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「はあ〜〜〜〜」

オレは撮影の合間の出番待ちで…周りには聞こえない様に溜息をつく…

「さっきからウルセェなぁ…根性叩き直してやろうか?」

隣にいたレンジには聞えたらしい…

「うるさいのはお前…お前みたいなガサツな男にはオレの繊細な気持ちはわからないんだよ!」
「何処に繊細な気持ちの持ち主がいるんだ?」

レンジがわざとらしく周りを見回す。

「………」

オレは黙ってレンジを睨む。

「まったく…またメガネちゃんか?」
「別に由貴って訳じゃ無いんだけどさ……」

撮影が始まった連続ドラマ…

今売り出し中の新人俳優 「能登 遼平」 と 昔からの俳優仲間の 「 鏡 レンジ 」 との
共演で話題になってる兄弟もののドラマだ…

その撮影が今日から本格的に始まった。

怪我も殆ど気を使わなくても良くなったし傷痕はまあ今の所目立つけど
兄貴が言うには自然に目立たなくなるらしいし…

ってそんな事はどうでもいいんだが…

なんせもう由貴がマネージャーじゃ無くなったから同じスタジオに由貴がいない…

スタジオの隅を見ても由貴の姿が無い…
変わりに生まれ変わったのかと思える様な元のマネージャー三鷹が立ってる…

「はぁ……」

ちょっと前までは24時間いつも一緒にいれたのに…
今頃由貴は何をしてるんだか…って事務所で仕事してるんだろうけど…

「そういや日にち決まったのか?」

「 !! 」

この野郎は人がそれで落ち込んでるを知っててエグるのか?

「何で睨まれるんだよ?なんだ?やっぱり嫌だってメガネちゃんに断られたか?」
「んなわけ!!………そんな事あるわけないだろうがっ!」

撮影中だっての忘れてた…声をひそめて言い返す。

「じゃあ何だよ?」
「空いてる日が無いんだよ…式場の…」

ああ…ヤな事思い出した…




「一体いつなら大丈夫なの?」

「え?」

満知子さん紹介の訪れた式場で特別に通された応接室で由貴がオレに向かって少し強めに言う。
ここが最後の3箇所目で今までの中で2人共気に入って此処に決めた。

「いつって…だから撮影と仕事の無い日!」
「だから具体的に!」
「え?んーーーでも撮影始まると殆ど連日だもんな…」
「でしょ?その間に映画の舞台挨拶も入って来るのよ。やっぱり無理じゃない!」
「そんな事無いって!………じゃあこの日は?」
だいぶ先の空いてる日を指差した。
「その日は仏滅ですが…」
「は?」
「私そんなの嫌よ!」
「料金は通常よりお安くなりますけど…」
「…………」
そんな所でケチれるか!!
「それに出来れば休日に重なった方が一般の人呼びやすいんだけど…」
「はあ?そんなの構ってられるかよ!そんな事言ったら何ヶ月先だよ!」
「だから私はそんなに焦らなくても良いって言ってるのに…」
「だ・か・ら・オレは1日でも1時間でも1分でも1秒でも早く式を挙げたいの!」
「だって式の次の日仕事とかってちょっとキツイわよ?」
「…………」

確かに由貴の言う通りなんだけど…頷くのは癪に障るし……

「もう1度日にちの方をご検討されてからでは?」

あんまりにもオレ達がごちゃごちゃとやって決まらないもんだから
担当のスタッフがそう切り出した。

「お仕事がお仕事ですので…」
「そうよ…惇哉さん…もう一度スケジュール良く調べて出直しましょう。」
「…………」

オレは内心その場のソファのイスにかじりついてでもゴネて
その日のうちに式の日取りを決めたかったのに…

確かにオレ1人の都合で決めるわけにはいかないから…
撮影に影響させる訳にはいかない……

もうオレはガックリで……

来た時のハイテンションは何処へやら…3箇所も回った疲労だけが残った…



「普通調べてから行くだろ?」

レンジがオレを見下ろしながら呆れた眼差しと口調で責める。

「ちゃんと撮影の空いてる日調べて行ったよ!そしたらことごとくその日が
仏滅でさ…しかも次の日オレが仕事じゃ嫌だって由貴が言い張るし…」
「お前の事心配してんだろ?撮影の事も…元マネージャーだしな。」
「それはどうかな…」
「あん?」
「先延ばしに出来れは由貴は先延ばしにしたいんだ…」
「何でだよ?」
「さあ?まあ色々複雑なんじゃないの?って言うか悪あがきだと思うけどね…」
完璧にオレに捕まる訳だしもう逃げようもなくなるし…
「だから今いつなら大丈夫か検討中!まったく…本当なら決まってるはずなのに…」
「まあゆっくり考えるんだな。」
「ちぇ…他人事だと思って…オレがどんなに式挙げたがってるかお前だって知ってるだろ?」
「まああそこまで大胆にプロポーズしといてこっそり籍だけ入れるってのも何だか情けねぇけどな?」
「 !! 」

そう言ってレンジがニヤリと笑ってオレを覗き込む。

「しようと…してたよ…それが悪いかよ!」
「いや…悪いとは言わんが男として情けねぇ…ここは堂々と式挙げるとこだろうが!
そんで胸張って婚姻届を役所に叩きつける!」
「いてっ!!頭小突くな!」
ゴ ン ! と横から小突かれた!
「別に叩き付けなくてもいいんだよ…は〜何か気分転換でもしようかな…」
「俺は今日は無理だ。この後まだ他の仕事入ってる。」
「そう?……じゃあどうしようかな…このままじゃまた由貴とモメそうだし…
あ!遼平どうかな?ご飯くらい付き合ってくれるかな?」
「早速後輩を良い様に使うのか?」

「お前と一緒にすんな!後輩指導も兼ねてスキンシップだよ ♪ 
さっき凄い緊張してたしさ…これからまだ当分撮影は続くんだぞ。
あれじゃ持たなくなる…オレって後輩想いなんだよ ♪ 」

「どうだかな…」


その日の撮影終了後…オレはちょっとお疲れモードの遼平を見つけて声を掛けた。



「日取り…か…」

惇哉さんが帰る前の1人の時間…
部屋の中のカレンダーの前でにらめっこ。

今日事務所で調べたスケジュールではこの前と同じ仏滅の日か
次の日惇哉さんに撮影の仕事が入ってるかでなかなかピッタリの日にちが無い。

ドラマの撮影が終わるまで待てばまだ余裕はあるのに…
惇哉さんは1日でも早い式を希望してる…

そりゃ私だって協力したいけど…
流石に仏滅は勘弁して欲しいもの……

「う〜ん…どうにかならないかしらね…」

私はいつでも構わないけど…最近は出来れば早い方がいいと思う様になってきた…

だって…

決まらないモヤモヤを惇哉さんが毎晩私で癒そうとするから……
その……毎晩相手をさせられるのは…流石に…ちょっと…身体がもたない…

「もう…恥ずかしいったら……」

そんな事を思いながらまたカレンダーを見つめる……

「うーん……」


本当…どうにかしないと……自分の身体は自分で守らなきゃ……

なんて真剣に思ってしまった。