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由貴は今何て言った?

「だから帰り寄る所があるから惇哉さんは先に帰ってて…」

由貴が満知子さんの所から戻って来て3日目の夜の事…

由貴がマネージャーになってからこんな事初めてだ。


「何?打ち合わせ?事務所に寄るの?」
「違う…とにかく先に帰ってて。」
「由貴!オレにちゃんと説明出来ない?」
「……と…友達と会うのよ!」
「どの?」
「惇哉さんの…知らない相手。」
「誰?」

「だから……とにかく心配しないで!遅くならない様にするから。」

「由貴!」

「じゃあ時間無いから行くわね!」
「なっ!」

由貴がスタジオのロビーを足早に出ていく…

由貴がオレを置いて行った!!しかも超怪しい態度で!!


「………」

「オイ!惇!」

「ん?あ…レンジ…何で?」

奥の廊下から俳優仲間の 『 鏡レンジ 』 が歩いて来る。

「撮影?」
「ああ…惇もか?」
「うん…」
「あれ?メガネちゃんは?まだマネージャーやってんだろ?」
「……フラれた。」
「は?」
「…………」

納得いかなかったけどだからって後をつけるなんて事はやっぱり…出来なくて……

「レンジ…」
「ん?」

「たまにはオレと夕飯付き合わない?」

「は?」





「………オイ…」

「ん?」

「何女々しい事やってんだよ?」

「何が?」
「あれメガネちゃんだろ?」

数十メートル先を由貴が時間を気にしながら早足で歩いてる。

「あ!本当だ…」
「ったくワザとらしい。何だ?男か?浮気されてんのか?」
「違う!」
「ああ…まだ付き合って無いんだから浮気じゃないか?じゃあ遊び人が嫌で他に男作ったか?」
「違うって!友達と会うって…」
「なら良いじゃんか!ダチと会うくらい。」
「………ダチならね。」
「あん?」

オレの直感は当たる。
…って言うか由貴はウソつくのが下手。

バレバレなんだよな…多分大した事では無いと思うけど確かめずにはいられない。


「お!喫茶店入ったぞ…窓際に座りゃいいけどな。」
「……!!」

都合良く由貴と 『 推定友達 』 は窓際に座った。
と言うか相手が外から由貴にわかる様に窓際に座ってたらしい。

「待ち合わせじゃんか。やるなメガネちゃん ♪ 」

「何がだ?」

「 『 楠 惇哉 』 って言う男がいながら他の男とデートか!」
「だから友達だって…」
「男友達なんているのか?」
「……さあ…」

由貴に聞いた事はないが今までそんな奴がいるなんて由貴から聞いた事無い。

でも由貴の目の前に座る待ち合わせの相手はどう見ても男だ!正真正銘男!!

「何だか初々しい態度だな…メガネちゃん ♪ すんげー緊張してんのわかるぞ。」

「…………」

確かに由貴が上目使いで相手を見てる…
はにかんだ様な照れた様な…オレには見せた事の無い顔…

「…………」
「元カレか?」
「違う。」
「何だ元カレ見た事があんのか?」
「……ああ」

仕事までさせてもらったよ。


「オイ惇!」
「ん?」
「ヤバイんじゃないか?」
「何が?……!!」

いつの間にかオレ達の周りに人だかりが!

「お前が目立ちすぎなんだよ。」

レンジに向かってそう言ったら…

「お前だろ。お騒がせ男!つい最近世間を騒がせたじゃねーか。」

「………はあ…仕方ない行くか…」
「いいのか?」
「コレ以上由貴にバレずに見てるのは無理だし。飲みに行く!」

オレは諦めてもと来た道を歩き出した。

「飯じゃねーのかよ!」
「じゃあレンジは食事でオレは酒。」
「…一気にご機嫌ナナメか?」
「うるさい!」

そんな会話を2人で歩きながら小さな声で話して周りにいる集まってた人だかりに
笑顔で手を振ってその場から離れた。



「あ!」

玄関の閉まる音がして惇哉さんが帰って来た。
まさか出掛けてるなんて思わなくて部屋に帰ったら真っ暗だったからビックリした。


「お帰りなさい。どこか寄ってたんだ…そんな事聞いてなかったからビックリしちゃって…」
「…あの後レンジに会って…いつ帰ったの?」
「私もちょと前に帰って来たところ…惇哉さん…酔ってるの?」

微かにお酒の匂いがして…リビングに入って来た惇哉さんの顔がホンノリ赤い…

「どうせ帰っても由貴はいないし…ご飯も無いしさ。」

「あ…ごめんなさい…」

「別に謝る事無いだろ…友達と会ってただけなんだからさ。
オレだって付き合いで急に飲む時あるし…」

「惇哉さん…」
「ごめん…シャワー浴びてもう寝る…」
「うん…」

「由貴…」

リビングのドアの前で由貴に背中を向けたまま由貴を呼んだ…

「ん?」


「友達って…女だろ?」


「……うん…そうよ…」

「………そう……楽しかった?」

「え?…あ…久しぶりに会ったから楽しかったわよ…」

「ふーん…そっか…よかったな…」

「うん……」


…何でウソをつく必要があるんだろうね…由貴……

オレは心の中でそんな事を呟きながら浴室のドアを閉めた。



「……惇哉さん…」

何かいつもと様子が違ってたみたいなんだけど…酔ってるせい?

その後いつもの様に惇哉さんの髪の毛を乾かすと
惇哉さんは 『 おやすみ 』 と言って先に寝室に入った。



その日の夜…


惇哉さんは…ずっと私に背を向けて眠ってた…