そう。言ったでしょ?この子が「人」になる為には「人間の男に愛されなければならい」のよ…
だから第一段階は飼い主とのキスを300回以上する事。」
「なっ!?」
「それって愛されてなければしてもらえないでしょ?1日平均3回で約3ヶ月…
なんだけど風間君1ヶ月で達成したわね…ふふ…そんなに毎日してたの?」
「…………ぐっ…」
ニンマリと笑われた!
確かに…「おはよう」と「行ってきます」と「おやすみ」の時にキスしてたよ…
そう言えば「ただいま」のキスもしてたし…風呂に入りながらもしてた気が…
って頭や頬だけど…
確かに数え切れないくらいしてたよ!してましたよっ!!
それを何でここで暴露されなきゃいけないんだよ!!
「ステップアップで人の姿になるのよ。でも今はまだ基本は猫のままだから耳も尻尾もあるの。」
それでか…
なんて目の前でオレに引っ付いてる真白の頭を見て納得した。
「で?この後はどんな風になるんだ?」
「ここまでの事…理解してくれたの?」
「とりあえず話は聞く。それから自分で整理するよ…」
「そう…でもその前に今までの事を少し話させてもらうわ。あなたにこの子を預けるって
決まった時からあなたの観察と調査を私が任された。だから同じ会社に勤めて…」
「えっ!?2年前から?」
「そう思ってるのは会社の人だけよ〜そのくらいの事はどうとでもなるわよ ♪ 」
「は?」
「それからあなたをこのマンションに引っ越して来る様に仕向けて…」
「はあ??何だよそれ?じゃああの管理会社が変わったのって…」
「ふふふ…」
「………マジかよ……そこまでするか?普通??」
「どこにも迷惑は掛かってないと思うけど?だって家賃の値上げの話あなただけにしたんだもの ♪ 」
「はあ?ったく!オレは大迷惑だったよ!引っ越すのにどれだけ掛かったと思ってんだよ!」
「あら?前と同じくらいの家賃で広い部屋になったんだから良いじゃない!」
「そう言う問題じゃないだろうが!」
「だって同じマンションじゃないと何かと不便だったから…
でもそんな事は出来るけど人の心までは動かせないから…」
「………もしかしてオレと真白の出会いも仕組んだのか?」
「バイクを止めたのだけね…その後は私は何もしてない…
だからあの時あなたがこの子を連れて帰るかどうかは賭けだったの…」
「ホントか?」
「本当よ…後はその子が…真白ちゃんが頑張ったのよ…」
「………」
オレはオレに引っ付いてる真白に視線を落とす…
「……ハルキ?」
「…………」
確かに…飼うと決めたのはオレだ……
最初に会った時も置いて行こうと思えば置いて行けたし…
捨てるチャンスも何度もあった…
でも…オレが真白を自分の腕の中に抱きしめた……
「本当にオレに何もして無いんだろうな?」
「だから人の心は動かせないのよ…私達にもね…」
「だから飼い主はいないだとか無責任だとかオレに色々言ってたのか…」
「だって出来ればその子を飼って欲しいじゃない ♪ 」
「…………」
「次のステップはね……その子と愛し合う事 ♪ 」
「…………はい?」
え?………聞き間違い?
「だからその子と「H」する事よ!」
「はああああ???」
「ただ!」
「え?」
「それをしようと思うならそれなりの覚悟で挑んでね!本当に良く考えてちょうだい…」
「はい?」
「1度でもその子を抱いたらあなたの身に大変な事が起こるから。」
「………な…何だよ大変な事って…」
「それは教えられないけどでも最後の一線を越えなければ何も起こらないわよ。」
「え?」
「だから逆に言えば最後の一線さえ越えなければ何をしても構わないって事よ ♪ 」
「何をしてもって?」
「え〜? ○○○○○ とかぁ…××××× とか?ああ…△△△△△とかもOKよ!」
「わあああああ!!ばっ…馬鹿か!!誰がそんな事するかっ!!
ってか真白にそんな話聞かせんなっ!!」
オレは咄嗟に真白の頭の上の耳を押さえた!教育上よろしくない!!
「こっちの耳…塞がってないわよ。」
そう言って自分の耳をちょいちょいと指差す。
「え?あっ!!」
人の形の耳がっっ!!!くそっ!!!
「?」
当の真白はさっきからキョトンとした顔だ。
良かった…理解してなかったらしい……
もうさっきから心臓に悪い事ばかりだ…
「これって…オレに拒否権は無いわけ?」
「飼い主を放棄するって事?」
「ああ…だって最初と事情が変わってくるだろ?人1人を養っていくんだぞ?」
そうだよ…食事だってキャットフードってわけにはいかないんだからな…
「この先半年間は無理ね。」
「は?」
「これ書いたでしょ?」
「え?」
何処から出したのか一枚の紙切れをピラリと見せられた。
自称魔女だからか?オレはまだ信じちゃいないが…
「…それは…」
見覚えがある…あれはペットショップで書かされた会員登録の…
「ちゃんと念を押したはずよ…自信無いのって…
そしたら貴方そんな事無いって言い切ったじゃない。」
「そりゃ猫を飼う自信はあったからだろ…」
まさかこんな事になるなんて思って無かったし…
「なっ…!?」
米澤の持ってる紙がみるみる黒い紙に変わって行く…何でだ??
「これ 「 契約書 」 なの ♪ 」
そう言ってニッコリと米澤が笑う。
「はあ??」
何だよ………何なんだよっ!!
一体どう言う事だよ〜〜〜〜〜っっ!?