06





泊まりがけの撮影が終わってパーティが予定されてるホテルに向かってる。
この分だと開始時間ギリギリか…

『バッチリよ!楽しみにしてて ♪ 』

さっき満知子さんから送られて来たメールだ。
オレは自然に顔がニヤケる。

由貴達がオレの部屋の隣に引っ越して来て5年が経つ。

初めて由貴を見た時の第一印象は 『 真面目な洒落っ気の無い女 』 だ。

ストレートな黒髪にすっぴんかと思える顔にトドメは教育ママにも見える黒縁眼鏡だ!
しかも 『 オレ 』 を見ても無反応!ウソだろ!?

スカウトされて中学の時には俳優として売り出して結構な評判で騒がられた。
自分の性格に合ってたのか仕事が楽しくて楽しくて一番羽目も外してた頃だった。
だからそんなオレに素っ気ない由貴の態度がちょっと癪に障って突っ掛かって絡んでからかって…
嫌な思い沢山させたはずなのに…

由貴は母親に言われたからってオレの事を嫌がりながらも世話をやいてくれた。

オレをその辺にいる普通の男扱いする女…

「さてさて一体どんな姿になってるんだ。」

もとは悪く無いんだからソコソコ良いんじゃないかと思うんだけど…
満知子さんだってあんな風に言うって事はオレをガッカリとはさせないだろう。

逸る気持ちを押さえてロビーの中を歩く。
結構な人混みで場所決めときゃ良かったか…知ってる顔も何人かいて軽く挨拶をする。

「どこだよ?まだ来てないのか?」

大袈裟にならない様に周りを見渡す…いない…どう見てもいない!
時間も迫って来て会場に入らないと…

「ちょっと!!」

「 ? 」

「さっきから目の前で待ってるでしょっ!!!」

「え?」

声の方に振り向くと…

アップされたちょっと焦げ茶色の髪に凜とした綺麗な眉毛…
ハッキリとしたちょっとキツイ感じの瞳に薄化粧の頬…
黒のドレスに赤よりは少し控え目な唇が映える…
細くて綺麗な脚に引き締まってる足首…
キラキラ光るダイヤモンドを散りばめたピアスにネックレス…

「?…誰?」

本当に誰だかわからなかった…
綺麗で形の良いバスト…ドレスのあいた胸元にはかなりのボリュームの
胸の谷間が見えて思わず釘付けになる!

「ちょっと何処見てるのよっっ!おバカっ!!」

「え?」

そう言われて目を凝らす。
その声にオレに対するその物言い…

「 由 貴 !? 」

「もう遅いじゃない!社長先に行っちゃったわよ!急いで!」

「あ…ちょっ…」

な…何だよ…ゆっくり観察出来ねーじゃねーかっっ!!





「本日は私どもの会社の記念すべき……」

駆け込む様に入った会場は入った途端ゲストとしての紹介と挨拶の為に由貴と別々になった。

一瞬のチラ見と後ろ姿と…クソッ!会場を見渡しても由貴の姿は見えない…
仕方ない自由に動ける様になるまで諦めるか…


それから約30分…やっと開放され由貴を捜す。


「惇哉君〜 ♪ 久しぶり ♪ 」
「やあ楠君!」

途中何度も知り合いに捕まり時間を取られた。

気ばっかり焦って落ち着かない…


「どこだよ…」

ちょっとした人だかりに遭遇した。
ウチの事務所の社長がいた…やっと見つけ…た…

「…………」

社長の横に立って飲み物片手に周りの奴らに相槌をうつ女…あれが…由貴なのか…?

「あ!」

女がオレに気付く。

「社長楠君です。」
「ん?おお!惇哉君!」
「…………」

オレは頭が真っ白…視線は女に釘付けだ。

「ん?ああ…見違えただろ?柊木君だよ。流石柊木満知子の娘さんだよね。」

「…………」

由貴はオレを見ないで正面を向いたままだ。

「馬子にも衣装だな。」

由貴の傍に近寄ってからかう様に話し掛ける。

「……だから正装するの嫌なのよ!あっち行って!」
「なんで?じっくり見せろよ ♪ 」
「だからヤなの…」
「だから何で?普通褒められれば嬉しいだろ?」
「私は嬉しく無いの!」
「ん?」

何でだか機嫌の悪い由貴だ。
でも…そんなに化粧が濃い訳でも無い…良く見ればいつもの由貴だ。
眼鏡をかけて無いだけで…

なのに何でこんなにいつもと違うんだ…?

「由貴…」
「…何よ!」
「オレに良く見せて…」

耳元に囁いた。

「!!何よ!くすぐったい!それにどうせからかうんでしょ!」
「からかわない…ホント…良く見せて…」
「……勝手に…見れば良いじゃない…」
「じゃあこっち向いて。」
「嫌!」

「由貴!オレが見たいって言ってるんだぞ…」

「…………」

思いっきりの嫌々の渋々だ。


「へえ……」

頭の上から爪先まで何度も往復で見た。

「やっぱり胸の谷間に目が行く…」
「バカッ!」

振り上げた由貴の右腕を簡単に避けた。

「まったく…私の半径2m近付かないで!」
「やだね!」

「あ!」

由貴の肩に腕を廻して抱き寄せた。

「3日振りだな…由貴。」
「もう…せっかくの気楽な生活が…」
「淋しかったろ?」
「だ・れ・が・!!清々してたわよ!」
「ふ〜ん ♪ 」
「惇哉君ちょっと!」
「はい?」

社長に呼ばれて由貴から離れた。

マジにホッとした顔すんな!!

社長にはテレビ局の関係者を紹介された。
とりあえず社交辞令スタイルで適当に話しを合わせて笑う。
仕事してるんだから当たり前だし…まあくだらない話しばっかだけど…
そんな話しをしながら視線は由貴を追う。
遠くから見るとスタイルの良さがわかる。
普段と変わらないはずなのにあの服は大人の女の色気ムンムンだ。

あれ…気付けば数人の男に囲まれてる…しかも1人減れば新しく誰かが加わる…
由貴の傍に近付く野郎共はみんな由貴の胸元をチラチラと見てる…


ム カ ッ ! ! !


「ん?」



何だ?この不快感は…?




社長達の話しがやっと終わって速攻由貴の所に戻る。

「由貴!」

一瞬視線だけオレを見て目の前の男と話し続けてる。
きっと他愛もない話しなんだろうけど…

「由貴!ちょっと!」

「あ!」

グイッと腕を引っ張って連れ出した。

「悪いね。ちょっと急用!」

呆然と立ってる相手の男に一応声を掛けて連れ出す。
途中由貴の持ってる飲み物のコップをウエイターに押し付けた。

「ちょっと何?どうしたの?」

会場の外の廊下に出た途端流石に由貴がオレの掴んでた腕を振りほどいて立ち止まる。

「…………」

「あなたゲストでしょ?いいの?こんな所にいて?」
「少しなら平気。」
「で?何の用?」

「………」

何の?……別に用なんて無かった…ただ由貴をあいつ等から引き離したかっただけだ…

「?楠君?」

カチン!

「その 『 楠君 』 ってやめろよ!何でよそよそしいんだよ!」

「は?」

由貴はオレを呼ぶ時は 『 あなた 』 か 『 楠君 』 だ。
何でだか今そう呼ばれる事が無償に腹が立った…

「どうしたの?いつもそう呼んでるじゃない?」
「だからヤなんだよ!」
「…って言われても…」

違う…今そんな話ししたいんじゃ…

「由貴?」

「!?」

後ろから由貴の事を呼び捨てにする奴がいた。

誰だ?


「……小西…さん…」

「久しぶりだな…6年?7年振りか?」

そう言って近付いて来たのは30前後の結構ガタイのいいブランドのスーツに身を固めた男…
髪をオールバックに流してなかなかの顔立ちだ。
ホステスの女にモテそうなタイプってのが第一印象…あんまりオレは好きなタイプじゃない…
儲け重視な経営者タイプ。

オレのそう言うタイプの見分けは結構当たる。
長年そんな奴等と付き合って来たせいか…身体が感じるんだ。
でも…何でそんな奴が由貴を?

「お宅誰?」

由貴を庇う様にオレの背中に隠した。

「君は楠惇哉君だね。俺はワールド企画の小西です。お噂はかねがね…
今度是非ウチの仕事お願いしたいな。」
「仕事?」
「色々なイベントやCMの製作なんかも扱ってるんでご出演願えれば…」
「事務所通しての話しなら…」
「はは…そうですね………由貴…」
「…………」

オレを通り越してオレの背中の由貴に話し掛ける。
由貴はさっきから無言だ。

「あの頃は俺も若かった…色々あったが今度ゆっくり食事でもしよう。
……相変わらずお前は綺麗だな……では失礼…」

最後はオレにそう言って奴も会場に入って行った。

「…………」

オレは輪をかけて超不機嫌になる。

「何だアイツ?」
「……昔の…知り合いよ…彼も言ってたでしょ…もう6・7年会って無かったわ…」

知り合いって顔じゃないだろ?何だその凹んだ顔は?
明らかに昔アイツと何かありました!って顔じゃないか!

「由貴!」

「?」

「アイツと…」

「惇哉君!」

「!!」

会場の入り口のドアが開いて女優の池上みちるが顔を出した。

「もうそんな所にいた!みんな呼んでるわよ。テレビの取材ですって!はい!集合!」

「…………」

オレが行くまで彼女が動こうとしないから仕方なく由貴との話しを切り上げた。


「由貴行くぞ…」

「うん……」



帰ったら……しっかり話し聞いてやるっっ!!


オレはそう心に決めて…またパーティの会場に戻った。