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「由貴!早く!」

彼が玄関から叫んでる。

「ちょっと待ってよ…そんなに急がなくたって…それに細々と持っていく物だって…」

私は自分の部屋とリビングを行ったり来たり…洗面所にも行ったりと大忙し!

「そんなの明日にでもゆっくり運べば良いだろう!」
「怒鳴らないでよ!だから明日からでって言ってるのに…」
「何度も同じ事言わない!」
「もう…」

突然彼のマネージャーやらされる羽目になり話しの流れで彼の部屋に一緒に暮らす事になり…
今夜から彼の部屋に行く事になったんだけど…

突然そんな事言われてもそんなテキパキ出来ないって言うの!

「ったく遅いな…由貴は…」

「……スイマセンネ!」

私は悪くないでしょ???



「………」

見慣れた彼の部屋に入る。
ウチよりも広くて部屋数もあって…


「本当1人じゃ勿体ない広さよね…で?どの部屋使っていいの?」
「好きな部屋どうぞ。お勧めはあの部屋 ♪ 」

って指を指したのは…

「あそこはあなた…」

またギロッと睨まれた…

「惇哉さんの部屋でしょ!」
「別にオレは構わない ♪ 」
「じゃあリビングに近いあの部屋でいいわ。」
「あそこはダメ!この部屋にしな ♪ 」

そう言って自分の部屋の真正面の部屋のドアを開けた。

「…だったら最初からそう言いなさいよ…」

由貴に部屋を決めさせたらオレの部屋から一番遠い部屋を選んだ…
ワザとか?まったく……

彼に決められた部屋は10帖程の洋間で何も家具が無くてガラーンとしてる。
思った通りベッドなんてありゃしない…

「ザコ寝?寝袋?それともソファかしら?」

荷物のバックを床にドスンと置いてドアの横に立つ彼を振り返る。

「とりあえずオレシャワー浴びて来るからその後で考えよう ♪ 」

「……………」

考えるって…何をどう考えるのよ…

「 ♪ ♪ ♪ 」

彼はさっきからずっと上機嫌……

「やっぱり今夜からなんて無理が…」
「!!」

またギロッっと睨まれた!

「…考えるって言ってるだろ?」

「…わかったわよ…」

そんな怒らなくたって……



彼がシャワーを浴びてる間リビングのソファでボーッっとしてた…
リビングの窓から外を眺めると当たり前だけど
自分の家から見る景色と違ってて何だか見とれる…
まあ…このマンションで一番良い部屋って言ってもいい部屋だものね…

彼の収入もあるだろうけど…彼の実家の援助もあってここに住んでる。
彼の実家は大きな総合病院をやっていてお兄さんが1人いる。
彼の家族はこのマンションに来た事が無いから私は会った事は無いけど…
彼が時々会いに行ってるらしい……って全部お母さん情報だけど……

昔飽きるほど聞かされた話……



「由貴…」

いつの間にか出て来てた彼が後ろに立ってた。

「お待たせ ♪ 」
「別に待って無いから。」
「そう?ねぇ…」
「ん?」
「また髪乾かして ♪ 」


彼のリクエストにお答えしてソファに座る彼の髪の毛を乾かしてる。
どうやら彼は私に髪の毛を乾かして貰うのをいたく気に入ったらしい。


「はあ〜キモチいい ♪ 」
「……ねえ…考えたの?」
「ん?」
「別に私はソファでもいいけど?」
「ああ…ダメ!由貴はオレのベッドで寝る。」
「じゃああな…惇哉さんがソファで寝るのね?」
「何で?」
「だって当然でしょ?準備出来てないのに人の事呼んだんだから。」
「だからオレが最高のおもてなしを…マネージャーになったお祝いも兼ねて ♪ 」
「結構ですっっ!お気遣い無く!」
「まあ遠慮しないで ♪ 」

「あ!」

「 ♪ ♪ 」

カシャリ!と音がしてまた私の手首にこの前と同じ手錠が掛けられた!!




「こっち来ないでっっ!」
「往生際が悪いなぁ〜由貴は…」
「当たり前でしょ!また手錠で繋がれるなんて…人生の中でこんな事起こり得ないのに…」
「人生色々だって ♪ 」

「あなたと関わらなければ経験しなくていい事だらけですけどねっっ!」

「由貴!ソファよりも寝心地良いんだから文句無いだろ?」

「1人ならね!あなたと一緒ならソファの方がマシよ!」
「じゃあ2人でソファに寝てみるか?狭いけど2人の密着度は半端ない。」
「もっと嫌!!絶対早くベッド用意してよね!」
「はいはい…うるさいなぁ…由貴は…」
「 『はい』 は1回!それに用意してくれないなら自分の家に戻るからっっ!」

こう言う事は最初にはっきり言っておかないと!

「じゃあ寝よう ♪ 」
「ニヤケ過ぎ!!」
それに人の話聞いてるの??
「2人でオレのベッドに寝るなんて初めてだな…」
「最初で最後にしたいわ。…絶対何にもしないでよ!」
「何にもって?」
「色々よ!」
「色々って?」
「……抱き…しめたり…腕枕したり…キ…」
「キ?」
「と…とにかく大人しく寝るの!あ!明日は何時に起こせばいいの?」
「……7時過ぎでいいよ…」

まったく…由貴は…

「わかった。おやすみなさい。」
「…おやすみ………なあ…由貴…」
「なに?」

もう目を瞑って寝る体勢だ!相変わらず素早い!

「色々ダメって言われると男って逆にやりたくなるって知らないの?」

「え?」

流石に由貴が目を明けた!

「オレは由貴にそんな事しないけどね ♪ 」
「…そ…そう?」
「由貴…」
「なに?」
「おやすみ…ちゅっ ♪ 」
「!!」

彼がオデコにキスをした。

「ちょっ…」
「挨拶のキスなんだからいいだろ ♪ 」
「良くない!」
「由貴…」

怒るかな…ゆっくりと由貴の方に頭を傾ける…

こんなシチュエーションなんて昔散々体験してるのに由貴相手だと余裕が無くなる…

しかも身体が勝手に動く…

「ちょっと…」

由貴が手錠の繋がっていない手でオレの肩を押した…

「しっ…」
「や…ン…」

優しく由貴の唇に自分の唇が触れた…
由貴の唇はギュッっと閉じてるから啄む様なキスを何度もした。

「…ぁ…」

由貴は唇が弱い…だからそんな事をするとあっという間に無防備になる。

「由貴…」
「…ん…う…」

由貴が逃げるから舌を思いきり絡ませた…
由貴のキスは控えめなキスで思わずこっちが積極的になる。


彼がまた私にキスをする…
私が慣れてなくてどんな反応するかからかって楽しんでる…
何でそんな彼の行為を抵抗もしないですんなりと受け入れてるんだろう…?
力が抜けちゃうのは確かで…でも…あの時…居酒屋で知らない男の人に
ちょっと触られただけで全身に鳥肌がたったのに…


「由貴…」

彼がキスをやめて私をぎゅっと抱きしめる…
彼にとって私って一体何なんだろう?私の事が好きなの?まさか…ね…
私の事女として見てないのは知ってる…
あのパーティの時はあんな格好してたから気にしただけだし…
そうよね…いくら世話役だってこんな夜の相手みたいな事する必要なんて
無いもの…そこまで付き合う義理も義務も無い…

「由貴…」
「…あ!」

やだ…また抱き抱えられて身体がビクンってなっちゃった…
ちょっと首筋に彼の息が掛かっただけで…何で力が抜けちゃうの?

「ちょっと…もうやめて!普通に寝て!」
「由貴?」
「じゃなきゃ一緒になんて寝ないから!」
「!!急にどうした?」
「 ………… 」

由貴のオデコに自分のオデコをくっ付けながら顔を覗き込む。

「何で?何で私なんかにキスなんてするの?」

……由貴…

「由貴は何でだと思ってる?」

その質問には答えずに逆に由貴に聞き返した。

「何で…って…えっと…」

何で悩むんだよ…

「からかうと私が過敏に反応して…見てて面白い…から?」

「それだけ?」

「?…んー…世話役であなたの相手するのが当たり前…って思ってる…から?」


「…………」

マジ?本当にそう思ってる?

何で 『 私の事が好きだから? 』 って聞かないんだ…

オレは由貴にそう聞いて欲しいのに…

ああ…でも…由貴がオレとの事をそんな風に考えるのは何となくわかる…

オレ達…今まで結構うまくやって来てたもんな……恋愛感情抜きで…


「他には?」
「他にはって…私があなたに聞いてたんでしょ!」

「オレが由貴にキスするのはオレが由貴にキスしたいからする。
由貴を抱きしめたいから抱きしめる。」

「だからそれは何でって聞いてるんでしょ!」

「それは…」
「それは?」
「由貴には教えない。」
「は?何で?」
「由貴がわかったら教える。」
「え?言ってる意味が良くわからない?」
「見方を変えないとわからないかもな。」
「??」

「だからそれまでは拒むことはしない様に!」

「え?な…何でよ?」

「拒むと一生由貴にはわからない!」

「え?なんで?」
「だってそうだから!」
「えー?本当にわからない??」
「悩め悩め!」
「もう!!」



由貴の困った顔が何とも可愛い。

でも答えがわかった時………由貴は素直に喜ぶのか……