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惇哉さんと撮影の休憩時間中にキスをしてたら…車のドアがノックされて…
「惇哉?あたし…」
そう彼を呼んだのは…花月園さんの声だった…
「ははは…はいっ!」
驚いて跳び起きようとしたら惇哉さんがしっかり私の脚の間に滑り込んでて
惇哉さんの両腕はこれまたがっしりと私の身体を抱きしめてた。
『ちょっと…何してるの!早くどいて!』
『えーせっかく良い所なのに…』
『バカな事言ってないで早くっ!』
まったくどく気の無い惇哉さんの肩を両手で押した。
『じゃあ後1回キスさせて ♪ 』
『なっ…』
「惇哉?」
またトントンと入り口のドアをノックされた。
「はい!今開けますから!」
『ロックしてあるの?』
『当たり前!由貴との2人だけの時間誰にも邪魔されたく無いから。』
『いつの間に…』
でも今は助かったかも…
『ほら…由貴 ♪ 』
『や…もう…いい加減に………………してっ!!』
「いでっ!!」
ドン!! とまた突き飛ばされてベッドから落とされた!
『いて……由貴!』
『ほら!ちゃんとして!』
まったく…切り替えが早いんだから…由貴は…
「すいません…お待たせしました…」
服装を整えてドアを開けた。
危なかった…彼女が来なかったら私……
「何?」
私の後ろから惇哉さんがかったるそうに顔を出した。
もう!失礼でしょ!そんな言い方!ってきっとさっきのを邪魔されて機嫌が悪いんだ…
「支度終わったでしょ?お昼一緒に食べようよ。惇哉 ♪ 」
「由貴も一緒なら。」
「えーあたしは惇哉と2人で食べたいの!撮影だって明日しかないんだよ!普段なかなか会えないし!」
「って言われても…」
「どうぞ2人で行って来て下さい。私の事は気にせずに…はい!惇哉さん食べて来て下さい。」
そう言って惇哉さんの腕を引っ張って前に出した。
「由貴!」
「積もる話もあるでしょう?いってらっしゃい。」
「ね!マネージャーもそう言ってるじゃない。行こうよ惇哉 ♪ 」
「…………」
「惇哉さん!」
「わかった…でも由貴は此処で鍵締めて外出禁止。」
「?」
「わかりました。」
「すぐ戻るから…じゃあ行こう。美雨さん。」
「うん…」
「いってらっしゃい。」
「なんか変な感じ?」
「何が?」
2人で歩き始めてすぐに顔を覗き込まれた。
「だって彼女マネージャーなんでしょ?惇哉の方が気を使ってるみたい。」
「そう?まあ由貴は本当は事務なのにオレが無理矢理マネージャーやらせてるからかな…」
「無理矢理?何で?」
「一緒にいたいから。」
「!!」
「ん?」
「痛いなぁ〜元カノに向かって良くそんな事言えるわね!
しかもやり直そうって言ってる本人に向かって!」
「だから言ってる…諦めて。」
「……ふーん…」
「大体何で今更?」
「えー?んー今回の曲書いてたら惇哉の事思い出したから…
会いたくなったしまた付き合いたいと思ったんだ…」
「そう…で?何食べるの?」
「え?ああ…ホント…マイペース。なんか磨き掛かった?」
「さあ…どうかな…こんな仕事してるとちょっとはそんな所無いと疲れるだろ。」
「そうね…でもここじゃロクなお店無いわね。」
「用意してくれた弁当食べれば良いのに。」
「やぁよ!味気ないんだもの!」
「じゃあどうすんの?」
「車出してよ!」
「……仕方ないな…」
オレは渋々自分の車を出した。
ああ…せっかく由貴に迫る良いチャンスだったのに…
「はあ…」
「何よ!ため息なんてつかないでよ!失礼ね!」
ため息もつきたくなるだろ…由貴も何となく気を廻しすぎだし…
「はあ…」
その頃惇哉さんがため息ついてるなんて知らなくて…
私も同じため息をついていた…
「お弁当…私2つも食べれないわよ…」
別に嫌味で彼を送り出したんじゃない…だって…
「何であんな事…」
車内の備え付けの小さなテーブルのイスに座ってすぐ横のベッドに目が行く…
さっきは…自分でもわからない…一体どうするつもりだったんだろう…
ただ…惇哉さんが傍にいてホッとしたのは本当…だから…
何だかついホワンとなっちゃって…
「あ…コーヒー飲もう…」
持って来てるいつものコーヒーを一口飲む……
このコーヒーの味は惇哉さんを想い出す……
ト ン ト ン !
「え?誰?」
惇哉さんにしては早い…スタッフの人かしら?
「はい?」
「よ!」
「氷野君…」
ドアを開けたら氷野君が右手を上げて立ってた…何で…
「どうしたの?」
さっと車の外に出た。
車の中で2人きりは避けたいから。
「暇つぶしの見学 ♪ 」
「また?花月園さんなら今いないわよ…お昼に出掛けてる…」
「知ってる…楠惇哉と出掛けてんだろ。」
「そうだけど…どうして花月園さんがいない時に来るの?」
「別にそんなつもり無いんだけど…タイミングが…な…」
「彼女の車はあっちだから入って待ってれば?」
「柊木のトコじゃダメなの?」
「遠慮して…この車は 『 楠惇哉 』 の控えの車なのよ。」
「何だよ随分刺があるじゃん?もしかしてこの前の事怒ってる?」
「普通怒るでしょ!」
「やっぱ柊木って真面目だな…」
「真面目とかの問題じゃないと思うけど?」
「ヘイヘイ…」
「………」
思わず 『 返事は1回! 』 って怒りそうになった。
「柊木…」
「!!」
名前を呼ばれただけでビクン!と身体が動いて半歩後ろに下がった。
やだ…
「由貴!」
「惇哉さん!」
「あれ?祥平なにしてんの?」
何で?2人がもう戻って来た…
「暇つぶしの見学。」
「また来たんだ…しかもオレ達のいない時狙って…」
「別に狙ったわけじゃねーよ…たまたま…だ。」
「じゃあ美雨さんも戻った事だし由貴には用は無いだろ?
由貴中に入ってろ。オレコーヒー飲みたい。」
「え?あ…はい…」
由貴がちょっとびっくりした様に中に入って行く。
「じゃあ美雨さんまた後でね…」
そう2人に言ってオレはサッサと車乗り込んでドアを閉めた。
「………」
「コクン…」
惇哉さんがコーヒーを飲んだのに何も言わない…いつもは美味しいって言ってくれるのに…
「外出禁止って言っただろ?」
「!!」
惇哉さんがボソッと呟いた。
「外出って…ドアの外じゃないよ…」
「それでも外出にはかわり無い。」
「………」
「だからあんな男に絡まれる。」
「だってスタッフの人かと思ったんだもん…」
「確かめないで開けるから。今時の小学生でもしないのに。」
「うっ!……何でこんなに早く戻って来たの?」
矛先を彼に変えた。
「散々だよ…美雨さんが選んだ店で食べてたらオレ達の事がバレて
人が集まって来ちゃって食事どころじゃ無くなって…早々に切り上げて来た。」
「あら…」
「由貴はちゃんとお昼食べた?」
「うん…渡されたお弁当…」
「ふーん…」
「惇哉さん…あの…私は何も…」
「由貴…」
「何?」
「そこ…座って。」
「え?」
彼の指が指してるのはベッド。
「あ…へ…変な事…しない?」
「変な事?」
「さっきみたいに押し倒すとか…」
「押し倒しなんかしてないじゃん。由貴も抵抗しなかった。」
「さっきのはちょっと…」
「いいから座ってってオレが言ってる…由貴…」
「…………」
仕方なくベッドに座った。
本当…さっきみたいな事しないわよね…もう心臓が…ドキドキ…
キシリと音がして惇哉さんがすぐ隣に腰掛けた。
「あんまり美雨さんの事…気を廻さなくていいから…」
「え?」
「ヤキモチなんて妬く必要無いんだからな…」
「!!自惚れてるって言うの!
何で私が惇哉さんと美雨さんにヤキモチなんてやかなくちゃいけないのよ!」
「へえ…」
「な…なによ…」
「そんなにオレの事信じてくれてるんだ ♪ 嬉しいな ♪ 」
「なっ!どんだけ勘違いしてるのよ!誰が…」
「誰が?」
惇哉さんがズイッと私に近づいた。
「信じてるなんて…」
「信じてくれてるんだろ…由貴…」
「…………」
私はワザと無言…
「ホント意地っ張りだな…由貴は…素直に頷けばいいのに…」
「誰が…ん…」
惇哉さんが話してる私の口をまたキスで塞ぐ……
でも…このキスなのよね…
「ん…ちゅっ…」
惇哉さんの手が私の頬を掴んで離さないから…
「楠さーん!お願いしまーす!」
そんな掛け声と一緒に車のドアがノックされた。
今度は本当に撮影のスタッフの人……
「はい…今行きます。」
返事の出来ない私に代わって惇哉さんがそう答えた。
だって…すごい長い時間キスされて…
息継ぎの下手な私は惇哉さんの胸にもたれ掛かりながら……
浅い息を繰り返してたから…