07

  椎凪 : とある資産家の御当主様。数ある会社を取りまとめてるグループの経営者の1人。右京の知り合い。
   耀 : 右京の腹違いの妹。草g家に狙われていてずっと逃げ回っている。椎凪に捕まって監禁!結婚して只今妊娠中!






「いやあん ♪ ♪ そんなにジッと見ないで下さいよぉ〜椎凪さん!」

「……………」

そんな言葉を投げかれられてもまったくオレの耳には入っていなかった。
「?…椎凪さん?」
「…………」

ここはいつも芳樹の奴と飲みに来てるクラブのテーブルの一席…
半ば強引に芳樹に連れて来られて店の女に囲まれながら
オレの視線は隣に座るホステスのお腹から目が離せない…

「ごめん!沙希ちゃん!こいつちょっと最近おかしいんだ。」
「え?椎凪さんがおかしいの??うそぉ〜〜〜???」
「おい!椎凪!!おいっ!!」
ぐいっと腕を引っ張られて初めて我に返った。

「…!?…ん?ああ……」

「ったく…何の為にお前を連れて来たんだよ!少しは楽しめよっ!!」
「オレは別にそんな事頼んでないだろ。無理矢理連れて来たのはお前だ。」

目の前のグラスを取って一気に飲み干した。

「わぁ〜相変わらず素敵な飲みっぷり ♪ ♪ ……でも…結婚しちゃったのよね…」

そう言いながらオレの左手に光る指輪をその場にいたホステス4人が一斉に見つめる。

「なぁ?ガラじゃないよなぁ?…ったく何か裏切られた気分だぜ。」
「うるせぇ…もうオレは帰るぞ。」
そう言って席を立った。

「 「 「 「ええ〜〜!!!」 」 」 」

「ったく仕方ないなぁ…じゃあみんなまた今度ね!」
「じゃあお見送り ♪ ♪」

店の入り口のドアまで見送りに来たホステスの1人の身体を
相手に気づかれない様にチラリとまた眺めた……

芳樹の奴が名残惜しそうにいつまでも手を振る。
「別にお前まで一緒に帰る事無いだろう?まだ居れば良かっただろうが。」
「お前が帰った後のあの女の子達のテンションの低さを知らねーからそんな事言うんだ!!
居た堪れないんだぞっっ!!」
「……ふん…知るか。」

そう言って待たせてあった自家用の車に乗り込む。
「何だよ?何で一緒に乗ってくる?自分ち帰れ!」
「いいだろ?たまには!!耀ちゃんに会いに行ったって!」
「迷惑なんだよっ!耀の身体に障る!」
「んな事無いって!そう言えばもうすぐだろ?今9ヶ月目だっけか?」
「ああ…」
「…?ん?さっきからどうしたんだよ??何か変だぞ?」
「いや……耀も……」
「ん?」
「さっきの女みたいにペッちゃんこな腹だったんだよ…」
「はあ?」

「……破裂したり……しねーよな?」

ボソッと呟いた。

「……??……はぁ????」



「お帰りなさい。椎凪…ごめんなさい…玄関まで迎えに行けなくて…」

「いいって…言っただろ…」

言いながら背広をメイドに渡して耀の座るソファの隣に座った。
「無理…してねーよな?」
「うん。大丈夫!皆がオレに気を使ってくれてるし…」
「そうか?」

ちゅっ……ちゅう……ちゅっ…

「……ん…ン…ふぁ…椎…凪…」

何度も何度も椎凪とのキスを繰り返した。

「あ…あの…俺の存在忘れてないか?」
入り口の方から遠慮がちな声がする。
「 !!!…芳樹さん!!」
「だから最初っからお前はお邪魔虫だって言ってんだろうが。」
「……椎凪…」
「お久しぶり!耀ちゃん。それにしても大きくなったね?お腹!」
「え?あ…はい…あともう少しだから…」
「重いだろ?」
「そうですね…ちょっと…重いって言うか…苦しいかな?」
「だろうね……」
マジマジと芳樹さんがオレのお腹を見る。

「見るなっ!!!バカと変態が伝染んだろっ!!」

「伝染るかっっ!!!ったく…何馬鹿って言うんだ…今のお前の事…
ホント昔のお前からは想像出来ねーよ!」

「殺されたいか?芳樹?」

「はいはい……」



追い帰す様に芳樹を屋敷から叩き出して寝室で耀と2人で寛いでる。
耀と一緒に暮らす様になってからオレにとって耀と過ごす2人の時間を
誰にも邪魔させたりはしない…

まあそんな事は口が裂けても言葉に出したりなんかしないけどな…


「ふう……」

寝室のソファに深く座って大きく息を吐いた。
最初の頃はつわりが辛かったけど今は大きなお腹で身体に掛かる
何とも言えない圧迫感が辛い。

「あっ!!!」

「!!!なんだ??どうした??」

椎凪がもの凄い真面目な顔でオレの座ってるソファに歩いて来る。

「動いてるよ。」
「なにっ!?どれ?」
「ここ!」
そう言って椎凪の手を動いてるお腹に当ててあげた。
「……うお…本当だ…動いてやがる……元気だな…」
「うん。順調だって言ってたもん。これからは少し歩いたりして動かないといけないんだって。」
「なに??こんな腹でか??」
「うん…その方が赤ちゃん産む時にいいんだって。そんな激しいのはダメだけどさ。」
「そうなのか?………耀…」
「なに?」
「……その…」
「ん?」
珍しく椎凪が遠慮がちにオレに言う。
「動いたりして…腹…破裂したりしないよな?」
「……え?」
「考えても見ろ!あんなにぺっちゃんこだった腹がこんなにパンパンなんだぞ?
ジッとしてないと風船が割れるみたいに…割れるんじゃないのか?」
「……椎凪…もう怖いこと言わないでよ…そんなはずないだろ?
だったら妊婦さん全員大変な事になっちゃうよ。」
「……だよな……ハッ!!!な…何だよ!!」
見れば耀がオレを見てクスクスと笑ってる。
「ううん…何かうれしいなぁって…」
「あほか…こんなんで嬉しがるな。」

そう言いながらオレの隣に座って肩を抱き寄せてくれる…


華奢だった耀の身体が妊娠を機にどんどん変化した。
当然の事ながら腹は出てくるし…小さい方ではなかった胸も更に大きくなったし…

身体の事を考えてもう何ヶ月も耀の事を抱いてない。
込み上げてくる抱きたい衝動をもうどんだけ我慢してるか…
耀の身体を見て何とか踏み止まってる…
こんなにしてないなんて女を知る前以来だ……
だからキスしただけでも…押し倒してぇ……

そんな中…自分でも不思議な事に気がついた…
こんなに女を抱きたい衝動があるのに他の女にはそんな衝動が起きない事だ。

耀以外…耀しか…耀が抱きたい!!!

オレに抱かれて乱れて…感じてる耀が見たい…感じてる耀の声が聞きたい…!!!

まさに『蛇の生殺し』だっつーの……




夜中に目が覚めて横に眠る耀を見た…安心しきった顔で眠ってる…

「相変わらず幼い顔しやがって……」

元々年より幼く見えるからな…なんて思いながらそっと頬に触れた。
そのままオレの方に顔を向けさせて軽くキスをした。

「………」
起きる気配は無い。
「クチュ…」
無理矢理舌を絡ませた。
「…ン!?…ふぁ…ンン…」
流石に気がついたか?

「……椎…凪?」

「!!!」
寝ぼけた…頼りなさげなその声に理性が飛んだ!
首筋に舌を這わせて舐め上げて吸い付いた。

「椎凪?…ンア…ちょっと…待っ…」

「……!!!」

服を捲り上げようとして伸ばした手が腹に触れた…その瞬間我に返った!

「…………」
「……?…椎凪?」
「………起こして…悪かった…」
「椎凪…」


困った様に椎凪が微笑んで…オレの頭を撫でてくれた…

            でも…その日から……椎凪の様子がおかしいんだ……





「何処にも異常なしですね。次は来週で…もう10ヶ月に入るから
これからは週に1回来てもらいますから。」
「はい…」

産婦人科の定期検診…もう何度目だろう…

「もう少しだね。」
「はい…」
「本当にどっちか知らなくていいの?今わかるんだよ?」
「あ…いいんです…産まれてからでいいって…」
「そう?じゃあまた来週ね。」
「はい……」


「頭に来ちゃう!!うちの旦那この前浮気したのよ!」

「…!!」

病院の待合室でそんな会話が耳に入って来た。

「うちさぁ妊娠する前は週2くらいだったの…それが今は出来ないもんだから…」
「浮気って?誰と?」
「キャバクラの女の子なんだけどさぁ…酔った勢いもあったらしいけど溜まってたんじゃない?
まったく…人がこんな身体の時にさっ!!一体誰の子供だと思ってんのかしらね!?」
「で?許してあげたんだ?」
「仕方ないじゃない…これから子供も生まれるのに離婚なんて出来ないしさ…
それにこの身体じゃねぇ…旦那を満足させてあげられないのは事実だし…」
「でも…だからってさ…」

その後も2人は話に盛り上がってたけど…
オレは歩きながら頭の中がグルグル廻ってた……

週2回の人が…出来なくなっても浮気なんて…
じゃ…じゃあ…ほとんど毎晩だった椎凪は?
もう溜まりに溜まってるって事??(なにが溜まってるんだが良くわからないけど??)


……え〜〜〜!?椎…椎凪が浮気???


そう言えば最近様子が変なんだよな…よそよそしいっていうか…素っ気ないっていうか…
あんまりオレに係わらない様にしてるっていうか…

前は夜も家に居てくれてたのに…最近じゃ帰って来るのも遅い…
それに先に寝てていいなんて言うし……
前はそんな事言わなかった……

椎凪が…浮気?そんな事考えられないけど…

じゃなきゃ…椎凪の相手が出来ないから……オレの事…飽きちゃった??とか??




「…………!!……様!?……耀様!?」
「…!!はい!?」
「どうされました?ご気分でも悪いのですか?病院に戻りますか?」
「え?」

どうやら車に乗ってからずっと考えていたらしい…いつの間にか車が屋敷に着いていた。

「あ…ごめんなさい…大丈夫です…ちょっと考え事してただけで…」
「そうですか?ではちょっとでもおかしな所があれば直ぐに言って下さい。
迅速に対処しますので。」
「あ…はい…ありがとうございます…」
「いえ…慶彦様の命令ですので。」
そう言ってオレが降りた後…車のドアを閉めながらそう言った。
「あの…真弓さん……」
「はい?」

「あの……椎凪って今…そんなに忙しいの?」

いつも椎凪の傍に居るこの人に思わず聞いちゃった…
今はオレがこんな状態だから彼は常にオレの傍にいてくれる…
検診の日は必ずこの人が付き添ってくれるんだ。

「?…まあ…慶彦様は常にお忙しい方なので今に限ってではありませんが?」
「……そう…だよね…」
「何か?」
「ううん…最近…帰って来るの遅いから……」
「ご心配ですが?」
「え?うん…まあ…」
「今までが無理をして早く帰られていたのですが…それが出来なくなっただけだと思いますが?」
「え?そうなの?」
「あなたは…ご自分がどれだけ慶彦様に大事にされてらっしゃるか分かっていらっしゃらない…」
「真弓さん……」
「何か慶彦様の事でご心配な事でも?」
「…え?…あ…ううん…身体…の事がね…無理して身体壊さなければいいなぁ…って…」
「慶彦様はそんな柔な方ではありません。」
「…だよね…そうだった…ごめんなさい…変な事言って…今日はありがとうございました。
次は来週で…これからは毎週行かなくちゃいけないんだって…だから真弓さんには迷惑
掛けちゃうけど…なんならオレ1人でも大丈夫だよ。車だって送ってもらえるし…」
「耀様が無事出産を迎えられる様に見守る事が私が慶彦様から言い付かった事ですから。
それが私の仕事ですからお気遣いなさらずに。」

いつもの…凛とした態度できっぱりと言われちゃった…
そう言えばオレ…この人に好かれて無いんだもんな…

今もなのかな…ちょっと凹むかも…

「はい…じゃあこれからも宜しくお願いします…」



屋敷に戻ってからリビングのソファに座ってボーっと外を眺める……
ああ…そう言えば久しくあの秘密の場所に行ってなかったな…

何だか無性に行きたくなったけど…今のオレの身体じゃあの場所に行くのも一苦労だ…
「そうだよな…こんなにお腹…大きいんだもん…」
もともとそんなに大柄じゃないオレは人一倍お腹が大きく見える……
思う様に動けないし…動作も鈍い……
胸も大きくなってるし…しかも血管がくっきりと見えてちょっと怖い…

マジマジと自分の身体を見下ろして…仕方の無い事だけど…

「やっぱり…普通の女に人に目が行っちゃうかな……」

なんて…ボソリと呟いてた……




「耀が?」

「はい。慶彦様のお身体の事を気遣っておいででした。」
「…で?病院の方は大丈夫だったんだろうな?」
「はい順調だそうです。母子共にどこにも異常は認められないと言う事でした。」
「そうか……いいか?宗悟…耀が無事出産出来るまでお前に任せてるんだからな…
もし2人に何か遭ってみろ…どんな事しても償いきれないと思え!わかったな!!」
「…はい…承知しています…」
「わかってればいい……」
「慶彦様…」
「ん?」
「耀様が…最近帰りが遅い事も心配なさっておいででした…
確かに以前より会社におられる時間が長くなった様な気が致しますが…
何か気に掛かる事でも?」
「………!!!!」
一瞬ピクリと顔が引き攣った。
「別に…お前が気にする事じゃない。もういい…行け!」
「…!?…はい…では失礼致します……」

そう言って一礼して部屋から出て行った。



「………言えるかっつーの…」

オレはボソリとそんな事を1人呟く。
確かに最近オレは帰る時間を意図的に遅くしてる…
別に仕事が特に忙しいわけじゃない…そんな事は前からの事で今更だ。


「……くそ…自分が…こんなにも根性無しとはな…」


あの晩…危うく耀を抱きそうになった時気が付いた…
このままだとオレはいつかきっと……耀に手を出す!!!

別に妊婦がダメとか…そんな事はない…
ただ…逆にオレの方が加減できず…とんでも無い事になりそうな気がして怖くなった。

だから手っ取り早い避難の方法は耀とあまり接触を持たない事だ。
最近じゃ耀に触れるだけで押し倒したい衝動に駆られる始末……

「……ケダモノか?オレは…いや…違う…何とか押さえてるし……」

まったく……このオレが…あんなお子様1人に振り回されるなんて……信じられねぇ…

デスクの椅子に凭れ掛かって…仰け反った。
反応の柔らかな背凭れはオレの体重を支えながら難なくオレに天井を見せる。


「……あと…どんだけ我慢すりゃあいいんだ……ハァ…
まさか…生まれる前にこんな苦労が待ってるとは…予想外だ…」