04

  椎凪 : とある資産家の御当主様。数ある会社を取りまとめてるグループの経営者の1人。右京の知り合い。
   耀 : 右京の腹違いの妹。草g家に狙われていてずっと逃げ回っている。椎凪に捕まって監禁!そして結婚しました!






「……ん…」

自然に…何に起こされたわけでもなく目が覚めた…
時計に目をやると時間は朝の6時半を少し回った所…

「あふ…」

何だかとっても落ち着いた気分だ…
昨夜は…心地良い疲れでぐっすりと眠れたし…

昨夜はとっても優しく彼がオレの事抱いてくれて……
いつもは辛かったり…痛かったりしたけど…あんな風な抱き方もあるんだな…
なんて思った…

それにしても…こんなにぐっすり眠れる日が来るなんて…
思ってもみなかった……

しばらくベッドの中でぼーっとしてた…

「……ん?」

何か違和感を感じて布団をめくった。
「あ!」
昨夜付けたはずの足枷が…外れてる…!!!
「え?なんで?……はっ!まさか…」
オレはベッドから飛び降りて入り口のドアに走った。
恐る恐るドアノブに手を掛けて捻った。

がちゃ!

なんの抵抗も無くドアが開いた…鍵が掛かってない…

「…なんで?どう言う事…?」

オレは心臓がドキドキ……こんな…これって…
今なら…ここから出れる…ここから逃げる事が出来るんだ…

「…………」

そんな事を思いながら…でも足はまだ部屋の中にある…
ギリギリ入り口の前で立ってる…

「…今なら…」

でも…ここを出たらまた逃げ回る生活が始まるんだ…
毎日…ビクビク怯えて…また1人…

それに……オレ……オレ……

そんな事を思いながらオレは昨夜彼が嵌めてくれた左手の指輪を…
ずっと右手で触っていた……

クルリと入り口のドアに背を向けた。
そのままベッドに戻って…ベッドの上で窓に向かって正座して座り直した。



バタン!

いつもの朝食の時間に入り口の扉が開いて彼が入って来た。

「え?」

「 !?…なんだ?」
「え…だって…何であなたが?」

彼が料理を持って来るなんて……今まで無かったし…
有り得ない事だと思ってたから…

「オレが料理運んだら変か?」
「…変て言うか…想像出来なくて…」
「…今日は特別だ。それにここで食べる最後の食事だしな。」
「え?」
どう言う事なんだろう…?
「今日からオレの屋敷で生活する。」
「え?」
「ここは一時的にいただけだ。様子見の為にな。」
「様子見?」

「耀」

「……!!!……は…い…」

急に名前で呼ばれてビックリして…一瞬動きが止まる。
名前で呼ばれるなんて…久しぶりだ……

「今日からオレと一緒に暮らす。わかったな。」

「………はい…あ…」

「ちゅっ…」

また優しい…触れるだけのキスされた…
昨日から…どうしたんだろう…

「せっかくオレが運んで来たんだ。残さず食えよ。」
「……はい…」



「…?なんだ?食欲無いのか?」

チビチビと食べるオレを見てそんな事を言われた。
「……違くて…あの…そんなに見られてると…その…なんか食べにくい…って言うか…」
「はぁ?なんで?」
「…………」

なぜか彼にじっと見られてると…ずごく緊張する…
オレも…変なのかな?

「じゃあ1人でゆっくり食べろ。」
「え?」
そう言って立ち上がった…あ…怒ったのかな…
「…?…そんな顔するな。怒ったわけじゃない…時間なんだよ。もう行かないとな…」
「あ…そうなんだ…」
そっか…そうだよな…忙しいんだもん…彼…
「後で迎えを寄こす。着替えて待ってろ。」
「はい…」
「帰るのは夜になる。」
「…はい」
「どうした?」
「………」
フルフルと頭を振った…自分でも分からないけど…何だか…変な気分だ…
「夜…会える…」
「コクン…」
「来い。」
「!!」
見上げると…彼がちょっとだけ両手を広げててくれてた…
「……ぎゅう…」
なんの躊躇も無く…オレは立ち上がって彼に抱きついた。
「どうした?」
丁度いい力加減で抱きしめてくれる…
「わかんない…昨夜から…変なんだ…」
彼の胸に顔をうずめてそう呟いた。
「………椎凪…」
「え?」
「言ってみろ…椎凪」

「……椎…凪……あの…本当に…夜…会える?」

なんで?

「?…ああ…ちゃんと会える…」

なんで…そんなこと…聞いてるんだろう…オレ…

「じゃあ…待ってる…オレ…あなたの…椎凪の家で待ってるから…」

「……ああ…ちゃんと出迎えろよ。」
「はい…」
「行ってくる…」
「はい…行って…らっしゃい…ん…」


今度は…ちゃんと舌を絡ませるキスを…ちょっとだけ長くしてくれた……



コンコン !

朝食を食べてしばらくすると入り口のドアがノックされた。

「はい…」

オレは迎えが来たんだと何の疑いもせず…ドアを開けた。




「あら?あれ宣昭さんじゃない?」
「ん?」

ラブホテルからの朝帰り…
椎凪の幼馴染み…『城嶋 芳樹』が 『麗華』 の萌ちゃん事 『萩原萌夏』 を
口説き落として夢の様な一晩を過ごした帰りの事…

まだ人がまばらな朝の街で萌夏が叫んだ。

「宣昭って…あの椎凪の兄貴のか?」
「そうよ…」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も…ウチの店の常連よ。あたしが椎凪さんの事好きだって知ってるから
何だか妙に対抗意識燃やしちゃって…しつこいったらありゃしないのよ。」
「へぇー…初耳。」
「もういっつも椎凪さんの悪口ばっか!悪口って言うか嫉みかしら…グチグチウザイのよね。
器も容姿も椎凪さんとは雲低の差なんだから当たり前なのにさ。」
「はは…凄い言われ様……」
「だって本当の事だもん。でもお客だからさ…邪険にも出来なくて…
あ!そう言えばこの前彼得意気に言ってたのよ。」
「なんて?」
「 『今度こそアイツをギャフンと言わせてやる』って!」
「ギャフン??いい年の男が…他に言いようは無かったのか?」
「でしょ?何の事か分からなかったけど…あんな奴に椎凪さんがどうこうされるとは思わないから
気にも留めてなかったんだけどね…」
「ふ〜ん……ごめん!萌ちゃん。今日はここでサヨナラだ。ちょっと気になるから後つけてみる。」
ちょっと考えてそう言いながら手を振って歩き出した。
「そう言う事なら許してあげるけど…しっかりやってよ!結果次第でまた付き合ってあげるからぁ ♪ 」
「OK!またね!!」

そう言って少し前を歩く『宣昭』と呼ばれた男を追い駆け始めた。


『椎凪 宣昭』 椎凪の腹違いの10歳上の兄である。
椎凪の父親と正妻の間に子供は無く2人は別々の愛人の間に生まれた子供で
随分前に『椎凪家』に引き取られた。
性格の違いからか…あまり経営に向いていなかった宣昭は仕事の一線から外され
椎凪が父親の後を継ぎ当主になった。
その事をずっと宣昭は嫉んでいる。

そんな宣昭が椎凪をギャフンと言わせるなどど息巻いていたとなると…
きっと良からぬ事を考えてるのだろうと容易に理解できて後をつけて来たと言うわけだ。

「こう言う時の勘って俺結構当たるんだよね〜こりゃ椎凪に恩を売れっかな ♪ ♪」



「耀が部屋にいない?」

『はい…服は着替えてありますので……まさか…』
「まさか何だ?」
『お逃げになられたのでは……』
「 !!! 」

耀の部屋にドアをノックする音が響いてから5分後…
椎凪側近の『真弓宗悟』が耀を迎えに行くと部屋はもぬけの殻だった…

「そんなはず無い!」

そうだ…朝そんな気配なんて無かった…
オレの家で…オレが帰るのを待ってると言った…あれは嘘じゃない…

『では草gの方でしょうか…?』
「それは有り得ないと思うが…とにかく探せ!必ず見つけ出せっ!!」
『分かりました。またご連絡致します。』


「…………くそ…何でだ…」

絶対…逃げ出したんじゃない。
今朝だって逃げようと思えば逃げられたのに逃げなかった…
それに……

♪ ♪ ♪

こんな時にオレの携帯が鳴った。
「ったく…何だこんな時に……!?芳樹?」
勘が働いてシカトしようかと思ったが出る事にした。

「なんだ?くだらない電話なら殺すぞ!」
『何だよ!いきなりご挨拶だな…きっとお前にとって損は無いと思うんだけどなぁ』
「だったら早く言え!オレは今急いでんだ。」
『お前の兄貴見ぃつけちゃった ♪ ♪ 』
「!!…何!?何処で?」
『お前の会社が管理してるマンションの一室。』
「お前何か見たか?」
『このマンション来る前に別の場所から来た車に乗り込んでここまで来てたけど?
タクシー捕まえるの大変だったんだぞ。』
「女連れ込まなかったか?」
携帯で話しながらエレベーターに乗り込んだ。
『ああ…あんな小娘連れ込むのにガタイの良い男2人に両脇押さえさせて連れてったぞ。』
「どのくらい前だ?」
『んー10分は経ってないと思うけど?』
「今すぐ5階の508号室に踏み込め。」
『はあ?』
「オレの名前出して管理人に鍵貰え!今から1分以内に踏み込めよ。じゃないと殺す!」
『はあ?さっきから何なんだよ?』
「いいから行け!時間が無い…頼む!」
『!!…お前が頼む?一体どうした…』

「行けっつってんだろうが…死にたいのか…」

『!!!』
「オレもすぐ行く。」
そう言ってすぐ携帯を切って車に乗り込んだ。

「ったく…何なんだっつーの…だけどあいつマジだな…しかもマジギレ!こえぇ!!…
さてと…鍵借りるなんて面倒くせえ…っと508だよな…」




「あなた…誰…」
「俺?俺はアイツの兄貴だよ。」
「アイツ?アイツって…椎凪の事…?」

オレはドアを開けた瞬間いきなりこの目の前にいる男の人2人に捕まって車に連れ込まれた。
その後このマンションに連れて来られてソファに座らされてる…

「お兄さんが何で?オレに何の用なの…?」
「お前…草gの当主の腹違いの妹なんだってな…」
「え?」
何でこの人がそんな事…
「まったく慶彦の奴…一体どうやって見つけたんだか…」
「…………」
「アイツはいつもそうだ…いつも俺の上を行きやがる…
だからお前の事を知った時身体が震えたね…これでアイツの鼻をあかしてやれるって…」
「え?」
「アイツはお前を使って草gと繋がりを持つ気だろう…」
「…………」
「草g家がお前を探してるのは知ってる…だから俺が連れてってやるよ…」
「え…?」
ものすごく…嫌な感じがした…
「だか…その前に…」
ニヤリと彼の口が笑った。
「どうせ草gの家に行けばロクな生活は待ってないんだろ?」
彼の視線かオレの足に向く…今日はこの前買って貰ったスカートを穿いてるから…
素足が見えてるんだ。
オレはスカートの裾を押さえた。
「……あ…」
「慶彦にも散々可愛がってもらったんだろ?」
「や…やだ…」
どうしよう…どうしようオレ…

「!!」

彼の手がオレに伸びた!

「……やっ…嫌っっ!!離して!!」

「無駄だよ!誰も来るもんか…ここは管理はウチだか来年取り壊しが決まってて
見向きもされてないんだ。住んでる奴だって数える程しかいない…
叫んだって無駄だよ無駄!!ハハハざまぁみろだ慶彦…」

「あ!!」

手首を掴まれてソファに押さえ付けられた!

「!!…ナンダ?指輪なんか嵌めやがって…まさかお前ら…」
「そうだよ!オレと椎凪は昨日結婚したんだ!!だからオレは椎凪のものだ!!離せ!!」

思いきり暴れた…何も構わず手足を動かして暴れ回った!

「おいっ!押さえろ!!」
「!!!!」

あの2人の男の人がオレの方に歩いてくる…どうしよう…このままじゃ…オレ…
閉じていた足に男の人の手が触れた…

「あっ……いやぁぁ!!!椎凪!!」

ドンドンドンドン!!!!!

「!!」

いきなり玄関のドアが乱暴に何度も叩かれた!

「火事だぞっ!!逃げろ!!」

「…!?か…火事!?」
部屋の中に一瞬で緊張が走って男の人が1人玄関に向かって歩き出した。


「早く開けてくれよォ〜♪ ♪ 」

玄関の前で芳樹が指を解しながら今か今かと玄関が開けられるのを待ってる。

ガチャリと玄関が外開きに開いた。
扉に手を掛けて思い切り引っ張る。

「 !!! 」

「はい!ご苦労さん!嘘だよ〜〜〜ン ♪ ♪」




「くそ…何でこんな時に…仕方ない取り合えず場所を移動…」

「それは出来ない相談だな。宣昭さん!」
「!!!…お前…芳樹…何でお前がここに……」

オレの腕を掴みながらもの凄く驚いてる…誰?この人…?

「悪い事は出来ないよなぁ…宣昭さん…ってかあんたってやっぱ何やっても
ツイてないんだな…いるんだなぁ…そう言う人…こんな広い世の中で…
こんな朝っぱらから俺と出くわすなんてさぁ…と言う訳でその子離してよ。
じゃないと痛い目見るけど?」
「……お前…こいつが誰か知ってるのか?」
「さあ…ね?知らんけど椎凪に頼まれたからさ。お仕置きされたくないし…
ああ…あいつも此処に向かってるよ。もうすぐ着くんじゃないかな…
そしたらあんた一体どうなるのかね?もう椎凪もあんたの事黙認するの限界なんじゃない?」

椎凪が…ここに来る……

「う…うるさいっ!!黙れっ!!椎凪家の長男は俺なんだぞ!
なのに…何でいつもあいつばっかり…」
「あいつはあんたみたいに姑息で卑怯な奴じゃないからだろ?器が違うんだよ。
いい加減気付けよ。さて…ほらその子こっちに渡せよ。」
「うるさいっ!!おいっ!!」
そう命令すると残ってた男の人が前に出た。
そう言えばもう一人の男の人はどうしたんだろう…?

「俺様を甘くみんなよ!」

「……!!!」

「ウウォッッ!!!」

そんな声が上がったかと思うと男の人の身体が軽々と持ち上がって仰向けに床に叩き付けられた。

「護身術くらい身に付けてんだよ…しかも1つや2つじゃないんだぞ…へへ…」

「…………くっ…」
「もう観念しなって…宣昭さん…」
そう言って彼が近付くと…
「………!!!ぐっ!!」
「来るなっ!!」
後ろから腕を首に廻されて締め上げられて…ナイフを突きつけられた。
「………!!」
「そこを退け!じゃないとコイツ殺すぞ!!」
「……!!!」
息が…詰まる…苦しい…
「……うそ…ちょっとやめようぜ…宣昭さん…」
「あいつが来る前にここを離れる…どけ!」
「参ったな…」

「やれるもんならやってみろ…宣昭!!」

「!!!」
「椎凪!!」

……椎…凪…

「………耀を離せ…」
「退け!」
「それ以上そいつに何かしたらお前どうなるかわかってるよな?生きてこの部屋出れる思うなよ…」
「…………」
「オレの横を無傷で通れると思うなよ…わかってるよな?宣昭!」
「……ぐっ……」
「!!!」
そう唸るとオレの首を絞めてた腕が緩んだ。
「……ごほっ…けほっ…」
よろめいたオレの傍に椎凪が駆け寄って支えてくれた。
お兄さんは両手を床に付いて項垂れてる…ナイフを使う気も無いみたいだ…
「…しい…な…こほっ…」
「大丈夫か?」
「う…ん…!!」

バ キ ヤ ッ !!!!!

「!!!がっ……!!」

オレを支えながら隣にいたお兄さんに椎凪が思いっきり握り拳で顔面を殴った!
「あちゃあ〜〜」
「芳樹。」
「ん?」
「一応礼は言っとくがテメェ…ツメが甘いんだよ。覚悟しとけ!」
「はぁ〜〜〜??何それ?ちゃんと言われた通り1分以内に踏み込んだぞ!」
「口答えすんな。」

「横暴!」

「宣昭…今までどんだけお前の尻拭いしてやったと思ってる?
本当なら刑務所に入っててもおかしくないのを親父とオレにどんだけ世話になった?
そのお返しがこれか?ふざけんな。」

「……お前は…いつもそうだ…そうやって…俺をいつも見下しやがって…
ムカつくんだよっ!!お前だって俺と同じ妾の子供じゃねーかっ!何処が違うってんだよっ!!
親父の奴も『慶彦…慶彦』って…くそっ…」

「何処が違う?それも分からないからお前はダメなんだよ。
オレに楯突こうなんて100年早えぇ!!二度とオレの前にそのツラ出すなっ!
次はもう容赦しない!これが最後だぞ宣昭っ!!」

「……………」

椎凪がギロリとお兄さんを睨んだ…
今ままで…こんな椎凪見た事無い…とっても恐い…

部屋の中がしぃんと静まり返って…誰も話さなかった…