03





「…ん?」

何だか耳元がうるさくて…目が覚めた…

何?何なの???

ピピピピピ……って…ああ…私の目覚ましの音じゃない…
もう…でもまだ辺りは薄暗いのに…何で?って今何時よ?

「……ふあ…」

寝起きの片目しか開かない目でジッと目覚ましを見ると…

「え?…えっと…あれ?目の錯覚???」

どう見てもデジタルの時計の表示された数字は『AM4:05』?

え?何で??なんでこんな時間に目覚まし鳴ってんの?
いつもは確か6時にセットしてあるのに……ん?何?このごっつい感触は??

私の足に何かが当たる…ん?

「え?」

横を向いて眠ってる私の胸の位置に…これは…髪の毛?
こんな所に何で茶色のウイッグが?私こんなの持ってないし…?

ムンズと掴んだら…重くて動かない…なんで??

「……ん……何だよ……もうちょっと優しく起こせよ……」

ムックリと持ち上がった髪の毛の下から…彼の顔が現れたっっ!!!!

「ぎゃああああああーーーーーっっ!!!いやあああああーーーーっっ!!!むぐっっ!!」

素早く片手で口を塞がれたっ!!

「もう…うるさいよ…由貴は…そんな大声出さなくても起きるって…」
「……ふもっ!!ふもっっっ!!もももっっ…!」
「あ?何言ってんのかわかんない…?」
「ぷはっ!!!この変態っ!!私のベッドで何してんのよっ!!!」

強引に彼の手を両手で引っぺがして朝から叫んだ!

「だって起きるの自信無かったし…朝飯由貴に作ってもらえるしさ…」
ふわぁ〜っと欠伸と伸びをしながら彼がムックリと起き上がる。
「だからって…何で私のベッド???」
そうよ…何でよ??おかしいでしょ?
「満知子さんのベッドに寝るわけいかないし…」
「ソファがあるでしょ…ソファが…」
「ソファじゃ寝不足になんの…
朝からロケだって言っただろ?もう忘れたのか?この脳味噌は?」

そう言ってデコピンされた!

「…ったい!!それは覚えてるわよ!だったら自分の部屋で寝なさいよ!!」
「だからさっきも言っただろ?起きる自信無いって…何度も言わすなよ!」
「まあ…それはこっちに置いておきましょう……惇哉クン…で?
何で君は私のベッドで寝てるのかな?」

ワナワナと怒りで震える身体と声を必死に耐えて優しく聞いた。

「ん?何で?んーだからその方が都合が良かったから?」
「はあ??」
「それに覚えてないの?
テーブルで眠った由貴をベッドに運んでやったんだぞ!オレがっっ!!感謝しろよな。」

「 !!! 」

え?それって…私…彼の前で寝ちゃったって…事?うそ…




「…………むぅ……」

「…もぐっ…朝からその顔やめろって…飯が不味くなる!」
「だって…やっぱりどうしても納得いかない!!」
「何が?」

パクリと彼が私の作った朝ご飯のスクランブルエッグを口に運びながら聞いてくる。

「あなたが私のベッドで寝る必要性!無いでしょ?どう考えてみても?」
「そう?もういいじゃん!それより由貴お茶!!それから後でコーヒー!!」
「……いい加減にしなさいよぉ〜〜この居候がっ!!」
「いでででで…」
軽めに彼の鼻を抓って引っ張る!
「やめっ!!これから撮影なんだぞっ!赤くなったらどうすんだ!!」
「ならないわよっ!軽くだもの。」
「大体本当なら夢の様な体験なんだぞ…オレに添い寝してもらえるなんてさ!」
「そんなの無くたって寝れるって言うの!もう二度としないでよね!!」

「別に由貴の為にしたんじゃない。
オレの都合だからこれからも遅刻出来ない仕事の時は一緒に寝る!」

「だったらモーニングコールしてあげるわよ!」

何威張りくさって言い切ってるのよっ!この男!!

「きっとオレ2度寝する……いいのか?遅刻して仕事に穴開けても?
事務所の利益に支障が出るかもしれないぞ?由貴の給料にも影響するかもな?」

「あ!じゃあマネージャーの三鷹さんに言えばいいのよ!起こしに来てもらいなさいよ!ね?」

そうよ!それがマネージャーの仕事でしょう?

「あいつ朝苦手なんだよ。それに最近体調悪いらしくて…休むかもしれないらしい…」
「休むって?長期で?」
「ああ…何でもこの前の健康診断で引っ掛かったらしいんだよな…」
「え?そうなの?」
「あいつ酒飲むとザルだし…結構タバコ吸うし…絶対成人病抱えてるよ。」
「ふーん…」

彼のマネージャーの三鷹さんは確か30代半ばのちょっとメタボ系…
前から不摂生な生活してるなぁ…なんて思ってたけど…ついになのかな…

「あいつが仕事休んだら今度は若くて可愛い娘にマネージャーやってもらうんだ ♪ 」

「は?」
「社長には言ってあるから ♪ 楽しみでさぁ〜〜 ♪ 」

ホント…エロ男め…この場面を隠し撮りしてネットで流してやろうかしら…
そしたら結構なイメージダウンになるかしらね…ふふ…って…ああ…ダメだわ…
そんな大物芸能人を抱えてる訳じゃ無いうちのプロダクションじゃ彼の人気が命綱なのよね…
だから社長も彼のワガママ結構聞いちゃうし……まあ私には関係無いけど。





「はーい!20分休憩入りまーす!!」

助監督の声が響いて最初の撮影から約2時間近く…初めての休憩だ。

「はぁ〜疲れた…あたし昨夜も遅くまで撮影だったのよね…」

そう言って役者の休憩場所になってる撮影現場の自然公園の中の簡単な喫茶店のイスに
腰を下ろすのは中堅に位置する女優の『池上みちる』確か年は20代後半。

今回の撮影の内容は特番の2時間もののドラマで恋愛の話。
年上の女上司と年下の新入社員の恋愛ものだ。
彼女がその上司役で2人で自然公園に仕事を兼ねてデートするって設定。

「惇哉クン今日は朝から機嫌いいわね。」

タバコに火を点けながらにっこり笑う。
大人の女の顔に仕草…そうだよな…大人の女ってこんな感じだよな…

「ああ…昨夜はグッスリ寝れたし朝からしっかり飯食って来たからね。」

「へぇ…規則正しい生活してたんだ。」

「最近ね…ねえ…池上さん。」
「ん?」

「もしも…オレが添い寝してあげるって言ったら……どう思う?」

頬杖をつきながら横目で意味ありげに見つめた…
いつもの女を誘う時の瞳だ…いつの間にかそんな事が身についた。

ガキの頃からこんな世界に身を置いてると…覚えなくていい事まで覚えた…


「やぁね…誘ってるの?」
彼女が女の顔で覗き込んで来る…
「もしもの話!」
フッと素の瞳に戻して気持ちを入れ替えた。
「!!なんだ…本気じゃ無いんだ……」
相手も一瞬でただの共演者顔に戻る。
「そうねえ…喜んで添い寝してもらうに決まってるじゃない♪
だって『 楠 惇哉 』クンよぉ〜そんなチャンス逃がさないわよ。」

だよな…普通そう言う反応だよな…
遊びなら気軽に出来るし…本気なら余計嬉しさ倍増だろ?

なのに…由貴の反応って…何なんだろう?

オレを男として見てないって事か?『 楠 惇哉 』を?

「ねえ池上さん…」
「ん?今度は何?」
「オレって男として魅力無い?」
「はぁ?どうしたの急に?何かあった?」
「んー…ちょっと…」
「無いわけないでしょ?抱かれたい男で殿堂入りした人が…よ?」
「そうだよ…な…」
「大丈夫?惇哉クン…」
「うん……別にどうって事無いんだ…」

そう…気にする事なんかじゃ無い…
オレだって由貴の事を女として見てないんだし…お互い様だ。

だから一緒にいても普通だし…まあ由貴がオレを俳優の『 楠 惇哉 』として見てないからか…
いや…それは関係ないか……

でも…今朝も思ったけど顔は悪くないと思うんだよな…
ブスって訳でも無いし…まあかと言って美人って訳でも無いか…
至って普通…だよな…

身体は申し分ないと思う。
胸もあるしくびれてる所はくびれてるし…太ってるわけでも無い…

丁度良い身体…丁度良い?誰に?……ん?

「池上さーん!惇哉クーン!撮影開始しますんで願いしますーーー!!」


入り口で助監督のオレ達を呼ぶ声がして…

何かがまとまりかかった頭を仕事が占めていった…

「そう言えばさ…このドラマのスポンサーの会社の創立記念パーティって出る?」
「ああ…出るよ。宣伝にもなるって言われてるし主役として出るの当たり前って…
池上さんも言われてたじゃん?」
「そうよね…やっぱ出ないとマズイわよね…あたしそう言うパーティとかって苦手でさ。
楽しく飲むのが好きだからお偉いさんと飲むのって疲れるのよね…はぁ〜〜」
「まあそれも仕事と思えば?オレはその場の雰囲気楽しむ方だからさ。」
「いいわねぇ〜そのポジティブな考え…」
「オレ悩むの好きじゃ無いからさ♪」