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「まだかな…惇哉さん…」

時計は11時を廻ってる…まあ…子供じゃないんだからそんな心配しなくても…

「あふ…」

だめだ…普段の寝不足が効いてる……眠い…
既にベッドに潜り込んでた私は…あっという間に睡魔に負けて眠りに落ちた…

惇哉さん…ごめんね……でも半分は惇哉さんの……せ…い……


♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


眠ってた私は自分の携帯が鳴ってるのも気付かなかった…





「……ん…」

「由貴…」

「ん?……あ…惇哉……さん?」

いつの間にか惇哉さんが帰って来てた…いつもの様に私を背中から抱きしめてる…

「ただいま…もう寝ちゃったの?」

予想した通り由貴は既にベッドに入って気持ち良さそうに眠ってた。
そんな由貴が眠ってるベッドにオレも潜り込む…そして無理矢理由貴に話し掛けた。

でも…夢うつつって感じで何とも頼りない声だ…そんなに眠いの?

「ごめ…んな…さ……だって……寝不足…で……」
「寝不足?なんで?」
「だっ……て…惇哉さんの……」
「オレ?オレの何?」
「……くぅ…」
「由貴!!」

また眠りについた由貴の顎を指先で掴んで持ち上げて舌を絡めるキスをした。

起きるかな?

「んっ……ンン……はあ……お酒……飲んで…たの?」

絡められた惇哉さんの舌から…微かにお酒の味がする……

「ちょっとだけだよ…由貴…さっきの話の続き!オレの何?」
「え……あ……えっと……眠い……もう…無理…」
「由〜貴〜!!!」
「おやすみ…なさい……また…明………」
「え?由貴?………もう…」

マジで寝たよ!!!ったく由貴は……




「もう由貴は冷たいよな…起きて待っててって言ったのに…完璧寝てた。」

オレは朝からブウたれてる…

「だからごめんなさいってさっきから謝ってるじゃない!眠かったんだから仕方ないでしょ!」
「あ!オレの何なの?」
「え?」
「由貴の寝不足の理由?オレの何が寝不足の理由?」
「え!?」

私…何口走ったんだろう……?やだ…変な事言ってないわよね??

「何?」
「別に…何も…」
「そう?何隠してるの?」
「何も隠してないってば…もう…事務所に行く時間だから…惇哉さんはゆっくりしててね。」
「後で事務所に顔出すから。帰り一緒に帰ろう。」
「わかった…じゃあ行ってきます。」

バッグを持って玄関で靴を履いてると惇哉さんが見送ってくれる。

「気をつけて…本当に送って行かなくていいの?」
「大丈夫!そんなに惇哉さんに甘えるわけにはいかないから。
それにマネージャーの仕事が終わればまた前みたいに通わなきゃいけないんだし…」

「……そうだな…」

「…………」

「由貴…」
「………」

彼がこのタイミングで私の名前を呼ぶ理由が分ってて…ちょっと戸惑う…

「あ…」

「 ちゅっ… 」

戸惑ってる私の顎を軽く指で持ち上げて…いつもの…いってらしゃいのキスをする…


「いってらしゃい…由貴…」

「いってきます……」


なんだか…新婚の夫婦で旦那さんに見送られてるみたいで…照れるし…恥ずかしいし…

胸がドキドキだし……でも…なんでだか……嬉しい……



そんな朝を2日ほど過ごした頃…彼の休みは続いていて私は1人で事務所に顔を出してる。




「おはようございます。」

まだ彼のマネージャーの仕事をする前と同じ様に事務所のドアを開けて挨拶をしながら中に入る。
そうすると他の人達がおはようっていつもと同じ様に挨拶を返してくれる…はず…

なんだけど…この日は違ってた…


「柊木さん!!!大変!!大変!!一大事!!!」

寺本さんがもの凄い慌てた顔で私に迫ってくる!!

「え?何??何ですか???」

「何ですかじゃ無いわよっ!!柊木さんあなた何も気付かなかったの?」
「え?何の事ですか??」

私は訳がわからなくて……

「これ!!今日発売の週刊誌!!」

「え?」

目の前に差し出されたのはスキャンダルやゴシップ記事やらそんなのが載ってる雑誌…

「え?これが?」
「コレ見てよっ!!!」
「?」

パシパシと人差し指で指された既に開かれたページを見ると…

「え?」

『 スクープ!熱愛発覚!夜のお忍びデート! 

          人気俳優 楠惇哉(25) 歌手 花月園美雨(27) 』


そんな見出しが最初に入って来たかと思うと次に飛び込んで来たのは
白黒の望遠で撮られた写真で…惇哉さんと花月園さんが腕を組んで歩いてる写真…

他にも惇哉さんが花月園さんの肩を抱きながら仲良さそうに歩いてる写真が何ショットも載ってた…

「これ本当なの?柊木さん?」
「え!?あ…そんな…様子は無かったんですけど…」

そう…だって惇哉さんは花月園さんとはもう……そう言ってた…

「記事によると一昨日の夜だって。」
「一昨日?」

あ!惇哉さんが珍しく夜出掛けた日……そう…そっか…彼女からの呼び出しだったんだ…

「柊木さん!社長が呼んでるわよ!」

事務所の入り口のドアで高橋さんが私を呼ぶ…

「あ…はい…今行きます……」

「本当なのかしらね…でも昔付き合ってたんだもんね…この2人…」

寺本さんが考え込んだ顔で呟く様に言う…

「この前の仕事でヨリ戻したのかしら?焼けボックリに…ってやつ?」

高橋さんのそんな会話も今の私には聞えている様で…どこか別の所の話みたい…

「社長の所に行ってきます…」

何とかそう言って歩き出した……



ヤキモチなんて妬く必要は無いって言ってた…
彼女とやり直すつもりも無いって………確かにそう言ってたのに……

でも…あの日…惇哉さんは花月園さんに会うなんて言ってなかった……

帰って来た後も…いつもと変わらなかった……


心臓が張り裂けそうなほど…痛いくらいにドキドキいってる……

息が出来ないくらい胸が苦しくて……今にも涙が溢れそうだ………


こんな…こんな気持ちになるなんて……

でも……どうして?惇哉さん……


あなたなら……私を裏切ったりしないって……信じてたのに……