06



  順番が逆ですが 『 プロローグ 』 の前のお話です。(1年ほどさかのぼってます。)
  椎凪 : 耀の高校の美術の教師兼美術部顧問。
   耀 : 元気×2な女の子。椎凪と同じ高校の今回は1年生。椎凪と交際中。






「委員会なんて久しぶりだな。」
「うん…2学期になって初めてじゃ無い?文化祭が2学期早々にあるからね…
委員会の…特に図書委員会なんて何もやる事無いし…後回しなんじゃないかな…」

あんまりクラスの特に男子とこんな話をするなんてオレとしては珍しい。
でも同じクラスの男女1人ずつの図書委員だからちょっと慣れてるし…会話もスムーズになる。

「多分秋の読書週間とか言って何かイベント的な事するのかね…この学校イベント好きだから…」
「うん…」

毎年図書委員が何かイベント考えて全校生徒がそれに参加するんだけど…
準備の手間の掛かる催し物はみんなやりたがらないから毎年そんな大した事はやってないんだけど…

「そう言えばさ……」

「 !!! 」

何気にざわついた図書室の中で今他の人達の会話に 『 椎凪先生が… 』 って聞えた気がする…

もうオレはその単語にかなり敏感に反応する様になってて…
学校にいる間は神経がピリピリとしてる…


ガ ラ ッ !

「 !!! 」

前の入り口の扉が開いて人が入って来た。
時間的にもきっと図書委員の担当の 『茂木先生』 が入って来たと思ったのに…

「どうも。2学期から図書委員の担当になりました美術講師の椎凪です。
今まで担当だった茂木先生はもともと風紀委員と兼任だったので今学期から
オレが受け持つ事になりましたのでこれから3学期まで宜しく!」

「きゃあ〜〜〜やったぁ!!」
「超ラッキー!!皆に自慢してやんなきゃ!!」
「地味な図書委員やってた甲斐があったよぉ〜〜!!」

所々でそんな声が上がってる…特に女子の間で…

「……………」

そんな中…オレだけはそんな悠長な事言ってられなかった…

椎凪の奴ぅ〜〜〜!!またオレに黙って……

椎凪はオレが睨んでるのに気付いてるくせに…まるっきりのシカトを決め込んでる!
まあここで何か言われたりされたりしても困るけど…

それにしても…今まで一っ言も言わなかったじゃ無いかぁ〜〜〜!!!

後で問い詰めてやるっっ!!



「今日は図書の貸し出し当番の順番決めと秋の読書週間に向けての大まかな
企画出しって事なんだけど…何かあるかな?当番はクラス毎で順番は学年毎?
それともアミダでランダムにする?まあ学年毎の行事に当たったら交代してもらうけどね。」

「…………」

テキパキと話を進めて行く椎凪を見ていつも思う…
こう言う時は椎凪って教師に見えるから不思議だ…

オレと2人っきりの時なんて…あんなに…あんなに……

1人で顔が真っ赤になってた…今オレの頭の中を覗かれたら赤面どころじゃ無い!

「望月さんどうしたの?熱でもあるの?顔真っ赤だけど?」

「!!!なっ…何でもありませんっっ!!!」

「そう?気分悪かったら言ってね ♪ 」

にっこりと椎凪が笑ってる…もう…ワザとなんだから…


「何?望月椎凪先生と仲いいの?」
「ええっっっ!?なななな…なんで?」

とんでもなく慌てた!!バレた??

「いや…名前知ってるから…」
「え?ああ…オレ選択科目美術だし…美術部だから…椎凪…先生美術部の顧問だし…」
「あ!そうなんだ…だからか!」

まさか恋人同士なんて事は口が裂けても言えず…

「じゃあ当番の順番はアミダでランダムね。あと読書週間のイベントは
校長先生の希望で派手にと言う事だから。」

「 ええ〜〜〜〜!!! 」

「毎年静かで物足りないんだってさ。なので次の委員会までに各クラスでまとめて来てね ♪ 
じゃあクラス代表1名出て来て!」

「望月行くか?」
「え?いやっ!!オレはパス!クジ運無いし!!船越君お願いします!」
「そう?でもクジ運って関係無い気がするけど…?」
「そんな事無いよ!頑張って!」
「じゃあ…行って来る…」

今椎凪の傍になんて行けないし…行きたくも無いよ…

チラリと椎凪を見ると…今までの軽い感じとは裏腹にじっと冷めた視線でオレを見てる…

ええ〜〜〜〜っっ!!オレ何かした????

もう心臓がバクバク言ってる…だって…あんな顔の椎凪ってば…絶対邪な事考えてるよ…




運を任された船越君はその役目を果たし早くも遅くも無い15番中8番目の当番を当てて帰って来た。

「まあまあ?」
「うん。」

船越君は気さくで話しやすい。
クラスの女子の話しだと下に兄弟がいて面倒見がいいとか。
とにかく当たり障りの無い性格で気を使わなくていいからオレは気分が軽い。

「でもイベントの企画どうするか…」
「オレそう言うアイデア出すの苦手だな…」
「とりあえず今日は各自考えて明日また話し合うか…」
「うん…何とか考えてみる…」

各クラスの順番が決まって企画は次回だから早々に解散になった。
椎凪は手際が良いからダラダラしないでさっさと切り上げる。

「じゃあご苦労様。企画よろしくね ♪ 」

ニッコリスマイルだ。
大半の女子は嬉しそう…何人かはそのまま残って椎凪に話し掛けてる。

オレは早くこの場所から離れたくて足早に廊下に出て教室に戻った。


「おい望月。」
「 ! 」

一緒に戻った船越君が教室の入口でオレを呼んだ。

「一緒に帰るか?」

「え?」

オレは船越君が何を言ったのか理解出来てない……今何て?

「何でそんな顔?」
「えっ!?いや…」

そんな事クラスの男子に言われたの初めてで…

「え?もしかして警戒されてる?」
「えっ!?いやそんな…」

どっどっどうしよう…これはどうやってこっ断れば…

「 ♪ ♪ ♪ ♪ 」

その時オレの携帯が鳴った。
ひゃあ〜〜グッドタイミング!!助かったぁ!!

「ごめ…」

メールだ…って!椎凪?え?何?

『準備室で待ってる。』

「うっ!」

オレは心臓がドクンと跳ねた!まるで今のこの状況を見てたかの様なタイミング!
まさか本当に見てた…とか?椎凪ならあり得そうで怖い……


「あ…ごめん…友達が一緒に帰ろうって…」

オレの事を廊下で待ってる船越君に伝える。
きっとオレの顔は複雑だったに違いない…ホッとしてる反面これからのことを考えると気分が重い…

「そっか!じゃあまた明日な!」

「うん…お疲れ…」

気分を悪くした様にも見えず…船越君は爽やかに手を振って帰って行った。


「……さて…これからが問題だぁ……」



微妙に重い足取りで美術室に向かう…
今日は部活は無い日だから美術室には誰もいないはず…

オレを待ってる椎凪以外は…


しかも準備室はどの場所からも死角になってて中は見えないって…
それに特別教室の一番端の部屋で誰も来ないし声もあまり響かない…
って椎凪が言ってた…

オレはその場所があんまり好きじゃない…
だって…文化祭の最終日…椎凪はオレをそこで無理矢理抱いたから…

オレはちょっと怖くて…心臓バクバクで…でも結局感じまくって……

すごい自己嫌悪になった思い出があるから……


「…………」

そっと準備室のドアを開けて中を覗くと…誰もいない…
そのまま部屋を進んで準備室のドアを開けた…

「あれ?いないじゃん…」

いると思ってた椎凪がいない…こんな事珍しい…

仕方なく中に入って古ぼけた木のイスに座って椎凪を待った。
どうしよう…携帯にメール送った方が良いのかな…

まあいいか…だって…何だかそれってオレが待ってるみたいで何となく悔しいから…


それからどの位待ったんだろう…椎凪は未だに現れない…
これは…何かのお仕置きなんだろうか…

「お仕置き?…やだ…何でそんな言葉が普通に出ちゃうんだよ…絶対椎凪の影響だよ…」

椎凪と知り合って約4ヶ月…とっても中身の濃い付き合いだと思う…
しかも自分の…学校の先生で…まだまだオレは学校に通わなくちゃいけなくて…

椎凪はオレの事すごく想っててくれてる…オレも椎凪の事が好きだけど…

時々椎凪の事がわからない時がある…

本当にオレなんかの事好きなのかなって…だってオレまだ子供なのに…


「耀くんお待たせ。」
「椎凪…」

いつもの椎凪だ…良かった…

「何?どうしたの?急に…」

オレはイスに座ったまま入口に立つ椎凪を見上げた。

「え?わかんないの?」
「え?」

カチャリと椎凪が後ろ手で鍵を掛けた…え…それって…

「何で彼氏がいるって言わないの?」

椎凪がドアを背に寄り掛かったまま腕を組んでオレを冷めた目で見下ろしてる…

椎凪は時々そんな瞳でオレを見る…

「彼氏がとんでもなくヤキモチ妬きで一緒には帰れないって断ればいいのに…
本当にそうなんだから。」

「 !! 」

なっなっ何で椎凪そんな事知ってるんだ??オレはびっくりで無言!

「何の為に耀くんの友達の前にあの恰好で現れたと思ってるの?
こう言う時に付き合ってるって言うためだろ?オレと付き合ってるって言えないんだからさ。」

「…………」
「耀くん?」
「え?あ…」

「話しはそれだけ…帰り気をつけてね。」

「え…」

これだけ?

「椎凪…?」
「これから職員会議だから…」
「あ…うん…」

さよならのキスもしないで椎凪は準備室から出て行った…

何で…椎凪…そんなに怒ったの…






「うーーーーん…」

家に帰っても一向に椎凪からの連絡は無い。
いつもなら今家に帰って来たとか…今夜行くね…とかメールくれるのに…

「はああああああ〜〜〜〜!!!」

そんなに気にするなら自分から連絡すればいいのに…オレはそれが出来ない…


まだ…帰ってないのかな…椎凪…

時計を見ると6時をちょっと廻った所…
祐輔は空手の練習で8時にならないと帰って来ないし…

オレは一大決心をしてベッドから飛び降りた!




「……はあ…緊張する…」

椎凪がいない椎凪の部屋に勝手に入るのは数えるほどしかない…

いつも開ける度にドキドキする…
中から綺麗な女の人が出て来たらどうしようって…
椎凪と女の人が裸でベッドにいたらどうしようって…


そんな事を椎凪には言えないからいつも自分の胸の中にしまってるけど…

オレはそんな不安をいつも椎凪に内緒で自分の胸にしまってるんだ…


期待は外れて部屋の中には誰もいなかった…椎凪さえも…

「何か…ホッと……」

外は何気に明るいけどもう部屋の中は薄暗い…
だから電気を点けるけど…これでオレがココに来てるってわかっちゃうな…

それとも椎凪が帰ってると思って女の人が来たりして……

オレって…後ろ向き…しかも椎凪を疑ってる?はあ……


オレは椎凪の部屋が好きだ…
だってここには椎凪がいなくても椎凪がいるみたいだから…

ソファでクッションを抱きしめて椎凪が帰って来るのを待った…

椎凪…早く会いたいな…




「……くん…」
「……ん?」
「耀くん!」
「……え…?…あ…オレ…」

寝ちゃったんだ…誰かオレを呼んだ?

「って!!椎凪!!!!」

椎凪がオレの事を真正面から覗き込んでる!!かっ…顔が…近いっっ!!

「こんな所で寝てたら風邪ひくよ。ベッドで寝てれば良かったのに…」

そんな事したら帰って来た椎凪の真っ先の餌食だろ!!!

「お帰り…」
「ただいま。珍しいね…耀くんがオレの所に来てるなんて…しかもオレがいない時なんて…」
「うん…」

ああ…なんて言えばいいのかな…なんて切り出せばいいのかな…

「今日の反省の言葉を言いに来たのかな?」
「え?」
「オレさ…大人気なくてもの凄いヤキモチ妬きって知ってるよね?」
「……うん…」

そう…椎凪は異常なまでのヤキモチ妬き…独占欲が半端じゃ無い…らしい…
他の人と比べた事無いからオレは良くわからない…
でも本人が言うんだからそうなんだと思う…

「オレの目の前であんなにクラスの男子と仲良くするんだもんなぁ…耀くんってば…」

椎凪はソファには座らずにオレの目の前に腕を組んで立ってる…

「別に仲良くとかじゃなくて…同じ委員なんだから話位するだろ?」
「耀くん祐輔以外の男は苦手なはずなのに?」
「…オレだってちょっとくらいは男子と話せるの!!…ハッ!!」
更に追い討ち掛けてどんするんだよ…オレ…
「へぇーーー…それは初耳…じゃあ今日邪魔しちゃったね…
その同じ委員の男子と帰りたかったんだろ?」
「そ…そんな事無い!!って椎凪なんでそんな事知ってるの?オレはそれが聞きたいよ!」
「内緒!教えると後々差し支えるから。」
「何それ?オレの後つけてるとか?」
「そんな事したら周りに怪しまれるだろ?」
「じゃあどうして?」
「それは…」
「それは?」

「 耀くんの事愛してるからだよ… 」

「………はあ???」

「以心伝心。オレは耀くんと繋がってるの…」
「は?」
「耀くんはオレとまだ繋がってないみたいだけど…」
「!!!……椎凪…」
「どうしてオレの部屋に来ないの?」
「え?」
「前はあんなに頻繁に来てくれたのに…」
「だって…人に見られると…危ないだろ…オレ達の関係は内緒なんだから…」

「違うだろ…突然ここに来て誰かと鉢合わせしないか心配なんだろ?」

「!!!」

「オレが他の女とイチャイチャしてるんじゃないかって…疑ってるんだ…だろ?」

「……そんな事…」

「オレは…オレの初めての 『 愛してる 』 を耀くんにあげた…」

「椎凪…」

「それは…信じてもらえないのかな…
信じてくれたから耀くんは耀くんの初めてをオレにくれたんじゃないの?」

「な…何でそんな話?オレそんな話しに来たんじゃないよ…」
「そう?じゃあ何の話しに来たの?」
「………ち…がう…」
「え?」

そう…違う…話なんてしに来たんじゃない!!!

「 !!!! 」

ソファからジャンプして椎凪に飛びついて抱きついた!

「よ…耀くん!!??」

椎凪はよろめきながら…でもオレを抱き止めてくれた。

「会いたかったからだよっ!!!椎凪に会いたかったのっ!!!」

「耀くん…」

落っこちない様にしっかりと…ギュッと椎凪に抱きついた。

「あんなにそっけない態度されて…不安にならないわけないだろっ!!椎凪のバカっ!!」

「………」

「椎凪は知らないんだ!オレがいつもいつも…どんなに不安かなんて…
いつオレの事飽きて…大人の女の人の所に行っちゃうかって…
不安に思ってるなんて知らないんだろうっ!!!バカ椎凪っ!!!」

きっと今のオレは涙目の…顔真っ赤の…何とも不細工な顔をしてるんじゃないかと思う…
だって…椎凪がビックリなのか…呆れてるのか…理解出来ない顔してるから…

自分の頬に涙が零れて…伝って落ちてるのがわかる…
ああ…オレ…こんなに椎凪の事が好きなんだ…なのに…同じくらい不安もある…

いつも…椎凪に好きって…愛してるって言ってもらってるのに…

どうしてこの不安は消えないんだろう……


「 わっ!! 」

急に身体がガクンとなって椎凪がオレをお姫様抱っこのまま歩き出した。

「椎凪??え?あっ…わあっ!!!」

そのまま2人で椎凪のベッドにダイブした!!!

「うっ!!あっ!!苦しい…椎…凪…」

椎凪がオレを抱きしめたままダイブしたからオレの上に椎凪がいて…押し潰される!!!

「ごめん…」
「……ごほっ…うっ…え?…」
「意地悪して…ごめん…大人気なくて…ごめん……」
「し…いな……」
「…不安にさせて……ごめん…でも…でもね…」

椎凪がオレの胸にうずめてた顔を上げてオレと視線を合わせる…

「オレが愛してるのは本当に耀くんだけだよ……」

「………本…当?」

「うん…本当…信じて…」

「…あ…ん…」


そう言うと椎凪はオレの意識が無くなるくらいキスで攻めた……


椎凪の 『 愛してる 』 はきっと本当なんだと思う…

オレもその言葉を聞いて…信じて…安心するのに…すぐに不安になって疑ってしまう…

きっと椎凪にあんな態度をされると…オレは不安で不安で仕方が無いんだ…

オレと椎凪が…生徒と先生だからなのかな…

椎凪が大人の男の人で…オレがまだ15の子供だからなのかな…

こんなに椎凪に必要とされて…愛されてるのに…何でオレの不安は消えないんだろう…


椎凪……オレだって…こんなに椎凪の事が好きなのに……