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「無理しなくてもいいのに…」

「昨日も休んだのに今日も休むなんて出来るわけないでしょ!」

もう家を出る時から惇哉さんがブツブツとウルサイ。

「やっぱなっちゃったか…ちぇっ…今夜からしばらくオアズケか…」
「一体何の話をしてるのよ!」
「ええ?もちろん由貴と育む愛の話♪」
「恥ずかしいからヤメテ!」
「オレって凄いよな ♪ 由貴の身体の事までわかっちゃうんだからさ!」
「ただ単にイヤラシイだけでしょ!」
「だから由貴の事がわかってるって事だろ?」
「…………」

惇哉さんとあんな事になってから何だか良いように惇哉さんにからかわれてるみたいな気がする…

「由貴…」

「なに?」

惇哉さんが控え室のドアノブに手を掛けたまま…急に真面目な顔で呼ぶから…

「本当に…今からでも帰っていいんだぞ…」

「…………大丈夫…よ…」

「………そう…?…ならもう何も言わないけど…」

何で惇哉さんがそんな事を言うのかというと…
今日が問題のあのシーンの撮影だから……
どれだけ私に内緒にすれば気が済むのか…まったく…

今日も来なくても良いって言ってた惇哉さんだったけど…
昨日休んでしまったと言う負い目とやっぱり気になると言うのが事実で…
1人家でモヤモヤジリジリしてても仕方ないからと思って
惇哉さんのそんな言葉を遮ってまでやって来た…
んだけど…アレにはなるは…今回ちょっと身体キツイは……
身体キツイのは惇哉さんのせいなんだけど……

昨夜も……イヤって言うほど……その…あの……と言う訳で…

『 全部由貴の為だよ… 』

って惇哉さんは言ってたけど…どうみても自分の為じゃないのかしら??



バサリ!と音がして惇哉さんがあの 『 石原竜二 』 の衣裳の白衣を着る…
私はやっぱり 『 彼 』 は苦手で…ちょっと緊張する。

「由貴…」

ビクン!!

「なに?」
「そんなに警戒すんなよ。まだ気持ち切り替えて無いから大丈夫。」
「別に…そう言うわけじゃ…!!」

惇哉さんが彼の格好で私の目の前に立った。

「な…なに?」

絶対何か考えてる顔!って…

「うわっ!!きゃっ!!」

いきなりお姫様抱っこされて部屋に置いてある長テーブルの上に仰向けに寝かせられた!!

「ちょっ…」

何?一体どう言う…

「由貴…」

「………」

両手を指と指を絡ませ合ったままテーブルに押さえ付けられた。
もう…一体何なの…心臓がドキドキ……

「ん……」

いきなりキスまでされた!!ちょっっと……!!

「惇哉さ…やめて!ここ何処だと思ってるの!」
「わかってる…今日だけだよ…由貴……」
「今日だけって…」
「由貴…」
「何よ…」
「昨夜の事…ちゃんと覚えてる?」
「ゆ…ゆ…昨夜?」

昨夜は…

「昨夜だけじゃ無い…初めての夜の事もちゃんと覚えてる?」

「なななななんで急にそんな事……」

「いいから…覚えてる?」

「あ…や……」

惇哉さんが耳元で囁くから…身体がビクンと波打った。
最近…と言ってもここ2日間だけど…
異常なくらい身体がちょっとの事でも敏感に反応しちゃう…

「…あ…」

首筋に何度もキスをされた…

「惇哉さ…やめ…人が…来るから…」

「来ても構わないって…由貴…」

わ…私が構うってば!!!でも…そんな言葉も言えない…
今口を開いたらきっと変な声が出ちゃう…

「ぅ……ん……」

舌を絡めるキスまでされた…しかもずっと長い時間離れてくれないから息が…

「はぁ…はぁ…」

やっと離れてくれた時にはもう私は息も絶え絶えで…涙目!!

「もう…何でこんな事するの?」

「……由貴…」

まだ…惇哉さんの瞳で見つめられた…

「オレが好きなのは由貴だから…他の誰でもない由貴…」

「…惇哉さん…?」

「目の前でどんな事があっても…オレを信じて…由貴…
そして想い出して…オレと愛し合った時の事…オレの全部を想い出して…
オレの唇の感触も…肌の温もりも…掌の温度も…
オレが…由貴を全身で好きって言ってるの…想い出して…」

「…………」

とっても…真剣な眼差しで射抜かれて…囁かれて……私…

「オレは由貴を裏切ったりしない…絶対裏切ったりしないから…
だから由貴は何も心配しなくていいから……オレが好きなのは由貴だけ…」

「……うん…」

仕事中なのに……周りに人がいるのに……
惇哉さんは控え室のテーブルの上で私のブラウスのボタンを外して…
首筋や胸元や……露わになった上半身にキスをする…

「…ぁ…」

自分がこんな事されてるのに抵抗せずに受け入れてるのが信じられなくて…
一体どうしたんだろうって…ボーっとする頭で考えてた……

「由貴……」
「…………」

由貴がオレの下でほんのり頬をピンク色に染めながら浅い息をする…

たった2日で強引にこんな事をしたのは今日のあのシーンの為だ。
きっと由貴は少なからずショックを受ける…
だからそうなる前に何度も何度も好きと言って……
何度も何度も由貴を抱いて少しでも不安を無くさせたかった…

「由貴…」
「………ん?」
「本当に無理しなくていいんだからな…」
「………うん…」

そう返事をして由貴がオレに腕を伸ばすから…

「え?」

オレはしばしパニック!?

「…あ」

思わずそんな声が洩れる…
由貴がオレの首に腕を廻して引き寄せたから…

「……ありがとう…惇哉さん…」

「!!」

オレはその言葉を聞いて思いきり由貴を抱きしめた。

「由貴……」

思わずありがとうなんて言葉が出た…
やってる事はとんでもない事の様な気がするけど…
何だか私の事を思ってやってくれているらしいから…でも…

「惇哉さん…」

また由貴がオレの名前を呼ぶからオレはちょっと期待する ♪

「なに?」

「仕事場で二度とこんな事しないでね!」

「!!!」
「ね!!」


抱きしめながらそんな事言うのか由貴!こんなに人を 有頂天にしといて…その仕打ち!

絶対由貴は 『 S 』 だよ!! 『 S 』 !!


そんな事を思いながら最後にもう一度……由貴の素肌にキスをした……