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「…………」

オレは黙々と由貴の作った夕飯を食べ続ける…

「…………」

由貴がオレの隣でやっぱり自分の作った夕飯を食べてる…
でもオレとは違って何気にオレの方にチラチラ視線を送ってる。

そしていつもオレの座ってる席には何故かわからないが…(本当はわかってるが…)

あの生意気で高飛車な 「 羽柴 智匱 」 が座ってて…

これまた何でだか知らないが…(って本当は知ってるけど…)

当たり前の様に由貴の作った夕飯を食べてる…


オレはそんなアイツを見て見ないフリで黙々とご飯を食べ続ける。


「あんたいつもそんなぶっきら棒な顔で飯食ってんの?」
「そんな訳あるか!!今は特別だよ。」
「惇哉さん!!」

もう…大人気ないんだから…

「本当なら久しぶりに由貴と外食だったんだからな!デートだったのに!
それがこんな生意気で高飛車なガキと一緒にご飯なんて…」

「って言われてもなぁ…誘ったのソイツだし。」

「誘って無いし!ソイツって言うな!!年上だぞ!!」

「じゃあ 「 由貴 」 ?」 

が た ん っ !!!!

オレは速攻イスから立ち上がる!!ざけんなっ!!!

「惇哉さん!!」
「表出ろっ!!!人の嫁つかまえて何呼び捨てにしてんだ?」
「ぷっ!!はは!!面白れぇ!!何ムキになってんの?」
「冗談でも由貴の名前を呼び捨てにすんな!」
「くっくっ…テレビで見るのとじゃエライ違いだな…楠センパイ!」
「同じだったらおかしいだろ!」
「へえ…やっぱ違うのか…」
「?」
「そう言えばいつも呼ばれる時何て呼ばれてたかしら?」
「さあ?呼んだ事無いんじゃね?」
「そうだっけ?」

そう言えば 「 なあ 」 とか 「おい」 とか…後は目が合ったから…とか?

「アンタの名前は全部呼びにくいんだよ。」
「え?何で?全然呼びにくく無いでしょ?「楠さん」とか「由貴さん」とか…」
「マネージャーって呼ぶと違うって言うし楠はこっちにいるし「由貴さん」なんて俺が言えるか!」
「そうかしら?」
「年頃の思春期の男の子なんだよ…俺は!」

自分で年頃の思春期とか言うな!
余計由貴の身が危険に晒されてる気がするだろうがっ!!

「明日は学校終わってからで撮影間に合うから…久しぶりに最後まで授業出れるわよ。」

由貴はそんな事…全然の全く気にしてないしっ!!少しは警戒しろっ!!

「ふぅん……」

「単位はしっかり取っとけよ。落第なんて社長許さないから。」
「ああ…わかってるよ。心配性だな〜楠センパイは……はぁ〜〜」

「!!」

溜息なんてつくなっつーの!!


そんな噛み合わない会話をしながらあっという間に食事の時間は過ぎた。

やった…良かった…サッサと帰れ!!


「じゃあ明日は校門の前まで迎えに行きますから。」
「ああ…」
「もう…!!」

来るな!と言い掛けて由貴がオレの脇腹を肘で小突く。

「………」
「じゃあ明日…」
「ああ…」

そう返事だけ寄こしてアイツはサッサと玄関を出て行った。

「ったく…ホント態度悪い! 「 ご馳走様 」 も結局言わなかったぞ。」
「でもちゃんと食器片してくれたし…その時に美味かったって言ってくれたのよ。
まあ私が口に合ったって?って聞いたからなんだけど…」
「いつの間に!」
「彼ちょっと捻くれてるだけなんじゃないかしら…憎まれ口ばっかり言うけど…」
「ガキだって事だろ?」
「照れるお年頃?」
「誰に?」
自分にとでも言うのか?由貴…
「女性全般?」
「んな事あるか!」

「高校生だからって皆惇哉さんみたいに女の人に慣れてないのよ。」

「は?何その間違った認識!?」

「間違ってるの?」
「間違ってるよ!」
「そう?」
「由貴!」
「ん?」

リビングに戻ろうとする由貴を追い掛けた。

「オレってどんな高校生だったと思ってんの?」
「高校生の時はもう俳優の仕事してたんでしょ?」
「ああ…」
「だって自分でも言ってたじゃない。」
「何て?」

「 「 10代は遊んでた 」 って。」

「!!」

げっ!オレ何真面目に由貴に話しちゃってんの?

「だからもう遊びは卒業したって…」
「そう…だっけ?」
「そうよ。レンジさんだって言ってなかった?良く一緒に遊んだって?」
「…………」
「それに何人かお付き合いした人もいるんでしょ?」
「…………」

あの……何だか…針のムシロなんですけど?
それにその言い方…何気にオレを責めてる?由貴?

「由貴…」
「何?」

「それは過去の事って…理解してくれてるよな?」

「………」

「由貴?」

何だ?その無言は?

「今は…私だけなんでしょ?」

「え?」
「私だけを好きでいてくれるんでしょ?」
「由貴…」
「私を裏切ったりしないんでしょ……」
「もちろん…」
「なら何も心配する事無いじゃない…」
「由貴!」

また行こうとする由貴の腕を掴んだ。

「それはそれで…」
「?」
「今日のデートの代償は?」
「え?」
「オレどれだけ今夜由貴との食事楽しみにしてたと思う?」
「あ…ごめんなさい…でも…」
「でも?」
「後輩育成って事で……納得して欲しいな…」
「納得?」
「うん……」

何となく…怪しい気配を感じて身体が勝手に後ろに下がる…
でも腕は惇哉さんに掴まれたまま…

「じゃあオレを納得させて…」

「え?」

「納得して欲しいんだろ?だから納得させてみて…」

「また…そんな事言い出す…」
「由貴…」
「あ……ん…」

引き寄せられて…私の腰に惇哉さんの腕が廻されて引き上げられる…
そのまま口を塞がれた……

「んっ…ちゅっ……ン…」

あんまりにも激しくキスされるから惇哉さんの肩を思わず掴んだ…
掴んだ肩をもっと強く掴む…だって…

そのまま壁に押し付けられて…

「あ…や…」
「由貴……ちゅっ……」
「あ……」

ギュウって抱きしめられて…首筋を舐め上げられて…耳朶を甘噛みされて…

だから身体から力が抜けて…立ってられない……

「惇哉さ…やめ……」
「由貴……」

惇哉さんの息と囁く様な声が耳にかかる……

「…………」
「一緒にシャワー浴びたら納得してあげるよ…」
「……え?」
「決まりね!」
「ええ!?そん…な…」
「オレに納得して欲しいんだろ?ならそれが条件 ♪ 」
「ええ!?そんなの…ズル…イ…」
「ズルくない正当な取引 ♪ 久しぶりだな〜〜由貴と一緒にシャワー浴びるの ♪ 」
「…………う…」

私は激しかったキスとちょっと遊ばれた余韻で涙目…


「そんなに嬉しい?泣いちゃうほど ♪ 」

「嬉しくないっっ!!!あっ!ちよっ…!!」

ガバッ!とお姫様抱っこで抱き上げられた!

「由貴お姫様抱っこ好きなんだもんな ♪ 」

「えっ!?」

って何でその事知ってるの??


ニッコリと笑って見下ろされて…惇哉さんが浴室に歩き出した……





「レンジ!」
「あ?」
「オレにもタバコくれ!」
「ああ?珍しいな?」
「今吸いたい気分なんだよ。」
「ほらよ!」

ドラマ撮影の合間にいつもは吸わないタバコを吸った。
吸わずにはいられなかったし…

「何だ?またメガネちゃんか?」
「由貴と言うか…何と言うか……こう…当り散らせない悔しさが…」
「は?何だそりゃ?」
「だからタバコなんだよ!」

昨夜は由貴の身体にこれでもかってほど…オレを刻み込ませた。

オレのモノだって言う印も…これでもかってくらい付けた…
どれだけ…どんなにオレが由貴の事を好きかわからせた。

それでも今頃由貴がアイツと一緒だと思うと気がきじゃないし落ち着かないし…

でもオレも自由になんて動けないし…ちぇっ…休みさえあればな…

「撮影1日くらいどうにかならないかな?」
「無理だろ?ただでさえちょっと押してんのに…」
「だよな…」

「あ!いたいた!!」

「ん?」

セットの奥から助監督が走って来る。

「あの明日のお楠さんの撮影なんですけど…相手役の方が他の仕事で海外行ってて
悪天候で帰って来れないんだそうです。なので先に他のシーンの撮影と交代しますんで
明日楠さんお休みになりました。」

「えっ!?マジ?」

オレは一気に心臓が跳ね上がる!!やったよ!オレって超ツイてるっ!!

「はい。でもその代わりその後は帳尻合わせで結構スケジュールハードですけど…」
「OK!OK!大丈夫!任せなって ♪ 」
「すいません…じゃあ宜しくお願いします。今マネージャーさんの方にも話し通しますので…」


オレはそんな助監督の声も耳に入らないほど浮かれてた ♪

恋の神様…じゃない…愛の神様っているんだよ ♪
オレの胸のうちを察してこんなサプライズを……ああ…真面目に仕事してて良かった〜 ♪





「おはよう。智匱クン ♪ 」

「は?何で?」


次の日…目の前に現れたオレを見てアイツの驚いた顔って言ったら…

見物だった。



「今日1日…オレがお前のマネージャーになってやる。感謝しろよ ♪ 」