08
「コンチワ!」
「は?」
最近外を歩くと見知らぬ人達があたしに挨拶する。
特にちょっと見た目人様に迷惑をかけていそうな…そんな男の子や男の人…何で?
今もお昼を食べた帰り道で挨拶された…
「菅谷さん…一体何したんですか?」
一緒にお昼をとってたお店の娘が呆れた眼差しであたしを見る。
「なっ…何にもしてないわよ…あたしが聞きたいわよ!」
って…何となくわかるんだけど…誰に確かめる事も出来ず…
と言うか確かめるのも怖いと言うか…アイツに連絡しようにも携帯の番号知らないし…
だからって高梨さんに聞くのもなぁ…って事でアイツの家に行くなんてもっととんでもない事で…
あれから3日……何事も無く?過ぎた…
「地元のヤクザかなんか締めちゃいました?」
「そんな事あるわけないでしょっっ!!」
真面目な顔で…まったく……
「はあ……」
がっくり……
「いらっしゃい。あれ?」
「こんばんは……」
3日前にアイツと来たお店の入口のドアを開けて顔だけ覗き込んだ。
「今日はお1人ですか?」
「はい…あの正臣さんも?」
マスターと呼んだら『濯匡の知り合いなら名前で呼んで欲しいな。』って言われてしまった。
「香奈ちゃんは?」
「試験勉強でお休み。夜は比較的暇だしね。」
「あの…アイツあれから来ました?」
「え?濯匡?連絡取れないの?」
「あ…取れないって言うか…あたしアイツの携帯の番号も知らないから…」
「え?そうなの?じゃあ僕が教えてあげるよ。」
「えっ!!??いやっ…そんな…正臣さんからアイツに言ってもらえれば…」
「え?いいの?じゃあ真琴さんの番号教えて。濯匡に教えとくから。」
「えっ!?いや…それは…」
「ん?どうしたの?嫌なの?」
「え?……いや…そう言うわけじゃ…」
「濯匡に惹かれそうで怖い?濯匡マイペースだしガサツだしモメ事多そうだし?」
「…………」
そんな事を言う正臣さんだけど…とっても静かに微笑んでるから…
「濯匡がね女の子を此処に連れて来るなんて本当に珍しいんだよ。初めてかな?」
「………?」
「学生の頃はね…あれでもまだ普通に女の子と付き合ったりしてたんだ…
まあ…手の早いのと喧嘩っ早いのは相変わらすだけど…でもまだ色んな人にオープンだった…」
「学生の頃からあんな感じだったんですか?」
「結構明るかったかな…まあ今も暗いわけじゃないけど…
ただ一時期僕達から見てもちょっと荒れてた時期があってね…
その時に事件が起きたんだ…」
「事件?」
「その頃…高2だったかな…地元の不良とモメた事があってね…
その当時濯匡と結構仲が良かった女の子が濯匡を呼び出す人質に捕まっちゃって…
付き合ってたとかそんなんじゃ無かったんだけどね…誤解されちゃったみたいで…
まあそんな大事には至らなかったけど…相手の女の子は結構ショック受けちゃって…
その後転校しちゃったんだ…」
「転校?……アイツはどうしたんですか?」
「それから大分大人しくなったよ…相変わらず絡まれたりはしたけど…
その時から濯匡は特定の女の子を作らなくなった…浅く広く…そんな恋愛ばっかり。
ああ…恋愛とまではいかないのか?その場を楽しんで身体だけの関係。」
「………はあ…そう…みたいですね…」
「もう二度とあんな目には遭わせたくないんだろな…女の子に…」
「……………」
「でも!僕達はそんなの許さないんだ!」
「は?」
「高校の時濯匡を入れて4人でいつもつるんでた友達がいるんだけど…
いまだに仲が良くてね。3人で濯匡に彼女を作ろう!って頑張ってるんだ。」
「は?」
「だって濯匡本当はすっごく優しいくていい奴なんだから!」
「え?」
アイツが?優しくていい奴????
「多分今濯匡柊夜に依頼されて動いてるんじゃないかと思うんだけど…
じゃなきゃ3日も真琴さんを放っておくはず無いと思うんだよね。」
「え?それは一体どう言う???」
「だってこの前来た時あんなに楽しそうだったじゃない。
濯匡とあんなにジャレてたの真琴さんくらいじゃ無いかな?」
「え?」
「大体は濯匡にベッタリのイチャイチャなんだよね…でも真琴さんは濯匡にバカって言ったし…
イチャイチャもしてなかったし…それに頭に空手チョップだもの。
濯匡に女の子があんな事したの初めて見たし濯匡も満更でもなかったみたいだしさ。」
「……いやっ…あれは…その…あたしが…ガサツだからで…」
「お似合いなんじゃなかなぁ〜〜〜ってその時思ったんだ!」
「 ………ええっっ!!そんな事思わないで下さい!!! 」
「え?何で?濯匡じゃ不満?」
今日はカウンターに座ってたから正臣さんと位置が近い…だからそう言ってズイッと睨まれた。
「……だって…アイツがあたしの事そう言う相手として見てるわけじゃ無さそうだし…
あたしも…その…普通の…男の人と付き合いたいですし……」
「ええーーー!!そうなの?」
もの凄いガッカリされた……って…こっちも困るんですけど…
「……ごめんなさい……って勝手にアイツの事こんなにあたしに話しちゃって大丈夫なんですか?」
何かそう言うのうるさそう……
「ああ…平気平気!僕達に反抗なんて許さないから!何だかんだ言っても濯匡僕達に弱いんだ。
だから優しいって言ったでしょ!」
「……へぇ……」
「色々教えてあげるからね!!濯匡の事!!!何でも聞いて!!」
「………は?」
いや…別にそこまで知りたいとは…って…でもあの爽やかな顔で迫られると…
断る事が出来ない………ズルイわ……
それから1時間近く…
あたしはあいつの色んな事を正臣さんから延々と聞かされる羽目になった……
「………どうしよう…」
正臣さんのお店で夕飯を食べて自分の部屋に帰って一通りのやる事を済ませて
ベッドに腰掛けて携帯と睨めっこだ。
アイツの…携帯の番号を強制的に教えられて登録させられた。
「………そりゃ…用事が無いわけじゃないんだけど……でも…そんな掛けるほどじゃ…」
なんて気付けば30分近く時間が経ってる……それに仕事中…かもしれないし…
正臣さんにアイツのやってる事も教えてもらった…
探偵はアイツの父親の仕事で…ってあの親父が探偵ってウソっぽい様な…納得出来る様な…
元は刑事らしいからあの連中すんなり帰って行ったのかしら…なんて今更納得した。
あんなエロ親父のクセに…
アイツは高校の頃からそんな父親の仕事を手伝って今に至ってるらしい。
高校の友達の1人がどうやらアイツに仕事を廻してるらしいし…
ただその人も只者じゃ無いらしく結構危ない依頼なんかもしてるらしくて…
今ゴタゴタしてる事も元はと言えばその人絡みらしいし…
『柊夜は濯匡の事こき使うからね…色々融通利かせてるらしいし…
まあそれなりにお金にもなるから濯匡も楽しんでやってるみたいだよ。』
って言ってた……
「……はぁ……まあ困ってるって言えば困ってるけど……」
出なければ…それでもいいと思ってた…
もしかしたら電源切ってるかもしれないし……
親指はさっきから通話のボタンに置かれてる…
「出ないでよ……」
そう願いながら震える指でボタンを押した。
「 ………… 」
呼び出しのコールが5回鳴った…10回鳴ったら切るつもりだったのに…
『 はい? 』
9回目でアイツが出た…
「 !!!! 」
ど…どうしよう!!繋がっちゃった!!!
『 もしもし? 』
「……も…もしもし……」
『は?真琴?』
うそ!今の声であたしだってわかったの??
「…うん…あたし…」
『何?良くオレの番号わかったな?』
「…正臣さんに…教えてもらった……」
『ふ〜ん…そんな事までしてオレに電話って何だよ?』
「……今…平気…なの?都合悪かったら……」
『ねぇ〜誰から電話なのぉ〜〜?』
「 !!! 」
女???受話器の向こうから甘ったるい女の声がした!
『仕事の電話。』
『ホントォ〜〜?女じゃないのぉ〜?』
『違う。』
「 !!! 」
『なに?』
「……お忙しい所ごめんなさいね!別にそんな大した事じゃ無いから!!失礼っ!!!」
ブチッ!!っと切ってやった!!
「………やっぱ…掛けるんじゃ無かった……」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「 !? 」
それからものの1分もしないうちにあたしの携帯が鳴った…相手は…アイツ……
「 ………… 」
仕方なく出てやった。
『すぐ出ろよ。』
「うるさいわね。こっちだって用があるのよ!」
『ものの1分だろ。』
「………何か用?」
『用があったのはそっちだろ?気になんだろうが。』
「あらあたしの事なんて気にする余裕があるの?」
『………じゃあホントに切るぞ。』
溜息交じりで言わなくたっていいじゃないよ!
「………………アンタさ…」
仕方なく切り出した…シャクに障るけど…
『ん?』
「あたしの事何かした?」
『は?何かって…散々攻めて何度もイかせた。』
「!!!おバカっっ!!!誰もそんな事聞いてないってのっ!!」
『じゃあ何だよ?』
「最近外歩くと知らない人があたしに挨拶するのよ!どう見ても一般人じゃない部類の男の人が!」
『は?』
「いくら考えてもあたしには何も心当たり無いし…だとするとアンタしかいないでしょ?」
『ああ…多分お前オレの女って噂が流れてんじゃないの?』
「はぁ?」
『この前大通り2人で歩いたから。』
「何で歩いただけでそんな噂が流れるのよっ!!!」
『さぁ?オレにもわからん。それか正臣ん所の香奈か…あいつ噂話好きだからな。』
「こっちはそれでエライ迷惑してるの!お店の子にも怪しい目で見られるし!どうにかして!」
『ほっときゃその内収まる。』
「どのくらい?」
『……オレが他の女と歩けばフラれたって事で収まるんじゃね?』
「フラれたってあんたが?」
『いや…お前が!』
「絶対イヤッ!!!なんであたしがアンタにフラれたって事にならなきゃいけないのよ!!」
『って言われてもオレにはどうする事もできねぇぞ。』
「当分の間外を女の子と歩くの禁止!!」
『バカ言うな。何でそんな事しなきゃいけないんだよ。』
「そのくらい責任取りなさいよ!アンタのお陰で変なのまで絡まれるし!!」
ハッ!しまった!!この事は内緒にしようと思ってたのに…
『!!何だよ…どう言う事だよ…何かあったのか?』
「な…何にも無いわよ!アンタが心配する事なんて無いからっ!!」
『……………』
「じゃあ…ね…悪かったわね!お楽しみの所邪魔しちゃって。」
『オイ…』
切ろうとしたら明らかに今までとは違うアイツの声で指が止まった。
『あんまり1人で出歩くな…あと2日でそっちに帰る…』
「は?あたしは別に…」
『いいから!オレが帰るまで自分の身は自分で守れよ。』
「何よ…急にそんな……」
『正臣から聞いたんだろ?あいつすぐそう言う話人にするから…』
「…うん…」
『お前の事は…あの時とは違う…オレもお前に係わり過ぎた…』
「何よ…その言い方…」
『とにかく戸締りしっかりしとけ。じゃあな!』
ブチッと携帯が切れた!
「なっ…何よ!!こっちから切ってやろうと思ってたのにっ!!!!フンっっ!!!!」
携帯をバチンと閉めてベッドの上に乱暴に放り投げた。
「やっぱり…掛けるんじゃ無かったな………はぁ……」
アイツの中で…あたしはこんな存在なんだなぁ……
そんなに色んな女の子がいいのかな……
まあ…最初っから身体だけの目的でアイツはあたしに近づいて来たんだし…
それにまんまと引っかかっちゃったあたしもあたしで……
だって……惹かれちゃったのには違いなくて……今更…忘れなれなくて…
ぼーっと携帯を眺めながら…
あいつの登録した番号…消しちゃおうかな……
なんて思ったけど…結局消す事が出来ずにそのままの状態で…
ちょっとだけ…悲しい気持ちになったのは………何でなんだろう……