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「……あたし…」

5回のコールで濯匡が出たから…ああ…こんな事だけで心臓がドキドキ。

『今から行く…店の前から動くなよ。』
「何よ!威張んないでよ!」

彼氏でも無いのに…

『いちいち突っ掛かるな。2・3分で行くから。』
「…わかった…」

ドキドキの反面…一体濯匡はどうしたんだろう…
急にあたしに話があるなんて…何かあったのかな…
だって…じゃなきゃ濯匡があたしに会いに来るわけない……



「あ…」

言った通り直ぐにアイツが現れた。

「先に飯食うか?」
「…待ったかくらい言えないの?」
「待たせて無いだろ。」
「………」

確かにそうだけどさ…そう言う会話があれば恋人同士っぽいって言うか…

「ほら行くぞ。」
「あ!待ちなさいよ!誘っといて先に行くなんて何様よ!もう!」
「誘ってなんかないだろ?話があるって言っただけだ。」
「………」

それを誘ったとは言ってくれないんだ……




「ダイエット中か?」
「は?何で?」

入った居酒屋で向かいあっての濯匡の一言だ。
でも居酒屋ってムード無い…まあ濯匡にとってはデートなんかじゃないもんね…
何て言いながらあたしとしては洒落た店よりもこう言う大衆向けのお店の方が
気楽で良いのは確かなんだけど…

「飯はほとんど食べない酒もすすまない…」
「あ…別に…そう言うわけじゃないわよ…ちょっと食欲が無いだけ…」
「……食欲ねぇ…」
「何よ!」

その言い方と視線が気になった。


「じゃあ行くか。」
「何処に?」
「ゆっくり話しの出来る所。」
「話?」
「話があるって言っただろ。」
「そうだったわね…」

「オレの部屋で良いか?」

「え?」

「オレの部屋。嫌なら柊夜の店か正臣の所でもいいけど?」
「!!…いいわよ…あんたの部屋で…」

なんで今日に限ってそんな事聞くのよ…




濯匡の部屋のソファに座る…濯匡はコーヒーを淹れに流しに立ってた…

このソファ…この前…ここで濯匡に抱かれた…あのベッドでも…浴室でも……



「ほら。」
「あ…ありがとう…」

何気に濯匡の淹れるコーヒーは美味しい…

「………」
「なに?」

濯匡はソファに座らずに窓に寄り掛かる様に立ってる。

濯匡の好きな夜景が見える窓を背にして…

「なに?何か今日のアンタ変よ?」
「変なのはお前だろ?」
「はい?」

「また何か厄介な目に遇ってるだろ?オレ絡みで?」

「!!なっ…何言ってるの?別に…」

あたしはその場を取り繕う様に持ってたコーヒーを置いて濯匡から視線を逸らした。

「あっ!!」

濯匡がいきなりあたしを抱きしめた!!

「ちょっ…」
あたしはびっくりで…
「何すんの…!!きゃっ!!」
驚いてると濯匡がお姫様抱っこであたしを抱き上げた!!

「ちょっと濯匡!」

「やっとオレの名前言ったか。」

「は?え…やだ…」

濯匡がベッドに向かって歩き出すから…
ベッドに下ろされた途端両手で顔をがっちりと押さえられて強引にキスされた!

「ンッ!うぅ…ン…」

本当にどうしちゃったの…濯匡?

「!!」

キスをしながら濯匡があたしのブラウスのボタンに手を掛けたから
あたしは慌てて濯匡の手を掴んで止めた。

だって…

「邪魔すんな…」
「だって…」
「だって?」
「あっ!!」

両手をベッドに押さえ付けられて脚の間に濯匡の脚が押し込まれて割られた…

「あ…」

濯匡の空いた片手がまたブラウスのボタンに掛かる。

「ダ…メ…ダメ!止めて…濯匡…」

「………」

濯匡は止める気配が無い…でも…今は…

あっさりと全部のボタンが外されて肌蹴た。

「あ…やあ!!ダメ!見ないでっ!!」


どうして…濯匡の部屋に来ちゃったんだろう…
そう…あたしはこうなる事を期待してた…でも…あたしの胸には…


「………」

濯匡の動きが止まる…

「あ……」

やだ…見られた……濯匡がつけたものじゃ無い……キスマーク…
濯匡は今まであたしにキスマークを付けた事なんて無いから…

濯匡はどう思っただろう…

別に気にしないか…
身体だけの関係のあたしが他の誰と何をしようと濯匡には関係無いものね…
きっとあたしだけが気にしてる事…

そう…濯匡にとってはたいした事じゃない…


「………」

だから逸らした視線を濯匡に戻した…

「…無理矢理か?」

濯匡が真面目と言うより辛そうな顔であたしを見下ろしてる…

「…え?」

何?何の事?

「相手…わかってるのか?」
「は?え?何言ってるの?…!!」

濯匡の指があたしの唇にそっと触れる。

「濯…匡?」
「相手…わかってるのか?」
「でも…無理矢理なんかじゃ無い……と思う…」

コクン…と頷いてそう答えた…何とも情けない返事。

「と思うってなんだ?」

「だって……朝目が覚めたらそう言う事になってたんだもの…」
「は?」

濯匡が言ってる意味が分からないと言う顔であたしを見る。

「一緒に飲もうって誘われて…そんなに飲んで無いのにフラフラ来て…
帰ろうと思ったら…そこで記憶が無くなって…目が覚めたら裸でベッドの中だった…
でも…相手がしたって言うし…キスマークもあったから多分…」

「多分?多分って何だ?」

「だから言ったでしょ…記憶無くなったって…あたしは全然覚えて無いの…
きっと酔いが廻ってたんだと思うけど…」

そんな真琴の話を聞いて酒に何か薬を入れられたんだと思った。
じゃなきゃ結構酒が飲めるコイツがそんな少しの酒で意識失うほど酔うとは思えない…

それにその場面をオレに送って来るって事は明らかに真琴を狙っての事だ…

オレに見せるために…

真琴は知らないオレのアドレスを調べてまで…


「濯匡?」

オレのせいだ…

「相手誰だ?」
「な…何でそんな事アンタに言わなきゃいけないのよ!」

真琴を警戒させない相手なのか?

「いいから…言え…」
「………」

何でそんな顔するのよ…

「言ったからって何にもしないでよ…」
「誰だ…」

「柊夜さんのお店の……暢さんって言う人…」

「柊夜の店のノボル?」

「この前柊夜さんの店で飲んだでしょ?その時にあたしの事知ったらしくて…
それで声掛けられて…あたしだって気をつけてから…でもその時色々あって飲みたい気分で…
柊夜さんのお店の人なら平気かなって……
最初から彼とそんな事は望んで無かったわよ…でも酔った勢いで…その……」

って何であたしこんな一生懸命説明してんのかしら…
でも濯匡も何でこんなにも気にして聞いてくるの?ああ…またあたしに嫌味言うため?

「…柊夜の店にノボルなんて奴はいない…」

「え?」

「いないんだよ…」
「え?な…何言ってるの?」
「お前を油断させるためにそう言ったんだ。」
「で…でもあの日の事ちゃんと知ってたわよ…お店のNO5までの人が相手したって知ってたし…」
「調べたんだろ…後で柊夜に確かめてみるけどな…」

「え?何で?何でそんな事までしてあたしに近付くの?なん…!!!」

濯匡がまたあたしをいきなり抱きしめた。

「濯…匡?」

でもさっきより腕の力が強くて…

「濯匡…苦しい…」

「すまない…」

「え?」

今…濯匡ってば…あたしに謝った…の?

「な…なんで?何であたしに謝るの?」
「オレのせいだ…」
「え?何?何の事なのかわからないじゃない!ちゃんと説明しなさいよ!」

濯匡がベッドから立ち上がって携帯を取るとあたしに見せた。

「?何よ?…!!!」

そこには上半身裸のあたしが写ってた!

かろうじて胸はギリギリ隠れてるけど…これを撮った相手には絶対見られてる!!
しかもあたしの唇に男の指が触れてる…

「ちょっ…ちょっと何よこれ!!!」

あたしは濯匡の携帯を握りしめて叫んでしまった!もう顔も真っ赤!!

「この前夜中に送られて来た。」
「送られて来た?誰から?」
「お前の携帯から。」
「へ?あたしの?あたしは送った覚えなんて無いわよ!
大体アンタのアドレス知らないもの…それにそんな履歴無かったし…」
「消したんだろ…でもそいつはオレの携帯のアドレスを知ってるって事だ。」
「……濯匡の携帯のアドレスを知ってる相手…」
「あんまり教えてないから限定はできる。」

「……ちょっと待ってよ…」

大事な事に気が付いた…

「………」

濯匡は黙ってあたしを見てる…

「じゃ…じゃあ…あの男は最初っから濯匡にこの写真を送る為にあたしに声を掛けたの?」

「真琴…」

「あたしの事気に入ったなんて…嘘で…濯匡を……!!!」

「………」

濯匡があたしをまた抱きしめる…


「まき込んで…悪い……
  
    いつもそうだ…オレの知らない所でオレに関わった奴がまき込まれていく…」


「濯匡…」

濯匡の声が耳元で聞こえる…辛そうな…そんな声…
あたしを抱きしめてる濯匡の身体も震えてる…

「取り返しがつかない…真琴を…辛い目に遭わせた…」

「………」


正臣さんの 『 濯匡は優しいんだよ 』 と言う言葉と…

柊夜さんの 『 濯匡にもう二度とあんな思いはさせたくない…』 と言う言葉が

頭に思い浮かんだ…あたしも…そう思ってたのに…



「……ごめんなさい!!」

「…真琴?」

「気を付けてたのに…濯匡に迷惑が掛からない様にって…思ってたのに……
なのにこんなに簡単に相手の手に引っ掛かるなんて……ごめんね…濯匡…ごめん…あたし……」

濯匡の腕の中で濯匡を見上げた途端キスで口を塞がれた。

「…ん…ンン!!」

濯匡の掌でがっしりと掴まれて逃げられない様にキスされる…ずっと…ずっと…

「!!…濯匡…」

そのまままたベッドに押し倒された。

「…っつ!!……アンッ!!」

ビクンと身体が跳ねた。
濯匡があたしの胸のキスマークにガブリと噛み付いて強く吸ったから…

「…あ…ちょっ……やっ…あ…」

洋服が乱暴に剥ぎ取られていく…脱がされてるんじゃない…

「濯…うっ…」

覆い被さる様に濯匡があたしに体重をかけて深い深いキスをする……



「……はぁ…はぁ…もう…息出来ないじゃない……」

やっとちょっとだけ離れた濯匡に涙目でそう文句を言った。
まだ濯匡の顔はあたしのすぐ目の前にある…

「今オレが真琴を抱いたら…そいつの事忘れられるか?」
「…!?」
「傷付いたりせずに…真琴はそいつの事を忘れられるか?」
「濯匡…」
「余計…傷付くか?」
「ねえ…濯匡…」
「ん?」
「ちょっと聞きたいんだけど…」
「何だ?」

「こんな時に何だけど……濯匡の女になる条件って…何?」

「は?」

濯匡がとんでもなくビックリと言うか…呆れた顔してる。

「な…何だよホントにこんな時にだな…」
「いいから…最低条件は自分の身は自分で守れる女でしょ?他には?」
「……そんな大した条件なんか無い…」
「そうなの?」
「我が儘な女はアウト。」
朔夜を思い出す。
「…まあ極端な性格じゃなきゃ…」
「後は?」
「後は…オレと身体の相性が良いのと……可愛い女…」
「可愛い?え?濯匡ってそう言う趣味?」
「勘違いすんな!オレが見て可愛い奴って思った女の事だ…見掛けじゃ無い。」
「へえ……そうなんだ…」
「……急に何だ…?」

「別に…ただ…」
「ただ?」

「あたしは濯匡の女になれるのかなぁ〜って!」

「 !!!! 」



濯匡がとんでもなく驚いた顔した。