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「この娘が相手役の高瀬亜優(takase ayu)22歳。」

数日後…北館監督が数名のスタッフと一緒に事務所に来た。


「最終候補5人の中から選んだ。まだ経験は浅いけど中々の演技だしイメージに合ってたから決めた。」

そう言ってオレの目の前に彼女の写真とプロフィールが置かれた。

「確かCM何本かやってるよね?ドラマはオレはまだ共演した事ないけど…」
「ああ…」
「ふーん…」

長めのストレートな髪にちょっと保母さんでもやっていそうな優しい感じの顔…

「で…社長確認なんだけど…」

「由貴!」

「え!?」

部屋の隅で大人しく皆の話を聞いていた私を惇哉さんが急に呼んだ。

「あ…はい!」
「皆のコーヒーお代わり持って来て。」
「え?あ…はい…」

「オレのは特に美味しく淹れて ♪ 」

「………皆さんと同じです。」
「わかった。皆には内緒で ♪ 」
「………」

そう言ってウィンクまでしたのに呆れられた。


「何だ?彼女には聞かれたく無いのか?」

由貴が出て行くと監督がニヤニヤしながらオレに聞いて来る。

「由貴にはまだ聞かせなくない…だから社長も由貴に聞かれても黙っててよ!」

社長に向かって人差し指を口に当ててシィってした。

「直ぐにバレんだろ?」

北館監督が突っ込んで聞いてくる。

「それでも…少しでも後がいい…」

そう…まだ早い…



「あ!」
「お!」
「惇哉君 お久しぶりです。この度はご心配とご迷惑掛けちゃって…」
「三鷹さん…」

打ち合わせが終わって使ったコーヒーカップを惇哉さんと一緒に給湯室に運ぶ途中で
病気で休んでる惇哉さんの正式なマネージャーの三鷹さんに会った。
長期休暇中だったけどもう退院してそろそろ復帰する予定…なんだけど…

「お前…痩せたな…」
「はは…」

そう言って頭を掻いてる三鷹さんは入院前のメタボな体型とはうって変わってスリムになってた。
当然と言えば当然だけど…ちょっとびっくり…

「医者って凄いな!」
「病気だったからでしょ!もう!」

ド カ ッ ! !

「いてっ!」

バカな事を言う惇哉さんの脇を肘で小突いた。

「いつから仕事に?」
「一応来週から…慣れたらまた惇哉君のマネージャーで…」

「あ…そうなんですか…」

何だろう…最初からわかってた事なのに……

「………」

由貴…

「柊木さんにはご迷惑掛けちゃって…」
「いえ…三鷹さんより惇哉さんに!迷惑掛けられましたから。」
「オレはマネージャーの仕事を教えてやっただけだっての。」
「そうかしら…」
「そうだって…」


パタン!と給湯室のドアが閉まって部屋の中に由貴と2人っきりになった。

「もう…閉めないでって言って るのに…」
「だからオレと由貴なら良いんだってば。」
「どんな理屈よ。」

そんな事を言いながら使ったコーヒーカップを洗う由貴だけど前みたいにドアを開けに行こうとはしない。

「由貴…」
「手伝ってくれるんじゃ無いの…」
「いいよ…貸して。」

由貴の隣に並んで洗ったカップを受け取ってフキンで拭いた。

「由貴…」
「………」
「何でシカト?」
「別に無視なんかしてない…」
「じゃあ何怒ってんの?」
「怒ってない。」
「でも機嫌悪い。」

「悪くな…」

「チュツ ♪ 」

「 !! 」

怒りながらオレの方に振り向く由貴のオデコにキスをした。

「………」
「機嫌直った?」

ド ス ッ ! !

「…痛って!!」

脇腹に由貴の肘鉄が叩き込まれた!

「ここ何処だと思ってるのよ!事務所よ!」
「だからオデコにしたじゃん!」
「する事自体おかしいの!」
「抱きしめるのは大丈夫なくせに。」
「キスとはレベルが違うでしょ!」
「そう?」
「そうよ!」

「じゃあ抱きしめるのは良いんだな。」

「え?あ!!」

有無も言わさず正面から由貴を抱きしめた。

「わっぷ!もう…ちょっと苦しっ…」

…む…胸が…惇哉さんの胸が…目の前に! !

「あはは ♪ 由っ貴〜〜 ♪ 」

「…もっ…何よ…苦しい!」


由貴が必死に抵抗してオレから離れようとするのを更に両腕に力を込めて捕まえた。

由貴…気付いてる?どうして今そんなに気分が重いか…それは…

自分でも気付かないうちにオレの傍にいる事が当たり前になったからだよ…


だからオレは……こんなにも嬉しいんだ ♪