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「メグが高校に入学したあと直ぐに告白した…もの凄い驚かれてこっちも驚いた。」

何だかその時の場面が目に浮かぶ…
兄貴は静かにニッコリと笑ってて…メグは顔真っ赤の慌てふためいてる姿…

「まさか断られるなんて思ってもみなくて…しかも他に好きな相手がいるだなんて…
その頃はいつも一緒にいたのにそんな筈無いと思ってメグを問い詰めた。」

ド ク ン ! とオレの心臓が跳ねた!ついにその話題に…!!

「 相手は……惇哉…お前だって… 」

「 !!! 」

冷ややかな眼差しを向けられた!オレの心臓はさっきよりもドキドキと動き出してる!

「あ…兄貴…それは…」

「嘘だって…直ぐにわかったけどね。」
「え?」

「だってその時のメグの慌て振りってば…笑いを堪えるのに大変なくらいだった。
挙動不審の目はあっちこっち泳いでるし…僕の問い掛けに必死に答えを探してるのがバレバレ。」

「…………」

やっぱり…

「でもその時はメグの中で僕との事は受け入れる余裕が無いんだと思ってそれ以上は言わなかった。
焦る事は無かったから…しばらくそのまま…今までの様に僕は頼りになる幼馴染みのお兄さんで過ごしたよ。
それでも全然構わなかったし…」
「何で?他の男に持ってかれたらどうするつもりだった?それにメグが他の男好きになったら…」
「メグがそんな事しないのは分かってた…」
「え?」
「メグは昔から僕の事 『 大好き 』 って言ってたしそれが幼馴染みに対しての気持ちじゃ無いって事…
メグには時々わからせてた…」
「は?」

わからせてた??

「メグのファースト・キスの相手は僕なんだ。」

「は?」

「メグってば口では 「 僕とは付き合わない 」 「 男として見て無い 」 なんて言ってたけど…
ほとんど付き合ってたのと変わらないんじゃないか?時間が合えば一緒にいたし
デートだって数え切れない程したしね…メグはデートだと思ってないのかもしれないけど…
ちゃんと誕生日もクリスマスもバレンタインも僕にくれた…あげる理由を一生懸命説明してね…」

「…………」

あの女…

「それでも自分の好きな相手は惇哉だって言う…可愛いよね…」

「え?」

「そう…思わない?惇…」

兄貴がまた…静かに微笑みながらオレをジッと見る…

「僕の高校の卒業のお祝いにキスして欲しいって言ったら何だかんだ色々な言い訳して…
またそれも可愛くて…でも真っ赤になりながら可愛いキスをしてくれた。」

「…………」

「後はメグが高校を卒業する時…僕からのプレゼント。だから拒否はさせなかった。」

「………」

また兄貴がニッコリと笑う…

「メグは見てて本当に飽きない子だった…僕の事を 「 嫌い好きじゃない 」 って言う度に
僕との親密度が深まる…メグは惇の事を好きだと言いながら一向に2人の仲を進展させようとは
しなかったし…ウソだって確信は深まった…だから僕が大学を卒業する時…メグを僕のものにした。」

「え!?…………い…今ナンテ?」

オレの聞き間違い?

「だからメグを僕のものにしたって言ったんだが?」

兄貴がちょっとムッとした様に言う。

「そそそ…それって…」
「ん?メグを抱いたって事だけど?」
「ええっっ!!!」

驚いた!!

「そんなに驚くこと?」
「お…驚くだろ!まさかそこまで2人の仲が進展してるなんて知らなかったんだから!」
「大学の卒業のお祝いに 「メグが欲しい 」 って言ったらOKしてくれた。
多少頷かせるのに時間が掛かったけど…だから僕がメグの初めての相手になる…
そして僕で最後…でも卒業のお祝いなんて口実に過ぎない…
その前からメグが僕とそうなってもいいと思う様にして来たし…」

メグの奴……そんな事一言も…

何だよ…しっかりと!完璧に!兄貴のもんになってんじゃねーか!

兄貴も時間を掛けて…ゆっくりとでも確実にメグを自分のものにしてるし……


「それでも僕の事は好きじゃないって言う…本当メグは可愛い…フフ…」
「………」

それって…可愛いで済まされるのか?

「メグが大学を卒業するまでの間…時間の許す限り一緒にいた。何だかんだと言いながら
メグは誰とも付き合わず僕が会いたいって言うと会いに来てくれる…
会うと文句ばっかりだったけどその言い訳がまた可愛い。」

「………」


オレの頭の中はもう訳が分からず…クラクラとしてる。

メグが兄貴の事を好きだろうと言うのはわかってた…

でも2人の仲がこれほどまでに進んでて……

一番は兄貴がメグの事をこんなにも溺愛してたなんて…ウソだろ?あの兄貴が…


「流石にお互い社会人になったらあまり会えなくなって…でも連絡先が変わる度に
メグはちゃんと僕に連絡をくれるんだ。だから連絡が取れないなんて今回が初めて。
流石にもう逃げ場が無くなってどうしたら良いのか焦ってるんだろう…メグらしい。クスッ…
僕から離れられると思ってるのも可愛いよ…」

「…………」

こう言うのも恋は盲目と言うのか…?

「兄貴は…メグが兄貴の事を本当に好きだと思って…る?」

「は?どう言う意味…惇?」

うっ!!!凄い目付きで睨まれたっ!!

「いや…だから……本当は…違ってた…ら?」
「そんな事はあり得ない!」
「な…んで?」
「こうやって逃げ回ってるのが良い証拠さ…」
「え?」
「メグは僕に迎えに来て欲しいから…だからワザと僕だけに連絡しない。」
「え?…そ…そう?」
「今までの僕達の事を惇哉は知らないんだから分からないのも無理はない。
でもメグは僕の事を無視し続ける事はしない…いや出来ないから。」
「………凄い自信だな…兄貴…」
「……だって…10年だよ…惇…口で10年なんて言うのは簡単だけどどれだけの時間かわかる?」

確かに…オレだって由貴をオレのものにするたった数ヶ月間も長い時間だった気がするのに…
それが10年……


「メグが惇哉の事を好きだって言うのが嘘だとはわかっていたけど…
最初の頃は多少心配だった。」
「え?」
「あの頃お前には付き合ってる相手もいなかったし…
いつメグを意識して手を出しやしないかと内心ハラハラしてた。」
「まさか…オレがメグを?」
「そんなのどんなキッカケで意識するかなんてわからないだろ!」
「…そうかもしれないけど……兄貴…」
「ん?」

「だからオレの事何気に避けてたの?嘘でもメグがオレの事好きだなんて言ったから?」

「………惇…」
「オレを見る視線が冷たくなったのも…そのせい?」
「……気を付けてはいたんだけどな…無意識に出てたのか?」

やっぱりそうだったのか……

「でも惇哉にそんな風に思わせてしまってたなんて悪い事をした…」
「なんでオレにそう言う話してくれなかったの?」
「これは僕とメグの問題だから…それにヘタにお前に話してメグを意識された困るし。」
「オレは人のモノは取らない!兄貴が好きな女なら尚更だ。」
「そうかもしれないけど…もし…万が一惇がメグを好きになったら…
僕との事で悩むだろ?そんな事惇にさせたくなかった。」
「なんで?」

「惇が僕の弟だからだよ。弟にそんな辛い想いして欲しくないだろ…」

「兄貴…」

そう言って微笑んだ兄貴は…子供の頃のあの兄貴の笑顔で……オレは……

「ん?どうした?惇?」
「べ…別に……」
「そう?変な子だな…」
「子供扱いすんな!これでももう結婚する歳なんだからな。」
「そうだった……」
「メグは意地を張ってるだけだ…自分は兄貴に釣り合わないって…」
「昔からそう…そんな事関係ないのに…まあそれを口実にしてる部分もあるんだけど…
きっと僕の事を好きだって認めるのが怖いんだろう…幼馴染みが恋人に変わるのが…
どうせいずれそんなのも夫になるのに…」
「え?」
「どっちが先になるのかな惇哉…楽しみだ。」
兄貴が自信ありげに笑う。
「いや…どう見てもオレの方が先だろ?」
「さあ…メグは認めたら早いと思うよ。クスッ…」
「怖い事言うなよ…兄貴…」


兄貴は優しく微笑みながら飲みかけのコーヒーを口に運んだ…


メグは……とっくの昔に兄貴に掴まってるんだ…

兄貴はそれが分かってて…メグを自由にさせてる……


戻って来る場所が…自分の所だって…わかってるから……