08





次の日の朝…預かってる合鍵で彼の部屋の玄関を開けて勝手に中に入る。

あれだけ彼に図々しく人の家に勝手に入るな!と文句を言うくせに
しっかりと彼の部屋の鍵は持ってると言う…

だって…彼が大分前に強引に私の手の中に自分の家の鍵を握らせたんだもん…

『 由貴は持ってていいんだよ。 』

って…そんな風に言われたら返せないじゃない…


昨夜彼が朝起こしてくれって言うから…言われた通り起こしに来た。

既に知ってる彼の寝室に向かう。

『 オレの寝てる寝室に入れるなんて泣いて喜ぶ事なんだぞ! 』

って彼は言うけど…目覚まし代わりなんだからそんな喜べる事じゃ無いと思うのよね…




「 …おはよう… 」

とりあえずそっと寝室のドアを開けた。
声を掛けても返事が無いからきっとまだ眠ってるんだよね…

時間は朝の5時をちょっと廻った所…

「楠君?」

彼の事を呼ぶのはあまり好きじゃ無い。
いつもはわざわざ名前を呼んだりしないでも話せるから…何だかとっても恥ずかしい。


ドアとは反対の壁に向かってベッドの頭があるから仕方なく寝室に入る。
ハッキリ言って彼はあんまり寝起きは良くない。
だから起こすのに一苦労するんだけど…仕事となれば起きるかしら?

「ねぇ…起きて!時間よ!!」

潜り込んで盛り上がってる掛け布団の上から身体を揺すって起こした。

「……ん……」

あ!起きたかな?とりあえず第一段階成功かな?

「楠君!!起きて!!」
「……んーーー…」
「仕事!遅刻するわよ!朝ご飯の支度出来てるから…着替えたら家に来てよね!」
「………くう…」
「…もう…」

返事が無くなったって事は…また寝たわね…こうなると起こすのちょっと苦労するのよね…

「もう!!こらっ!!起きなさいってばっっ!!起きないとくすぐるわよっ!!いいの?」

「…………」

まったく…一緒に寝た時はあんなに寝起きが良いくせに…何でよ?

仕方なく掛け布団の端をムンズと掴む。
このまま引っ剥がす為だ。

「せーの……って…あっ!!!」

布団をめくろうとした腕を掴まれて引っ張られた!
だから身体の重心がずれてそのままベッドに倒れこんだ!

「ちょっ…な…何するの?」

「おはよう…由貴…」
「お…はよう…目覚めた?」

もの凄く顔が近いんですけど…

「ん…ちょっと…まだ半分寝ぼけてる…ん〜〜〜」

それは本当らしい…未だに目を瞑ったままだだから。

「今…何時?」
「5時ちょっと過ぎたあたり…あなたがこの時間に起こせって言ったんでしょ?」
「飯の支度出来てんの?」
「出来てるわよ…だから早く支度して…」
「じゃあ後1時間はゆっくり出来るな…」
「え?何言ってるの?仕事でしょ?」
「今日オレ仕事休みだからさ…」
「はあ?」

何言ってるの?この男は???

「休み?」
「うん…」
「仕事が?」
「うん…」
「じゃあ…嘘…ついた…の?」
「うん…」

「 !!! な…なんでかしら?」

声が怒りで震えるのを何とか堪えた。

「由貴が出社する前にこうやって会えるから ♪ 」

「!?何それ??」

「手…大丈夫か?」
「え?あ…うん…昨夜ちゃんと薬塗ってくれたから…痛くないわよ。」
「そっか…良かった…」
「あ…あの…」
「ん?」
「この体勢…辛いから離してくれる?」

倒れたままの格好で彼の身体を跨ぐ様に両腕を広げて彼の上に
倒れ込まない様に踏ん張ってる状態で…腕も腰も辛いっっ!!

「倒れればいいのに…」
「そんな事…出来るわけ…って…ちょっ…やめっ!!!離…あっ!!!」

彼が私の腰に両腕を絡めて自分の方に引っ張るから…
力に負けてベシャリ!と彼の上に倒れこんでしまった!!!

「あっ!!やあ…!!!もうバカ!!ダメ!!動いたらダメだってばっ!」

倒れ込んだのは彼の顔の上!!
だから私の胸で彼の顔を思いっきり覆いかぶしてる!!!
そんな私の胸の下で彼が顔を動かすから……

「ぷはっ!やっと出れた。」

私の顔5cm下の所で彼と視線が合った!

「この…おバカっ!!!Hっ!!!変態っ!!チカンっっ!!離して!!」

「柔らかいな…由貴ってば…」

「……こっ…この…いい加減に離しなさいってのっっ!!!」

ゴ ン っ !!!

「いでっ!!! 」

思い切り彼の頭にゲンコツを叩き込んでやった!!




「頭の骨にヒビ入ったらどうすんだ…」

「いっその事入ればいいのよっ!!」

私の家のテーブルで朝食を食べながら彼がぼやいてる。

「じゃあ今日仕事は無いのね?」
「ああ…今日はね…1日自由 ♪ 」
「もう…人を巻き込まないでよ…こっちだって早く起きてるんですからね…」
「それを言うならオレの方が休みなのに早く起きてやってるんだぞ。有り難がれ!」
「なっ…何言ってるのよ!人に起こしてもらってるくせに!」
「1人で食べるより2人の方が美味いだろ?」
「1人で食べた方が作るのも簡単だし朝もゆっくり寝てられますっ!!
もう…帰って来た途端これだもの…いい加減にしてよね!!」

「………モグモグ…」

「…………」

う〜〜〜!!シカトされた!!


でも…最近何でだか彼の私に対する態度が…微妙に前と違う気がするのは…

気のせいなのかしら…



「きゃっ!」

ボーっとしてたら彼に眼鏡を取られた!

「なんだ…やっぱ伊達メガネか…」
「………ちょっと!いきなり何するのよっ!!返して!!もう!!」

手を伸ばしたらヒョイと避けられて彼が私の眼鏡を掛けた。

「何で伊達メガネなんて掛けてんの?」
「…い…いいでしょ…」

私はソッポを向いて不貞腐れた。

「お洒落ってわけじゃなさそうだから…自分を偽るため…か?」

「…あなたには…関係ないから…」

「オレには…関係ない…か…そっか…そうだな…」

「?…何?最近変だよ?私何かした?それとも何かあった?」

「…………」


オレは由貴のそんな問い掛けに返事はしなかった…

だって…オレ自身にだって何がどうなってるかわからないからだ……

いつもと変わらないと思いながら由貴が傍に来ると手を出したくなる…

だからって手を出すと今度は離したく無くなってずっと傍に置いときたくなる…

誰かが由貴に近付くと無性に腹が立つし苛々ヤキモキする…



!!って…これって……もしかして……恋…なのか!?



「どうしたの?」
「え?」
「ぼーっとしてるから。オカワリ?」
「え?あ…ああ…」

空になった茶碗を由貴に渡した時指先が由貴の指先に触れてドキリとなる…

オレが?指先が触れただけなのに?今までどんだけ由貴に密着したと思ってる…
一緒に1つのベッドで寝た事だってあるのに…なんでまた急に…こんな……


こんな…



「ん?」
「……………」
「そんなにお腹空いてたの?」
「え?」

差し出された茶碗を掴まずに…茶碗を持ってる由貴の手首を掴んでた…
ほら…こんなにも簡単に由貴を捕まえられる……

でも……これはただ由貴を…掴んだだけだ……



「本当に大丈夫?寝不足なんじゃない?」

由貴が出勤の時間になって玄関で靴を履きながら
様子のおかしいオレを見て覗き込んで来た。

「熱でもあるの?」

「 !! 」

由貴がさりげなくオレのオデコに手を当てる。
たったそれだけで心臓が跳ね上がった!

「熱は無いみたいね…でも風邪のひき始めかもしれないから少し寝た方がいいかも…」
「…わか…った…」
「?どうしたの?随分素直!」
「…火傷の…お詫び…包帯取るなよ…まだ少し赤い…」

昨日火傷した右手を掴んだ…
由貴の手…そう言えば今まで手は繋いだ事無かったな…

暖かくて柔らかい…マネキュアも指輪もつけてない洒落っ毛の無い手…
そう言えばアクセサリー系ってまったく付けてないよな…
ちょっと手を加えればあんなに綺麗ないい女になるのに…


ああ…でも……そんな事…いいか…オレ以外の奴の前で綺麗にならなくても…


「ちょっと…何してんの?」
「…手遊び…」
「は?」

さっきから由貴の指に自分の指を絡ませて離さない。

「くすぐったい。」
「うん…」
「…もうお終い。」
「うん……」

彼がさっきから私の指に自分の指を絡ませて離さない…
結構接近される事はあるけど…こんな事されたの初めてで…

様子も変だし…一体どうしたんだろう?

何とか離してもらって出勤した…

そう言えば朝思いっきりゲンコツで頭殴ったから…

当たり所悪かったのかしら……どうしよう……