由貴ヤキモチ編 06





事務所で偶然聞いてしまった惇哉さんと高校の同級生だったと言う…

今は俳優の 『 七瀬 優二 』 さんの奥さんとの会話…

七瀬さんの…子供が…惇哉さんの子供で…しかもちゃんと認知してるって…


私はその後…事務所だったって言うのもあるけど惇哉さんには何も聞けず…

惇哉さんはいつもと同じ様に…撮影に出掛けて行った…



「…………はあ…」


こう言う時に限って帰りが遅い……良いのか…悪いのか…

やっぱりちゃんと…ハッキリと聞いた方が良いわよね…

でも…本当の事なのかしら…随分軽い感じにかんじたけど…
2人共割り切ってるって事?

そう言えば惇哉さん昔遊んでたみたいだし…何人かの人とも付き合った事あるみたいだし…

その内の1人が妊娠したっておかしくないかも…
でも惇哉さんの職業柄そうそう大ピラに出来なくて…

なんて妄想が後から後から溢れて来て…

「ああ〜〜もう!!」

ボッフリとソファのクッションに顔をうずめた。

「……………」


ダメだ…

頭の中に惇哉さんと彼女の仲良さそうにしてるツーショットまでもが浮かんで…


何でそんなに気になるのかしら…きっと何かの間違いの筈なのに……

だってそんな大事な事私に話さないわけ無いもの………多分…

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「あ…」

珍しく鳴った私の携帯はそんな1人噂をしてた惇哉さんからだった。

「はい?」
『由貴?オレだけど…』
「どうしたの?」
『撮影終わったんだけどさ…今日事務所に高校の同級生来ただろ?
早速七瀬さんからお誘いがあってこれからレンジと一緒に飲む事になったから。』
「え?」
『だから帰り少し遅くなるから。』
「わかった……」
『由貴?』
「ううん…明日も仕事あるんだから無理しないでよ…」
『わかってる ♪ じゃあね。』
「うん…気をつけてね…」
『は〜い ♪ ちゅっ ♪ 』

「…………」

何よ…こんな時に…キスなんかで誤魔化されないんだから!!

「もお〜〜〜〜惇哉さんの…バカぁ!!!」


私は携帯を放り投げてソファのクッションに向かって思い切り正拳突きを叩き込んだ!!



「何だか緊張する…」


結局1人で部屋にいる気になれなくて私には珍しく夜の街に出た。

夜の街って言っても駅前…大人の女性が時間潰しで歩く様な場所じゃないわよね…

お店だってファミレスやファーストフード店…本屋さんにスーパーにコンビニ…
洒落たお酒の飲めるお店なんて無いに等しいしあったとしても1人で入る勇気なんてないし…
居酒屋なんてもっと1人じゃ入れないし…それに……


1人じゃつまらない……


「だからって帰るのはバカらしいから…何か…
あ!そう言えばあそこで期間限定でシェイクが販売してるんだった!」

惇哉さんが飲んでみたいなんて言ってたけど…

「先に飲んじゃお!」

きっと惇哉さんは飲めずに終わると思うけど…

「ふーんだ!」

ちょっとした惇哉さんへの仕返し……の…つもり。



「いらっしゃいませ。」

流石にこの時間じゃ家族連れは殆どいない…CMでも有名なハンバーガーショップだけど…
今はカップルや学生っぽい人とか友達同士の人…何人か私みたいに1人の人もいるけど…
皆男の人…これが夕飯なのかしら?
何だか働き盛りなのにこんな食生活で大丈夫なのかしら…

って…私が心配する様な事じゃ無いんだけど…

私は2階の席の2人掛けのテーブルに座って窓の外を眺めてた…

キラキラネオンが遠くの方でも光ってる…ビルの明かりも…
この何処かに惇哉さんがいるのよね……

そして私の気も知らないで楽しくお酒飲んでるんだわ!

「もーーー飲んでやるぅーー!!」

シェイクだけど!!


「あれ?お姉さん?」

「 !! 」

誰?
見れば階段を上がった所で制服姿の高校生の集団の…
その中の1人が私の方を見てそう言った。

でも私は知らない顔…

「あ…そうか…お姉さんは俺の事知らないよな?いつも羽柴の事迎えに来てただろ?」
「え?……あ!その制服…」
「そう!羽柴智匱と同じ高校で同級の「福原」です。初めまして ♪ 」
「………」
「あれ?挨拶なし?」
「え…?あ…こんばんは…」

って何で私が挨拶をしないといけないのかしら?

「福!誰その人?」
「ああ羽柴の仕事関係の人らしい…ね?お姉さん ♪ 」
「羽柴の仕事関係じゃ業界関係者?」
「じゃない?ね?」
「………まあ…そんな所…」

なんとなく…このままだと帰れなくなりそうな気配がしたから早々に立ち去る事にした。

「なに?もう帰るの?」
「ええ…ちょっと寄っただけだから…それじゃ…」

本当はもう少しぼんやりとしてたかったのに…慣れない事はするなって事かしら…

考えみたら私そんなに夜に出歩くなんてした事がなかった…
学生の頃も…社会人になってからも…誘われて付き合うくらい…
別にそれも苦じゃなかったし…それに…あそこに引っ越してからは特に家から出なくなった…

「それって惇哉さんのせい?」

「ちょっとお姉さん!」
「ん?」

お店を出て少し歩いたら後ろから声を掛けられた。
お姉さんって?それにこの声って…

「あなた…」
「はぁ…はぁ…」
「何か?」
「何だか……悪い事しちゃったかなって…はぁ……はあ〜〜」
「何の事?」
「本当はもっとゆっくりしたかったんじゃないの?」
「………」
「俺が声掛けなきゃ帰る必要なかったのかなってさ…」
「別に…追い掛けて来てまで謝る様な事じゃ無いのに…」
「いや…本当は会えて嬉しくて…最近学校にも来なくなったでしょ?」
「え?」

今…彼は何て言ったのかしら?良くわからなかったけど…

「わざわざありがとう。気にしてないから…もうお友達の所に戻って。じゃあ…」
「あ…あの…」
「はい?」
「駅まで送らせて…」
「は?」
「帰るんでしょ?」
「あ…」

何も考えずに歩いてたから…駅に向かって歩いてたんだ…

「変なのに絡まれない様にちゃんと送るから…って俺も十分怪しいか?はは…」
「私の事知ってるの?」
「学校に羽柴の事迎えに来てただろ?その時何度か見掛けただけ…」
「そう…」
「俺メガネフェチなんだ ♪ メガネ掛けてる人好きでさ…それにお姉さん本当は綺麗な人でしょ?」
「え”!?」
「あ!そんな思いっきり引かないでよ…人妻まで手を出さないよ。」
「!!」
「指輪…学校の時には気付かなかったけど…やっぱ結婚してんのか…
そうだよな…恋人くらいはいるかと思ったけど…」
「あの……えっと…福原…君?」
「あ!名前覚えててくれたんだ。」
「だってちょっと前に聞いたばっかりじゃない…」
「それでも嬉しい ♪ 」
「本当に私は大丈夫だから…もう戻って…ありがとう。」
「………やっぱいいなぁ…お姉さん…旦那が羨ましい…」
「………」

「俺と浮気しない?」

「は?」

「旦那より俺の方が若くていいと思うけど?……って!!イッテエーーーー!!」

思い切り耳を引っ張ってやった!

「大人をからかうんじゃありません!」
「いたっ!!もうガキじゃないんだけど?」
「まだ15?16でしょ?子供よ!こ・ど・も・!!」
「初体験なら…」
「そう言う問題じゃないでしょっ!!!」
「イテッ!!」

今度は頭を思い切りバシン!と平手打ちしてやった!まったく…最近の若い子ときたら…

「ちょっ…初対面にそんな事するか?普通?」
「初対面に浮気しないかなんて誘わないでしょ!!」
「あんた気が強いな…信じらんない…」
「すいませんね!本当にもういいから…戻りなさいよ…
これ以上一緒にいたらまた殴られてお説教されるわよ…」
「それもまたちょっといいかも…」
「は?」

何?この子…?


「由貴!!!」

「え?」

「?」

この声って…

「惇哉さん!?」

私達が立ってる歩道のちょっと先の車道に黒のワゴン車が停まってて…
後部座席のスライド式のドアが開いて惇哉さんが身体を乗り出してた…

でも…その後ろから七瀬さんの奥さんが…惇哉さんの背中越しに顔を出したから…


惇哉さんの肩に…彼女の手が乗ってる……彼女の…手が…


ム カ ッ ! ! !


「…………」

「由貴!!こんな所で何やってんだよっ!!そいつ誰?」

「え!?何?あれって… 『 楠 惇哉 』 ??え?何で??えっ!?」


私は無言で今知り合ったばかりの高校生の福原君の腕を両腕でガッシリと組んだ。


「ボーイフレンドよっ!!!」


そう叫んで私と彼は横の路地に一緒に走り出した。