07

  順番が逆ですが 『 プロローグ 』 の出会いのお話です。(1年ほどさかのぼってます。)
  椎凪 : 耀の高校の美術の教師。
   耀 : 元気×2な女の子。椎凪と同じ高校の今回は1年生。






「おっす!もっちー!!元気だった?」
「こんちゃん!おはよう。元気だったよ。」

2学期の始業式…久しぶりに友達のこんちゃん事 『今野 美玖』  に会った。

「もう夏休み中は部活部活でさぁ…3年生引退だからもう大変だよ…」
「運動部は大変だよね…」
「そうだよねぇ…どうよ?美術部?文化部の 中でも影の薄い部でさぁ…
顧問も今いない状態でしょ?」
「……うん…まぁ…」

1学期まで担当だった顧問の先生が親が倒れて介護しなきゃいけなくなって
急に辞めちゃったから…
もともと盛んじゃないオレの所属する美術部は今休部状態で…
だから夏休みも暇してたんだけど…今年は…

「 うひゃあっっ!!」

思わず声が出たっ!!
こんちゃんがいきなりオレの胸を後ろから掴んで揉んだから!

「相変わらず良い身体してるよねぇ?」
「ちょっ…もういっつも いっつもやめてよね!!」
「あんたさぁ男っぽい割には身体はエロイんだよねぇ…羨ましいわ!!」
「………もう…」
「それに夏休みの間に前より感じ易く なった??ん?何かあったのかい?」

「………ぎくっ!!」
スルドイ!!

「なっ…何にも無いよ!いつもの如く家でゴロゴロしてた。」
「まったくぅ〜〜 高校1年の夏はもう二度と無いんだよ?もっと有意義に過ごせっての!」
「…うん…」

こんちゃんは中学からの友達…
男っぽいくせに身体は女らしいって 昔からオレの胸を触る。
からかってるんだ…でも今のはすごく感じちゃった…まずい…

こんちゃんには椎凪の事は言ってない…
まさかほんの1ヶ月の間に 椎凪と知り合って…
あんな事になるなんて思っても見なかったから…

いつか…こんちゃんにも話せる時が来るといいな…
なんて思いつつ…ちょっと胸の中が チクンとなった…

……ごめんね…いつかちゃんと話すから…


「休み明け早々朝礼だってさぁ…はぁ〜〜やんなっちゃうなぁ…」
「めんどいよね… 立ったまま寝ちゃいそう…」
「あんた良く寝るもんねぇ…それに良く食べるし…それで良く太らないよ!」
「……自分でも何でだかわかんない…」
「それで この身体だもんねぇ〜〜いいよなぁ…」
「って言いながら胸触んないで!!みんな見てるじゃんっ!!」
「平気!平気!!」
「平気じゃ無いよっ!!」


「…………夏休み気分も一掃し………」

退屈な校長の話を聞いてるふりして半分立ちながら眠ってた。
気付くと…何だか周りが騒がしい…特に女子…
半分寝てたオレには何が何だか…??

「こんちゃん…どしたの?」
「あんたまた寝てたの?今に寝ながら倒れるよ?新任の先生が来たんだよ。」
「新任?」
「ほら!美術の先生…あんたんトコの顧問だった宮城先生の代わり!」
「え?そうなの??」
「なかなかのイケメンだったよ!!若いし背高かっ たし!!女子達騒いでたもん!!」
「え?そうなの?オレ見はぐったっ!!どこ?どこにいんの?」
「あれ?何処だ??」
朝礼も終わってザワザワと人が溢れ だしてて…中々見付からない。
「あ!!いたっ!!あそこ!ほら人だかりになってる!!
やっぱみんな考える事は同じなんだ!だってかっこいいもん!!ほら! 見てみ?」
「え?どれ?」

ちょっと遠くからで…しかも後ろ姿だったから…良くわかんな…
でも…確かに若くて背も高い………ん?…え?…??

「な…名前なんて言う先生?」
「え?名前?んー確か… 『 しいな 』 って言ってたなか?」

「 椎凪?? 」

思わず叫んじゃったっ!!
まさか…まさか…ね?偶然同じ名前だって…だけだよね?
後ろ姿で良くわかんないけどオレのメモリーにあるシルエットと
重なるのは気の…せい?しかも… 名前まで同じなんて………

確かめなきゃ!!


朝礼の後は傍に行けなくて…
と言うか…確かめるのが怖かったって言うのもあった…
だって…もし… もしも本人だったら…

放課後そろそろと職員室に向かう…入口からこっそりと覗いた。

「……!?いない?」
「何だ?何か用か?」
ビクンと身体が 跳ねた!振り向くと他の学年の先生…
「…あ…あの…新しい…先生は?」
「ああ?お前もか?ったくさっきから何人も…美術室じゃないのか?」
「あ…どうも…」

そっか…美術の先生だもんな…オレは小走りで美術室に向かった。


「…やっぱ近くで見るとめっちゃカッコイイよね!!」
「ここの学校ジジイとオヤジばっかだったからやったよね!
あ〜アタシ美術選考してなかった!!チェッ!」

明らかに美術室から戻って来たんだろう女子達が 愉しそうに話してる。
「…………」
…なんか…ヤな予感…こっそりと美術室を覗いた…
窓際から外を眺めてる…その姿は…やっぱり…どう見ても…

「…椎凪…?」

「 あ!耀くんだ。 」

そう言って笑ったのはいつもの…椎凪の笑顔だ…

「どういう事?椎凪が…先生なんて…オレ聞いてないよ?
フリーターじゃなかったの?」
「え?ああ…今月から就職したの。」
「今月って…前からわかってたんだろ?」
「……詳しい話は今日…オレの部屋に来て…
何だか次から次へと生徒が来るんだよね…落ち着かないから。」
「だって…注目の的だもん…若くて…背が高くて…カッコイイ男の先生が来たって…」
「え?そうなの?ハハ…それは大袈裟だな………ごめんね耀くん…」
「え?」
「また誰か来た…」
「あ……」

一瞬……椎凪がオレに謝ったのかと 思った……


「あら?貴女…」
「あ…!!あの時の…」

椎凪の家に向かう途中であの人に出会った…
あの日…椎凪の部屋に押し掛けてきた人…… 確か…

「瑠惟よ!逆帋瑠惟!あのバカ椎凪の幼なじみ!」
「あ…」
「椎凪とは上手くいってるの?」
「あの…」

この人には椎凪に気をつけろって いわれたんだよな…

「その様子じゃ…最後まで許しちゃったのね…」

そう言って顔を覗き込まれた。

「……うっ…」
おっしゃる通りで……

「まぁアイツに迫られちゃあねぇ…
よっぽどの精神力ある奴じゃないと逃げるのは難しいか…
でも…こんな幼い子に走るとはねぇ…逆にマジなのかしらね…」
「え?」
「アイツ性格歪んじゃってるからさ…」
「え?歪んでる?椎凪が?」
「あら?…そうなんだ…ふ〜ん…じゃアタシは余計な事言うの止めとくわ。
どうやらそれは2人の問題みたいだし…何かあったら相談してね。
アタシこう見えても刑事だから。」

「え??」

ホントびっくりした。



ガチャ…

何とも重い気分で椎凪の部屋の玄関のドアを開けた。
帰ってるってメールが来たんだ…

「おかえり…耀くん。」
椎凪がいつもと同じ笑顔でオレを迎えてくれた。
「…ウソつき…」
オレはリビングの入口で立ったままで開口一番でそう言った。
「…ウソついてたつもりは なかったけど…その思われても仕方ないか…」
「何で黙ってたの?オレが通ってる高校ってわかってたんだろ?」
「だからだよ…」
「?」
「だから黙って ようと思ったんだ…」
「どういう事?」
「オレが教師なんて言ったらオレと付き合ってくれなかっただろ?
同じ高校の教師と生徒じゃ尚更だ…」
「そりゃ…でも考えちゃうの当たり前だろ?」
「だから言わなかった…どうせ2学期になればバレる事だし…
だからその前に耀くんをオレのモノにしておきた かったから…
教師なんて言ったらオレの事好きになってくれないと思ったから…」
「…………それは…」
「答えられないでしょ?
でもオレは絶対耀くんを オレのモノにしたかったから黙ってたんだ。
オレが耀くんの高校の教師だってわかるまでに…
耀くんがオレの事好きになってくれるように…」
「…でも… やっぱりショックだよ…」
「耀くんだって男の子だってオレの事騙してたじゃない…」
「それは……でも…椎凪が言わなかった事とはちょっと違う気がする!」
「………そう?」

オレが椎凪を問い質しても椎凪にはあんまり気にならない事みたいに態度が軽い。
何なんだ……?


「耀くん…」

「…なに?」

すごく…優しい声だ…

「こっちに来て…オレの傍に……来て……」

そう言ってオレに手を差し出す…オレは戸惑いながらちょっと ずつ進む。
椎凪は苦笑い…

「何でそんなに警戒してんの?」
「だって…椎凪オレに何かするつもりなんだろ?」
「……しないよ…ヒドイな…」
また苦笑い…少しは気にしてるのかな?
「…あ…」
椎凪がオレの腰に腕を廻して引き寄せられた。
「何もしないって言った…!!」
オレは身体を椎凪から 離すそぶりをする。
「何で?逃げないでよ…オレ凹んじゃう……」
今度はすごく悲しそうな顔…

「……椎凪…」

「ずっと…一緒って約束したよね… 耀くん…離れたりしないって……」

優しく…それでいてギュッとオレを抱きしめる…

「……オレを…捨てたりしないって……」

「…!?…椎凪… 震えてるの…?」

微かに椎凪の身体が震えてる…

「…ねぇ…言って…そうだって…オレから離れないって…
オレの傍からいなくなったりしないって… オレの事好きだって言って……」

椎凪はズルイ…
今まであんなに抱きしめられて…キスされて…甘い言葉囁かれて…
オレが椎凪の事忘れられない様な事… 一杯して…

オレの初めて…あんなに何もかも奪ったくせに…

「ズルイ…椎凪…こうなる事わかってて…
オレにあんな色んな事…夏休みの間にしたんだろ?」

「そうだよ…耀くんがオレを忘れることが出来ない様に…
たくさん好きって言って…愛してるって囁いて…キスして…抱いて…
オレを耀くんの身体に 刻み込んだの…オレがいない生活が出来ない様に…」

「……これだから大人の男の人はズルイんだ…子供のオレをいい様に操る…」
「操ってなんかないけどさ…
オレの事を好きになってもらうって言うのはそれに近いか?」

「しかも…思惑通りに椎凪の事好きになちゃったし…悔しいの…」

「……今…オレの事好きって 言ってくれた?ホント?
オレが教師でもオレの事好きでいてくれるの?」

「………うん…だって…オレ椎凪がいなくなったら…イヤだし…それに…」
「それに?」
「椎凪がオレ以外の女の人と付き合うのなんて…やだもん……」
「……耀くん…」
「あーーー恥ずかしいっっ!!もう2度と言わないからっ!!はぁ〜〜 やだやだ…!!」
「なんで?もっと言ってよ…いつも言って…そしてオレを安心させて…」
「なんで?安心させて欲しいのはオレの方だよ…もう…」
「そうなの?」
「そうだよ!!」

椎凪はホントかウソか…
自分が学校の女子の間で注目の的って言う事がわかってない…

ホントに安心させて 欲しいのはこっちの方で…
これからオレは毎日ハラハラドキドキしながら学校生活を送らなきゃいけない…

「耀くん…」
「ん?」
「オレに…キスして…」
「……!?えっ!!」

「今までしてくれた事ないでしょ?だから…
オレに…耀くんの愛をちょうだい…証をちょうだい…」

「…………」


椎凪がオレをジッと見つめる…椎凪は…オレが…
オレから椎凪にキスする事がどんなに大変な事かわかってる…
今までオレから椎凪に キスをした事は無い…恥ずかしくって…出来ない…
身体まで許してるのに…変だけど…それとこれとは別だから仕方が無い…
だから…

「……好きだよ…椎凪……」

そう囁いて…
背伸びして…椎凪にチュッって…キスをした…

椎凪はうるうると瞳を潤ませている…
大人の… 男のクセに…まったく泣き虫だ。

「 ……はぁ……心臓が…止まりそうだった…別れるって…嫌いって言われたら…
どうしようかと思ってた…… 生きた心地がしなかったんだ…最近ずっと…」

「……椎凪…」

「よかった…ホントよかった……オレ嬉しいよ…耀くん…」

「んっ……」

今度は椎凪からオレにキスをする…
いつもより激しくて…息が出来ないくらいの…深い深い…キス…

「……んっ…はっ…ちょっ…椎凪…ちょっ… と待っ…」
「なに?最高にいい場面なのに…」
椎凪がオレの唇から自分の唇を離さない…

「これからの事なんだけど…」
「これから?」
「うん…だって一般常識で言ったらオレ達付き合ってるのってマズイって事だろ?」
「まぁ…教師と教え子だからねぇ……ああ…でも 『 教え子 』 って何かいい響き……」

椎凪がなぜか浸り出した…もう…椎凪ってば…

「いい?学校では先生と生徒だからねっ!!
絶対オレと椎凪の事は人に知れちゃダメなんだから!!」
「わかってるよ。もう心配性だな!耀くんは。」
「ホントわかってる?なるべくオレに話しかけて来ないでよ!!」
「ええ?そこまで?別に普通に話すくらい 他の生徒と同じでいいじゃん。」
「ダメだよっ!!何処でボロが出るかわからないだろっ!!
それに見る人が見ればわかっちゃうかもしれないだろっ!!」
「ええ〜〜〜…つまんないなぁ…そんなの…」
「つまんないって…そんな事言ってる場合じゃないだろっ!!
バレたらオレは退学で椎凪は教員免許剥奪だよ!! きっと!
だから用心にこした事ないのっ!!わかった?椎凪!!」
「………はぁ〜〜〜い……」
「あーーーもう何?その返事っ!!やる気”0” だなっ!!
椎凪はわかってないんだよっ!!なんでいつもそう軽いの??信じらんないっっ!!」

「だってオレ上手くやる自信あるも〜〜〜ん ♪ 」

た…確かに椎凪なら上手く誤魔化していけそうだ……
でも…オレは大丈夫かな…自信が…無い…

「そう言えば美術の先生って事は美術部顧問に椎凪がなるの?」

「ピンポ〜〜〜ン ♪ ♪ 当然でしょ?それに何処のクラスも受け持たないから
結構自由がききそうなんだよねぇ…修学旅行とか一緒に行ければいいのに なぁ…
美術じゃ無理かな?」
「何嬉しそうに話してんだよっ!!一緒になんか行ったって一っ言も話さないからなっ!!」
「え〜〜ホント耀くんそんなの つまんないって!!」
「用心だよっ!!じゃあ椎凪はオレが退学になってもいいの?自分だって職無くなるんだよ?」
「その時はオレと結婚すればいい。 オレ別に教師じゃなくても食べていけるし。
耀くん1人くらいなら全然問題ないもん!」

「……………」

何得意気になって言ってんだっっ!!この男………


そんな椎凪をじっと見つめて…
本当にオレは大丈夫なのかとちょっと不安になる…

もしかしてワザと学校に暴露してオレとの結婚を狙って るんじゃないかと…
そんな気を起こさせる椎凪の態度と言い方だ…
今までだって普通とはちょっと違った行動をとってる椎凪だ…
何だか有り得そうで怖い……

「これから毎日学校で会えるね ♪ ♪ 耀くん。」

ほら…お互いの立場なんか全く気にしてない椎凪…
そう…きっと本当に椎凪は気にしてなんか いないんだ…
だから…またオレは覚悟を決めなきゃいけない…

『 学校の先生 』 と付き合う覚悟…

ちょっと前は椎凪に抱かれる覚悟を決めて……
その前は椎凪と付き合う覚悟を決めた…
オレは何度も何度も覚悟を決める…

なのにその原因の椎凪はホント軽くて何も気にならない素振りで………

むぎゅうううううう〜〜〜〜!!

「いててててててて……いたぁいっっ!!何すんのっ!!耀くんっ!!」

椎凪が自分の両方の頬っぺたを 押さえてオレから逃げた。
オレが思いっきり椎凪の両方のホッペを抓ったから。

「……ムカついたから………」

「え〜〜??何?何にムカついたの ??オレ?オレなの??」

「……いろいろ…全部……」

「ええ??何それ??」


ホントなんでオレばっかこんなに考えなきゃいけないんだ。
椎凪の方が年上なのに……

椎凪はこんな状況をきっと愉しんでる…でも…
こんな恋がいつまで…どこまで続くんだろう……続くのかな?

オレは椎凪の事が好きだけど…
椎凪が教師と言うのをオレに黙ってた事でまたちょっと戸惑ってる…

本当は…今までした事のない…年下の相手との…
なおかつ…教え子との恋を…愉しんでるだけじゃいのかって……

いつかそんな恋という遊びに飽きて…
オレは椎凪と…別れる事になるのかな………

そんなオレに気付いているのかいないのか…

椎凪は赤くなった頬っぺたでオレに笑いかける……