椎凪 : とある資産家の御当主様。数ある会社を取りまとめてるグループの経営者の1人。右京の知り合い。
耀 : 右京の腹違いの妹。草g家に狙われていてずっと逃げ回っている。椎凪に捕まって監禁!結婚して只今妊娠中!
「お前から誘うなんて珍しいじゃん。帰らなくていいのかよ?耀ちゃん待ってんじゃねーの?」
「うるせぇ…折角オレが誘ってやったんだ。感謝しろ。」
時間潰しの付き合いを芳樹につき合わせてやった。
芳樹がいつも行く様な女共が煩くない店だ。
当然それなりの高級さを求めるから普段よりは高い酒になる。
「いつもより高い酒飲めるんだ…有り難く思え。」
「ヘイヘイ…そう言えば後でこれまた珍しい奴が来るぞ。」
「?…誰だよ?」
「…吏!」
「…!?何であいつが?大体あいつがこんな場所に来んのか?」
「仕事となれば別だってさ。」
「は?何だ仕事って?」
「俺が椎凪と会うって言ったら会わせたい奴がいるってさ。」
「………チッ…」
「もうそろそろ来るんじゃ…お!ほれ!噂をすれば…だ!オイ!吏!」
「やあ…お揃いで…良かったよ。慶彦にも会えて。」
「オレは会いたくなかったんだけどな!」
「もう相変わらずだな…」
そう言って当然の様にオレの横に座る。
この男は『屋咲 吏』 (yazaki tukasa)24歳独身。『屋咲家』の次男坊だ。
なかなかの手腕の持ち主で仕事に関してはオレも文句は無い。
仕事では!だ。
「何で当然の様にオレの横に座る。」
「なんで?だって当然だろ?」
「当然じゃねぇ…ったく用件言ってさっさと帰れ。時間が潰せねー……」
ブツブツと文句を言った…最後は口の中でゴニョゴニョと…
「え?何?」
「気にすんな吏!マタニティ・ブルーだ。」
「は?慶彦が?」
「黙れっ!!」
「まあその事は後でゆっくりとね…紹介したいって言うのは…こちら。」
「!?」
視線の先にはいかにも全てに軽そうな若い女と年配のオヤジが立っていた。
「えっと…T・Mミュージックの社長の郷田さんとこれから売り出す新人アイドルの怜菜ちゃん。」
「吏がそう言う関係で俺達に紹介するなんて珍しいじゃん…」
「別口の仕事絡みで親父から…ね…仕方なく今回1度だけ…君達に紹介するだけって約束で。
後の交渉は自分達でどうにかしてもらう。僕はそこまで面倒は見ないよ。」
相変わらず仕事にはシビアで素っ気ない野郎だ…
ま…相手に媚び得る様な奴よりはマシだけどな…
「承知していますよ…実は椎凪さんにお話がありまして…」
「オレに?」
「怜菜!」
「はぁ〜〜い ♪ ♪」
そう甘ったるい返事をすると吏とは反対のオレの隣に当然の様に座る。
吏と芳樹の顔色が一瞬で変わる…相手にはわからないほどの変化だ。
まあ芳樹の奴はその後羨ましそうな顔になってたが…無視した。
「最近やっと顔が売れ出してきた所でして…そこで…椎凪さんにお願いがありまして…」
「?」
「慶彦さぁ橘んトコの慎二と知り合いだろ?結構気が合ってるみたいだし…
ちょっとクチ利いて欲しいんだってさ。彼メディア関係の繋がり強いしそれに
彼が係わった子って殆んどの子が超売れっ子だもん。だからだって。」
吏が言ってるのは『橘グループ』の1人息子の『橘 慎二』の事で
コイツも若いくせになかなかの手腕の持ち主だ。
どうやら『そっち』の目は特別なモノを持ってるらしく人材発掘で外れた事が無い。
親父の方の仕事でも力を入れてるらしいが本人は世界的に有名なファションデザイナー
『新城たける』のブランド『TAKERU』で働いてる…結構な役職に就いてるはずだが…
「……アイツは気難しいからオレが言ったって駄目な時は駄目だ。
それにオレがそんな事をする義理が何処にあんだよ。」
思いっきり超不機嫌に答えてやった。
「そこを…何とか…ほら!!怜菜!お前からも頼んで!!」
そう言われた怜菜と言う女がオレの方に身体をすり寄せて来た。
「怜菜…子供の頃からアイドルになるのが夢だったんですぅ〜
だからそれが叶うなら何でも言う事聞きますからぁ……
お願いします椎凪さん…怜菜の力になって下さぁい ♪ ちゅっ ♪♪」
そう言ってオレの首に腕を廻したかと思うといきなり頬にキスして来た。
「 「 !!! 」 」
グイッ!!
「きゃっ!!」
「……怜菜!!」
一瞬でその場が凍りつく…オレが怜菜と言う女の胸ぐらを掴んだからだ。
「おい…椎凪!!待てって…」
芳樹が慌てて立ち上がった。
「何勝手な事してんだ?調子に乗るんじゃねぇぞ…女!
このオレにそんな事していい女はこの世にたった1人しかいないんだよ…
でもそれはお前じゃない!!!わかったか?」
「……は……はい……」
もうオレに凄まれた女は顔面蒼白で今にも泣きだしそうだった。
「おい!お前っ!!」
さっきからオレ達の席の横に立ってるオヤジに向かって睨んだ。
「人にモノを頼む前にこいつの躾ちゃんとして来いっ!!」
そう言って掴んでた女の胸倉を突き放した。
解放された途端女はオヤジの所に逃げる様に戻って行った。
「……も…申し訳…ありません…あの…あ…改めて…また…伺います…」
突然の出来事に相手のオヤジもシドロモドロだ。
きっと今までこんな反応された事が無かったんだろう…
確かに若い女にあんな事されれば男としては悪い気はしないだろうが…特に芳樹にとっては。
「あ〜あ…折角慶彦に会わせてあげたのに…僕の顔まで潰してくれたよねぇ…」
吏が横目でそんな事を呟いた。
「え!?そ…そんなつもりは…」
「僕さ…ビジネスにこう言う小細工使うの大っ嫌いなんだ。特に女が色気でどうこうしようっての…
一番ムカつく!!」
「お前は相手が椎凪だったからだろ?」
芳樹がボソリと呟いて吏に睨まれてた。
「ま…僕の知り合いじゃなかった事が救いだね。でも親父には報告しとくよ。
親父もそう言うの嫌いだから…どうなるかな…」
2人がオレ達の席を離れる時…オヤジの方はガックリと項垂れてた。
「可哀想な事するよな…2人共…見ろよあの社長…再起不能じゃん?」
「トドメは吏だろ……オレじゃない。」
「椎凪だって同じ様なもんだろ?女の子にあそこまでするか?普通…
可哀想に…真っ青になってたぞ。」
「知るかっ!!」
「………そう言えばさ…さっきのセリフ…聞き捨てなら無いな!!」
「はぁ?」
オレは惚けて酒を一口飲んだ。
「 『この世でたった1人』って処!!!まったく!!僕が海外に行ってる間に結婚ナンカしてさ!
しかもあっという間に子供まで作って!!見損なったよ慶彦っ!!!」
「もう何度その文句を聞かなきゃいけないんだ?吏…お前しつこいぞ。」
「男同士の友情裏切るなんてっっ!!」
「友情があるなら素直にオレの結婚を涙流して喜べ!どアホっ!」
「女のモノなんかに成り下がりやがってええええ〜〜〜〜!!!」
そう叫んで抱き着いてくる!!
「やかましいっっ!!お前用事が済んだんならもう帰れっっ!!!」
「くそっ!時間潰しにもならなかった……」
あの後ぶつぶつくどくどと文句を言われ続け早々に切り上げた。
「……お帰りなさい…椎凪…」
「!?まだ起きてたのか?先に寝てろって言っただろ。」
寝室に入るとベッドで耀が起き上がった。
「……ごめんなさい…」
「別に謝る事じゃないだろ。」
「…はい…」
「?!なんだ?」
「……ううん…別に…」
「別にじゃないだろ?なんだ?言いたい事があるならはっきり言え。」
「………」
「?」
服を脱ぐのも途中にベッドの上に座った。
「耀?」
「……お酒…飲んでるの?」
「ああ…少しな。」
「そう…」
「何だ?それがどうかしたか?」
「…ううん…」
イラッ…!!
「だから何だよ!さっきから!」
「…………」
「ん?」
耀が何かボソリと呟いた。
「?…なんだ?」
「………でしょ…」
「は?」
「こんなお腹の大きなオレより…普通の…普通の女の人の方がいいんでしょっっ!!」
「はぁ!!??」
いきなり…とんでもない事叫ばれた。
オレは目が点……
「な…何言ってんだ?」
「うっ…だって…最近ずっと帰り遅かったし…オレの事避けてたし!!」
「は?」
泣きながら叫んでる…一体何なんだ??
「椎凪の…ぐずっ…夜の相手してあげられないから…オレの事飽きちゃったんでしょっ!!!」
「……!!!!…なっ…」
……なんで?そうなる???
「う…ひっく…うっく…」
ポロポロと零れる涙を必死になって拭ってる…
…なんで…なんでそんなに泣くんだ…?
「勝手に誤解して…泣くな……」
「……!?…あっ!!」
泣いてる耀を押し倒して両腕をベッドに押さえ付けた。
「…椎…凪?」
「じゃあ聞くけどな…今までみたいに抱いていいのか?」
「え?」
「子供が出来る前にみたいに…抱いていいのか?」
……フルフル…
泣きながら首を振った…そんな事…無理だもん…
「だろ?でもオレはそう抱きたい……」
「……椎凪…」
「だから…我慢してんだろ?わかるか?オレがどんだけ忍耐強く我慢してるか…」
「え?」
「今こうしてても…耀の事抱きたいんだよ…キスしただけでも…お前に触れただけでも…な…」
「…椎凪…」
「お前を…耀の事が抱きたい…他の女じゃ代わりにならないし…代わりにしようと思わない…」
「…………」
「だからそうならない様に…耀と一緒に居る時間を減らすしかないだろ?
でもそれが耀にとっては辛い事だったんだな…悪かったな…淋しい思いさせて…」
椎凪が…優しくオレの頬を撫でてくれる……濡れた頬を拭ってくれる…
あったかくて…大きくて…オレの大好きな手……
「…椎凪……」
……泣きながら…耀がニッコリと笑う…
まさかそんな風に思うなんて…ホント女って奴は良く分からない……
可愛いといえば可愛いのか?…それとも耀だから許せるのか……?
「…ン…んっ…」
久しぶりに…舌を絡めたキスをした……
「……し…椎凪…」
舌と唇を離した途端耀が甘い声を出した。
「?…なんだ?耀も欲情したか?くすっ…」
そんな事を言って髪の毛をクシャリと撫でた。
「……あの…あのね……さっきから…お腹…痛い……」
「……!!!!…なっ…なにーーーっっ!!何で黙ってる!!」
「…だって…チクチクしてただけだったんだけど…今はキュウ〜って…痛い…」
「で…でも予定日まだ先だろ?」
「…うん…でももう10ヶ月入ってるし…いつ産まれても大丈夫って…いたっ…」
お腹を抱えて痛がり出した…おいおい…
「!!!!ちょっ…ちょっと待て!!!マジかよ!!!」
オレは慌てて携帯を取り出す。
「……宗悟!!車出せ!!耀が…いや…えっと…赤ん坊が産まれる!!!!」
オレは今まで生きてきて…これ以上無いってくらい慌てまくってたっ!!!!!