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それから20分ほどして彼女の飼い主の寛と言う男が訪ねて来た。


「マジでキララと同じ猫が他にもいたんだ…」

男は 『 津田 寛 』 22歳今年大学を出たばかりの社会人1年生だ。
一応それなりの会社には勤めてるらしい…

至って普通の青年…遊んでる風にも見えないし…
大体この歳の男が猫を飼うなんて余程じゃないかと思うけど…

ってオレも人の事言えないが…


「何だよ…最近夜出掛けると思ったら仲間に会ってたのか…」
「………うん…」
「何だよ…だったら…一言言って行けよ……」
「……ごめん…」

「彼女が明日帰るって君は知ってる?」

いきなり核心を突いた。
なんせ時間が無い…

「……はい…」
「君は…それで構わないって事だよね…」
「構わないかって…あなただってわかるでしょ?ある日突然飼ってた猫が
人の姿でいたんですよ!それを信じろって言うのが無理なんですよ…」
「確かに焦るよな…でも君はそれを信じて受け入れたんだろ?」
「そりゃ……首輪は俺が買ってやったのしてるし…猫耳の尻尾の…
それってキララが猫の時と同じだったし……」

そう…やっぱり俺と同じ…
この人の姿の真白に猫の時の真白が重なるんだ…

だから納得いかないのに…やっぱりこの子は真白なんだと信じてしまう…

しかも自分の為にともなれば何だか放っておけない気持ちになる…

きっとこんな気持ちにならない相手では猫が人の姿になるまでにはいかないんだろうと思える…


「それに飼育放棄するととんでもない目に遭うし…俺危うく車に轢かれそうになったんですよ!」

「え?水やタライじゃないの?」
「それは最初の方ですよ!俺本当にそうしたらどうなるか1度試したんです!
半日で散々な目に遭いましたよ!!!そしたら半年間面倒見るしかないじゃないですか!」
「確かめたんだ…」

オレは水とタライで悟ったけど…

「それに…その後の責任なんて俺持てないし…言われてますよね?
これ以上2人の仲を進展させたいなら覚悟して臨んでくれって…」

「ああ…オレ達の身にとんでもない事が起きるって…」
「でしょ?そんなの聞いて何が出来るって言うんです…」
「でも最後の一線さえ越えなえれば何をしても良いって言われただろ?」
「そうだけど!!!」
「 !! 」
「……そうだけど…キララに…そんな事…出来ない…」
「出来ない?」
「だってそれってキララの身体をもてあそぶ事でしょ?最後まで責任持てないくせに
キララの身体だけ好きになんて…出来ない…」

「寛……」

「じゃあ彼女が嫌いで素っ気無くしてたわけじゃないんだ?」

「1度でもそんな事したらもう自分を抑えられないのわかってた…
だから絶対キララには触れないって…決めてた…ごめんな…キララ…
俺ずっとキララに触れたいと思ってたよ…でも…そんな事したら自分抑える自信なかったし…
でもそれ以上に…その後の責任も持てなくて…だから……いつも素っ気無くしてた…」

「じゃあもう彼女の事は諦めるって事だな?明日彼女が帰るのには納得したって事だよな…」

「納得もなにも…最初からそう言う約束なんだからしょうがない…
それに…もしキララを抱いた後どうなるのか…その責任ももてないから…仕方ない…」

「そうか…じゃあキララ君は何も君に気兼ねすること無く帰れるな。」
「え?」
「……なに?何だよ……」

「キララ君が君との事を吹っ切る為にオレに身体を許したんだ…
でもまだ君に申し訳ないって思ってたみたいだけど…君はそう言う考えだったんだから
別に彼女が誰と何をしようが構わないよな?」

「…なん…で?あんただって自分の猫がいるだろ?何でキララなんだよ…」

「思い出を…こっちでの思い出と君を吹っ切るキッカケが欲しかったって言うからだよ…」

「なに…」

「飼い主とのその行為は後々大変だけど他人なら関係ないんだってさ。
猫の存在を知ってるオレが相手に選ばれたって事だよ…何も心配の無い相手だもんな…」

「……キ…キララ本当か?コイツの言ってる事は本当…なのか?」

「寛…あたし……!!」

彼女が話すのを手を出して無理矢理止めた。

「だってこんな事滅多に無い事だからな…考えてもみろよ…人じゃないんだ…今のこの子達は…
そんな相手と出来るなんて一生無いからな…だとしたら後腐れも無くて最高の相手だ…」

「あんた……」

「いいだろ?別に…明日にはこの子はいなくなる…2人の記憶も消える…
何も考える事は無いだろ?君が怒るのはお門違いだと思うけど?」



彼が拳を握って感情を押さえてる…

彼の気持ちは痛いほどわかる…

「くそぉーーーーっっ!!!」
「!!」

いきなり胸倉を掴まれて殴られそうになった。

「やめて!寛!!」
「ダメ!!」
「ちくしょう!!」

彼女が彼氏を…真白がオレの前にしがみ付いて自分の身体でオレを守った。

オレはそんな真白を抱きしめて庇う…

「離せキララ!!」

「うそ…!!うそだから!!!この人と何かあったなんてうそだから!!!」

「…はぁ…はぁ…え?」
「本当はそうしようと思ってた…そうすれば寛の事吹っ切れるって…でもやっぱりダメだった…」
「キララ…」

「ごめん…ごめんね…寛……迷惑掛けて…ごめん…」

「…………」

「好きになって……ごめんね……」

そう言って…彼女が泣きながら微笑んで…涙をポロポロ溢す…

「なんで…」

「だって…あたしがこんな事したから…寛の傍にいたいと思ったから…こんな事になちゃったんだもん…
でも…明日が終われば…もう…そんな想いも無くなるから……許して…寛……」

「キララ……」

「帰ろう…そして明日の朝まで一緒に…あたしの傍にいて……いてくれるだけでいいから…
朝になったら出て行くから……ね?お願い…あたしの最後のお願い…聞いて…寛……」

涙を堪えながら…彼女が彼に抱きついてそう言った……

「ああ……帰ろう……」

彼もギュッと彼女を抱きしめる…

「ハルキ……」

未だにオレを庇ってる真白がそんな2人を見てオレの名前を呼ぶ…

「もう…大丈夫だから……」

心配そうな顔をする真白の頭を撫でてそう言った…

「じゃあハルキさん…ごめんなさい…最後に迷惑かけて…」
「いや…」
「でも…最後に寛に嫌われてるんじゃないってわかったから…嬉しい…ありがとう…」
「オレは別に……」

「じゃあ……もう会う事も無いと思うけど……」

「そうだな…」

「頑張ってとは言わないわよ…だってこればっかりはいくら頑張ってもちょっと無理みたいだし…
やっぱり…「人」になるのは難しいんだね…所詮猫は猫か…ふふ…」

「…………」

「じゃあ…さよなら…」
「さよなら…」

彼は何も言わず頭を少し下げただけで…2人は玄関のドアの向こうに消えた…


こんな事をして…明日は我が身なんだよな……

彼はこの後どうするんだろう…

彼女の事が本当は好きで愛おしくて傷付けたくないと思ってるのに…

結局は2人とも辛くて傷付いてる……

きっとさっきだって彼は彼女が部屋にいなくて外を探してたに違いないのに……


「ハルキ…」
「ん?」
「ましろおなかすいた…」
「……なっ!?お前今の状況わかってる?」
「え?」
「何か感じるものは無いの?」
「…………2人は仲良し?」
「うーん…まあそうかもしれないけど…ちょっと観点がズレてる気もしなくないが…」
「ましろはハルキとずっといっしょだからだいじょうぶ ♪ 」
「 !! 」
「ましろはずっとハルキといる……ぜったい……」
「その前に真白は言葉の練習だな。彼女見たか?あんなスラスラスラスラ…やれば出来るんだよ!」
「だからましろもれんしゅうしてるしテレビだってみてる!」
「昼ドラなんて見てるからロクに覚えられないんだよ!見てるばっかで頭の中に入って無いんだろ?」
「え?なに??なにかましろの頭に入るの?」
「………違うって……もういいよ…ほらご飯作るの手伝え。」
「は〜〜い ♪ 」
「その後風呂な…」
「は〜〜い ♪ 」


オレと真白の生活はあと約4ヶ月はある…

その間にオレは…ちゃんと答えを見付ける事が出来るんだろうか……


願わくば…あの2人がこのまま…この先も一緒にいれたらいいのに…と思いつつ…

それって他人事だからそんな事が言えるんだろうか…なんて…


オレを信じて疑わない真白を横目に…

冷蔵庫から卵を2つ取り出して真白に渡した……