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朝仕事に出掛ける前に私の携帯が鳴った。

電話番号は表示されてるけど知らない番号で…こんな朝から一体誰なんだろう?
そう思いながらも惇哉さんの仕事関係だと困ると思ってとりあえず出る事にした。

「はい…?」

『柊木?俺…氷野だけど…』

掛けて来た相手に驚いた…

「氷野君…?」

「なにっっ!!!」

しまった!つい口に出しちゃった…

仕方なく出た電話の相手は氷野君だった…ちょっと抵抗があったけどまあ電話だし…
すぐ傍には惇哉さんがいるし…傍と言うよりは私の肩をぐっと抱いて私の携帯に耳を当ててる…

聞えるの?それ??

「どうして私の携帯の番号?」
『美雨のマネージャーに教えてもらった…』
「あ…」

何でそんな簡単に個人情報をこんな男に教えるんだ!!

「なに?」
『いや…その…昨夜の事ちゃんと謝りたくてさ…それでちょっと話したいんだけど…
今日昼にでも会えないか?』
「私は…別に…もう…」
『いや…ちゃんと話しておきたいから…柊木の好きな場所でいいから…』
「なら12時にうちの事務所の近くの 『 アデニウム 』 って言う店に来い!」
「惇哉さん!?」

いきなり私から携帯を奪って勝手に話す。

『あんた…楠惇哉?』
「ああ…オレも一緒に行くから。」
『…何だよ…朝から一緒か?…くっくっ…仲が良いんだな…』
「当然!」
「ちょっと!!一体何の話してるのよっ!!」

変な話してないでしょうね?

『わかった…12時に行く…』

「ああ…」

「あ!」

そう頷いて惇哉さんが通話を切る。

「もう私に掛かって来た電話でしょ?何勝手に会う約束してるの?」
「うるさいなっ!どんな言い訳するか聞いてやるんだよ!」
「もう…」



約束の時間氷野君はちゃんとやって来た…
表通りから奥に入ったいつものお店…


「昨夜は本当にすまなかった…申し訳ない…」

彼が席に着いた途端頭を下げた。

「犯罪だぞ…犯・罪・!!」
「ああ…そうだよな…」
「もう…その事はいいから…じゃあちゃんと説明して…」

って何の事か良く分からないけど…


「俺……美雨の事が…その…好きなんだ…」

「は?」
「え?」

何だか…意外な出だし……

「一緒に仕事する様になったのは1年位前からで…この事は内緒にしてて欲しいんだが…」

「?」

「その頃…美雨は…妻子持ちの男と付き合ってた…」

「!!」
「それって…」

不倫…

「芸能関係の奴らしいんだけど…誰かは知らない…名前は教えてくれなかったからな…
でもつい最近そいつと別れたらしくて…美雨の奴…一方的に別れ切り出されたらしくて…
こっちが見ててわかるくらいに落ち込んで…でもこれで俺にもチャンスがやって来たと思ってさ…
そう思ってた矢先…あんたが現れて…」

「え?オレ?」

「ああ…昔付き合ってたって知ってたし…美雨が今回の曲あんたと付き合ってた頃の事
思い出して書いたって聞いてたから……てっきり美雨とヨリ戻すもんだと思って…」

「何で皆そう思うんだかな……ねえ由貴?」

ワザとらしい横目でそんな事言われた!

「 !!! 」

何よ!嫌味?

「だからあんたが美雨と親しくするの見てると無性に腹が立って…」
「腹が立って?」
「傍に…柊木がいたから…」
「由貴がいたから何だよ?」
「……あんたの…マネージャーだって言うのもあったし…高校の時気になってたのもあったから…
そのウサ晴らしに…柊木を選んだ…」

「なっ!」
「!!!」

「2人の事が気になって撮影まで見に行ったけど何も出来なくて…
ムシャクシャする度に柊木に絡んで…それで気を紛らわしてた…
ただでさえ気をもんでたのに…週刊誌にあんな記事が載って…もう…ダメだと思った…
やっぱり美雨とあんたはヨリを戻すんだと思った…だから…腹いせのつもりで…昨夜…」

「由貴を…襲ったってのか?」

「……今思うとお門違いもいいとこだし…本当にヒドイ事したと思ってる…
でも…柊木があんたの名前何度も叫んだの聞いて…あんた等2人そう言う関係なのかって…
美雨とは…ヨリを戻すんじゃないのかって…思ってさ…我に返った…」

「………」

由貴…オレを呼んでくれたのか…?

「 !! 」

由貴を見ると顔真っ赤でオレと視線が合うとプイッと横を向いた。


「もしかしてあんた美雨さんに自分の気持ち何にも伝えてないの?」

今までの話を聞いた限りじゃそうだよな?

「……ああ…なかなか…その…言えなくて…」

「信じられない…それで人にこんな迷惑掛けるか?」
「…本当に申し訳ない…でも…あんたが美雨とは何でも無い事がわかったから…
もう2人には迷惑を掛ける事は無い…」

「当たり前だ!とんだとばっちりじゃないか!」

「私がでしょ!!」

「え?」
「…………」

何でだか由貴がオレに怒ってる?


「本当にすまなかったな…柊木…お前達の事は黙ってるから心配すんな。」
「もう…氷野君それ誤解だから…!」

「オレは別にバラされても痛くも痒くもないけどね。」

もしかしてバラされた方が由貴も観念するかもしれなし。
って…あんまり自信無いけど……

「惇哉さんは余計な事言わないでっ!!!これ以上騒ぎはご免ですから!」

「…まあ仲良くやれよ…あ!柊木…」
「ん?」

「アレは事故だと思ってお互い忘れよう。」

「ちょっ…」

最後の最後で余計な事言わないでよ…

「何だよ?アレって?」
「何でも無いわよっ!!」
「ウソだ!おい!一体何が遭った!?」
「え?あー…熱愛報道のお詫びと言う事にしとこう。俺はアレで再起不能になったんだからな。」
「はあ?何だ?それ?」
「じゃあな柊木!ちゅっ ♪ 」
「 !!! 」
「なっ…!!!」

アイツが自分の唇を人差し指で何度か触れて帰って行った!

「由貴まさか…」

「な…何よ…」

「アイツに……キスされたのか??」
「ちっ…違うわよっ!!」
「ウソつくなっ!どう見てもそうだろ?今のアイツの仕草は!!
そう言えば様子がおかしかった時あったよな?あの時か?」
「だから違うって言ってるでしょ!お店の中で大きな声出さないで!」
「由貴!!!」

ウソだろう!!!くそっ!やっぱ一発殴っとけば…

「って…そんな風に言いますけど…惇哉さん…」
「何だよ…」

「今の氷野君の話だと私は惇哉さんのせいで色々な目に遭ったんじゃないの?」

「へ?」

「だってあなたと花月園さんの仲を勘違いしてその腹いせに私は散々な目に遭ったって事でしょう?」

確かに……

「でも…それはアイツが勝手に勘違いしたからで…」
「でも原因は惇哉さんでしょ?」
「いや…オレって訳じゃ無いんじゃないの?」
「昨夜の事はどう見てもあの熱愛報道のせいじゃない!」
「……う……」

反論出来ない……


「由貴…」

「何よっ!!」

「お店の中で大きな声は出すの止めよう。」

カ チ ン っ !!!

「反省の色無しねっ!!」
「そんな事ないっ!反省してる!!」
「本当に?」
「本当に!」
「次やったら一生一緒に寝ませんからね!」
「……わかった……もう2度としない…誓う…」
「誓う?」
「誓います!」

由貴がこんなに怒ったの…初めてかも……

「由貴…」

「何!」

やっぱりすごい怒ってる……でも…

「オレの事呼んでくれたんだ…」
「!!……思い浮かんだのがあなただけだったからよっ!」
「そっか…」
「…何ニコニコしてるのよっ!!」

「─── いっ…て───────── っっ!!!」

笑ってる惇哉さんの両頬を思い切り抓ってやった!!

だって……ムカつくっっ!!!

「由貴!顔はやめろって何度言わせんだっ!!!いてーー…」

「思い切り抓ったんだから痛いに決まってるでしょ!
このくらいで済ませてもらってありがたいと思いなさいよっ!」

「……ちゃんと…謝ったのに…」

「なにか文句でも?」

「………いいえ……」



本当に今回は散々だ…

オレの由貴があんな男に唇奪われて…襲われて…

って…でもそれって由貴の言う通りオレのせいで…オレだってどれだけショック受けたか…


由貴のマネージャーも…もうそろそろ考えないといけないのか…

ヒリヒリと痛む頬を擦りながらオレはそんな事を考える…

マネージャーを辞めたら……由貴は自分の部屋に戻ってしまうんだろうか……

そんな不安がオレの頭を過ぎった……