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智匱君のお父さんが撮影が終わった後私も一緒に会って欲しいと頼まれた。

だから智匱君と2人約束したお店でお父さんが来るまで待ってた。


「………」

いくら仕事の話かもしれなくてもこんな事初めてで…緊張する。

「そんな緊張しなくても親父文句なんて言うタイプじゃないから。」
「そ…そう?」
「まあ何か文句があったとしても俺は文句なんて無いからちゃんと親父には話すし…」
「ありがとう…」

そんな風に言ってもらえて…少し安心する…

ちょっと情けない…


私達がお店に入って15分程して…智匱君が入口に向かって手を挙げる…

「親父こっち!」

ドキン!!身体が跳ねた。

「すまん遅れて…」
「いや…そんなに待って無いし…で?話って何だよ?親父…あー!こっちが…」

「あ!は…初めまして…
今休んでる前田さんの代わりに一緒にお仕事させて頂いてる楠 由貴です。」

そう言ってペコリと頭を下げた。

「…………」

「?」

え?……なんで?何で何も言ってくれないのかしら?
も…もしかして…とっても怒ってる…とか?

「あの…」

ゆっくりと顔をあげると…智匱君の隣に座ってるお父さんがじっと私を見つめてる…


「あの……何…か…仰りたい事があるんでしょうか?」


「……由貴…」


「え!?」
「 親父!? 」

智匱君のお父さんが私の事を名前で呼んだから私も智匱君もビックリしてしまった!

「もう…忘れてしまったかな……由貴…」

「………え?」

「あれから20年以上経ってしまったからな……」

そう言ってすまなそうに笑う智匱君のお父さん……智匱君の……お父さん……

「……お父……さん?」

「は?」

「良かった…覚えててくれたんだね…由貴…」

そう言って…優しく笑う顔は…紛れもない……私の……


「お父さん!!」



「マジかよ……」

話があるなんて親父が言うから一体どんな話しかと思えば…
こんな爆弾発言かよ!!!

「満知子と別れた時は私も若かったから…一生懸命勉強してる満知子を応援してあげられなかった…
もうその時は由貴も生まれてたし…家族の為にずっと家にいてくれないかと話し合ったんだが
満知子はもっと勉強したいと言った…それから私と満知子は何処かがズレてしまったんだろな…
溝が出来て…もうどうにもならなくなってしまった…」

「…………」

私は小さかったからその頃の事はあまり覚えていない…
ただ父が優しかった事だけは覚えてる…顔は何度か家に残ってた写真を見て何となく覚えてた…
その写真もいつの間にかどこかにいってしまって…無くなってしまったけど…
きっと母が処分したんだと思った。

「由貴は満知子が引き取って…すぐ自分の親元に預けてしまったから…会う事も出来ず…
私もその後すぐに笙子…智匱の母親と知り合って…結婚してしまったから…
もうお互いの生活には干渉しない方が良いと思ってね…
でも由貴の事はいつも気になっていた…」

「お父さん…」

「今まで何も父親らしい事がしてあげられなくてすまなかった…
本当はずっとこのまま…名乗らずにいるつもりだった…だが…」

「何?」

「まさか由貴が智匱のマネージャーになるなんて…しかも同じ事務所に所属するなんて…
思ってもみなくて…それでもこのまま…黙っていようと思っていた…」

「じゃあ何で急に話す気になったんだよ?」

「………お前が…」
「俺が?」
「……由貴に……惹かれてる様な…素振りを見せるから……」

「はああーーー????」

「 !!! 」

今度は俺が驚いた!!!

「なっ……親父…な…何言って…ハッ!!」

アイツがもの凄い驚きの眼差しで俺を見てる!!

「かっ…勘違いするな!!俺はあんたの事なんてコレッぽっちも好きだなんて思ってないからな!
親父もお袋の言う事真に受けんなよ!」

「いや…でもお前も満更でも無い顔してたから…」
「…………」
「その人を疑う眼差しやめろっ!ホント〜〜〜〜〜に俺はコイツの事何とも思ってないって!!」
「そうか…じゃあ…父さんの思い過ごしか…」
「そうだよ!」

「本気になる前に…2人には話しておいた方がいいと思ってな…そうか…
後から姉弟だとわかるより…先に知っておいた方がと思ったんだが…」

「………」

そうか…俺と父親が同じって…事は…俺達姉弟って事なんだ…

「……アンタが俺の…姉貴…?」

「………」

私はもう驚いてしまって…声が出ない…

「そう…由貴と智匱は異母姉弟だ…」

「あ…もしかして…名前…」
「そう…智匱の 「 匱 」 は由貴の 「 貴 」 からつけた…それ位の事しか出来なくてな…」
「お袋は知らないんだろ?この事…」
「ああ…私がバツイチだと言う事は知ってるがその相手が満知子だとは知らない…
知る必要は無いと思っていた…でも時期を見てこの事は笙子にも話そうとは思ってる…」
「……お袋…大丈夫か?」
「話してみないとわからないが…あの性格だから大丈夫だろ…
今私が満知子とどうと言うわけでは無いし…」
「そっか……」
「お前の方こそ大丈夫か?いきなりこんな話で…」
「え?そりゃいきなりで驚いたけどさ…別に不倫してたわけじゃ無いいんだし
隠し子ってワケでもないんだからさ…それなりに受け入れる事はできる…」

ただ…本当にビックリしただけで……

「お母さんも素敵なお相手がいるのよ…お父さん。」
「そうか!それは良かった…いつも仕事ばかりでどうなんだろうとは思っていたが…」
「ええ…もうすぐ結婚するかもしれない…」
「そうか…」

そう言ってお父さんがニッコリと笑う…

おぼろげな記憶の中の同じお父さんの笑顔…

お父さんの事は気にならなかったと言えば嘘になるけど…

物心ついた時にはもうお父さんはいなかったし…
いないのが当たり前だと思ってたから…そんなに気になんてしてなかった…

きっと母がその分頑張ってくれてたんだと思う…



それから色々な話をした…

まさかこんな話が待ってるなんて思ってもみなくて…驚いた…


「ねえお父さん…」
「ん?」
「今度惇哉さんにも会ってもらえる?」
「え?私なんかが会ってもいいのかな?」
「何で?お父さんは私のお父さんでしょ?義理の息子になるのよ?」
「え?ああ…そうか…そうなるのか…でも私はそんな図々しくは無いよ…
由貴の父親と言うだけの事で…私は満足だから…」
「お父さん…」

「由貴…」
「ん?」

「テレビで見たよ…感動のプロポーズだったな。」
「もうやだ!恥ずかしいでしょ!あれは惇哉さんが勢いでしちゃった事なんだから!」

消せるものなら全国の人のその記憶を消したいわよ!

「でも…幸せそうだね…由貴…それに綺麗になったよ…」

「お父さん……ありがとう私幸せよ。」

「うん…」

「由貴姉…」
「え?」
「それなら呼べそう。」
「………智匱君」

「でも…アイツがなんて言うかな…」
「そうね…でも本当の事だもの…わかってくれるわよ…」

「だといいけどな…」

「……大丈夫…きっと…」



そう返事をしながらそれは自分に言い聞かせてるのかもしれないと…ふと思った…

でも…本当の事を伝えるだけだもの…大丈夫よ…ね…