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♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ 

「ん?」

真琴と別れてから10分…オレの携帯が鳴った。

「…………」

相手は真琴だ…ったく…今度は何だ。
まだオレに用があんのか?

「…何の用だよ。」

ぶっきらぼうに話し掛けた。

『お前の女は預かった。返して欲しければ『ボンバー』に1人で来い!いいな!
おかしな動き見せたらこの女無事じゃ済まないからな!』

「………」

それだけ言うとブチリと通話が切れた。

「…あのバカ…何捕まってんだ……ったく!」

たった10分間だぞ…
オレは携帯を握り締めて…呼び出された場所に向かって歩き出した。



「………」

半月前にオーナーが捕まって潰れた店の入口のドアを開けて中に入る。
階段を下りて地下の店に入るとたった半月なのにテーブルやイスやカウンターにまで
埃が積もってる。
営業中はソコソコ儲かってたらしい…真面目に商売に励んでればいいものを……

「止まれ!」

奥の席から声がしてソファに真琴が後ろ手に縛られて座ってた。
その真琴を押さえる様に隣に男が1人…そのソファの前に男が3人立ってた。
2人は手に鉄パイプを持ってる。

「………」

…濯匡……来てくれたんだ……

「ほう…ちゃんと1人で来たか。」
「何の用だよ。」
「何の用かじゃねえっ!分かってんだろうが!」
「だからお前等の仲間が捕まったのはオレのせいじゃ無いだろ?いい加減しつこいんだよな…」

言いながらアイツがタバコを取り出して咥えた。
妙に落ち着いてる…

「お前のせいだろうが!サツにタレコミやがって!」
「違う。簡単にオレにシッポ掴まれるアイツがドジなんだ…だろ?
まあ口は固いらしいけどな…お前等助かったな。」

ニヤリと笑った…ワザとかしら…

「兄貴は俺を庇ってくれたんだ!」

「ん?」

店の更に奥から男が1人現れた…誰?

「やっぱお前か…」

何?濯匡はコイツの事知ってるの?
見た目はスラッと背の高い…小綺麗な顔立ちで…でも他の男達とはちょっと違う感じ…

「馬鹿だな…何で今更ツラ出した?」
「兄貴が捕まった原因の奴をヤルっつーから見に来てやったんだ。
それに最近目障りなんだよ…お前…オレの周りをウロウロしやがって…」
「こうやって出て来さす為だよ。案の定ノコノコ出てきやがったじゃねーか。」

「………」

そんな濯匡達の会話を聞きながら頭の中は?マークが一杯で…理解不能??

「まあそんな口聞けるのも今のうちだ…」

そう言うと鉄パイプを持った2人が薄笑いを浮かべながら少し前に出る。

「濯匡!」

思わず名前を呼んだ!

「初めて普通の時にオレの名前呼んだな。」

「濯匡……」

「………タイミング悪っっ!!」

思いきり呆れた頭された!!

「はあ?」
「まったく…ムードもヘッタクレも無いな。」
カチン!!
「なっ…何よ!今そんな事言ってる場合じゃ…きゃっ!!」

隣に座ってる男に服の上から思いきり胸を掴まれて揉まれた!
車の中でもあたしの胸に触った男…!!

「ちょっ…」
「大人しくやられろよ。じゃなきゃこの女がもっと恥ずかしい目に遭うぞ…」
「…………」
「どのみちテメェがやられたら死んじまう前に自分の女が他の野郎に
抱かれまくってるのを見ながらあの世に行かせてやるっ!」

誰が抱かれまくるのよっっ!!いやらしく笑うんじゃないっっ!!この変態っ!!
あたしが大人しく言いなりになると思ったら大間違いなんだから…

「 ふ ーーーーー 」

「!!!!」

濯匡がタバコの煙をワザと大きく吐き出した。

「オレの女になる最低条件はな……自分の身は自分で守れる女なんだよ。」

「!!!」

「テメェ何言ってやがる!!」
「………言われなくたってそのつもりよ!」
「!!」

急にあたしがそんなセリフを言ったから全員あたしに視線が集中した。

ゴ ン っっ!!

「 グ ッ !! 」

あたしの隣にいた男に頭突きを叩き込んだ!
額を押さえてる間に後ろ手に縛られてた腕を足の下をくぐらせて身体の前に動かす。
これで大分自由に動ける。

「この…」

顔を上げた所に今度は顎に膝蹴りを叩き込んだ!

「ガッ!!」

呻き声を上げてソファの後ろに吹っ飛んだ。
濯匡の方を振り向くと2人相手で後ろから鉄パイプが今にも振り下ろされる所だった。

「濯匡!伏せてっっ!!」

「ん?」

あたしの言葉と同時にしゃがんだ濯匡の後ろの男目掛けて足蹴りを叩き込んだ!
加減なんかしないから勢い良く壁に向かって吹っ飛ぶ。

「大丈夫?」

スタリと濯匡の前に立って真面目に聞いた。

「………スカートの中丸見え!」

「!!!」

ぼっと顔から火が出た!!

「おバカっっ!!変なトコ見るなっっ!!変態!!スケベ!!…ン!!」

立ち上がった濯匡がそのまま勢いであたしにブチュっとキスをした!!
もうあたしの心臓はドキドキで…

「他の誰にも見せんなよ ♪ 」

「…………」

あたしは何にも言えなくて…刺激的過ぎてクラクラ…倒れそう……
そんなあたしの横を濯匡がすり抜けた…

「後はオレに任せろ。」

って耳元に囁いて……もうそんな一言だけであたしの心臓がまたドキーンとなった。




「……はあ…」

その後はあたしなんかより容赦無い…
どこか骨折れたんじゃないかって思う様な音が後から後から響いてる。

「……ちょっと…」
流石に加減しなさいと今更言おうとした時…

「おい!竜崎。」
「ヒッ!」

あの最後に出て来た男に向かってニヤリと笑いながら凄む。

「お前は柊夜が話しがあるってよ。覚悟しといた方がいいぞ。」
「……うっ…」
「じゃあな!」
「わあっっ!!ゲホッ!!」

男の鳩尾に濯匡の蹴りが叩き込まれて物凄い勢いで壁に叩きつけられた!!




パトカーのサイレンが遠退いて濯匡と2人さっきの店の前に立ってた。
濯匡の知り合いの刑事さんが融通を利かせてくれて今夜は解放された。


「………」
「ったく何やってんだか……」

もの凄い呆れ顔と声だった。

「ちょっとそんな言い方無いでしょ!一体誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるのよ!」

あたしは多少後ろめたさを感じつつ…でも強気な態度だ。

「………それは……そうだな……悪かった……」

「え!!な…何よ…やけに素直じゃない…」

ちょっと気色悪いっっ!!

「お詫びに飯と酒おごる。」

「え?ホント?」

何だか狐に抓まれてる様な気分だったけど素直にその申し出を受ける事にした。




「………あ…あの…」

「そう緊張なさらずに…」

ニッコリと微笑むのは濯匡の親友の『水野柊夜』さん…

「はあ……」

「真琴はいい男の免疫が無いんだよな。正臣にも見とれてたもんな。」

「み…見とれてたわけじゃ…」

だって…濯匡に連れて来られたのはこの辺りじゃトップクラスの高級ホストクラブで…
あたしの周りにはここのNO5までのホストが勢揃いで…
皆さんとても爽やかな笑顔をあたしに振り撒いて下さるから…
その真ん中に柊夜さんが座ってる。

薄茶色のショートの髪にちょっと女性的な顔立ち…
カッコいいと言うより綺麗と言う言葉が合ってる…
何でもお父さんから引き継いでオーナーをしているそうで…
若いのに威厳があるというか…何かオーラが違うと言うか…

「今回は貴女にも迷惑を掛けてしまったみたいで…申し訳ありませんでした…にこっ。」

「いえっっ!!」

もうあたしは慌てまくり!!人も場所も雰囲気も…初めての体験で心臓がバクバク!
チラリと濯匡を見ると慣れてるのかソファに当然の様に座って注がれたお酒を
これまた当然の様に飲んでる。

コイツ……


柊夜さんの話しによると数カ月前から此処のお店のお客様の間で
麻薬に手を出す人が増えたと言う。
それも言葉巧みに近付いて気付いた時には薬無しではいられなくなってる…
ちゃんとそう言う相手を選んでるらしい。

お店の信用とお客様の事を考えて濯匡に密に調査を依頼。
そしてさっきあたしが連れて行かれたスナックのマスターにたどり着いたと言う訳…

ただこのお店のどのホストと繋がってるか最後まで解らず…


「ウチのお客様の情報を詳しく言えるなんて此処で働いてるホストしかいませんからね。
まったくお恥ずかしい限りです。お客様の情報を悪用するなど…
麻薬の売人だった曽根と竜崎は兄弟だった様です。子供の頃施設に預けられた2人は
別々の新しい親に引き取られてずっと離れ離れだったらしいです。
でも連絡だけは取っていたらしく…お互い持ちつ持たれつで今までやってきたらしいですね。
兄弟愛もそうなると困ったものですけど…」

「はあ…」

「いくらお客様の為とはいえ同じ店のホストを疑うなんて心苦しかったですが……
濯匡には頑張ってもらいました。なかなかシッポを出さないからワザと動く様に
竜崎の行く所に同行させたりしましたし…一緒にお客様の相手もしてもらった事もあったね。」

濯匡の方に視線を向けながら話すけど当の濯匡は知らん顔だ。

「つい先日も常連のお客様の誕生日のパーティに泊りがけで行ってもらったし…
それが急に帰るからおかしいと思ったら…あなたの事が気になってたからなんですね…」

「え?!…いや…それは………」

「大きな間違いだぞ!柊夜!!竜崎が帰る素振り見せたからだ。」

「へぇ…そうなんだ。」
「ああ…」

「じゃあこちらのお嬢さんとは何も無いんだね?濯匡…恋人とかじゃ無く?」

「……!!!」

何だか…言い方にこう…変化があるような??

「そうなんですか?」

うわっ…こっちにフって来た!!

「は…はい……ちょっとした…知り合い……です。」

「そうですか。恋人じゃないんですね。」

「……はあ…」

そう…恋人なんかじゃ無い……それに…アイツも…何も言わないし………
恋人じゃ無いんだって言われても否定もしないんだもん…

「今夜は遠慮しないで楽しんで行って下さい。最高のおもてなしをさせて頂きます。」


そんな柊夜さんの言葉通り…
あたしは今まで味わった事の無い極上のおもてなしを受けさせて頂いた!!



「ふぁ〜〜〜気分いい〜〜〜♪ ♪」

「オラ…しっかり歩け!!」

あたしは気分良く酔っ払ってる。

「そんなに酔ってて家まで帰れんのか?」
「……えへへ…無理れす!!!」


「ったく…仕方ねぇな………」



これは…夢かな?

仕方ないと言った濯匡があたしと手を繋いで…歩いてる????


そんなはず無いわよねぇ………