由貴ヤキモチ編 04





「…………」

夕飯を食べ終わって約束した通り由貴と2人杏華ちゃんの
お祝いのケーキを買いに駅前に車を走らせてる…

確かに歩いて行くには距離があるけどちょっとしたデート気分を味わうには
丁度良い距離でオレとしては歩いて買いに行きたかったのに…
由貴は時間が掛かるからと言って車を選んだ。

だと…オレは思いたいんだけど…


「由貴?」
「何?」

こっちを見ない…

「あのさ…もしかして怒ってる?」
「何を?」
「え?ああ…えっと…杏華ちゃんと…その…」
「怒ってないけど?」
「そ…そう?」
「だって別に・し・た・ご・こ・ろ・あった訳じゃ無いんでしょ?」
「あ…当たり前だろ!!」

何気に下心の部分が強調されてた気がするけど…気のせい?

「なら良いんじゃないの?慕ってくれてるんでしょ?無碍にするのも可哀想だものね…」

「…………」

え?何か言い方に棘がある???由貴さ〜ん……



「どうしたの?智クン?」
「別に」
「そう?何だかさっきから様子が変みたいだから…」
「わかってんじゃん…」
「え?」

楠さんと由貴さんが私の初映画出演確約を記念して
お祝いにケーキを買って来てくれるって言ってついさっき2人で出て行った。

だから今楠さんの家のソファに智クンと2人で座って待ってるんだけど…
さっきから智クンの様子が変で…

「杏華の気持ちはわかるけど…やっぱ俺に先に話して欲しかったよ…」
「だからその事はさっき言ったでしょ?お世話になった楠さんに先に話すのが筋ってもんでしょ?」
「………抱きつく為に会いに来たのかよ!」
「だから…あれは感極まって…って…しつこいよ!智クン!!」
「俺達がいなかったらお前アイツに何されてたかわかんねーだろ!」
「なっ…何言ってるの?楠さんがそんな事する筈無いじゃない!結婚だってしてるに!」
「そんなの関係無いって!あんな無防備な女が自分から抱き付いて来たら
男ならちょっとはその気になるだろうが!」
「なに?智クンはその気になっちゃうの?」
「は!?……バァ〜カ!杏華なんかにそんな気なる筈無いだろ!!」
「痛いっ!!」

智クンが私のオデコにデコピンした!!

「もう!痛いよ〜!!」
「浮かれやがって…」
「あー!!何?嫉み??私が映画に出るって決まったから!」
「アホか!嫉むかっての!!俺だって今度また連ドラの話来てんだからな!」
「え?本当?」
「ああ…今度は恋愛絡みの話だから…」
「へえ……そうなんだ…」
「だからキスシーンだってあるかもな!」
「え?」

びっくりして智クンを見たら智クンは真っ直ぐ前を向いてた…

「…………」
「……まあ…仕方ないよね…仕事だもん…他の人達だってやってるよ…うん…
私だってこれからわかんないし…」
「杏華ってさ…」
「ん?」

「誰かと…キスした事あんの?」

「………え!?」

智クンがちょっと赤い顔して私を見ながらそんな事を聞く…なんで?

「あ…あるわけないでしょ!!仕事でもそんなの無いし彼氏だって今までいなかったんだよ…」
「だよな…」
「何よっ!!まだだからってバカにしてるの?」
「してねえよ…俺だってまだした事無いんだから…」
「智クン…」
「お前と同じで仕事でも無いし誰とも付き合ってないからな…」
「そうだよね…」

告白はされてたみたいだけど智クンは誰とも付き合った事は無いんだよね…

「………お互いファーストキスがどこの誰ともわからない相手になるかもしれないな…」

「え?」

そっか…そうだよね…そう言う事だよね…

「そうだね……どこの誰ともわからない相手か……仕方ない……」

チュッ………

「 !!! 」

そんな返事をしながら智クンの方を向いたら…いきなり目の前が暗くなって…

唇に智クンの唇が触れた……

「……ん…」

触れた後…そのままちょっと押されて…智クンの唇が離れて行った……

「……智…クン…?」

「これで…お互いファーストキスの相手が俺と杏華になった。」

「え……?」
「知らない相手になるよりは良いだろ?」
「…………う…ん…」

でも…何?

「なんで?智クンは私で良かったの?」
「杏華は俺じゃ嫌だったか?」
「そ…そんな事…無いけど…いきなりだったから…ちょっとビックリで…」
「それからもうアイツに抱きつくの無しな。」
「え?」
「いくらファンかもしれないけど…一応結婚してんだしさ…」
「うん……気をつける…」
「気をつけるんじゃなくてするな!あれでも姉貴のダンナだから…由貴姉にも悪いだろ?」
「……うん…って…え?姉貴…って?由貴さんが?」
「そう…」
「智クンの?」

「そう…ウチの親父お袋とは2度目の結婚なんだ…で最初の結婚で生まれたのが由貴姉…
だから俺とは異母姉弟なんだってさ…」

「えっえっえっええーーーー!!うそぉ!!」

「ホント!俺もついこの間知らされて驚いた。」

「じゃじゃじゃじゃあ〜楠さんと智クンって……義理の兄弟になるのぉ???」

「そうなるんだよな…残念な事に…」
「何が残念なの!!凄いじゃん!!」
「凄いか?」
「うん!!……痛いっ!!」

またオデコにデコピンされた!!

「智クン!!何すんの!!」
「お前が懲りないから!」
「何よ!!もう!わかんない!!」
「わかんなくてもいいよ!俺との約束守るんなら…」
「え?」

「……次からは…絶対俺に最初に話せよ…杏華…約束…」

「智クン……」

「そりゃアイツの言う通り頼りないかもしれないけど…
俺の方がずっと前からお前の傍にいるじゃんか……俺よりも 『 楠 惇哉 』 か?」

「………え?」

「なあ?」

とっても真剣な顔の智クン…
私に向かってそんな顔も…こんな智クンも初めてかも…

「………智クン……わかった…次からはちゃんと一番最初に智クンに話す…」
「ホントか?」
「本当!」
「なら今日の事は許す。」
「うん…ありがと…って勝手に人のファーストキス奪ったんだから許すのはこっちでしょ!」
「何だよ!さっきはちゃんと納得してたじゃん!」
「知らないうちに頷いてたの!!もう!!」
「痛いって…叩くなよ!杏華!」

ポカポカと杏華が俺を叩く…

「杏華?」
「………」

俺を叩いてた杏華の手が俺の首に廻されてギュッと抱きしめられた。

「本当は…嬉しかったよ…智クン…」
「俺のファーストキスなんて超レアだぞ…」
「フフ…そうかもね…」
「そうだって…」

私はずっと智クンに引っ付いて…2人でしばらく笑いあってた…

子供の頃からずっと一緒だった智クン…
もしかして…なんて思った時もあったけど…改めて聞くなんて出来なかったし…
いつも智クンが他の人の所に行きません様にって思ってた…

だから……本当に嬉しい……

智クン…少しは智クンに近づけたかな……もう少しかな……


「ただいま〜〜 ♪ 」


そんな声が玄関からして2人して ビ ク ン !!! っとなって慌てて離れた!!

「お…お帰りなさい!」
「ただいま…ん?どうしたの?2人共顔真っ赤。暑かった?」
「いえっ…大丈夫です!!!」
「…………な…何だよ…」

アイツがニヤニヤ笑って俺達を見てる…

「やだな〜〜2人っきりになったからって…」
「はあ?何言ってんの?あんたと一緒にすんな!」
「え〜照れない照れない…」
「照れてなんて無い!」
「オレならいない間にアレもコレも……痛っ!!」

後から後頭部を由貴に叩かれた!

「いい大人が何恥ずかしい事言ってるのよ!後で教育的指導ですからね!!」

「由貴……」

「色々買ってきたから好きなの選んで…今コーヒー淹れるから…
それとも紅茶の方がいいかしら?」
「私手伝います。」
「ありがとう。じゃあお願いしようかしら…」


そんな会話を交わす由貴は何事も無かった様なのに…

2人っきりになるとやっぱり由貴の態度は変で…


これはちょっとヤバイのか?なんてオレは思い始めてた……