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事務所からすぐ来る様に連絡が入った。
理由を聞いてもとにかく事務所に来いの一点張りで…
しかも事務所の車で迎えに来るって言う…

オレは訳がわからず…言われるまま迎えに来た事務所の車に乗った。
真っ直ぐ社長室に通された。

そう言えば由貴の姿が見えない…何だ?どうした?
事務所の中もザワザワソワソワピリピリ…とにかく変な雰囲気だ…

しかも電話が休む事無く鳴り続けてる……いつもと違う…

「社長入るよ。」

一応ノックしてドアを開けた。

「何?あ!由貴ここにいた!」

「 ………… 」

社長室の応接セットのソファに俯き加減で座ってる…顔色も悪い…何だ?どうした?

「惇哉君…これ…どう言う事か説明してくれるかな?柊木さんも知らない事らしいね。」
「は?」

パサリと社長の机の上に雑誌が置かれた。

「なに?……あ…」

手に取る前に大きく書かれてた見出しで全てを理解した。

この前の……撮られてたんだ……

「由貴見たの?」

「………」

コクンと頷かれた…だよな…見ないはずが無い…だからそんな態度か…

「そこに書いてある事は事実なのかい?」
「2人で飲んだのは事実ですけど…熱愛は事実じゃありませんね。」
「では…ただ一緒に飲んだだけと言う事かい?」
「はい…彼女に呼び出されて一緒に飲んだだけ…そっちの写真は会ってすぐの奴で
そっちの彼女の肩を抱いてるのは彼女が酔って1人で歩けないから支えてただけで
この後タクシー拾ってあげて帰しました。」
「では…やましい事は何もしていないと?」
「当然!」
「でも君は以前彼女と付き合ってた事があるだろう?それでも?」
「今はオレは彼女の事は何とも思ってないから…」

「では…ウチとしては彼女との交際はキッパリと否定しても良いんだね?」

珍しく社長の目が鋭く光る…この人普段は人のいいおっさんタイプなのに
こう言う時は芸能プロダクションの社長の顔になるんだよな…

まあ…そこがオレが気に入ってる所だけど…
何度が他のプロダクションに誘われた事あるけどこの人が社長だから全部断った。

「きっぱり否定して下さい。」

「わかった…もう行っていいよ…しばらく周りが騒がしいと思うが…」
「平気です。慣れてますから…」
「そうか…昔は何度かこんな事もあったな…最近は随分大人しくなったみたいだが…」
「今のマネージャーが腕が良いので…大人しく従ってます。」
「ほう…そうか…さあ行きなさい僕は相手のプロダクションに電話しなくてはいけないから…」
「すみません…社長…お手数お掛けします。」
「柊木君も行っていいよ…初めての事で驚いただろう?しばらくの間大変だろうけど頼むね。」

「あ…はい…私の方こそ…傍についていながら…申し訳ありませんでした…」

そう言って由貴が社長に頭を下げた。




「由貴が謝る事じゃ無いだろ?オレの勝手な行動だったんだから…」

「それでも…社長に迷惑掛けた事には変わり無いもの…謝るのがスジでしょ…」

「由貴!オレを見ろよ!さっきから全然オレの事見ようともしないじゃないか!!」

さっきから由貴はオレに背中を向けたままだ。

「ちゃんと今説明したろ?この記事はデタラメでオレは彼女とは何でもないの!!」

雑誌を片手で握り締めながら由貴の腕を掴んでオレの方に振り向かせた。

「でも2人で会ってたのは事実だわっ!」

「由貴…」

由貴がオレから雑誌をひったくってさっきのページをめくる。

「この写真は本物でしょ?これもウソだって言うの?」

「そりゃ…2人で飲んだのは事実だけどその写真は別に意味なんか無い。」

「こんなに親密に写ってても?それに…2人っきりだったんでしょ…
…だから私に誰と会うか言わなかったの…」

「仕事で皆が集まって飲んでるって言うから言わなかったんだよ!
仕事絡みじゃ由貴行くって言うかもしれないだろ?」

「彼女がいるから私を連れて行きたくなかったんでしょ…」
「違う!飲んでる席に由貴を連れて行きたくなかったんだよ!
でも行ったら美雨さん1人で…」

「花月園さんと一緒にいたかったんでしょ!」

「由貴!」

「 惇哉さんなんて大嫌いっっ!!! 」

バシン!!と由貴がオレの胸に雑誌を投げつけて…廊下を走って行った…

「由貴…」



違うって…言ってるのに…何でわかってくれない……

             何で信じてくれないんだ……由貴……




事務所の部屋に戻るまでに涙は止めた…

きっと…惇哉さんと花月園さんとの間には何も無いのかもしれない……

でも……あんな風に現実を見せられると写真でも辛い……

彼女…笑ってた……とっても嬉しそうに…

彼女は今も……惇哉さんの事が…好きなんだ………





それからその日は事務所中が大変だった…
1日中事務所の電話は鳴りっ放しで…皆がその対応に追われた…

彼の言う通り…

全ての電話には 『 2人の交際の事実はありません。 』 と説明がされた…